俺は魔法使いの息子らしい。

高穂もか

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第二部 プロムナード編

第七話

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 うお、と思わず声が漏れた。
 会長は仕立てのいいスーツを身にまとっていて、ありえねえくらい決まってた。思わず、惚れ惚れする男ぶりと言うやつだぜ。

「見すぎなんですけどー」
「ぶっ」

 ポカンと口を開けてると、でっけえ手に頬をつかまれて振り向かされた。拗ねたイケメンが間近にあって、頬が熱くなる。

「うお、近いって!」
「……!」

 目を丸くしたイノリが、ご機嫌そうに肩に懐き出す。な、何なんだ、気分屋さんか?
 慌てて前を向くと、須々木先輩と会長がしゃべってた。
 
「何やねん、八千草。もうスーツ着とんのけ?」
「はは。久々に、皆と会えると思ったら楽しみでね。もう昨夜は、寝らんなかったですよ」
「ぶはっ、あほやなあ。遠足前の子どもかい!」
 
 拳をぶつけ合う二人を眺めていると、ふいに会長がくるりとこっちを向く。
 
「よう! 吉村時生、だったよな?」
「えっ、うす!」
 
 億万ボルトの輝く笑顔を向けられ、反射的に頭を下げる。
 びっくりした。いきなり呼ばれるとは思ってねえから、声が裏返っちまったぜ。会長は、にこにこと人懐っこい笑みを浮かべ、近づいてくる。
 
「桜沢を連れてきてくれたんだろ? サンキュな」
「えっ、いやいや! 俺はなんにも」
「ははは、謙遜すんなよ。なぁ? ちっちゃい頭しやがって」
 
 ぶんぶん首を振ると、笑いながら頭をぽんぽん叩かれる。俺の頭になんの関係もねえが、かっけえ……少女漫画のヒーローしか許されねえぞ、こんなん。
 ぼえっと呆けていると、ぎゅっとイノリに抱き寄せられる。
 
「やめてくださいよぉ。トキちゃんの脳細胞が死んじゃうでしょー」
「くくっ、悪い。お前の可愛い幼馴染だったな」
 
 会長はにっと笑って、芝居がかった仕草で身を遠ざけた。イノリは毛の逆立った猫のように唸って、ぎゅっと俺を抱きしめる。
 
「お、おいイノリっ」
 
 せ、先輩相手にまずくね?
 おろおろしてると、須々木先輩が、肩を揺らしながら言う。
 
「八千草、おもろいのはわかるけど、その辺にしとき。あと、ぼくら、吉村くんと昼飯食ってくるから」
「ん? 今からですか」
「お礼も兼ねてな。この子ら、まだお昼食べてへんねん」
 
 須々木先輩が「なー」って笑顔で振り返る。俺も、へらっと笑い返す。
 すると、会長が困り顔で、小首を傾げた。
 
「先輩の男気に水を差すのは、すっげぇ心苦しいんですけど。一回、生徒会室に顔を出してやってくれませんか? 海棠がずっとピリピリしちまってるんで」
 
 会長が言う事には――着替えとかも考えると、時間がギリギリらしい。
 
「行ってください、先輩。イノリも!」 
「ええっ? でもやな……」
「俺、トキちゃんとごはん食べたーい」
「あ、いやいや! 俺のことなら、マジで気にせずに!」
 
 迷う様子の二人を、俺は慌てて説得する。大事なパーティに遅刻させちゃ、申し訳が立たん。
 すると、思わぬとこから明るい声が上がる。
 
「じゃあ、二人は行ってきてくださいよ。吉村とは、俺がメシを食ってくるので」
 
 八千草会長が、これ以上ねえだろうって笑顔でそう言って――俺の手を引っ張り、歩み出す。
 
「うおっ、会長!?」
 
 ずんずんと進む会長に引っ張られ、俺は驚愕の声を上げた。
 
「さ、行くぜ吉村。――じゃあ、先輩。桜沢のこと、頼みますね!」
「あ……おう? わ、わかったわ――吉村くん、またな! 行くぞ、桜沢!」
「ちょ……トキちゃん、トキちゃーん!」
 
 須々木先輩に、ずるずる引っ張られてくイノリ。俺は、焦って会長を見上げた。
 
「ちょっ、八千草先輩!? イノリが……!」
「大丈夫だって、須々木先輩は強えから。桜沢が暴れても、追っかけちゃこねーさ」
「はい?」
 
 明後日な返答が返ってきて、俺は目が点になる。な、何だこの人、超マイペースじゃねえか。
 唖然とする俺に構わず、会長は愉快気な笑みを浮かべた。それから――甘い声で、囁く。
 
「さーて、吉村。何が食いたい?」
 
 
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