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第二章 淫紋をぼくめつしたい

はじめての……①

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「シゲル、何かほしいもんないか?」
「だ、大丈夫」
 
 枕元で、晴海が心配そうにのぞきこんできた。
 優しい目に見つめられて、どぎまぎしてまう。
 
「そうか。ほな、おやすみ。しんどかったら、すぐ言うんやで」
「うん……」
 
 晴海は穏やかな声で言うて、布団をぱふっと顎までかけてくれた。
 目をつむってじっとしてると……ベッドの脇に座りこむ気配がする。ごそごそ、て布団のなかを探られて、手を握られる。
 
 つ、ついててくれんの? 優しい……
 
 熱がほわほわと上がった気がして、おれは布団の中に潜り込んだ。
 
 
 
 
 てんやわんややった、学祭の夜。
 気がぬけたんか、晴海の背中で眠り込んだおれは、熱を出してしもたんよ。
 目ぇ覚めたら、お部屋のベッドに寝転んでてな。晴海が呼んできてくれた寮監さんが、診てくれてんけど。
 
「たぶん、疲れが出たんだね。学祭の時期、体調崩す子多いんだよ。栄養とって、よく眠ったら治ると思うよ」
 
 ってことなんやって。
 おれとしては、「疲れで熱がでるなんて、ちょっと照れくさいなあ」くらいやってんけどね。
 やから、晴海がつきっきりで看病する言うてくれたのはびっくりしてん。
 
「えっ、そんな大丈夫やよ。寝てたら治るし……!」
「あかん。お前、熱でたら一人で眠られへんやん。しっかり休まなあかんて、先生言うてはったやろ?」
「うっ。でも、学校休まんかったって……! テストも近いし、悪いよ」
 
 ただでさえ、ゲームのことでずっと心配かけてたんやから。これ以上、晴海に世話かけるのも、心苦しいもん。
 ごねごねしてたら、晴海が「シゲル」て強い声で呼んだ。
 
「頼む。薬の後遺症のこともあるし。それに……色々無理させたし。心配なんや」
「……っ!」
 
 布団ごしにおなかを撫でられて、きゅんってする。……どきどき胸が苦しくて、かーってほっぺが熱うなって――まともに声が出えへん。
 
「あうあう」
「よしよし。もう皆に連絡したからな」
 
 という顛末なん。
 晴海。ちょっと優しすぎひんかしら……。
 
 
 
 
 
「ふあ……」
 
 ぱち、と目が開いた。
 知らん間に、眠ってたみたい。伸びしようとしたら、つんって手が突っぱった。
 
「お。起きたか?」
「晴海……」
 
 晴海の手をぎゅって握ったままやった。 
 
「ごめんなっ。手ぇしびれたやろ?」
 
 どうりで、よう眠れたはずや!
 慌ててはなすと、晴海は参考書を置いて笑った。
 
「全然や。眠れたか?」
「う、うん。いまなんじ?」
「昼過ぎやな。そろそろ薬飲まなあかんし、起こそう思とったんや」
 
 おデコを撫でられて、胸の奥がふわんととろける。
 やっぱり熱でて、気が弱くなっとるんかなあ。「一人でええ」て強がってみたものの、晴海がいてくれて、めっちゃ安心する。
 
「はるみ、ありがとう……」
「ええよ」
 
 汗でぺたっとしとる髪を梳かれて、うっとりと目を閉じた。あったかい……
 おれな、ちっさい頃はよく熱だしたんよ。
 でも、うち共働きでな。姉やんも勉強忙しいし、熱出ても一人で寝とくことが多くてさ。
 やから――学校終わって、晴海が見舞いに来てくれるんが、何より嬉しかった。
「空手の練習や」て、お父さんが迎えに来るまで、ずっと手を握ってくれて……。
 
 ――そっか。晴海は昔から、ずーっと優しいんやなぁ……。
 
 思い出に浸っとったら、晴海が言う。
 
「汗だくやな。いっぺん着替えよか?」
「うんっ。きもかったから、嬉しい」
 
 ぬくぬくで、汗いっぱいかいたから。パッと目を輝かせるおれに、晴海は爆弾を落とす。
 
「そうか。ほな体拭いたるから、ちょっと待っとり」
 
 へっ!?
 
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