エンドロール〜BLゲームの悪役モブに設定された俺の好きな子の話〜

高穂もか

文字の大きさ
上 下
66 / 112
第一章 おけつの危機を回避したい

六十六話

しおりを挟む
 そうか……! 最終イベントやから、愛野くんも攫われたんか。
 
「さあ愛野くん。君も準備しましょうねぇ」
 
 榊原が猫撫で声できもいことを言う。愛野くんの返事はない。彼は、榊原に抱えられて、ぐったりと目を閉じとった。
 いっつも元気な子が黙ってんのが怖くて、叫ぶ。
 
「しんどそうやん。何したん……?!」
「煩い。薬で眠っているだけですよ」
 
 榊原は鬱陶しそうに言うと、愛野くんをベッドに下ろす。
 床に転がっとるせいで見えへんけど、カチャカチャとかシュルシュルとか、何かやってる音が聞こえてきた。ぽい、と床に放られたエプロンドレスを見て、カッとなる。
 こいつ! 酷いことばっかしやがって。
 
「やい榊原! そんなんしても、会計に捕まるだけなんやからなっ」
「――黙りなさい、今井くん。騒がずとも、君も構ってあげますよ」
「ひっ!」
 
 ゾッとするほど冷たい声で言われ、しおしおと黙りこむ。
 
「いたっ」
 
 放り捨てられたローファーが頭にぽかんと当たる。泣きっ面に蜂とは、このことや! 涙をこらえてたら、「うう……」と愛野くんの呻き声が聞こえた。
 
「ふふ……早く目覚めなさい。楽しい凌辱ショーの始まりですよ」
「!」
 
 その言葉で、おれに電流が走る。
 そうや!
 愛野くんのことも、心配やけど。――愛野くんがここに来たってことは、おれもいよいよヤバいんやった。
 姉やんいわく――ゲームの「シゲル」は、愛野くんに媚薬の怖さを教える装置。
 つまり、おれというキャラのクライマックスは間近……!
 
「うわわ」
 
 よう考えたら、薬は解毒剤があるんやから、とにかく逃げたら良かったんやん! 必死にずりずりと床を這いずると、テーブルの足におけつがぶつかった。
 
「ぁうっ!」
 
 揺れたテーブルから、ボサッ! と籠が落ちてくる。目に前にコロコロ……と転がってきたものに、ぎょっとして叫んだ。
 
「ひぃっ、人参!」
 
 オレンジ色の、艶々のお野菜。こんな時でもなきゃ美味しそうやけど、今はとにかく恐ろしい。
 肩と膝で必死に這って、扉へと進む。
 
「何を騒いでいるんですか?」
「いたっ!」
 
 いきなり、おけつをギュッと踏みつけられた。靴底で肌をにじられる痛みに、涙が零れる。
 
「やめてっ」
「全く、往生際が悪いですね」
 
 立てた膝が崩れて、うつぶせに倒れ込む。すかさず腹の下に、背の高いクッションをねじ込まれてまう。高々と上がったおけつから、榊原はテープを勢いよく剥がした。
 
「いっ……!」
「ずい分、自分で弄ったみたいですね。ふくらんでいますよ」
 
 おけつを割られ、まじまじと穴を検分される。広がった穴の縁を爪先でなぞられると、背中がぞぞぞと粟立った。
 いやや、気持ち悪い……!
 
「やっ、放してやっ……!」
 
 逃れようと腰を捩ると、強く背中を抑え込まれた。
 クッションがお腹に押し込まれて、おけつに力が籠る。
 
「ああっ!?」
 
――ぐぽっ。
 
 おけつの穴が、勢いよくゴム栓を吐き出した。
 かあっ、と頬が熱を持つ。あんなに頑張っても、出えへんかったのに……! すると――おけつの穴がぶるると震えて、止める間もなくぬるい液体を噴き出した。
 酷い水音が響き、目の前が真っ赤になる。
 
「おやおや……」
「やあーっ、見るなあ!」
 
 榊原が、失笑する。おれは、恥ずかしさと悔しさで泣き喚いた。
 
「まさか、お漏らしとはね……高校生にもなって、みっともない」 
「う……っ」
 
 嘲りの言葉が、ぐさりと胸に刺さる。ひぐう、と涙が喉で潰れた。
 
――ぜんぶ、薬やもん。漏らしたんとちゃうし。きもいもん出せて、ラッキーやわ!
 
 そう言ってやれたら。
 
「うわああん……!」
 
 でも、そんなに強くないわ……!
 だって、おけつの穴が鯨みたいになってんの、見られてんねんで。
 もう、心がばらばらになりそうや。
 
「ひっく……ううっ」
 
 太腿と脹脛をびちゃびちゃにして、漸く水音が止む。
 でも、心の痛みは止まんくて、涙がぼろぼろと頬を伝う。骨が抜けたみたいに、おれはだらんと床にのびた。
 乱暴に下半身をタオルで拭われて、再びおけつが割られる。
 
「ひぅっ」
「ふむ……きちんと棲家をうつせたようですね」
 
 すみか……?
 鼻を啜ったとき、おけつの穴に固いものがあてがわれた。あ、と思ったときには、強く押し付けられる。
 
――ずぷぷ……
 
「ぅあ……ぅ……っ」
 
 固くてざらっとしたものが、じんじんする穴を割入って来る。のろのろと振り向くと……榊原の持つオレンジの野菜が、丸ごとおけつの谷間に飲み込まれていた。頭がくらっとする――
 
「うえっ……! げほっ、おえ……!」
 
 吐いた。
 逃げたいのに、腰が抜けたみたいに力が入らんくて。おけつの中をぬるぬる進んでくる人参に、嗚咽が漏れる。
 しばらくして、榊原の手がおけつにくっついた。
 
「う……あ……」
「丸ごと入ってしまいましたよ。ちっとも痛くないでしょう?」
 
 得意げに言われ、涙がぽろっと零れた。
 怖くて。
 榊原の言う通りなんが、怖かった。指でグリグリされたとき、めっちゃ痛かったのに、今はなんも痛くない。
 もう、どうなってんの、おれのおけつは……?
 
「うわあ! 人参が入ってる!」
 
  甲高い叫び声に、びくりと肩が揺れる。
 ベッドに横たわる愛野くんが、驚愕の面持ちでこっちを見とった。いつから起きとったんやろ、とボンヤリ思う。
 
「愛野くん、お目覚めですか?」
「さ、榊原先生?! それっ、今井? なんでケツの穴? てか、ここどこ?!」
「ふふ……混乱しているようですね。無理もありませんが。君は、これから私に凌辱されるんですよ」
「はあ?! なんだそりゃ?」
「恨むなら、劒谷君を――」
 
 おれのおけつの上で、会話が進む。
 ぐすぐすと鼻を鳴らしていると、いきなり人参が動いた。
 
「ひぐっ!」
「見なさい、愛野くん。この今井くんは、紛れもない処女アナルでしたが……この媚薬で今はこの通りのスケベアナルになったのですよ」
「うっ、あうう……!」
 
 ぬこぬこ、と人参をピストンされ、呻き声が漏れた。じんじんする内側を擦られて、いやいやと首を振ると、もっと激しく出し入れされる。――苦しいっ!
 
「ふえっ、えう、ううー……!」
 
 ひいひいと泣き声を漏らすおれに、「今井、しっかりしろ!」と檄が飛ぶ。
 もう、いや。 
 だれか、ぜんぶ悪い夢やって言うて。
 お願いやから、昨日の夜に戻して……!
 
「ぐすっ……うう……」
「ケツの快楽に負けんな! 有村を思い出せ!」
「……っ!」
 
 おれは、はっと目を見開いた。
 
 晴海!
 
 最後に見た、晴海の顔を思い出す。
「心配なんや」って、痛いくらい掴まれた肩が、じんと熱を取り戻した。
 
 ――お前を守りたい。
 
 おれと、ずっと一緒におってくれた。優しい晴海……今もきっと、探してくれてるはずや。
 おれが諦めたら、あかん……!
 
「そうや。来年は、一緒に花火見るんやもん……!」
 
 おれはぎゅっと拳を握りしめる。
 もう、負けへん。
 涙を払い、顔をあげて――目を見開く。
 
「……!」
 
 床に放り捨てられた、愛野くんのエプロンドレス。
 そのポケットから、解毒剤が覗いとった。
 

 
しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。

たかなしポン太
青春
   僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。  助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。  でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。 「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」 「ちょっと、確認しなくていいですから!」 「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」 「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」    天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。  異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー! ※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。 ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

俺の好きな男は、幸せを運ぶ天使でした

たっこ
BL
【加筆修正済】  7話完結の短編です。  中学からの親友で、半年だけ恋人だった琢磨。  二度と合わないつもりで別れたのに、突然六年ぶりに会いに来た。 「優、迎えに来たぞ」  でも俺は、お前の手を取ることは出来ないんだ。絶対に。  

オメガなパパとぼくの話

キサラギムツキ
BL
タイトルのままオメガなパパと息子の日常話。

とある金持ち学園に通う脇役の日常~フラグより飯をくれ~

無月陸兎
BL
山奥にある全寮制男子校、桜白峰学園。食べ物目当てで入学した主人公は、学園の権力者『REGAL4』の一人、一条貴春の不興を買い、学園中からハブられることに。美味しい食事さえ楽しめれば問題ないと気にせず過ごしてたが、転入生の扇谷時雨がやってきたことで、彼の日常は波乱に満ちたものとなる──。 自分の親友となった時雨が学園の人気者たちに迫られるのを横目で見つつ、主人公は巻き込まれて恋人のフリをしたり、ゆるく立ちそうな恋愛フラグを避けようと奮闘する物語です。

日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが

五右衛門
BL
 月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。  しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──

愉快な生活

白鳩 唯斗
BL
王道学園で風紀副委員長を務める主人公のお話。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

処理中です...