婚約破棄されて悲しみにくれていましたが、王太子殿下は戻ってきて


 その日の晩のこと,悪役令嬢の私は,王太子殿下との婚約を一方的に破棄された。

「なあ,キャロライン」

婚約を破棄されたことに絶望して憔悴している私に,殿下は話しかけた。

「俺はおまえが好きだと思ったから婚約したんだ」

えっ? いきなり何を言い出すんですか?

「おまえは決して悪い娘ではないと思う」

何かイヤな予感がするんですけど……。

「でも……性格が悪すぎる!! こんなのと一生暮らさなきゃいけないかと思うと,とてもやっていけない!」

「私だって,あなたみたいな暴力男とは一緒にいたくありませんわ!」

「なんだとう! こっちが下手に出てやったら図に乗りやがって!! お前なんかこっちから願い下げだ! もう2度と王宮に顔を出すな!!」

私は悪役令嬢らしく,ヒステリックに叫んでやった。




「ああ,出てってやるさ! こんな性格ブスと婚約してやってるなんて,俺の一生最大の汚点だ! もう金輪際俺に近づくな!」

殿下は捨て台詞を吐いて去っていった。

ああ……これでようやく私も婚約破棄された娘の仲間入り。でもすっきりしたわ。あんな奴の嫁にならずに済んだんだから。

そして私はさっさと王都に帰って行った。もうこんなところに用はないからね。

でも私ったらうっかりしてたわあ。悪役令嬢らしくって,婚約者を罵る時って,たいてい婚約破棄までさせるってこと,すっかり忘れてた。

まあ仕方ないか。こういう性格なんだから。

でもこれからどうしよう? もう悪役令嬢失格な私なんて誰も嫁にもらってくれないわよね……。

そうだわ! ダメ元で王太子殿下のところに行ってみよう! そう決心すると,私は早速王宮に向かった。そして門番に尋ねた。

「あのう……王太子殿下はお元気ですか?」

もう私の存在など忘れられているはずと思いつつ,私はダメ元で聞いてみた。すると門番は「もちろんです!」と答えた。

よかったあ! 忘れられていなかったのね! 私はほっとして門番に尋ねた。

「王太子殿下は今も私の手紙を大事に持っていてくださいますか?」

門番は言った。

「もちろんでございます」

えっ!? もう忘れずに持っていてくれているの? 私ってマジで愛されてるじゃないの!! 感動したわ……そしてますます殿下が好きになったわ。

ああ,早くこの気持ちを伝えたい!! そんな訳で,私は早速王宮に上がり,王太子殿下の執務室に向かった。

「やあ……久しぶりだな」

「はい……」

殿下は私の顔を見ると嬉しそうに微笑んでくれた。私は嬉しさのあまり胸がきゅんとなった。もうすっかり虜になっているのだ。

「さて……今日は何の用かな?」

「あの……実はお願いがあるのです」

私がそう言うと,殿下は興味深そうに聞いてきた。

「どんなことかな?」

「実は……婚約破棄されてしまったので……」

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