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第一章 おけつの危機を回避したい
二十三話
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さっきの間に、何があったんや。
あんな怒ってた大橋が、愛野くんらと笑い合いながら話し合っとる。
「竹っちー、いったい何があったん?」
「わからん。俺らもメシ食って帰ってきたら、こうなってたんだよ」
あんまり状況がわからんので、おれらは桃園に話を聞くことにしてん。空き教室に来てくれた桃園は、涙を拭いながら経緯を話してくれた。
「愛野くんがね、美術室に謝りに来てくれたんだ。それで、僕たちの絵を見て、「本当に凄いな」って泣いてくれて……」
愛野くんは、トリックアートを見てすげぇ感動してたそうでな。「何にもわかってなかった。もっと、お前たちのことを教えてほしい!」って言うたんやって。そんで、桃園は美術室に置いてある、自分らの絵を見せてあげたらしいねん。
「そうしたら、凄いんだ。愛野くん、僕たちの油絵やスケッチを見て、「トリックアートの原案は大橋、主にパースは山田、色塗りの方針は桃園だろ?」って、言い当てたんだよ。もう、びっくりしちゃって。――僕、大橋のこともう一度説得しようと思ったんだ」
「そ、そうなんや……」
えぇ~、マジすげぇ。そんなん描いてるとこ見てなかったら、全然わからんって。
愛野くん、美術が得意なんやろか……。
「大橋も、最初は意地はって「別の場所に展示する」って言ったんだけど。愛野くん、「お前の絵は凄いから、もっと人に見られなきゃダメだ」って、説得してくれたんだ」
「ははあ……」
「だから、僕らは納得してるよ。それに――僕、嬉しくて。大橋は凄いのに、あんまり人にわかってもらえないから……。僕は絵を描くからか、「すごい」って言っても、聞き流されちゃうし」
桃園は、頬を染めて微笑んだ。一切のわだかまりもなさそうで、しんから納得してるって分かる。
「あっと、そうだ。山田はどう?」
上杉が、思い出したようにたずねる。
「山田は、「お前らがいいなら、俺はいいよ!」って」
「そっか」
元気にサムズアップしとる笑顔が、目に浮かぶで。
おれらは、なんとなく顔を見合わせた。
「え、えーっと……そっかあ。良かったな」
丸くおさまって、良かったはずなんやけど。若干、置き去りにされた気持ちになんのは、なんでやろ……? いや、揉めてたかったわけやないんよ!?
おれらの戸惑いを感じ取ってか、桃園が深く頭を下げた。
「あの、皆にも心配かけたけど。ごめんね、もう大丈夫だから」
「あ、いやいや!」
「やめてくれ、桃園っ」
「俺らだってさ。お前達がいいなら、全然いいんだよ!?」
おれらは、慌てた。桃園を囲むように背を屈めて、口々に「顔をあげてくれ」って頼む。
「ほんま、上手くいって嬉しいねんで。顔上げて――」
「何してんだよ!」
突然、黄色い怒鳴り声が響いた。
全員が、ハッとして入り口を見る。
そこには、仁王立ちしてる愛野くんと、険しい顔の藤崎と、大橋がおった。
三人は、ズカズカと歩み寄ってくると、おれらをドン! と突き飛ばした。
「わあ!?」
おれらは、たたらを踏んでよろけた。愛野くんは、キッと睨みつけてくる。
「お前ら、弘樹に寄ってたかって……卑怯だぞっ!」
「ええっ?」
な、何言うてんの、急に……? あっけに取られとったら、桃園(ちなみに、弘樹は桃園の名前やで)を腕に抱えて、大橋が鋭い口調で言い放った。
「桃園に何言ってたんだ? 気に入らねぇことがあるなら、直で俺に言えよ」
なぜか喧嘩ごしの大橋に、おれらは目をむいた。
「はっ? ちょお待てや。俺ら、気に入らんことなんて――」
「じゃあ、どうして桃園はお前達に頭を下げてたんだ!」
晴海を遮って、大橋が怒鳴る。桃園は「大橋……」と焦ったように声を上げた。
「違うよ。皆、僕たちを心配してくれてたろ。急に意見を変えたら、びっくりするのは当然で……」
「だからって、なんでお前が謝る。第一、こいつら――本当に俺らを心配してたのか?」
「え?」
桃園と、おれらの声がだぶった。
大橋、急に何を言い出すんや。狼狽えるおれらの前に、決然とした表情の藤崎が歩み出てくる。
「お前達は、天使が気に入らないんだろう? だから、アート班の不満を煽って、クラスの結束に罅を入れようとした。違うか?」
「はぁぁ?!」
違うよ!
――って思ってんけど、皆あまりにも愕然として、咄嗟に言葉が出んかった。
桃園が、不安そうに瞳を揺らす。
「待って……そんな筈ないよ。皆、凄く心配してくれて」
「そ、そうや。俺らは純粋に、クラス行事を頑張りたいだけや!」
一足先に立ち直った晴海が、申し開きをする。おれらも我にかえって、「そうだ」と続いた。しかし、
「だったら、何で弘樹を責めるんだよ! 本当にこいつらの絵のこと大事に思ってるなら、そんなことしないだろ……?! 今井、俺……お前のこと見直しかけたのにっ! やっぱり、良太の言う通りだったんだな!」
「何で、そ~なんの?! そりゃ、ちょっと展開早いなとは思ったけど……上手くいって良かったと思ってるよ!」
必死に否定すると、大橋がウンザリした顔になった。
「今井、いい加減にしろよ。天使は、俺等の本気をわかってくれたぞ。お前の私怨に、俺等の気持ちを利用されるとこだったなんて、ゾッとする」
「……そんな……」
なんでこんな信用ないの……? おれら皆、ホンマに心配してたのに、あんまりや。
悲しくて、じわっと涙が滲む。桃園を見たら、申し訳なさそうに、目を逸らされた。
「シゲル……」
「う……」
気づかわしげに、晴海が肩を抱いてくれた。嗚咽が漏れそうになったとき――
「いい加減にしろよっ!!」
凄まじい怒鳴り声が、教室に響いた。
竹っちやった。真っ赤な憤怒の表情で、肩を怒らせている。
「さっきから、勝手なことばっか言いやがって! そもそもなぁ、アート班! お前らだけの作品じゃないんだっつの! 俺らだって、どんだけ、休み潰して描いたと思ってんだ!」
「なっ……!」
竹っちの啖呵に、大橋が顔を歪める。上杉と鈴木も「そうだ! 私物化すんな!」と拳を振り上げた。
すると、愛野くんが言い返す。
「何言ってんだよ! お前ら、仲間なのに弘樹や一登の絵への情熱がわかんねーのかっ?! だから、こいつらが孤独を抱えちまうんじゃねーか!」
「天使……!」
大橋(わかると思うけど、一登)が、声を震わせる。
そのとき、おれは――竹っちの米神が、ぶちって音を立てたんを聞いた。
「ざっけんな……お前こそ、何がわかるってんだ! 会計とセックスしてただけのくせに!」
静まり返った教室に、「くせに……」「せに……」と渾身の怒鳴り声がハウリングする。
「……っ!」
愛野くんは、顔を真っ赤にして涙ぐんだ。
「あかん……!」と我に帰ったんは、ブチ切れた藤崎が飛びかかってきたからや。
「竹中、貴様ぁ!」
「んだよ! 事実だろ?!」
「あかん、竹っち! 落ち着け!」
煽り返す竹っちの間に、慌てて割って入る。
「今井!」
「竹っち!」
「良太っ!」
藤崎は、でかい拳を振り上げた。――殴られる……! 咄嗟にきつく目を閉じた。
直後、おれは強く胸を押された。
――ガツン!
鈍い音がした。
恐る恐る、目を開くと……
「――晴海!?」
「……っ」
晴海の背中が、眼の前にあった。
ポタリ、と真っ赤な血が床に落ちて、おれは叫んだ。
「晴海っ……!」
あんな怒ってた大橋が、愛野くんらと笑い合いながら話し合っとる。
「竹っちー、いったい何があったん?」
「わからん。俺らもメシ食って帰ってきたら、こうなってたんだよ」
あんまり状況がわからんので、おれらは桃園に話を聞くことにしてん。空き教室に来てくれた桃園は、涙を拭いながら経緯を話してくれた。
「愛野くんがね、美術室に謝りに来てくれたんだ。それで、僕たちの絵を見て、「本当に凄いな」って泣いてくれて……」
愛野くんは、トリックアートを見てすげぇ感動してたそうでな。「何にもわかってなかった。もっと、お前たちのことを教えてほしい!」って言うたんやって。そんで、桃園は美術室に置いてある、自分らの絵を見せてあげたらしいねん。
「そうしたら、凄いんだ。愛野くん、僕たちの油絵やスケッチを見て、「トリックアートの原案は大橋、主にパースは山田、色塗りの方針は桃園だろ?」って、言い当てたんだよ。もう、びっくりしちゃって。――僕、大橋のこともう一度説得しようと思ったんだ」
「そ、そうなんや……」
えぇ~、マジすげぇ。そんなん描いてるとこ見てなかったら、全然わからんって。
愛野くん、美術が得意なんやろか……。
「大橋も、最初は意地はって「別の場所に展示する」って言ったんだけど。愛野くん、「お前の絵は凄いから、もっと人に見られなきゃダメだ」って、説得してくれたんだ」
「ははあ……」
「だから、僕らは納得してるよ。それに――僕、嬉しくて。大橋は凄いのに、あんまり人にわかってもらえないから……。僕は絵を描くからか、「すごい」って言っても、聞き流されちゃうし」
桃園は、頬を染めて微笑んだ。一切のわだかまりもなさそうで、しんから納得してるって分かる。
「あっと、そうだ。山田はどう?」
上杉が、思い出したようにたずねる。
「山田は、「お前らがいいなら、俺はいいよ!」って」
「そっか」
元気にサムズアップしとる笑顔が、目に浮かぶで。
おれらは、なんとなく顔を見合わせた。
「え、えーっと……そっかあ。良かったな」
丸くおさまって、良かったはずなんやけど。若干、置き去りにされた気持ちになんのは、なんでやろ……? いや、揉めてたかったわけやないんよ!?
おれらの戸惑いを感じ取ってか、桃園が深く頭を下げた。
「あの、皆にも心配かけたけど。ごめんね、もう大丈夫だから」
「あ、いやいや!」
「やめてくれ、桃園っ」
「俺らだってさ。お前達がいいなら、全然いいんだよ!?」
おれらは、慌てた。桃園を囲むように背を屈めて、口々に「顔をあげてくれ」って頼む。
「ほんま、上手くいって嬉しいねんで。顔上げて――」
「何してんだよ!」
突然、黄色い怒鳴り声が響いた。
全員が、ハッとして入り口を見る。
そこには、仁王立ちしてる愛野くんと、険しい顔の藤崎と、大橋がおった。
三人は、ズカズカと歩み寄ってくると、おれらをドン! と突き飛ばした。
「わあ!?」
おれらは、たたらを踏んでよろけた。愛野くんは、キッと睨みつけてくる。
「お前ら、弘樹に寄ってたかって……卑怯だぞっ!」
「ええっ?」
な、何言うてんの、急に……? あっけに取られとったら、桃園(ちなみに、弘樹は桃園の名前やで)を腕に抱えて、大橋が鋭い口調で言い放った。
「桃園に何言ってたんだ? 気に入らねぇことがあるなら、直で俺に言えよ」
なぜか喧嘩ごしの大橋に、おれらは目をむいた。
「はっ? ちょお待てや。俺ら、気に入らんことなんて――」
「じゃあ、どうして桃園はお前達に頭を下げてたんだ!」
晴海を遮って、大橋が怒鳴る。桃園は「大橋……」と焦ったように声を上げた。
「違うよ。皆、僕たちを心配してくれてたろ。急に意見を変えたら、びっくりするのは当然で……」
「だからって、なんでお前が謝る。第一、こいつら――本当に俺らを心配してたのか?」
「え?」
桃園と、おれらの声がだぶった。
大橋、急に何を言い出すんや。狼狽えるおれらの前に、決然とした表情の藤崎が歩み出てくる。
「お前達は、天使が気に入らないんだろう? だから、アート班の不満を煽って、クラスの結束に罅を入れようとした。違うか?」
「はぁぁ?!」
違うよ!
――って思ってんけど、皆あまりにも愕然として、咄嗟に言葉が出んかった。
桃園が、不安そうに瞳を揺らす。
「待って……そんな筈ないよ。皆、凄く心配してくれて」
「そ、そうや。俺らは純粋に、クラス行事を頑張りたいだけや!」
一足先に立ち直った晴海が、申し開きをする。おれらも我にかえって、「そうだ」と続いた。しかし、
「だったら、何で弘樹を責めるんだよ! 本当にこいつらの絵のこと大事に思ってるなら、そんなことしないだろ……?! 今井、俺……お前のこと見直しかけたのにっ! やっぱり、良太の言う通りだったんだな!」
「何で、そ~なんの?! そりゃ、ちょっと展開早いなとは思ったけど……上手くいって良かったと思ってるよ!」
必死に否定すると、大橋がウンザリした顔になった。
「今井、いい加減にしろよ。天使は、俺等の本気をわかってくれたぞ。お前の私怨に、俺等の気持ちを利用されるとこだったなんて、ゾッとする」
「……そんな……」
なんでこんな信用ないの……? おれら皆、ホンマに心配してたのに、あんまりや。
悲しくて、じわっと涙が滲む。桃園を見たら、申し訳なさそうに、目を逸らされた。
「シゲル……」
「う……」
気づかわしげに、晴海が肩を抱いてくれた。嗚咽が漏れそうになったとき――
「いい加減にしろよっ!!」
凄まじい怒鳴り声が、教室に響いた。
竹っちやった。真っ赤な憤怒の表情で、肩を怒らせている。
「さっきから、勝手なことばっか言いやがって! そもそもなぁ、アート班! お前らだけの作品じゃないんだっつの! 俺らだって、どんだけ、休み潰して描いたと思ってんだ!」
「なっ……!」
竹っちの啖呵に、大橋が顔を歪める。上杉と鈴木も「そうだ! 私物化すんな!」と拳を振り上げた。
すると、愛野くんが言い返す。
「何言ってんだよ! お前ら、仲間なのに弘樹や一登の絵への情熱がわかんねーのかっ?! だから、こいつらが孤独を抱えちまうんじゃねーか!」
「天使……!」
大橋(わかると思うけど、一登)が、声を震わせる。
そのとき、おれは――竹っちの米神が、ぶちって音を立てたんを聞いた。
「ざっけんな……お前こそ、何がわかるってんだ! 会計とセックスしてただけのくせに!」
静まり返った教室に、「くせに……」「せに……」と渾身の怒鳴り声がハウリングする。
「……っ!」
愛野くんは、顔を真っ赤にして涙ぐんだ。
「あかん……!」と我に帰ったんは、ブチ切れた藤崎が飛びかかってきたからや。
「竹中、貴様ぁ!」
「んだよ! 事実だろ?!」
「あかん、竹っち! 落ち着け!」
煽り返す竹っちの間に、慌てて割って入る。
「今井!」
「竹っち!」
「良太っ!」
藤崎は、でかい拳を振り上げた。――殴られる……! 咄嗟にきつく目を閉じた。
直後、おれは強く胸を押された。
――ガツン!
鈍い音がした。
恐る恐る、目を開くと……
「――晴海!?」
「……っ」
晴海の背中が、眼の前にあった。
ポタリ、と真っ赤な血が床に落ちて、おれは叫んだ。
「晴海っ……!」
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