29 / 45
26 娘を女王にしてみせる! ※デルフィーナ
しおりを挟む
――まずい。まずいわ!
わたくしは完全に孤立していた。
ルドヴィク様はわたくしを避け、離宮に行ってしまった。
王位を放棄したと、大臣たちは息巻いている。
このままでは、ルチアノが王になってしまう。
「これもすべて、セレーネのせいよ! ルドヴィク様を誘惑し、ザカリア様を操って、とんでもない悪女だわ!」
「お母様。ルチアノのお母様は優しい方よ。わたしのことを馬鹿にしないの」
王宮にいる子供は二人だけで、ロゼッテはルチアノと一緒に遊ぶのが楽しいらしい。
でも、向こうは敵。
「ロゼッテ! 敵と仲良くしてどうするの!」
「て、敵? で、でも、ルチアノは……」
「さぁ、今から、セレーネたちのところへ行きましょ。さっき教えたとおり、わたくしのネックレスを侍女が盗んだと言うのよ」
「盗んでなくても……? 嘘は駄目って、先生が……」
ロゼッテの両肩を掴んだ。
そして、強く言い聞かせた。
「ロゼッテ、いいこと? 失敗したら、お父様は二度と帰ってこないわ。全部、あなたにかかっているのよ」
「う、うん」
「違うわよ。ロゼッテ。『はい、お母様』でしょう!?」
「は、はいっ」
ロゼッテときたら、この調子だもの。
しっかりした子なら、よかったのに、ぼんやしているところは、ルドヴィク様にそっくり。
ロゼッテを連れて、セレーネの部屋へ向かう。
すでに、わたくしが仕組んだ罠は始まっている。
「セレーネ、少しよろしいかしら?」
セレーネの部屋を訪れると、そこにはルチアノと侍女がいた。
――ちょうどいいわ。役者が揃っているとはこのことよ!
なにも知らないセレーネは、ロゼッテに微笑みかけた。
「ロゼッテ。ルチアノといつも遊んでくれてありがとう。今から、侍女たちとルチアノが町の子供たちに持っていくキャンディを作るの。よかったら、ロゼッテも一緒にどうかしら?」
「キャンディ……」
興味があるようだったけれど、ロゼッテにやらせることではない。
「ロゼッテは王女なのよ! 侍女たちがやるようなことをさせるわけがないでしょっ! そうでしょ? ロゼッテ?」
「う、うん。わたし、やりたくない。王女だもん!」
セレーネは眉をひそめた。
お妃候補時代の時もそうだった。
わたくしがなにか言うたび、不快な顔をした。
「それに、作ったキャンディに毒が入っているかもしれないわ」
「毒ですって? 町の子供たちにあげるのに、なぜ、そんなことをしなければならないの?」
「どうかしら。わたくしへの嫌がらせをするような恐ろしい女ですもの。ねえ? ロゼッテ?」
ロゼッテはおどおどした様子で、声を張り上げた。
「セレーネ様の侍女が、お母様のネックレスを盗んだの!」
キャンディを包むリボンを用意していた侍女たちの手が止まる。
「私の侍女たちに、盗みを働くような者はいません」
「嘘おっしゃい。ロゼッテ。どこに隠してあるかわかるかよね?」
「侍女の部屋の鞄のなか……」
侍女たちが不安そうな表情を浮かべた。
「セレーネ。あなたの侍女たちの鞄を今すぐ持ってきて!」
「まさか、そんなこと……」
「ロゼッテは心が読めるのよ?」
セレーネは半信半疑だったけれど、侍女たちに鞄を持ってこさせた。
鞄を開けていくと、その中のひとつから、侍女のお給金では、とうてい買えそうにないネックレスが出てきた。
「これをどう言い訳するおつもりかしら?」
「彼女たちは盗んだりしません」
証拠が出てきても、セレーネは少しも動じることはなかった。
「盗んだのは他の者です」
「お母様、ぼくが調べるよ。ぜったい、侍女たちは盗んだりしてない!」
ルチアノには、なにか考えがあるのか、生意気にも侍女を庇った。
「いいえ。力を使う必要はありません。彼女たちは、私が辛い時、共にいてくれた侍女たちです。ルチアノの誕生から世話をし、遠い王都にもついてきてくれた」
セレーネは真正面から、わたくしを睨んだ。
これほど、強いセレーネを見たことがない。
「ルチアノ。覚えておきなさい。人生で辛い時に助けてくれた人間が、一番信用できる人間です。信じるのに、力を使う必要はありません」
侍女たちはセレーネの言葉に泣き出した。
ルチアノも真剣な顔をしてうなずく。
「わかった。お母様。ちゃんと覚えておく」
セレーネはネックレスを鞄から取り出すと、わたくしに渡そうとする。
「これはお返ししますわ」
セレーネは、わたくしがやったことを見透かしているような目で見る、
その目が、いつも気に入らなかった。
なぜ、七年前、逃がしてしまったのか。
あの時、ルドヴィク様をなにがなんでも動かして、セレーネを探すべきだったのだ。
セレーネがいるせいで、わたくしは惨めな存在になる。
「こんなものっ! いらないわよ!」
ネックレスを床に叩きつけた。
ロゼッテが怖いと言って泣き出した。
「ロゼッテ、なにを泣いてるの! 部屋へ戻るわよ!」
泣いているロゼッテを引きずって、セレーネの部屋から出る。
――セレーネ! よくも、わたくしを追い詰めたわね!
こうなったら、最後の手段を使うしかない。
ルチアノさえ、いなくなれば、邪魔なセレーネを再び、この王宮から追い出せる。
そして、わたくしの子、ロゼッテだけが王の子の力を持つ子になるのだ。
「お、お母様……」
「ねえ? ロゼッテも女王になりたいわよね? だから、協力するのよ?」
ロゼッテは、わたくしの心を読んだのか、震えながらうなずいた。
王の子は二人もいらない。
今度こそ、セレーネを完全に王宮から追い出してやるわ。
二度と戻って来れないように――ね?
わたくしは完全に孤立していた。
ルドヴィク様はわたくしを避け、離宮に行ってしまった。
王位を放棄したと、大臣たちは息巻いている。
このままでは、ルチアノが王になってしまう。
「これもすべて、セレーネのせいよ! ルドヴィク様を誘惑し、ザカリア様を操って、とんでもない悪女だわ!」
「お母様。ルチアノのお母様は優しい方よ。わたしのことを馬鹿にしないの」
王宮にいる子供は二人だけで、ロゼッテはルチアノと一緒に遊ぶのが楽しいらしい。
でも、向こうは敵。
「ロゼッテ! 敵と仲良くしてどうするの!」
「て、敵? で、でも、ルチアノは……」
「さぁ、今から、セレーネたちのところへ行きましょ。さっき教えたとおり、わたくしのネックレスを侍女が盗んだと言うのよ」
「盗んでなくても……? 嘘は駄目って、先生が……」
ロゼッテの両肩を掴んだ。
そして、強く言い聞かせた。
「ロゼッテ、いいこと? 失敗したら、お父様は二度と帰ってこないわ。全部、あなたにかかっているのよ」
「う、うん」
「違うわよ。ロゼッテ。『はい、お母様』でしょう!?」
「は、はいっ」
ロゼッテときたら、この調子だもの。
しっかりした子なら、よかったのに、ぼんやしているところは、ルドヴィク様にそっくり。
ロゼッテを連れて、セレーネの部屋へ向かう。
すでに、わたくしが仕組んだ罠は始まっている。
「セレーネ、少しよろしいかしら?」
セレーネの部屋を訪れると、そこにはルチアノと侍女がいた。
――ちょうどいいわ。役者が揃っているとはこのことよ!
なにも知らないセレーネは、ロゼッテに微笑みかけた。
「ロゼッテ。ルチアノといつも遊んでくれてありがとう。今から、侍女たちとルチアノが町の子供たちに持っていくキャンディを作るの。よかったら、ロゼッテも一緒にどうかしら?」
「キャンディ……」
興味があるようだったけれど、ロゼッテにやらせることではない。
「ロゼッテは王女なのよ! 侍女たちがやるようなことをさせるわけがないでしょっ! そうでしょ? ロゼッテ?」
「う、うん。わたし、やりたくない。王女だもん!」
セレーネは眉をひそめた。
お妃候補時代の時もそうだった。
わたくしがなにか言うたび、不快な顔をした。
「それに、作ったキャンディに毒が入っているかもしれないわ」
「毒ですって? 町の子供たちにあげるのに、なぜ、そんなことをしなければならないの?」
「どうかしら。わたくしへの嫌がらせをするような恐ろしい女ですもの。ねえ? ロゼッテ?」
ロゼッテはおどおどした様子で、声を張り上げた。
「セレーネ様の侍女が、お母様のネックレスを盗んだの!」
キャンディを包むリボンを用意していた侍女たちの手が止まる。
「私の侍女たちに、盗みを働くような者はいません」
「嘘おっしゃい。ロゼッテ。どこに隠してあるかわかるかよね?」
「侍女の部屋の鞄のなか……」
侍女たちが不安そうな表情を浮かべた。
「セレーネ。あなたの侍女たちの鞄を今すぐ持ってきて!」
「まさか、そんなこと……」
「ロゼッテは心が読めるのよ?」
セレーネは半信半疑だったけれど、侍女たちに鞄を持ってこさせた。
鞄を開けていくと、その中のひとつから、侍女のお給金では、とうてい買えそうにないネックレスが出てきた。
「これをどう言い訳するおつもりかしら?」
「彼女たちは盗んだりしません」
証拠が出てきても、セレーネは少しも動じることはなかった。
「盗んだのは他の者です」
「お母様、ぼくが調べるよ。ぜったい、侍女たちは盗んだりしてない!」
ルチアノには、なにか考えがあるのか、生意気にも侍女を庇った。
「いいえ。力を使う必要はありません。彼女たちは、私が辛い時、共にいてくれた侍女たちです。ルチアノの誕生から世話をし、遠い王都にもついてきてくれた」
セレーネは真正面から、わたくしを睨んだ。
これほど、強いセレーネを見たことがない。
「ルチアノ。覚えておきなさい。人生で辛い時に助けてくれた人間が、一番信用できる人間です。信じるのに、力を使う必要はありません」
侍女たちはセレーネの言葉に泣き出した。
ルチアノも真剣な顔をしてうなずく。
「わかった。お母様。ちゃんと覚えておく」
セレーネはネックレスを鞄から取り出すと、わたくしに渡そうとする。
「これはお返ししますわ」
セレーネは、わたくしがやったことを見透かしているような目で見る、
その目が、いつも気に入らなかった。
なぜ、七年前、逃がしてしまったのか。
あの時、ルドヴィク様をなにがなんでも動かして、セレーネを探すべきだったのだ。
セレーネがいるせいで、わたくしは惨めな存在になる。
「こんなものっ! いらないわよ!」
ネックレスを床に叩きつけた。
ロゼッテが怖いと言って泣き出した。
「ロゼッテ、なにを泣いてるの! 部屋へ戻るわよ!」
泣いているロゼッテを引きずって、セレーネの部屋から出る。
――セレーネ! よくも、わたくしを追い詰めたわね!
こうなったら、最後の手段を使うしかない。
ルチアノさえ、いなくなれば、邪魔なセレーネを再び、この王宮から追い出せる。
そして、わたくしの子、ロゼッテだけが王の子の力を持つ子になるのだ。
「お、お母様……」
「ねえ? ロゼッテも女王になりたいわよね? だから、協力するのよ?」
ロゼッテは、わたくしの心を読んだのか、震えながらうなずいた。
王の子は二人もいらない。
今度こそ、セレーネを完全に王宮から追い出してやるわ。
二度と戻って来れないように――ね?
438
あなたにおすすめの小説
私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました
放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。
だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。
「彼女は可哀想なんだ」
「この子を跡取りにする」
そして人前で、平然と言い放つ。
――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」
その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。
「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」
勝手にサインしろと仰いましたので、廃嫡書類に国璽を押して差し上げました
鷹 綾
恋愛
「確認? 面倒だ。適当にサインして国璽を押しておけ」
そう言ったのは、王太子アレス。
そう言われたのは、公爵令嬢レイナ・アルヴェルト。
外交も財政も軍備も――
すべてを裏で処理してきたのは彼女だった。
けれど功績はすべて王太子のもの。
感謝も敬意も、ただの一度もない。
そして迎えた舞踏会の夜。
「便利だったが、飾りには向かん」
公開婚約破棄。
それならば、とレイナは微笑む。
「では業務も終了でよろしいですね?」
王太子が望んだ通り、
彼女は“確認”をやめた。
保証を外し、責任を返し、
そして最後に――
「ご確認を」と差し出した書類に、
彼は何も読まずに署名した。
国は契約で成り立っている。
確認しない者に、王の資格はない。
働きたくない公爵令嬢と、
責任を理解しなかった王太子。
静かな契約ざまぁ劇、開幕。
---
【完結】貴方の傍に幸せがないのなら
なか
恋愛
「みすぼらしいな……」
戦地に向かった騎士でもある夫––ルーベル。
彼の帰りを待ち続けた私––ナディアだが、帰還した彼が発した言葉はその一言だった。
彼を支えるために、寝る間も惜しんで働き続けた三年。
望むままに支援金を送って、自らの生活さえ切り崩してでも支えてきたのは……また彼に会うためだったのに。
なのに、なのに貴方は……私を遠ざけるだけではなく。
妻帯者でありながら、この王国の姫と逢瀬を交わし、彼女を愛していた。
そこにはもう、私の居場所はない。
なら、それならば。
貴方の傍に幸せがないのなら、私の選択はただ一つだ。
◇◇◇◇◇◇
設定ゆるめです。
よろしければ、読んでくださると嬉しいです。
旦那様に愛されなかった滑稽な妻です。
アズやっこ
恋愛
私は旦那様を愛していました。
今日は三年目の結婚記念日。帰らない旦那様をそれでも待ち続けました。
私は旦那様を愛していました。それでも旦那様は私を愛してくれないのですね。
これはお別れではありません。役目が終わったので交代するだけです。役立たずの妻で申し訳ありませんでした。
【完結】生贄になった婚約者と間に合わなかった王子
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
フィーは第二王子レイフの婚約者である。
しかし、仲が良かったのも今は昔。
レイフはフィーとのお茶会をすっぽかすようになり、夜会にエスコートしてくれたのはデビューの時だけだった。
いつしか、レイフはフィーに嫌われていると噂がながれるようになった。
それでも、フィーは信じていた。
レイフは魔法の研究に熱心なだけだと。
しかし、ある夜会で研究室の同僚をエスコートしている姿を見てこころが折れてしまう。
そして、フィーは国守樹の乙女になることを決意する。
国守樹の乙女、それは樹に喰らわれる生贄だった。
さようなら、私の初恋
しょくぱん
恋愛
「さよなら、私の初恋。……もう、全部お返しします」
物心ついた時から、彼だけが世界のすべてだった。 幼馴染の騎士団長・レオンに捧げた、十数年の純粋な初恋。 彼が「無敵」でいられたのは、アリアが無自覚に与え続けた『治癒の加護』があったから。
だが婚約直前、アリアは知ってしまう。 彼にとって自分は、仲間内で競い合う「賭けの対象」でしかなかったことを。
「あんな女、落とすまでのゲームだよ」
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる