俺は魔法使いの息子らしい。

高穂もか

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第一部 決闘大会編

百五十二話

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――深夜。
 カーテンを引いたベッドの中で、俺は息を殺していた。
 ブラックジャックを握りしめて、スタンバイは完璧。折り畳んだ布団の上に、輪にしたロープも設置してあるし。
 一人っきりの部屋はシンとしてて、心臓の音まで聞こえそうだ。
 あいつ、来るだろうか? 俺の勘違いなら、それでいい。
 でも、何かあるなら、ここらでいっちょ解決してやる。
 気合いを十分に入れ直して、すー、と息を吸う。
 緊張してるせいかな。今日は、ゼンゼン眠くならねえ。

「ふー……」

 深く、なるたけ静かに息を吐いた。
 そのとき、ドアの向こうに足音が聞こえた。すぐにカチャ、とドアノブが回る。

「……っ!」

 めちゃくちゃおもむろに、ドアが開いた。
 廊下の明かりが、部屋の中に入り込んでくる。カーテン越しに、大きな影が見えた。

 入ってきた!

 ドキドキ、肋の中で心臓が暴れ出した。力んだ手の中で、靴下がシットリと潰れている。
 足が震えて、よろける。――ベッドについた手が、なにか柔らかい物にさわった。

「ぁっ」

 イノリのカーディガン……。
 何かあっちゃ悪いから、枕に被せておいたんだっけ。ぎゅ、とカーデを握る。

「イノリ……」

 負けるもんか!
 きっとカーテンを睨む。
 その向こうには、こっちを窺うような気配がある。襲ってくる気かもしれない。
 俺は、待った。
 そして――ついに、カーテンに手の影が映った!

「――わあああ!」

 マットを踏みしめ、飛び出した。

「……っ!」
「おりゃあ!」

 勢いのまま、目の前の体に全力でタックルする。
 ドウ、と犯人諸共、床に倒れ込んだ。
 今だ、すかさずマウント!――からの、ブラックジャック攻撃を食らわしてやる――!

「あっ!」

 ガシッ、と振り上げた手首を掴まれる。そのまま腕を捻られて、肩の関節をキメられた。――なんて早業だ!

「いだだだだっ!」

 ポロッ、とブラックジャックを取り落とす。――しまった、武器が。
 なんとか逃れようともがくと、肩がギシギシ軋んだ。

「うぐぐぐ……!」
「――いい加減にしろ、てめェ!」

 えっ。

「暴れんじゃねえ!関節ぶッ壊されてぇのかッ!?」

 大音声で怒鳴り付けられた。
 この声、まさか。とある予感に力が抜けて、床にゴロッと転がされる。ゼイゼイ荒い息をついていると、パッと電気が点いた。

「まぶしっ」

 しばらくして、目を開くと。
 俺を見下ろしているその人と、目があった。

「目え覚めたか」
「あ……佐賀先輩」

 さっき格闘してたのは、変質者じゃなくて。
 俺の同室者の、佐賀先輩だったんだ。
 なんてこった!

「あ……あわわ」

……と、とんでもねえことしちまった。サーッと音がしそうなくらい、血の気が引いていく。

「まァ、説明してみろや。いきなり殴りかかってきたワケをよ」






 俺は、洗いざらい話していた。

「――なるほどな。俺をその、変質者かと思ったってわけか」
「本当にすみませんでした……!」

 米神に青筋を立てた佐賀先輩の前に、深々と土下座する。
 犯人と間違えて、先輩に殴りかかるなんて。
 俺はしおしおと項垂れる。もし攻撃が当たってたら、とんでもねえことになってた。
 情けなくて顔を上げれない。
 と、佐賀先輩がため息を吐いた。

「馬鹿野郎」
「はい……ごめんなさい。危ない真似して」
「……そういうことじゃねェ」
「わっ」

 腕を引かれて、普通に座らされる。
 佐賀先輩を見上げると、妙な顔をしてた。怒ってるような、気まずいような感じ。
 先輩は黙ったまま、すっくと立ち上がって。ズカズカと俺のベッドに近づくと、枕ごと俺の布団を簀巻きにし始めた。

「ええ?!」
「よし」

 何がよしなの?
 てか、その縛ってるやつ俺の用意したロープだし! 先輩は、間抜け面の俺を置き去りにして、作業を完了させちまう。

「行くぞ」

 米俵みたいに俺の布団を担いで、先輩は言う。

「えっどこにっすか?」
「いいから来いや」
「う、うす!」

 ギンと鋭く睨まれて、俺は佐賀先輩の後を追った。





「えっ、ここ……」

 たどり着いたのは、とある部屋。
 戸惑う俺をよそに、佐賀先輩は扉をノックした。

「はいよー」

 明るい声で、応答がある。間髪入れずに戸が開いて、人の良い顔がヒョコッと現れた。

「お、佐賀!」
「田中、遅くに悪い」
「起きてたし。西浦?」

 田中先輩は、不思議そうに首を傾げた。
 そう、ここは田中先輩のお部屋だ。西浦先輩のお友だちのさ。

「それもある。悪ィけど、こいつ泊めてやってくれ」
「へ?」
「えっ」

 ぐい、と佐賀先輩に手を引かれて、田中先輩の前に、ワケもわからず躍り出る。

「あー! 吉村」
「う、うす! 夜分すいません」
「なんだ、水くせえこといって」

 ワハハって笑う田中先輩に、肩をばんばん叩かれた。明るい笑顔に、思わず俺もへらっとする。

「まあ、入れよ」
「うす!」
「田中、西浦は」
「……佐賀」

 田中先輩が答える前に、呆然とした声がする。
 部屋の奥に、西浦先輩が立っていた。

「西浦。――ちょっと面かせや」

 佐賀先輩が、顎をクイッてして言った。



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