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第二章 淫紋をぼくめつしたい
キスしてほしい③
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「なあなあ。わからんとこ、聞けた?」
隣を歩きながら、シゲルがじっと見つめてくる。昼の光を吸い込んで、はちみつみたいな瞳に見惚れながら、俺は頷いた。
「おう。お前のわからん所も仕入れてきたから、あとで教えたろ」
「ほんまー!? ありがとう、晴海っ」
シゲルはニコーっと微笑んで、俺の手をギュッと握る。
いちいち、可愛い奴や。この笑顔が見とうて、ついつい何でもしたりたなんねんな。
竹っちらは、「お前、今井が詐欺師だったら破産してるよな」ってからかいよるけど、それで本望なくらいには可愛いんやもん。
まあ、シゲルはホンマにええ子やし、ありえん仮定やけど。
「晴海はえらいなあ。いっつもちゃんと、わかるまでやるもん」
「ははは。ただのガリ勉やて」
と、謙遜してみたものの、好きな子に褒められて悪い気はせん。無駄に鞄を抱え直しとったら、シゲルがぐいぐいと腕を引っ張ってくる。
「そうと決まったら、早よ行こうや。ご飯食べて、テス勉しよっ」
「ああ、そうやな!」
先を行くシゲルの髪が、陽に透けてふわふわ揺れとる。――いい日やなあ、とか老人みたいなことを思ったりして。
もちろん。
そういう日でも、シゲルの抱える問題が無くなったわけやないと――忘れるわけではないんやけど。
引っ張られるようにやって来た被服室で、俺はシゲルと差し向いに座った。
「ゲーム」の一件で、付き合うふりをしてからと言うもの、俺とシゲルの二人っきりで昼メシを食う習慣になっとる。あいつら、俺がシゲルをずっと好きなん知っとるから、快く送り出してくれんのよな。友達甲斐に感謝やで。
「じゃーん! 今日は頑張ってんで~」
「おおっ!? こ、これは――」
眩しい笑顔で、シゲルが弁当箱の蓋を開いた。
キツネ色の衣も麗しいレンコンの天ぷらが、でっかい弁当箱の半分にぎゅぎゅっと詰め込まれとる。
ふわん、と揚げ物の香ばしい匂いが鼻をくすぐり、俺は目を瞠った。
「すげえ! てかお前これ……はさみ揚げちゃうん! こんなん作れんの?!」
カシャカシャ、とスマホで連写していると、シゲルがにこにこと箸を渡してくれる。
「へへ……初めて作ってんけどさ。味見したから、ちゃんとウマいで」
「やっば。プロやん」
「も~、ええから。早よ食べてみてや」
シゲルは、ちょっと照れくさそうに睨んでくる。抱きしめたなったけど、これ以上ごちゃごちゃしたら怒られそうやから、大人しく手を合わせる。
「いただきます」
シゲルの熱い視線を感じながら、でっかいまん丸の天ぷらに勢いよくかぶりつく。
ふんわりした衣を齧ると、ほくほくのレンコンの甘味が口いっぱいに広がった。具のつくねもジューシーで、ぴりっとした生姜の味が何とも言えず――
「うまっ!」
「わあ、よっしゃ!」
うますぎて、ガツガツ食うてまう。
レンコンのはさみ揚げは好きやけど、これは間違いなく人生イチのはさみ揚げや。しょうゆ味でメシもどんどん進み――あっという間に、全部食うてまう。
「ああ……もう終わった」
空っぽの弁当箱が、切ない。
シゲルは、俺の勢いに目を丸くして、真っ赤な頬をゆるませた。
「……そんな美味しかった?」
「シゲル……俺の嫁になってくれ!」
「何じゃそれっ。アホやな~!」
あはは、と明るく笑いながら、ばしばし肩を叩かれる。冗談めかせて本気なんは、気づかれてへんらしい。
と、シゲルは自分のはさみ揚げ(ラス1)を箸で摘まんで、ひょいと俺の口元に近づけた。
「ん?」
「おれの半分あげる! かじってええよ」
にこにこの笑顔で言われて、カーッと頬に熱が上る。
「はい、アーン」は、片思いの男には刺激が強いって! 内心おろおろしとったら、シゲルが「はーやーく!」て口にレンコンを押し付けてくる。
――ああ、この無邪気な瞳にあらがえる男が居るか?!
観念して齧ると、シゲルは嬉しそうにきゅっと目を細める。かわいい……。
もごもごと噛んどったら、シゲルが残りを食べ始めたんで、俺は机に沈み込む羽目になった。
隣を歩きながら、シゲルがじっと見つめてくる。昼の光を吸い込んで、はちみつみたいな瞳に見惚れながら、俺は頷いた。
「おう。お前のわからん所も仕入れてきたから、あとで教えたろ」
「ほんまー!? ありがとう、晴海っ」
シゲルはニコーっと微笑んで、俺の手をギュッと握る。
いちいち、可愛い奴や。この笑顔が見とうて、ついつい何でもしたりたなんねんな。
竹っちらは、「お前、今井が詐欺師だったら破産してるよな」ってからかいよるけど、それで本望なくらいには可愛いんやもん。
まあ、シゲルはホンマにええ子やし、ありえん仮定やけど。
「晴海はえらいなあ。いっつもちゃんと、わかるまでやるもん」
「ははは。ただのガリ勉やて」
と、謙遜してみたものの、好きな子に褒められて悪い気はせん。無駄に鞄を抱え直しとったら、シゲルがぐいぐいと腕を引っ張ってくる。
「そうと決まったら、早よ行こうや。ご飯食べて、テス勉しよっ」
「ああ、そうやな!」
先を行くシゲルの髪が、陽に透けてふわふわ揺れとる。――いい日やなあ、とか老人みたいなことを思ったりして。
もちろん。
そういう日でも、シゲルの抱える問題が無くなったわけやないと――忘れるわけではないんやけど。
引っ張られるようにやって来た被服室で、俺はシゲルと差し向いに座った。
「ゲーム」の一件で、付き合うふりをしてからと言うもの、俺とシゲルの二人っきりで昼メシを食う習慣になっとる。あいつら、俺がシゲルをずっと好きなん知っとるから、快く送り出してくれんのよな。友達甲斐に感謝やで。
「じゃーん! 今日は頑張ってんで~」
「おおっ!? こ、これは――」
眩しい笑顔で、シゲルが弁当箱の蓋を開いた。
キツネ色の衣も麗しいレンコンの天ぷらが、でっかい弁当箱の半分にぎゅぎゅっと詰め込まれとる。
ふわん、と揚げ物の香ばしい匂いが鼻をくすぐり、俺は目を瞠った。
「すげえ! てかお前これ……はさみ揚げちゃうん! こんなん作れんの?!」
カシャカシャ、とスマホで連写していると、シゲルがにこにこと箸を渡してくれる。
「へへ……初めて作ってんけどさ。味見したから、ちゃんとウマいで」
「やっば。プロやん」
「も~、ええから。早よ食べてみてや」
シゲルは、ちょっと照れくさそうに睨んでくる。抱きしめたなったけど、これ以上ごちゃごちゃしたら怒られそうやから、大人しく手を合わせる。
「いただきます」
シゲルの熱い視線を感じながら、でっかいまん丸の天ぷらに勢いよくかぶりつく。
ふんわりした衣を齧ると、ほくほくのレンコンの甘味が口いっぱいに広がった。具のつくねもジューシーで、ぴりっとした生姜の味が何とも言えず――
「うまっ!」
「わあ、よっしゃ!」
うますぎて、ガツガツ食うてまう。
レンコンのはさみ揚げは好きやけど、これは間違いなく人生イチのはさみ揚げや。しょうゆ味でメシもどんどん進み――あっという間に、全部食うてまう。
「ああ……もう終わった」
空っぽの弁当箱が、切ない。
シゲルは、俺の勢いに目を丸くして、真っ赤な頬をゆるませた。
「……そんな美味しかった?」
「シゲル……俺の嫁になってくれ!」
「何じゃそれっ。アホやな~!」
あはは、と明るく笑いながら、ばしばし肩を叩かれる。冗談めかせて本気なんは、気づかれてへんらしい。
と、シゲルは自分のはさみ揚げ(ラス1)を箸で摘まんで、ひょいと俺の口元に近づけた。
「ん?」
「おれの半分あげる! かじってええよ」
にこにこの笑顔で言われて、カーッと頬に熱が上る。
「はい、アーン」は、片思いの男には刺激が強いって! 内心おろおろしとったら、シゲルが「はーやーく!」て口にレンコンを押し付けてくる。
――ああ、この無邪気な瞳にあらがえる男が居るか?!
観念して齧ると、シゲルは嬉しそうにきゅっと目を細める。かわいい……。
もごもごと噛んどったら、シゲルが残りを食べ始めたんで、俺は机に沈み込む羽目になった。
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