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26 娘を女王にしてみせる! ※デルフィーナ
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――まずい。まずいわ!
わたくしは完全に孤立していた。
ルドヴィク様はわたくしを避け、離宮に行ってしまった。
王位を放棄したと、大臣たちは息巻いている。
このままでは、ルチアノが王になってしまう。
「これもすべて、セレーネのせいよ! ルドヴィク様を誘惑し、ザカリア様を操って、とんでもない悪女だわ!」
「お母様。ルチアノのお母様は優しい方よ。わたしのことを馬鹿にしないの」
王宮にいる子供は二人だけで、ロゼッテはルチアノと一緒に遊ぶのが楽しいらしい。
でも、向こうは敵。
「ロゼッテ! 敵と仲良くしてどうするの!」
「て、敵? で、でも、ルチアノは……」
「さぁ、今から、セレーネたちのところへ行きましょ。さっき教えたとおり、わたくしのネックレスを侍女が盗んだと言うのよ」
「盗んでなくても……? 嘘は駄目って、先生が……」
ロゼッテの両肩を掴んだ。
そして、強く言い聞かせた。
「ロゼッテ、いいこと? 失敗したら、お父様は二度と帰ってこないわ。全部、あなたにかかっているのよ」
「う、うん」
「違うわよ。ロゼッテ。『はい、お母様』でしょう!?」
「は、はいっ」
ロゼッテときたら、この調子だもの。
しっかりした子なら、よかったのに、ぼんやしているところは、ルドヴィク様にそっくり。
ロゼッテを連れて、セレーネの部屋へ向かう。
すでに、わたくしが仕組んだ罠は始まっている。
「セレーネ、少しよろしいかしら?」
セレーネの部屋を訪れると、そこにはルチアノと侍女がいた。
――ちょうどいいわ。役者が揃っているとはこのことよ!
なにも知らないセレーネは、ロゼッテに微笑みかけた。
「ロゼッテ。ルチアノといつも遊んでくれてありがとう。今から、侍女たちとルチアノが町の子供たちに持っていくキャンディを作るの。よかったら、ロゼッテも一緒にどうかしら?」
「キャンディ……」
興味があるようだったけれど、ロゼッテにやらせることではない。
「ロゼッテは王女なのよ! 侍女たちがやるようなことをさせるわけがないでしょっ! そうでしょ? ロゼッテ?」
「う、うん。わたし、やりたくない。王女だもん!」
セレーネは眉をひそめた。
お妃候補時代の時もそうだった。
わたくしがなにか言うたび、不快な顔をした。
「それに、作ったキャンディに毒が入っているかもしれないわ」
「毒ですって? 町の子供たちにあげるのに、なぜ、そんなことをしなければならないの?」
「どうかしら。わたくしへの嫌がらせをするような恐ろしい女ですもの。ねえ? ロゼッテ?」
ロゼッテはおどおどした様子で、声を張り上げた。
「セレーネ様の侍女が、お母様のネックレスを盗んだの!」
キャンディを包むリボンを用意していた侍女たちの手が止まる。
「私の侍女たちに、盗みを働くような者はいません」
「嘘おっしゃい。ロゼッテ。どこに隠してあるかわかるかよね?」
「侍女の部屋の鞄のなか……」
侍女たちが不安そうな表情を浮かべた。
「セレーネ。あなたの侍女たちの鞄を今すぐ持ってきて!」
「まさか、そんなこと……」
「ロゼッテは心が読めるのよ?」
セレーネは半信半疑だったけれど、侍女たちに鞄を持ってこさせた。
鞄を開けていくと、その中のひとつから、侍女のお給金では、とうてい買えそうにないネックレスが出てきた。
「これをどう言い訳するおつもりかしら?」
「彼女たちは盗んだりしません」
証拠が出てきても、セレーネは少しも動じることはなかった。
「盗んだのは他の者です」
「お母様、ぼくが調べるよ。ぜったい、侍女たちは盗んだりしてない!」
ルチアノには、なにか考えがあるのか、生意気にも侍女を庇った。
「いいえ。力を使う必要はありません。彼女たちは、私が辛い時、共にいてくれた侍女たちです。ルチアノの誕生から世話をし、遠い王都にもついてきてくれた」
セレーネは真正面から、わたくしを睨んだ。
これほど、強いセレーネを見たことがない。
「ルチアノ。覚えておきなさい。人生で辛い時に助けてくれた人間が、一番信用できる人間です。信じるのに、力を使う必要はありません」
侍女たちはセレーネの言葉に泣き出した。
ルチアノも真剣な顔をしてうなずく。
「わかった。お母様。ちゃんと覚えておく」
セレーネはネックレスを鞄から取り出すと、わたくしに渡そうとする。
「これはお返ししますわ」
セレーネは、わたくしがやったことを見透かしているような目で見る、
その目が、いつも気に入らなかった。
なぜ、七年前、逃がしてしまったのか。
あの時、ルドヴィク様をなにがなんでも動かして、セレーネを探すべきだったのだ。
セレーネがいるせいで、わたくしは惨めな存在になる。
「こんなものっ! いらないわよ!」
ネックレスを床に叩きつけた。
ロゼッテが怖いと言って泣き出した。
「ロゼッテ、なにを泣いてるの! 部屋へ戻るわよ!」
泣いているロゼッテを引きずって、セレーネの部屋から出る。
――セレーネ! よくも、わたくしを追い詰めたわね!
こうなったら、最後の手段を使うしかない。
ルチアノさえ、いなくなれば、邪魔なセレーネを再び、この王宮から追い出せる。
そして、わたくしの子、ロゼッテだけが王の子の力を持つ子になるのだ。
「お、お母様……」
「ねえ? ロゼッテも女王になりたいわよね? だから、協力するのよ?」
ロゼッテは、わたくしの心を読んだのか、震えながらうなずいた。
王の子は二人もいらない。
今度こそ、セレーネを完全に王宮から追い出してやるわ。
二度と戻って来れないように――ね?
わたくしは完全に孤立していた。
ルドヴィク様はわたくしを避け、離宮に行ってしまった。
王位を放棄したと、大臣たちは息巻いている。
このままでは、ルチアノが王になってしまう。
「これもすべて、セレーネのせいよ! ルドヴィク様を誘惑し、ザカリア様を操って、とんでもない悪女だわ!」
「お母様。ルチアノのお母様は優しい方よ。わたしのことを馬鹿にしないの」
王宮にいる子供は二人だけで、ロゼッテはルチアノと一緒に遊ぶのが楽しいらしい。
でも、向こうは敵。
「ロゼッテ! 敵と仲良くしてどうするの!」
「て、敵? で、でも、ルチアノは……」
「さぁ、今から、セレーネたちのところへ行きましょ。さっき教えたとおり、わたくしのネックレスを侍女が盗んだと言うのよ」
「盗んでなくても……? 嘘は駄目って、先生が……」
ロゼッテの両肩を掴んだ。
そして、強く言い聞かせた。
「ロゼッテ、いいこと? 失敗したら、お父様は二度と帰ってこないわ。全部、あなたにかかっているのよ」
「う、うん」
「違うわよ。ロゼッテ。『はい、お母様』でしょう!?」
「は、はいっ」
ロゼッテときたら、この調子だもの。
しっかりした子なら、よかったのに、ぼんやしているところは、ルドヴィク様にそっくり。
ロゼッテを連れて、セレーネの部屋へ向かう。
すでに、わたくしが仕組んだ罠は始まっている。
「セレーネ、少しよろしいかしら?」
セレーネの部屋を訪れると、そこにはルチアノと侍女がいた。
――ちょうどいいわ。役者が揃っているとはこのことよ!
なにも知らないセレーネは、ロゼッテに微笑みかけた。
「ロゼッテ。ルチアノといつも遊んでくれてありがとう。今から、侍女たちとルチアノが町の子供たちに持っていくキャンディを作るの。よかったら、ロゼッテも一緒にどうかしら?」
「キャンディ……」
興味があるようだったけれど、ロゼッテにやらせることではない。
「ロゼッテは王女なのよ! 侍女たちがやるようなことをさせるわけがないでしょっ! そうでしょ? ロゼッテ?」
「う、うん。わたし、やりたくない。王女だもん!」
セレーネは眉をひそめた。
お妃候補時代の時もそうだった。
わたくしがなにか言うたび、不快な顔をした。
「それに、作ったキャンディに毒が入っているかもしれないわ」
「毒ですって? 町の子供たちにあげるのに、なぜ、そんなことをしなければならないの?」
「どうかしら。わたくしへの嫌がらせをするような恐ろしい女ですもの。ねえ? ロゼッテ?」
ロゼッテはおどおどした様子で、声を張り上げた。
「セレーネ様の侍女が、お母様のネックレスを盗んだの!」
キャンディを包むリボンを用意していた侍女たちの手が止まる。
「私の侍女たちに、盗みを働くような者はいません」
「嘘おっしゃい。ロゼッテ。どこに隠してあるかわかるかよね?」
「侍女の部屋の鞄のなか……」
侍女たちが不安そうな表情を浮かべた。
「セレーネ。あなたの侍女たちの鞄を今すぐ持ってきて!」
「まさか、そんなこと……」
「ロゼッテは心が読めるのよ?」
セレーネは半信半疑だったけれど、侍女たちに鞄を持ってこさせた。
鞄を開けていくと、その中のひとつから、侍女のお給金では、とうてい買えそうにないネックレスが出てきた。
「これをどう言い訳するおつもりかしら?」
「彼女たちは盗んだりしません」
証拠が出てきても、セレーネは少しも動じることはなかった。
「盗んだのは他の者です」
「お母様、ぼくが調べるよ。ぜったい、侍女たちは盗んだりしてない!」
ルチアノには、なにか考えがあるのか、生意気にも侍女を庇った。
「いいえ。力を使う必要はありません。彼女たちは、私が辛い時、共にいてくれた侍女たちです。ルチアノの誕生から世話をし、遠い王都にもついてきてくれた」
セレーネは真正面から、わたくしを睨んだ。
これほど、強いセレーネを見たことがない。
「ルチアノ。覚えておきなさい。人生で辛い時に助けてくれた人間が、一番信用できる人間です。信じるのに、力を使う必要はありません」
侍女たちはセレーネの言葉に泣き出した。
ルチアノも真剣な顔をしてうなずく。
「わかった。お母様。ちゃんと覚えておく」
セレーネはネックレスを鞄から取り出すと、わたくしに渡そうとする。
「これはお返ししますわ」
セレーネは、わたくしがやったことを見透かしているような目で見る、
その目が、いつも気に入らなかった。
なぜ、七年前、逃がしてしまったのか。
あの時、ルドヴィク様をなにがなんでも動かして、セレーネを探すべきだったのだ。
セレーネがいるせいで、わたくしは惨めな存在になる。
「こんなものっ! いらないわよ!」
ネックレスを床に叩きつけた。
ロゼッテが怖いと言って泣き出した。
「ロゼッテ、なにを泣いてるの! 部屋へ戻るわよ!」
泣いているロゼッテを引きずって、セレーネの部屋から出る。
――セレーネ! よくも、わたくしを追い詰めたわね!
こうなったら、最後の手段を使うしかない。
ルチアノさえ、いなくなれば、邪魔なセレーネを再び、この王宮から追い出せる。
そして、わたくしの子、ロゼッテだけが王の子の力を持つ子になるのだ。
「お、お母様……」
「ねえ? ロゼッテも女王になりたいわよね? だから、協力するのよ?」
ロゼッテは、わたくしの心を読んだのか、震えながらうなずいた。
王の子は二人もいらない。
今度こそ、セレーネを完全に王宮から追い出してやるわ。
二度と戻って来れないように――ね?
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