エンドロール〜BLゲームの悪役モブに設定された俺の好きな子の話〜

高穂もか

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第一章 おけつの危機を回避したい

三十五話

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「先生、これこの辺でいいっすか?」
「ええ。そこの棚にお願いします」
「はいっ」
 
 てきぱきと働く竹っちと、にこやかな榊原のやりとりを聞きながら――おれは、鈍足の動きで試験管を並べとった。持つ手が震えて、カチカチと試験管が音を立てた。
 恥ずかしげもなく言うけど、死ぬほど不安やぁ! これってもしかして、姉やんの言ってた強制イベントなんかしら? 晴海がおらんのに、上手い事かわせる自信がまるで無いんやで。
 気もそぞろで片づけをしていると、竹っちが寄ってきた。
 
「ほらほら今井、さっさと終わらせちまおうぜ!」
「竹っち……!」
 
 にかっと笑って、竹っちは試験管を並べんの手伝ってくれる。優しいがな……。
 励まされて手を動かしとったら、榊原が言う。
 
「面倒見がいいですね、竹中くんは」
「へ? そんな、普通っすよー」
「いえ……それに、最近格好良くなりましたね。恋でもしましたか?」
「ええっ!?」
 
 竹っちは、ボンと顔を赤らめた。大慌てで、「いや、そんなことは……!」と俯いて、試験管をガチャガチャ言わせとる。
 あらま。竹っちったら、項まで真っ赤。めっちゃめちゃ照れてますやんか。長年の友達の思いがけないピュアさに、微笑ましくなった。
 と、竹っちはおれの背をぐいっと押し出した。
 
「お、俺なんかより、今井ですよ。こいつ、有村と付き合ってから、料理に目覚めたりなんかして。マジ、良い恋人してんすよっ」
「あっ、ちょっと竹っち!?」
 
 急に矛先を向けられて、ぎょっとする。い、良い恋人やなんて、そんな照れくさいわ。
 
「そうですか」
 
 榊原は、死ぬほど興味なさげに返事をした。ちょっとムッとしたけど、興味持たれても困るし結果オーライやと思い直す。
 
「それより、学祭の準備はどうですか? 君たちのところは、色々あると聞きましたが……」
「!」 
「あ、大丈夫です。今日、解決するつもりっすから」
 
 核心を突いた質問に言葉を失っていると、調子を取り戻した竹っちがけろっと答える。
 榊原が、笑みを浮かべた。
 
「そうですか。大人の手がほしければ、言ってくださいね。私が力になりますよ」
 
 その質問あかーん! イエスもノーも、絶対答えたくない!
 しかし、竹っちがにこやかに笑ったのを見て、おれはハッとする。
 
「はい。ありが――」
「あああ、竹っち! 試験管並べ終わったから、持ってこ?! 急いで、今すぐ!」
「えっ、おい?!」
 
 おれは、苦肉の策で竹っちを急かして、部屋の奥へ移動した。……なんとか、誤魔化せたかな? 額の汗を拭っとったら、竹っちにチョップされる。
 
「あいたっ」
「こら、今井! 話の途中に失礼だろ?」
「ご、ごめんよ。竹っち」
「っとに、もう」
 
 ぷりぷり怒りながら、竹っちは試験管の箱を片しとる。竹っち、礼儀正しいもんな……正直すまん。でも、のっぴきならん事情やったから、堪忍して。心の中で手を合わせて、おれも箱を棚に片す。
 
「ん?」
「どうした、今井?」
 
 声を上げたおれに、竹っちが問い返す。おれは、「何でもない」と笑って誤魔化した。
 
「そうか? じゃあ俺、もう一箱持ってくるわ」
「あっ、ありがとう」
 
 竹っちの背を見送って、おれは考え込む。
 この棚の並びに、媚薬ローション置いてあったんよな。……回収したから、今はもうないはずやけど。  
 まさかな、と思いつつ。ガラス戸を開けると、色んな薬品らしき背の高い瓶が置いてある。
 ぱっと見は、なんもない。前は、わかりやすいとこに置いてあったし、もう置いてへんのかもしれへん。
「なーんや」って気が抜けて。何の気なしに、居並ぶ薬品の一つを取った。
 
「ひえっ!」
 
 おれは、一歩後じさった。
 瓶を掴んだ手に、ぞぞぞと怖気が走る。
 瓶が無くなった隙間から、見覚えのあるピンクのボトルが覗いとった。しかも、一本やない。棚の横幅をぎっちり埋めるように、無数のちんちんがずらりと並んどる。
 
「おええ~! 何やねん、これっ?」
 
 きっしょい! そもそも見かけもグロいけど、媚薬への執念が怖すぎるんやわ。
 よろめいた背中に、ボスンと何か当たる。ツンと鼻を刺す薬品の匂いがして、首筋にどっと冷たい汗が噴き出した。後ろから伸びてきた手が、おれのガチガチに強張った手から、薬瓶を奪い取る。
 
「あ……あわわ……」
「薬の扱いには気をつけてくださいね。今井くん」
 
 コトン……と静かな音を立てて瓶が戻されて、不気味なちんちん共が隠された。
 次の瞬間、箱を抱えた竹っちが入ってくる。
 
「これで最後だぜ! ……あれ、どうしたんすか?」
「……いえ。以前、この棚にあった薬が紛失しましてね。今井くんにも、その話をしていたところですよ」
「ええっ、マジっすか。危ない事する奴もいるんすねえ」
 
 榊原と竹っちが、談笑し始める。
 竹っちがおれにも話振ってくれたけど。おれは、「あうあう」しか言うた覚えがない。
 なにせ、ぶっ倒れそうなんを堪えるのに精いっぱいやったんで。
 
 
 
 
 
「失礼しましたー」
「お疲れさまです」
 
 ようやく片づけを終えて、化学室を辞することになった。千年老け込んだ気持ちでふらふら歩いとるおれを、竹っちが心配そうに見た。
 
「大丈夫かよ、今井ー」
「あうあう」
「マジ大丈夫?」
 
 竹っちに支えられながら、化学室を出ると――
 
「シゲル」
 
 扉の正面に、晴海が心配そうに立っとった。理科棟の薄暗い廊下に、輝いて見える。
 晴海や。――うぐ、と喉が引きつった。
 
「はるみぃ~!」
「シゲル!」
 
 駆け寄って、ひしっと抱きついた。ぎゅっと安全ロープみたいに固く、晴海の腕が背中に回る。あったかくて、じわっと涙がにじむ。
 
「わーん、晴海~!」
「よしよし、よう頑張った!」
 
 おけつのこととか、色々。形容しがたい不安が、どっと噴き出してわんわん泣いてまう。
 どうしよう。なんかえらいもん見てしもた。受け答えも上手い事出来ひんかった――晴海は、しがみ付くおれの頭を撫でて、辛抱強くあやしてくれた。
 
「竹っち、すまん。ついててくれて、ありがとうな」
「いーや。ダンナが来てくれてホッとしたぜ」
「お守りごくろー、竹っち」
 
 明るく言う竹っちを、上杉らの声が囃す。みんな来てくれてたみたいや。
 おれもようやっと落ち着いて、小さく鼻を啜る。晴海は背中を叩いてくれながら、こっそりと「後で何あったか教えてな」と囁いた。おれは、もちろん何度も頷く。
 
「今井も落ち着いたし、教室戻んべー」
「うん。ありがとうな、みんな……!」
 
 おれは、手を合わせてぺこりと頭を下げる。みんな笑いながら、ぺしぺしと頭を軽く叩いてった。「チャラ」って合図やねん。
 友達でぞろぞろと連れ立って、理科棟を後にする。
 すると、竹っちがゆっくりなのに気づいた。ソワソワと、後ろを振り返ってばっかいるみたい。
 
「どしたん、竹っち?」
「あ、おう」
 
 竹っちは、ハッと振り返った。晴海が不思議そうに尋ねる。
 
「忘れもんか?」
「いや、なんもない!」
 
 目元を赤らめて、竹っちは前を歩く上杉らと合流した。
 おれと晴海は、顔を見合わせる。どうしたんやろ……?


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