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第一章 おけつの危機を回避したい

二十二話

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「び、びっくりしたー! なあ、晴海? まさか、愛野くんと会計が」
「ああ。さすが18禁ゲーム、展開が早い……!」
 
 晴海は、腕組みしてうんうん頷いとる。
 おれはドキドキしながら、鞄からお弁当を取り出した。ひとのエッチしてるとこ見たん、初めてや。なんか、音とか匂いとか、生生しいんやなあ。
 どっちも知ってる人やからか、興奮はせんけど――顔合わすとき、ちょっと気まずいわ。
 ってぼやいたら、
 
「わかるわ。にしても、鍵もかけんとヤるとは、ロックな奴らやで」
「せやなあ。おれら、ちゃんと鍵かけとるもんな?」
「えっ?」
 
 おれらも、「転生」とか「フラグ回避」とか喋っとんの、人に聞かれたらなんやと思われるもんな。
 会計と愛野くんかて、まさか見られると思って無かったと思うし――いくら人の来ん場所やっても、用心せな。
 そう肝に銘じて、笑顔で晴海を振り返る。
  
「晴海、今日のお弁当なぁ……どしたん?」
 
 晴海、めっちゃスクワットしてるんやけど。なんか「フンフン」言うてるし、鬼気迫る感じで怖い。
 
「気にすんな、ただの修行や」
「えーっ? なんでごはん前に」
 
 ビシ、て突っ込んだら「今、触るでねぇ!」て怒られた。何やねん!
 今日、唐揚げ上手にできたから、早よ食べて欲しいのにっ。
 


 
 
「シゲルー」
「ふん」

 晴海が、猫なで声で呼んでくる。おれは、ふいっと顔を背けて、廊下を足早に歩いた。
 晴海のアホ。スクワットしてるから、ご飯ゆっくり食べる時間なかったやんけ。

「……」

 今日がいちばん、美味しくできたと思うのに。むっと眉をよせると、目が熱くなった。

「シゲル、ごめんっ」
「!」

 後ろから抱き寄せられて、目を見開く。
 いつもみたいにギューされるんやなくて、布団で包まれるみたいにされて……頬がかーっとあつくなった。

「な、なんやねん。恥ずかしいやろっ」

 じたばたしたら、ほっぺに晴海のほっぺがひっついた。

「ぴゃっ」
「シゲルの唐揚げ、めっちゃうまかった。慌てて食うて、アホやった」
「……! や、やから、早よ食べよって言うたやん」
「申し訳ない」

 ほんまに残念そうに言われて、胸がむずむずする。
 唐揚げ、美味いって言うてくれた……!
 笑いそうになるんを堪えて、ぶっきらぼうに言う。

「じゃあ。また作るから、食べてな?」
「おう!」

 振り返った先に、めっちゃ嬉しそうな笑顔があって。
 おれも、ついにへらへらしてしもた。

「――仲いいね?」
「わあ!?」

 笑い合うおれらの間に、静かな声が割って入る。
 がばぁ、と声の方を向けば、優姫くんが立っとった。
 慌てて、晴海と離れる。

「優姫くん、見てたん?」
「いや、廊下でイチャついてたの、君たちだから」

 優姫くんは苦笑しながら、髪の毛耳にかけとる。そんな仕草も可愛らしい。

「君たち、こっちの棟に何か用?」
「俺ら、部活なんです。レトロゲーム部で」
「そんな部活、あったの……それなら、また来るかもしれないし、言っておくけど」

 優姫くんは、きりっと顔つきを改めた。

「こっちの棟、レン様……劔谷くんの根城にしてる、空き教室があるから。間違って入らないようにね。怒られちゃうよ」
「あ、ありがとうございます」

 危なっ。
 今日、まさに間一髪やってんな。恐々としつつ、お礼を言う。
 すると、優姫くんはニッコリ笑った。

「いいよ。君たちのお陰で、僕もだけど――仲間たちも冷静になれたから。せいぜい、仲良くやってよね」

 ほんで、「バイバイ」言うて、去っていった。手を振りながら、晴海を振り返る。

「優姫くん、元気そうやったね」
「せやな。……そういや、会計の親衛隊、あの人が纏めたんやってよ。鈴木が言うてたで」
「そうなん?!」

 そう言えば、親衛隊が急に解散になったのに。「暴れた」とか、そういうのあんまり聞いてへん。優姫くんのおかげやってんな。

「ゲーム的にも、ええ方向に進んどるんちゃうか? お姉さんは確か――親衛隊が暴れて、愛野に絡むって言うてたやろ。あの感じやと、ないかもしれんぞ」
「そっか……またゲームの物語が、歪んだってことやね!」

 晴海と拳をぶつける。
 バカップル作戦、どんどん上手いこといってるやん。やったで、晴海ー!
 おれらは、嬉しい気分で教室に戻った。笑顔のまま、戸を開けて――


「わかった、俺は愛野を信じる。俺の絵を、喫茶店に役立ててくれ」
「大橋……! ありがとうっ」

 片目から涙を零した大橋と、目を真っ赤にした愛野くんが、固い握手を交わしとった。
 教室の隅で桃園が泣いてて、山田が肩を抱いとる。
 
――えっ、どゆこと?

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