俺は魔法使いの息子らしい。

高穂もか

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第一部 決闘大会編

百八十九話

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「うおおお!」

 俺は、猛ダッシュで二人の後を追いかける。
 バンド奴は、魔法使って移動してる。瞬く間にびゅんびゅん進んでって、このままじゃ見失っちまうぞ。
 
「我が身に宿る風の元素よ。我が身をはやてのごとくせよっ」
 
 俺も、風の魔法を発動する。遥か前方、バンド奴が建物を曲がったのを認めた。――よし、あっちだ!
 
「とう!」
 
 タン! と地面を蹴りつけて、ロケットスタートを決める。ギューン、とすっ飛ぶ俺に向かって、道行く人々が「うおお?!」「あぶねーなバカ!」と声を上げた。
 
「すんません!」
 
 タンタンと地面を蹴って、俺は疾走した。校舎をいくつか通り過ぎて、突き当りまで来ると、人気がすっかりなくなっている。
 その分、声がよく聞こえてきた。
 
「――だから、あいつとは手を切れって言ってるだろ?」
「い、いやだ! いくら美門くんのいう事でも」
「盾太! いつから、そんな聞き分けなくなったんだ?」
 
 間違いない、森脇の声だ。
 なんか、すげえ言い合ってるみてえだし、マズいんじゃねえか。俺は、声のする方へ走った。
 
「!」
 
 ――いた!
 しかも、ピンチだ。
 バンド奴が、森脇の前髪を掴んで、壁に押し付けている。俺はカッとなって、二人の間に割り込んだ。
 
「やめろ!」
「……!?」
 
 バンド奴をドンッとつき飛ばして、森脇を背中に庇う。思いっきり押したのに、でっかい奴だからか、二三歩よろけただけだった。
 
「よ、よよ吉村くん?!」
「大丈夫か、森脇! やいお前、何してんだ!」
 
 俺は、バンド奴を睨みつけた。バンド奴は一瞬目を見開いて――すぐに怒りにゆがめる。
 森脇が、おろおろと俺の肩を掴んだ。俺は、もう何も心配いらないぜ、と笑いかけた。すると、ビリッ! と首に痛みが走る。
 
「あっづー!」
「吉村くん!」
 
 なんだこの、強めの静電気みたいな――俺はバンド奴を振り返り、さらにぎょっとする。
 バンド奴の片目が、ギラギラした緑色に変わってた。しかも――かっぴらいた瞳孔の周りを、銀色のモヤがグルグル回ってて。目の玉から、パチッパチッと紫電が走るように魔力が漏れていた。
 何よ、これ。人間発電機?
 って思わず、まじまじと見たのが良くなかった。グイ、と胸倉を掴まれて、持ち上げられる。つま先が地面から浮かんで、喉が締まった。
 
「うぎゅ!」
「お前だ。お前が近づいたせいで――」
「美門くん、やめて!」
 
 激高したバンド奴が、左手を高く振り上げたのが見えた。――ヤバい! 殴られる。森脇の悲痛な声が聞こえた。俺は、なんとか身を捩ろうとして、

 
 ――パンッ。
 
 高い、破裂音が響いた。
 
「わっ」
 
 俺は、地面に尻もちをつく。急に喉が楽になって、けほけほと咳き込んだ。そのくせ、どっこも痛くなくて、きょとんとする。なんだなんだ。無事だぞ、俺。
 
 ――ドンッ! バリバリ……
 
 そしたら、すごい破壊音が聞こえてきて、ぎょっとして顔を上げる。
 
「へえっ!?」
 
 俺は、あんぐりと口を開ける。って言うのも、目の前からバンド奴の姿が消えていた。
 かわりに――イノリが舞っていた。
 イノリはふわりと着地すると、頭を軽く振った。ぱさぱさと亜麻色の髪が揺れて、隙間から金色の瞳がのぞく。
 眠そうなイケメンがゆっくりと俺を振り返って、息を飲む。
 
「い、いの……」
「ああっ、美門くん!」
 
 森脇が、驚愕の声を上げて、走りだした。その行く手を目で追えば――二十メートル(たぶん、そんくらい)先のでっかい木が、土煙をあげて折れていた。その切断面から、両脚がスケキヨよろしく生えている。
 
「うおお?!」
 
 少年漫画の敵みてえに、やられとる!
 あわわ……とケツで後ずさると、ひょいっとデカい手が脇に差し込まれた。そのまま、ふわりと体を持ち上げられて、地面に足が立った。
 
「え。わっ」
「へーき?」
 
 ぺたぺたと頬や肩に、でかい手が確かめるみたいに触れる。イノリは眠そうな顔だったけど、薄茶の目には「心配」がいっぱい籠っていた。俺は、ガッツポーズをして見せる。
 
「おう。無傷!」
「そっかぁ」
 
 イノリは、ちょっぴり目元を和らげた。
 すると、ばたばたと足音がたくさんこっちに近づいてくる。
 
「何の騒ぎだ、桜沢!」
 
 駆けつけたのは、白井さんと風紀の人達だった。
 
「あ、白井さん。揉めてたんで、とめただけっすよー」
「うわっ。また、派手に……」
「とっさだったので、ついー。いちおう、医務室に連れてきますかー?」
 
 こてんと首を傾げるイノリに、白井さんは額を押さえて呻いた。
 
「当たり前だ! みんな、運ぶぞ」
「はい!」
 
 白井さんの号令で、風紀の人達がバンド奴に駆け寄った。森脇が助け起こしていたのか、バンド奴は地面に横たえられている。  
 てきぱきと担架に乗せられて、運ばれていくバンド奴。森脇は、その脇を心配そうな顔で歩いていた。
 
「美門くん、大丈夫……?」
「……あー。受け身取ったし……」
「そ、そっか……よかった」
 
 ……もしかして、あいつら仲良かったりする?
 ぜってえ絡まれてんだと思ったんだけど、ふつうに友達同士のケンカだったらどうしよう……。嫌な予感にだらだら汗をかいていると、森脇と目が合った。
 
「よ、よよ吉村くん! ごっごめん。大丈夫?」
「えっ、お、俺は平気だよ! 森脇こそ」
「ぼ、ぼ僕は大丈夫」
 
 びゅん、と駆け寄ってきた森脇は、俺の肩を掴んで涙ぐんだ。
 
「あの、森脇。もしかして、あいつ友だちだったりした? 俺、勘違いして……」
「えっ?! と、友だちじゃないよっ」
 
 森脇は、ぶんぶんと首を振る。その瞬間、担架の方から「ぐう」と呻き声が聞こえてきた。眠そうな目でそっちを見送っていたイノリが、くるんと森脇を振り返る。
 
「……なんか、よくわかんないけどー。あいつときみがどんな関係でも、暴力をふるおうとしたのはあいつが良くないからねー」
「あっ、う、うん。ありがとうございました」
 
 森脇が、ペコリと頭を下げた。俺も、イノリの言ったことにハッとなる。たしかに、友達でもなんでも殴って言うこと聞かそうとか、駄目だもんな。
 
「森脇、なんか困ってたら俺、ちからになるからなっ」
「よ、よ吉村くん、ありがとう」
 
 ぎゅっと手を握ると、森脇は不思議そうに首を傾げつつ、頷いてくれたんだ。
 
「あー……取り込み中悪いんだが。君達も、聴取に来てもらっていいだろうか」
 
 こほん、と咳ばらいを一つして。白井さんが、ばつが悪そうに切り出した。
 
 
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