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第一章 おけつの危機を回避したい
十一話
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寮の部屋に、情けない泣き声が響き渡る。
「シゲルー、ちょっとは落ち着いたか?」
「うええぅ」
晴海にしがみついたまま、ぶんぶん首を振る。シャツの背中に涙が染みて、ほっぺが冷たい。
たった一日で、三回もイベントがあるなんて思わへん……! 教室戻って晴海の背中見たら、涙が止まらんくなってしもたんや。
『あんたね、いい加減にしなさい! 晴海くんも困ってるでしょうがっ』
電話口の姉やんに叱られて、うぐっと唸る。おれかて理性ではわかってるけど、怖いんやもん!
「シゲル、前に来ぃ? 背中さすったるから」
「!」
おれは、いそいそと晴海の正面に移動した。ぎゅっと抱きついたら、背中をトントンしてくれる。
「よしよし。側におれんくて、悪かった」
「晴海ぃ~」
優しい。鼻をぐしゅぐしゅ言わしとったら、姉やんが深いため息を吐いた。
『ごめんね、晴海くん……』
「いや、俺はええんです。それより……シゲルが遭遇したんは、会計ルートのイベントなんですか?」
『間違いないわね。このイベントを切欠に、会計は本気で愛野くんにアプローチをかけ始めるの。これから、怒涛のように恋愛イベントが始まるわ』
「ひいい」
絶望的なお知らせに、血の気が引いていく。
嫌や! これ以上に増えるって、そんなんどうやって過ごしたら、イベントを避けれるん? 愛野くんなんか、おんなじクラスやから、どうしても一日一回は顔合わすのに。
【イベント発動→会計ルートが進む→おれのおけつ破壊】
って、スムーズにことが進んでしまうやん。ガクガク震えとったら、晴海がガシッと肩を抱いた。
「落ち着け、シゲル! 絶対、大丈夫やから!」
『晴海くんの言う通りよ。イベントが発生しちゃったとしても、諦めちゃダメ! だって今日、ふたりから話を聞いて思ったの。「ゲームとちょっと違う」って』
「ど、どういうこと?」
せき込んで尋ねると、姉やんは話し始めた。
『まず、化学教師のイベント。晴海くんが側にいたから、「悪事」に勧誘されなかったでしょ? 次に、親衛隊のイベント。ゲームでは「シゲル」一人でその場に居合わせて、愛野くんの恨みを買い、会計にまで誤解されて殴られるの。竹っち君が、あんたを引っ張ってきてくれたから、そうならなかったけど』
「そうやったんや……!」
ありがとう、竹っち。心の中で拝んどったら、晴海がハッとした顔になる。
「シゲル! 竹っちに俺らのことで、なんか聞かれへんかったか?」
「ええっ?! な、なんでそう思うん?」
鋭い指摘に、ギクッとする。晴海は、真剣な顔で言うた。
「竹っちのことやから、俺のおらんとこでお前にいろいろ聞くと思て……ボロが出たらあかんから、二人にさせんようにしててん。それであいつ、お前の班のやつと掃除代わったんやな!」
「あっ!」
そういえば、竹っちおれの班と違うやん! わざわざ掃除まで代わって、おれと恋バナしにきたんやったんか。竹っち、なにげ好奇心旺盛やなあ。
感心しとったら、電話口で姉やんが「ほらね!」と叫んだ。
『やっぱり、そうだと思った。これは、つまり――お付き合い作戦が、成功してるのよ!』
「えっ!?」
おれと晴海は、顔を見合わせた。
『確かに、イベントは順調に発生してってるわ。でも、ゲームと全く同じ展開じゃない。理由は恐らく、「シゲル」に本来は存在しないキャラ付けがあるせいよ。あんたと晴海くんが「恋人」を公言し、そのように振舞うことで……ゲームのキャラクター達に少なからず影響を与えているんだわ! だから、化学教師はシゲルに「悪事」を持ち掛けそこない、竹っち君はイベントに居合わせた』
「お姉さん、それって――」
晴海の真っ黒い目に、力が漲る。
『そう! ゲームの物語に”狂い”が起こり始めてる証拠よ! このまま、もっともっと物語を歪ませていけば――たとえ全部のイベントを発生させて、愛野くんが会計とくっついても、シゲルのケツ穴は助かるかもしれないっ!』
「姉やん、ほんまっ!?」
「ええっ!」と力強く頷かれ、ぱあっと目の前が明るくなった気がした。嬉しくなって、思いっきり晴海に抱き着く。
「晴海~!」
「シゲル~!」
背中を叩き合っていると、姉やんが咳払いをした。
『そういうことだから――二人には、もっともっとゲーム内で暴れてほしいの。端的に言うと、もっと恋人っぽく幸せそうに振舞って』
「なるほど……こいびとらしく。それで、助かるんやね?」
『できる限り、バカップルっぽくよろしくね! 悪事なんてなーんも考えてなさそうで、不幸になりそうもないような感じで。二人とも、出来る?』
「出来ます」
「即答!」
なんて頼もしいやつなんや。
この決意に応えるためにも、諦めへんで。
ほんで……おれも頑張って、もっとええ彼女になる!
「晴海、明日もよろしくなっ」
「おう。頑張ろうな」
「うん!」
「シゲルー、ちょっとは落ち着いたか?」
「うええぅ」
晴海にしがみついたまま、ぶんぶん首を振る。シャツの背中に涙が染みて、ほっぺが冷たい。
たった一日で、三回もイベントがあるなんて思わへん……! 教室戻って晴海の背中見たら、涙が止まらんくなってしもたんや。
『あんたね、いい加減にしなさい! 晴海くんも困ってるでしょうがっ』
電話口の姉やんに叱られて、うぐっと唸る。おれかて理性ではわかってるけど、怖いんやもん!
「シゲル、前に来ぃ? 背中さすったるから」
「!」
おれは、いそいそと晴海の正面に移動した。ぎゅっと抱きついたら、背中をトントンしてくれる。
「よしよし。側におれんくて、悪かった」
「晴海ぃ~」
優しい。鼻をぐしゅぐしゅ言わしとったら、姉やんが深いため息を吐いた。
『ごめんね、晴海くん……』
「いや、俺はええんです。それより……シゲルが遭遇したんは、会計ルートのイベントなんですか?」
『間違いないわね。このイベントを切欠に、会計は本気で愛野くんにアプローチをかけ始めるの。これから、怒涛のように恋愛イベントが始まるわ』
「ひいい」
絶望的なお知らせに、血の気が引いていく。
嫌や! これ以上に増えるって、そんなんどうやって過ごしたら、イベントを避けれるん? 愛野くんなんか、おんなじクラスやから、どうしても一日一回は顔合わすのに。
【イベント発動→会計ルートが進む→おれのおけつ破壊】
って、スムーズにことが進んでしまうやん。ガクガク震えとったら、晴海がガシッと肩を抱いた。
「落ち着け、シゲル! 絶対、大丈夫やから!」
『晴海くんの言う通りよ。イベントが発生しちゃったとしても、諦めちゃダメ! だって今日、ふたりから話を聞いて思ったの。「ゲームとちょっと違う」って』
「ど、どういうこと?」
せき込んで尋ねると、姉やんは話し始めた。
『まず、化学教師のイベント。晴海くんが側にいたから、「悪事」に勧誘されなかったでしょ? 次に、親衛隊のイベント。ゲームでは「シゲル」一人でその場に居合わせて、愛野くんの恨みを買い、会計にまで誤解されて殴られるの。竹っち君が、あんたを引っ張ってきてくれたから、そうならなかったけど』
「そうやったんや……!」
ありがとう、竹っち。心の中で拝んどったら、晴海がハッとした顔になる。
「シゲル! 竹っちに俺らのことで、なんか聞かれへんかったか?」
「ええっ?! な、なんでそう思うん?」
鋭い指摘に、ギクッとする。晴海は、真剣な顔で言うた。
「竹っちのことやから、俺のおらんとこでお前にいろいろ聞くと思て……ボロが出たらあかんから、二人にさせんようにしててん。それであいつ、お前の班のやつと掃除代わったんやな!」
「あっ!」
そういえば、竹っちおれの班と違うやん! わざわざ掃除まで代わって、おれと恋バナしにきたんやったんか。竹っち、なにげ好奇心旺盛やなあ。
感心しとったら、電話口で姉やんが「ほらね!」と叫んだ。
『やっぱり、そうだと思った。これは、つまり――お付き合い作戦が、成功してるのよ!』
「えっ!?」
おれと晴海は、顔を見合わせた。
『確かに、イベントは順調に発生してってるわ。でも、ゲームと全く同じ展開じゃない。理由は恐らく、「シゲル」に本来は存在しないキャラ付けがあるせいよ。あんたと晴海くんが「恋人」を公言し、そのように振舞うことで……ゲームのキャラクター達に少なからず影響を与えているんだわ! だから、化学教師はシゲルに「悪事」を持ち掛けそこない、竹っち君はイベントに居合わせた』
「お姉さん、それって――」
晴海の真っ黒い目に、力が漲る。
『そう! ゲームの物語に”狂い”が起こり始めてる証拠よ! このまま、もっともっと物語を歪ませていけば――たとえ全部のイベントを発生させて、愛野くんが会計とくっついても、シゲルのケツ穴は助かるかもしれないっ!』
「姉やん、ほんまっ!?」
「ええっ!」と力強く頷かれ、ぱあっと目の前が明るくなった気がした。嬉しくなって、思いっきり晴海に抱き着く。
「晴海~!」
「シゲル~!」
背中を叩き合っていると、姉やんが咳払いをした。
『そういうことだから――二人には、もっともっとゲーム内で暴れてほしいの。端的に言うと、もっと恋人っぽく幸せそうに振舞って』
「なるほど……こいびとらしく。それで、助かるんやね?」
『できる限り、バカップルっぽくよろしくね! 悪事なんてなーんも考えてなさそうで、不幸になりそうもないような感じで。二人とも、出来る?』
「出来ます」
「即答!」
なんて頼もしいやつなんや。
この決意に応えるためにも、諦めへんで。
ほんで……おれも頑張って、もっとええ彼女になる!
「晴海、明日もよろしくなっ」
「おう。頑張ろうな」
「うん!」
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