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第二章 淫紋をぼくめつしたい

キスしてほしい②

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 昼休みになってまもなく、俺は二つさきの組を訪ねて行った。
 E組の担任・高田先生は俺らの英語の担当なもんでな。昨夜、テス勉しとったら解らんとこがあったんで、ちょっと聞きに来たというわけなんやけど。
 
「高田ちゃん、お昼一緒に食べようよー」
「……ええと、すみません。生徒と一緒にご飯はちょっと……」
「えーっ、お堅いなあ。でもそんなとこもカワイーッ!」
「いや、ほんとに……」
 
 はたして、高田先生はおった。教壇のとこで、賑々しい生徒らに周りを囲まれとる。高田先生は授業はわかりやすいし、若くて年も近いせいか生徒の人望も厚い。いまも熱心にランチに誘われとる最中のようや。
 とはいえ、俺もシゲルを待たせとる状況やからな。同輩に遠慮することも無し、「すいません」と大声を上げた。
 
「ああ、有村くん!」
 
 先生がパッと顔を上げる。
 
「すんません。ちょっと質問ええすか?」
「いいですよ。……じゃ、ごめんなさい。質問だから……」
 
 先生が困り顔で微笑むと、賑々しい奴らは「ちぇー」言うて去って行った。すまんな、と思いつつ、俺は先生にテキストを差し出す。
 
「ここと、ここなんですが」
「ああ、ここは――」
 
 高田先生の解説を、せっせとノートに書きこんだ。十分に納得し、俺は頭を下げる。
 
「いや、ありがとうございました。お昼前に時間取ってもろて」
「いいんですよ。……僕の方こそ、助かりましたし」
「ん?」
「いえっ。ほ、他は大丈夫ですか?」
「はい、今んとこは」
「また、わからないところがあったら聞いてくださいね。いつでも、いいですから……」
 
 そう言うて、高田先生は、にこっと微笑んだ。
 なんて熱心な先生なんや。俺らみたいな寮生には、ホンマに有難いことやで。
 俺は再度お礼を言うて、その場を辞した。
 
 
「おい、お前!」
「おん?」
 
 渡り廊下にさしかかると、行き先を阻むように囲まれる。見れば、さっき高田先生を囲んどった、賑やかな生徒達やんけ。
 
「ああ、割り込んですまんかったな。もう話し終わったさかい……」
「何、しらばっくれてんだ! お前、高田ちゃんとどういう関係だ?!」
「は?」
 
 どういう関係ってなんやねん? 生徒以外あんのかいな。
 思わずきょとんとしとったら、相手は痺れをきらしたらしい。胸倉を掴もうと、手を伸ばしてきた。
 
「うお。何すんねん」
「さっと答えろや!」
「いや、普通に生徒やし。何怒ってるん?」
 
 わけ分からんくて聞いたら、相手はますます癪に障ったみたいな顔しとる。なんのこっちゃ。
 
「あのよ、気に障ったんやったら謝るさかい。もう行ってええ?」
「いいわけねーだろ! 高田ちゃんに笑顔向けられやがって!」
「そうだそうだ!」
「ええ~」
 
 ヒートアップしとる皆さんに、少々辟易とする。なんなん? 全然放してくれへんがな。俺はそそくさと道行く生徒に、声をかけた。
 
「なあ、今何時?」
「えっ!? ひ、昼休みを十分過ぎたとこ……」
「そうか、ありがとう」
 
 わっと走り去る生徒を見送り、俺は「あー」と呻いた。
 しもたなあ。
 シゲルに、「先メシ食うときや」って言うて出てきたったらよかった。
 やないと、あいつのことやから、俺が戻るまでじっと待ってるやろし。「一人で食べるのさみしいもん」言うて。別に、竹っちらと食べてもええのにな……。
 
「何、にやけてんだ!?」
「おっ、マジ? 悪い悪い」
 
 へらへら謝っとったら、遠くから、どたばた、と足音が聞こえてきた。
 俺は、ハッとする。
 目の前の壁をドンと押しのけると、駆けだした。背後で、「うおっ」と悲鳴が聞こえ、ドミノ倒しみたいな音がしたが、気に留める余裕もない。
 だって、このぶきっちょな足取りは……!
 
「晴海~!」
 
 ちょっとハスキーな甘い声が、俺を呼ばう。
 予想通りの声の主――シゲルは、あめ色の髪を揺らし、まばゆい笑顔で俺に手を振った。肩からふたつ鞄を下げて、ふらふらと人波をくぐり、走ってくる。
 
「シゲルー!」
 
 駆け寄ると、シゲルはにこにこと話し出す。
 
「へへ。早よごはん食べたいから、迎えに来てん。うれしい?」
 
 急いできたせいで真っ赤な頬で、シゲルははにかむ。そりゃもう、
 
「お前、可愛いにもほどがあるわ~!」
「ふぎゃ! あ、あほう、人前やのにっ!」
 
 ギュって抱きしめたら、真っ赤な顔でビンタされた。かわいいだけで、全然痛ないけどなー。
 デレデレしてたら、いつの間にか賑やかな男どもはおらんなっとった。
 結局、わけわからんかったけど、まあええか。
 
 
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