俺は魔法使いの息子らしい。

高穂もか

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第一部 決闘大会編

百五十一話

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「うーむ……」

 俺は、ごしごしと手を動かしながら、自室でもの思いに耽っていた。
 ちら、と目線を上げる。と、俺のベッドの柵に掛かったカーディガンにピントが合ってしまった。

「あわわ」

 俺はガシガシと火が出そうなほどに、擦る速度を上げた。

 あの後、怒り心頭の海棠さんを宥めつつ、イノリは出発してったんだけど。その前にさ、

「トキちゃん、ちょっとおいでー」
「えっ?」

 ちょいちょいって、手招きされて。直前の凄いハグがあったから、どぎまぎしながら寄ってったんだ。

「はい、ぎゅー」
「うわぁ?!」

 そしたら、イノリが、自分のカーデで俺をぐるぐる巻きにした。袖のところをタスキみたいにぎゅっと縛られて、俺は目を白黒させる。

「ちょ、何すんだよー?」
「あはは、モモンガみたいー」
「んだとっ」

 抗議しても、イノリはニコニコとご満悦で笑ってる。
 何がしてーんだ、こいつは。戸惑っていると、ますますニッコリ笑って言ったわけ。

「トキちゃん。これを俺だと思って持っててー」
「え?」
「また会える日まで。ね?」
「イノリ……」

 頬を両手で包まれる。ぐるぐる巻きにされたまま、俺はしばしあっけにとられて。――ぶっと噴き出しちまった。

「わはは!お前、大げさ!」

 代わりに持っててって、昔の映画みたいじゃん。ちょいちょいクラシックなんだよな。

「もーひどいー」
「ごめんて、くふふ」

 俺があんま笑うから、イノリは照れちまったみたい。目元を赤くさせてしょげてて、ちょっと可愛かった。


 そんなわけで、俺の部屋にイノリのカーディガンがあるわけだ。
 見てると恥ずかしいような、笑えるような。謎のインプレッションを与えてくれるアイテムだぜ、今んとこ。

「でもちょっと、笑ったのはあかんかったかな。俺が……そのアレしたから、気ぃつかってくれたんだろーし」

 けど、自分の子供っぽい振る舞いを思い出すといたたまれねえ。「あああ」って叫んで、ひとしきり床をゴロゴロ転がった。

 ガタン!

「あっ、やべ」

 暴れすぎて、カーデが落ちちまった。慌てて拾い上げて、ハンガーに掛けなおす。
 ふわ、と甘い残り香が上って、きゅんとする。
 思わずぎゅっと抱き締めて、――我に帰った。

「いやいやいやいや、流石にヘンタイだよ!」

 いくらイノリが、キモい俺に慣れてるからって! ちっとは自重しろ、自重!
 五体頭地で、ゼイゼイと荒い息を吐く。

「……ふう」

 冷静さを取り戻して、あぐらを組み直す。
 俺は擦る作業を再開させて、カーデの主を思い浮かべた。

「イノリのやつ、今頃がんばってんだろなー」

 時計を見れば、十八時過ぎだ。今日は大事な顔合わせって、言ってた。多分、あいつの夢に向かって行けるような――。

「すげえなあ」

 ほう、と息を吐く。
 着々と、歩を進めているらしいイノリ。俺も、負けずに頑張らねえとだぜ!
 仕上げにギュイインと擦り上げると、ボロ布を放り捨てた。

「よっし!完成だ!」

 ぱん!と柏手を打つ。
 あぐらをかいた目の前の床に、ずらっと並べたモノたち。俺は、にんまりとした。

「武器と。やっぱ、捕り物にはロープだよなー」

 まず、古い穴のあきかけ靴下を二枚重ねます。そこに運動場でたっぷり砂を詰めてきて、口をきつく括る!
 何と言うことでしょう。
 ボロ靴下が、ブラックジャックに大変身。
 ロープはちょっと、体育倉庫から拝借してきたやつ。ボロ布でよーく擦ってササクレを取ったから、ぎゅっと握ったって痛くないぞ。
 これで準備は万端だ。
 俺は、ふんすと腹に気合いを込める。

「今夜、変な奴がやってきたら……ぜってー捕まえてやる!」

 俺が、この手で!
 ロープを張り詰めたら、ビン!と硬い音が鳴った。頼もしいぜ。
 もうやられっぱなしになんねえぞ。
 あの痣のこと、ヘンだって思ってんのは俺だけ。だったら――俺が自分で、現状を打破するんだ。
 俺は、イノリから預かったカーデをじっと見つめた。不思議だけど、胸に勇気が込み上げてくる。

「よし!待ってろ犯人!」


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