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第一章 おけつの危機を回避したい

六十六話

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 そうか……! 最終イベントやから、愛野くんも攫われたんか。
 
「さあ愛野くん。君も準備しましょうねぇ」
 
 榊原が猫撫で声できもいことを言う。愛野くんの返事はない。彼は、榊原に抱えられて、ぐったりと目を閉じとった。
 いっつも元気な子が黙ってんのが怖くて、叫ぶ。
 
「しんどそうやん。何したん……?!」
「煩い。薬で眠っているだけですよ」
 
 榊原は鬱陶しそうに言うと、愛野くんをベッドに下ろす。
 床に転がっとるせいで見えへんけど、カチャカチャとかシュルシュルとか、何かやってる音が聞こえてきた。ぽい、と床に放られたエプロンドレスを見て、カッとなる。
 こいつ! 酷いことばっかしやがって。
 
「やい榊原! そんなんしても、会計に捕まるだけなんやからなっ」
「――黙りなさい、今井くん。騒がずとも、君も構ってあげますよ」
「ひっ!」
 
 ゾッとするほど冷たい声で言われ、しおしおと黙りこむ。
 
「いたっ」
 
 放り捨てられたローファーが頭にぽかんと当たる。泣きっ面に蜂とは、このことや! 涙をこらえてたら、「うう……」と愛野くんの呻き声が聞こえた。
 
「ふふ……早く目覚めなさい。楽しい凌辱ショーの始まりですよ」
「!」
 
 その言葉で、おれに電流が走る。
 そうや!
 愛野くんのことも、心配やけど。――愛野くんがここに来たってことは、おれもいよいよヤバいんやった。
 姉やんいわく――ゲームの「シゲル」は、愛野くんに媚薬の怖さを教える装置。
 つまり、おれというキャラのクライマックスは間近……!
 
「うわわ」
 
 よう考えたら、薬は解毒剤があるんやから、とにかく逃げたら良かったんやん! 必死にずりずりと床を這いずると、テーブルの足におけつがぶつかった。
 
「ぁうっ!」
 
 揺れたテーブルから、ボサッ! と籠が落ちてくる。目に前にコロコロ……と転がってきたものに、ぎょっとして叫んだ。
 
「ひぃっ、人参!」
 
 オレンジ色の、艶々のお野菜。こんな時でもなきゃ美味しそうやけど、今はとにかく恐ろしい。
 肩と膝で必死に這って、扉へと進む。
 
「何を騒いでいるんですか?」
「いたっ!」
 
 いきなり、おけつをギュッと踏みつけられた。靴底で肌をにじられる痛みに、涙が零れる。
 
「やめてっ」
「全く、往生際が悪いですね」
 
 立てた膝が崩れて、うつぶせに倒れ込む。すかさず腹の下に、背の高いクッションをねじ込まれてまう。高々と上がったおけつから、榊原はテープを勢いよく剥がした。
 
「いっ……!」
「ずい分、自分で弄ったみたいですね。ふくらんでいますよ」
 
 おけつを割られ、まじまじと穴を検分される。広がった穴の縁を爪先でなぞられると、背中がぞぞぞと粟立った。
 いやや、気持ち悪い……!
 
「やっ、放してやっ……!」
 
 逃れようと腰を捩ると、強く背中を抑え込まれた。
 クッションがお腹に押し込まれて、おけつに力が籠る。
 
「ああっ!?」
 
――ぐぽっ。
 
 おけつの穴が、勢いよくゴム栓を吐き出した。
 かあっ、と頬が熱を持つ。あんなに頑張っても、出えへんかったのに……! すると――おけつの穴がぶるると震えて、止める間もなくぬるい液体を噴き出した。
 酷い水音が響き、目の前が真っ赤になる。
 
「おやおや……」
「やあーっ、見るなあ!」
 
 榊原が、失笑する。おれは、恥ずかしさと悔しさで泣き喚いた。
 
「まさか、お漏らしとはね……高校生にもなって、みっともない」 
「う……っ」
 
 嘲りの言葉が、ぐさりと胸に刺さる。ひぐう、と涙が喉で潰れた。
 
――ぜんぶ、薬やもん。漏らしたんとちゃうし。きもいもん出せて、ラッキーやわ!
 
 そう言ってやれたら。
 
「うわああん……!」
 
 でも、そんなに強くないわ……!
 だって、おけつの穴が鯨みたいになってんの、見られてんねんで。
 もう、心がばらばらになりそうや。
 
「ひっく……ううっ」
 
 太腿と脹脛をびちゃびちゃにして、漸く水音が止む。
 でも、心の痛みは止まんくて、涙がぼろぼろと頬を伝う。骨が抜けたみたいに、おれはだらんと床にのびた。
 乱暴に下半身をタオルで拭われて、再びおけつが割られる。
 
「ひぅっ」
「ふむ……きちんと棲家をうつせたようですね」
 
 すみか……?
 鼻を啜ったとき、おけつの穴に固いものがあてがわれた。あ、と思ったときには、強く押し付けられる。
 
――ずぷぷ……
 
「ぅあ……ぅ……っ」
 
 固くてざらっとしたものが、じんじんする穴を割入って来る。のろのろと振り向くと……榊原の持つオレンジの野菜が、丸ごとおけつの谷間に飲み込まれていた。頭がくらっとする――
 
「うえっ……! げほっ、おえ……!」
 
 吐いた。
 逃げたいのに、腰が抜けたみたいに力が入らんくて。おけつの中をぬるぬる進んでくる人参に、嗚咽が漏れる。
 しばらくして、榊原の手がおけつにくっついた。
 
「う……あ……」
「丸ごと入ってしまいましたよ。ちっとも痛くないでしょう?」
 
 得意げに言われ、涙がぽろっと零れた。
 怖くて。
 榊原の言う通りなんが、怖かった。指でグリグリされたとき、めっちゃ痛かったのに、今はなんも痛くない。
 もう、どうなってんの、おれのおけつは……?
 
「うわあ! 人参が入ってる!」
 
  甲高い叫び声に、びくりと肩が揺れる。
 ベッドに横たわる愛野くんが、驚愕の面持ちでこっちを見とった。いつから起きとったんやろ、とボンヤリ思う。
 
「愛野くん、お目覚めですか?」
「さ、榊原先生?! それっ、今井? なんでケツの穴? てか、ここどこ?!」
「ふふ……混乱しているようですね。無理もありませんが。君は、これから私に凌辱されるんですよ」
「はあ?! なんだそりゃ?」
「恨むなら、劒谷君を――」
 
 おれのおけつの上で、会話が進む。
 ぐすぐすと鼻を鳴らしていると、いきなり人参が動いた。
 
「ひぐっ!」
「見なさい、愛野くん。この今井くんは、紛れもない処女アナルでしたが……この媚薬で今はこの通りのスケベアナルになったのですよ」
「うっ、あうう……!」
 
 ぬこぬこ、と人参をピストンされ、呻き声が漏れた。じんじんする内側を擦られて、いやいやと首を振ると、もっと激しく出し入れされる。――苦しいっ!
 
「ふえっ、えう、ううー……!」
 
 ひいひいと泣き声を漏らすおれに、「今井、しっかりしろ!」と檄が飛ぶ。
 もう、いや。 
 だれか、ぜんぶ悪い夢やって言うて。
 お願いやから、昨日の夜に戻して……!
 
「ぐすっ……うう……」
「ケツの快楽に負けんな! 有村を思い出せ!」
「……っ!」
 
 おれは、はっと目を見開いた。
 
 晴海!
 
 最後に見た、晴海の顔を思い出す。
「心配なんや」って、痛いくらい掴まれた肩が、じんと熱を取り戻した。
 
 ――お前を守りたい。
 
 おれと、ずっと一緒におってくれた。優しい晴海……今もきっと、探してくれてるはずや。
 おれが諦めたら、あかん……!
 
「そうや。来年は、一緒に花火見るんやもん……!」
 
 おれはぎゅっと拳を握りしめる。
 もう、負けへん。
 涙を払い、顔をあげて――目を見開く。
 
「……!」
 
 床に放り捨てられた、愛野くんのエプロンドレス。
 そのポケットから、解毒剤が覗いとった。
 

 
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