獣人は花嫁を選ぶ~学食のお姉さんは狼に溺愛される~【獣人シリーズ②】

椿蛍

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21 窮地

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正月も終わり、仕事が始まる。
地獄のように感じた正月もやっと終わると、ほっと息を吐いた。

「お母さん。私、明日から仕事だから、学園に戻るわね」

「何を言ってるの。またあの高校生に色目使うんでしょ。気持ち悪い。美知は辞めますって学園に電話しておいたわよ」

「辞めますって、これから、お金はどうするの? お給料をもらえなくなったら、生活できないのよ?」

声が震えた。
もう戻らせないつもりだとわかった。
自分の目の届く範囲に置いて、好きなように私を使うつもりなのだ。

「お金のことは心配しなくて、大丈夫よ」

母の機嫌がいい。
その機嫌の良さが怖かった。
不安が胸に広がり、今、ここで逃げなければ、二度と泉地に会えなくなるような気がした。

「お願い、学園に戻らせて。一日でいいから!」

狼谷家の人達に泉地は反対されて、私達が別れることになるのはわかっている。
でも、その別れの言葉すら、私は言わせてもらえない。

「美知。やめてよ。本気で好きだったの?」

「そうよ」

母は驚いていた。
私が肯定するとは思っていなかったようだった。

「美知を育てるのは大変だったのよ? お母さんのためになにかしようとは思わないの?」

「どういう意味?」

今まで私は母に尽くしてきた。
物心ついた時から、機嫌を損ねないように気を付けていたし、働きだしてからはお金も送っていた。

「美知は最低ね。自分のことばかり優先させて。私のことをなにも考えてくれないんだから」

呆然としていると、母はスマホを取り出して、誰かに連絡をしている。

「そう。私。今すぐ来て。もちろん、お金も持ってきてよ」

「誰に電話しているの?」

「ふふっ。知りたい?」

母は赤い唇をあげて、楽しげに笑う。
私を苦しめる時、昔からあんな顔をして笑うのだ。

「わ、私、ちょっと買い物に行ってくる」

コートとバッグを手にして、外に出ようとした私の腕を母が掴む。

「だめよ。今から大事なお客様が来るんだから」

「そのお客様って、ろくでもない人なんでしょう!?」

「失礼ねぇ。たくさんお金をくれるんだから、ろくでもない人じゃないわよ」

ぞくりと背筋が寒くなった。
母がなにをしようとしているのか、私にはわかった。
体が奮えた。

「私を売ったの?」

適合者マリアって高く売れるのよ。学園に入れなかった獣人で、後からお金持ちになったような獣人とかね? ちょっと年配の方が多いらしいけど」

「それが母親のすることなの!?」

「私は悪くないわよ。美知が悪いの。だって、お母さんのことを一番に考えてくれないんだもん」

適合者マリアを売るのは重罪なのよ? わかってるの?」

それも、実の親が適合者マリアを保護しなかった場合、より罪が重くなる。

「やあねえ、ばれなきゃいいのよ」

ここまで、愚かな人だったとは。
冗談ではない。
逃げないと本当に泉地に会えなくなってしまう。
このまま、売られるわけにはいかない。
母の手を振り払い、玄関に走った。

「美知。待ちなさい!」

母の声を無視して、玄関のドアを開けた。
そこにはすでに人がやってきていて、大きな体でドアの前に立ち塞がっていた。

「どうも」

「娘さんか。可愛いね」

「ブスって言ってたのに」

お金が入っていると思われるスーツケースを手にした男が三人。
サングラスをかけ、スーツを着ていて、パッと見はビジネスマンのように見える。

「えー、ブスでしょー? 父親に似ていて、全然可愛くないんだから」

母は笑っていた。
どうして娘を売って、笑っていられるの?この人は。

「その人達は獣人なのよ。裏ルートで適合者マリアをお金持ちの獣人に売り飛ばすお仕事をしてるの」

「獣人……」

獣人は人よりも運動能力に優れている。
私が逃げ出そうとしたところで、すぐに捕まってしまうだろう。

「契約書にサインをいただけますか」

「えー。この金額、安すぎるわよ。オークションにかけて値段をつり上げるんでしょ?」

母が金額に納得いかなかったようで、交渉を始めた。
その間に逃げようと、そっと入り口に近づこうとした瞬間。

「おい! 逃げられるなよ!」

「捕まえて縛っておけ!」

狭いアパートの中を追いかけられ、気が付くと部屋のすみに追いやられてしまった。

「お嬢ちゃんみたいな逃げる獲物を追い詰めるのは得意なんだよ」

獣人達はじりじりと距離を詰めて、私に手を伸ばした。
捕まる―――!
目をきつく閉じて、緊張で体を強ばらせた。
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