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番外編 【夏向】
君の欲しいもの(前編)
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四月―――窓の外には桜の花が舞っていた。
本当は桜帆と離れたくなかった。
寂しくてしかたがない。
「おい!起きろ!」
「いやだ」
ごろごろとベッドの上に転がり、窓の外を眺めていた。
こんな悲しい気分じゃ、起き上がれない。
「なにが『いやだ』だ。行くぞ」
「やる気がでない」
ずるずると同室の朗久が体をひきずり、廊下に放り出した。
「寮長に殺されるぞ」
「朗久が守って」
「お前、どこまで他力本願なんだよ!髪くらい自分でとかせよ」
そういう朗久も髪の毛はぼさぼさだけど、わざと前髪で目を隠しているみたいだった。
「おー!起きてきたかー」
「毎朝、ご苦労さん」
隣の部屋の宮北と備中はすでに廊下に並んでいた。
朝の点呼がある。
寮長が一人ずつチェックするけど、正直めんどい。
これ、必要?
「おい。倉永。せめて立て」
毎朝のことなので、もう諦めてほしい。
「力が出ない」
「猫かなんかか?」
「そうかも」
寮長ははぁっとため息をついた。
この高校は変わり者が集まってくるらしく、寮長は諦めて通りすぎて行った。
「入学したなりはそうでもなかったのにどうした?」
「……わからない」
体がだるい。
起き上がれない。
もうずっと眠っていたい。
朗久はその答えを知っていた。
「ホームシックだな」
「俺が?」
「猫は環境が変わると慣れるまでに時間がかかるかならな。少しずつ慣れていけばいい。ほら、食堂行くぞ」
ホームシック。
やけにその言葉がなじんだ。
窓の外の桜の花が風で散っていった。
きっとカモメの家の桜の花はまだ散らずに残っているだろう―――そう思いながら寮を後にした。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「時任と倉永の教科書、綺麗なままだな……」
宮北と備中が英語の課題をしながら、俺と朗久に言った。
もう夏が来る前には俺と朗久は授業を受けていても退屈なだけだった。
放課後はパソコン同好会の部室を勝手に占拠し、俺と朗久は気が向いたところを狙ってハッキングして遊んでいた。パズルを解くみたいで楽しい。
難しければ、難しいほど―――たまらない。
「面白いことがしたいな」
朗久が唐突にそんなことを言った。
「面白いことってなんだよー」
英語の課題を終わらせた宮北が聞くと、朗久はうーんと唸っていた。
「金儲け?」
「俗物だねぇ」
備中もすでに課題を終わらせ、哲学の本を読んでいた。
何が面白いのか、わからないけど、たまに笑っているのをみると備中にとってはすごく面白い本なんだろう。
「金があれば、自由になれる」
「まあ、自由に好きな部品を買えるか」
「それは魅力的」
三人は朗久が提案する会社を起業するということに興味を持ったみたいだった。
「夏向はどうだ?」
「俺?」
「そうだ。自由になりたくないか」
夏の外は明るい。
教室は薄暗く、今、朗久がどんな顔をしているのか見えなかった。
「自由でいたい」
倉永の家に閉じ込められずに済むなら、なんだっていい。
自分では何も選べず、桜帆にも会えず、二度とあんな苦しい思いはしたくなかった。
「でも、俺、何もできないよ」
「できるさ。力の使い方を知ればな」
朗久は笑った。
なにかできるようになれば、俺は変われる気がした。
桜帆と一緒にいても許されるかもしれない。
本当は離れたくなかった。
でも、離れることを選んだ。
桜帆が行けと言うし、そばにいても俺はなにもできないから、迷惑になるだけだった。
「俺が必要?」
「もちろん」
「それなら、俺もやる」
朗久の退屈しのぎのために起業した。
それが俺達の会社の始まりだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
一年後、会社は順調に成長し、最近はセキュリティやゲームアプリだけじゃなく、もっとネットサービス全体に手を広げたいと朗久が言い出した。
「そうなると、取引先がな」
俺達四人にも弱点はあった。
営業が苦手だということ。
困ったなーと話していると、ガラッと部屋のドアが開いた。
「部室の使用許可もなく、占拠されては困るんだが」
「誰だ?」
朗久は何をいまさら、という顔で入ってきた人間を見た。
「同じクラスの諏訪部だ!!今、俺は生徒会の手伝いをしているが、お前達の勝手気ままな行動が学校内の風紀を乱しているんだ!」
「生徒会か」
朗久はなるほどと頷いた。
「申請を出してくれ!」
詰め寄る諏訪部だか諏訪湖だか、いう学生が朗久に近寄ったその時ーーー
「すみませーん」
明るく軽い声が響いた。
「きたな」
「朗久の知り合い?」
「なんだ。夏向、覚えてないのか。今年の新入生代表の真辺だ」
「高校生社長に興味があって、声をかけたら遊びにきていいといわれて」
真辺はかんじのいい一年生だった。
不思議と俺も大丈夫で、人懐っこいわりに人と人の距離感をうまくとっていた。
「こんなやつらと関わらない方がいいぞ。新入生代表をしたんだ。輝かしい将来を潰したくないだろう?」
「こんな若輩者の将来を期待して頂き、ありがとうこざいます。そういえば、さっき生徒会長が探してましたよ」
「そうか。急ぎの用か」
真辺に言われて、慌てて出て行った。
「おい。こんなタイミングよく生徒会長があいつを探していたのか?おかしいだろ?」
朗久が聞くと、少しも悪びれた様子はなく、けろりとした顔で真辺は言った。
「えー?あの人を探しているかどうかまでは言ってないですよ」
「……そうだな」
真辺はなかなかの人物のようだった。
結局、朗久はいろいろ言われるのが面倒だったのか、この事件のせいで生徒会長に立候補し、二年生で生徒会長になった。
そして、卒業するともっと会社は大きく成長した―――
本当は桜帆と離れたくなかった。
寂しくてしかたがない。
「おい!起きろ!」
「いやだ」
ごろごろとベッドの上に転がり、窓の外を眺めていた。
こんな悲しい気分じゃ、起き上がれない。
「なにが『いやだ』だ。行くぞ」
「やる気がでない」
ずるずると同室の朗久が体をひきずり、廊下に放り出した。
「寮長に殺されるぞ」
「朗久が守って」
「お前、どこまで他力本願なんだよ!髪くらい自分でとかせよ」
そういう朗久も髪の毛はぼさぼさだけど、わざと前髪で目を隠しているみたいだった。
「おー!起きてきたかー」
「毎朝、ご苦労さん」
隣の部屋の宮北と備中はすでに廊下に並んでいた。
朝の点呼がある。
寮長が一人ずつチェックするけど、正直めんどい。
これ、必要?
「おい。倉永。せめて立て」
毎朝のことなので、もう諦めてほしい。
「力が出ない」
「猫かなんかか?」
「そうかも」
寮長ははぁっとため息をついた。
この高校は変わり者が集まってくるらしく、寮長は諦めて通りすぎて行った。
「入学したなりはそうでもなかったのにどうした?」
「……わからない」
体がだるい。
起き上がれない。
もうずっと眠っていたい。
朗久はその答えを知っていた。
「ホームシックだな」
「俺が?」
「猫は環境が変わると慣れるまでに時間がかかるかならな。少しずつ慣れていけばいい。ほら、食堂行くぞ」
ホームシック。
やけにその言葉がなじんだ。
窓の外の桜の花が風で散っていった。
きっとカモメの家の桜の花はまだ散らずに残っているだろう―――そう思いながら寮を後にした。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「時任と倉永の教科書、綺麗なままだな……」
宮北と備中が英語の課題をしながら、俺と朗久に言った。
もう夏が来る前には俺と朗久は授業を受けていても退屈なだけだった。
放課後はパソコン同好会の部室を勝手に占拠し、俺と朗久は気が向いたところを狙ってハッキングして遊んでいた。パズルを解くみたいで楽しい。
難しければ、難しいほど―――たまらない。
「面白いことがしたいな」
朗久が唐突にそんなことを言った。
「面白いことってなんだよー」
英語の課題を終わらせた宮北が聞くと、朗久はうーんと唸っていた。
「金儲け?」
「俗物だねぇ」
備中もすでに課題を終わらせ、哲学の本を読んでいた。
何が面白いのか、わからないけど、たまに笑っているのをみると備中にとってはすごく面白い本なんだろう。
「金があれば、自由になれる」
「まあ、自由に好きな部品を買えるか」
「それは魅力的」
三人は朗久が提案する会社を起業するということに興味を持ったみたいだった。
「夏向はどうだ?」
「俺?」
「そうだ。自由になりたくないか」
夏の外は明るい。
教室は薄暗く、今、朗久がどんな顔をしているのか見えなかった。
「自由でいたい」
倉永の家に閉じ込められずに済むなら、なんだっていい。
自分では何も選べず、桜帆にも会えず、二度とあんな苦しい思いはしたくなかった。
「でも、俺、何もできないよ」
「できるさ。力の使い方を知ればな」
朗久は笑った。
なにかできるようになれば、俺は変われる気がした。
桜帆と一緒にいても許されるかもしれない。
本当は離れたくなかった。
でも、離れることを選んだ。
桜帆が行けと言うし、そばにいても俺はなにもできないから、迷惑になるだけだった。
「俺が必要?」
「もちろん」
「それなら、俺もやる」
朗久の退屈しのぎのために起業した。
それが俺達の会社の始まりだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
一年後、会社は順調に成長し、最近はセキュリティやゲームアプリだけじゃなく、もっとネットサービス全体に手を広げたいと朗久が言い出した。
「そうなると、取引先がな」
俺達四人にも弱点はあった。
営業が苦手だということ。
困ったなーと話していると、ガラッと部屋のドアが開いた。
「部室の使用許可もなく、占拠されては困るんだが」
「誰だ?」
朗久は何をいまさら、という顔で入ってきた人間を見た。
「同じクラスの諏訪部だ!!今、俺は生徒会の手伝いをしているが、お前達の勝手気ままな行動が学校内の風紀を乱しているんだ!」
「生徒会か」
朗久はなるほどと頷いた。
「申請を出してくれ!」
詰め寄る諏訪部だか諏訪湖だか、いう学生が朗久に近寄ったその時ーーー
「すみませーん」
明るく軽い声が響いた。
「きたな」
「朗久の知り合い?」
「なんだ。夏向、覚えてないのか。今年の新入生代表の真辺だ」
「高校生社長に興味があって、声をかけたら遊びにきていいといわれて」
真辺はかんじのいい一年生だった。
不思議と俺も大丈夫で、人懐っこいわりに人と人の距離感をうまくとっていた。
「こんなやつらと関わらない方がいいぞ。新入生代表をしたんだ。輝かしい将来を潰したくないだろう?」
「こんな若輩者の将来を期待して頂き、ありがとうこざいます。そういえば、さっき生徒会長が探してましたよ」
「そうか。急ぎの用か」
真辺に言われて、慌てて出て行った。
「おい。こんなタイミングよく生徒会長があいつを探していたのか?おかしいだろ?」
朗久が聞くと、少しも悪びれた様子はなく、けろりとした顔で真辺は言った。
「えー?あの人を探しているかどうかまでは言ってないですよ」
「……そうだな」
真辺はなかなかの人物のようだった。
結局、朗久はいろいろ言われるのが面倒だったのか、この事件のせいで生徒会長に立候補し、二年生で生徒会長になった。
そして、卒業するともっと会社は大きく成長した―――
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