俺は魔法使いの息子らしい。

高穂もか

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第一部 決闘大会編

百四十二話

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「――の件、どうなってる!?」
「今朝、草一さんに提出しました! チェック待ちです」
「そうか、じゃあ、午後の会議の資料は……!」

 風紀室は、てんやわんやしていた。
 相談したくて来たものの、どうしよう。手の空いてそうな人が誰もいねえぞ。
 でも、そうか。
 イノリ――生徒会も忙しそうだもんな。きっと、ここもハンボー期ってやつに違いない。
 ドアに張り付いていると、後ろから「ちょっと失礼」と声をかけられた。

「あっ、すんません!」

 慌てて脇に避ける。風紀の人達が、列をなして中に入っていく。みんなお揃いで、重そうな段ボールを抱えていた。

「あれー? 吉村くんじゃん?」

 ふいに、明るい声がする。
 見れば、同じく段ボールを抱えた二見が立っていた。

「何してんのよ。また何かトラブったわけ?」
「あっうん。そんな感じ……?」
「なんで疑問形!」

 何がツボったのか、二見はケラケラと笑う。

「真帆、何を油売ってる!」

 と、室内から厳しい声が飛んで来る。
 俺にじゃないのに、思わずギクッとする。しかし、二見はゆったりと言い返した。

「遊んでませーん。てか、今からオレ、聴取入りますんで。あと、よろしくお願いしまーす」
「は?!」

 驚愕の声をよそに、すたこら歩く背を、慌てて追っかける。
 途中、仕事中の白井さんと目があって、目礼する。

「ありがとう、二見。忙しいのにゴメン」
「あはは、いーよ。書類整理クソだりぃし、サボれてラッキー」

 はっはっは、とご機嫌に笑う二見。俺としちゃありがてえけど、それ言っちゃって不味くねえか? 先輩たち、めっちゃ睨んでるぞ!

「真帆、聴取なら俺がやろう。お前は持ち場に戻れ」

 突如、硬質な声が割って入る。
 風紀室の奥から、氷室さんが歩み寄ってきた。……なんか、いつかのデジャブを感じるぜ。

「えーっ」

 二見は不満そうだったけど、鉄色の目に見つめられて、渋々頷いた。

「ちぇっ」

 肩を落として、二見は段ボール箱を抱えて行ってしまった。背中が、しょんぼり丸い。
 氷室さんが、俺を振り返って言う。

「では、向こうに行こうか」 






 で、聴取が始まった。
 俺の対面に、氷室さんが。その横にもう一人、べつの風紀委員が座っている。書記の役だって。

「実は――」

 俺は、昨晩起こった奇妙な出来事を話した。

「……なるほど」 

 全部話し終えると、氷室さんは頷いた。

「そこの君、寮の巡回記録を持って来てくれ」
「はい!」

 と、近くで作業していた委員に指示を飛ばし、俺に向き直る。

「少し、聞かせてもらっていいかな。そういう金縛りとかは、今までもあったのかい?」
「いえ、初めてだと思います」
「そうか。……では、腕に何かされたんだったね。どういうものか、見せて貰えるかな」
「あ、はい」

 俺は、袖を捲った。
 氷室さんと、書記の生徒が覗き込む。

「ああ、これは。……なるほど」
「これは、どうでしょう。自分には、打ち身にも見えますが……」
「えっ」

 二人は、静かに頷きあっている。
 俺は、ちょっと不安になってきた。
 昨晩、変な針を突き立てられて、出来た痣。――だと、俺は思ってるんだけど。
 こう、冷静に見られているとさ。痣が、小さく見えて来ると言うか……。

「はい、どうもありがとう。ところで、吉村くんは最近、教科書の盗難にも遭っていたね?」
「はい」
「じゃあ、普段よりはストレスを強く感じていただろうね」
「あ……たぶん」

 頷くと、氷室さんは気の毒そうな目をした。

「そうか。金縛りや悪夢は、不安が原因だったな」
「ええ」

 二人は、目を合わせて頷き合う。
 そこに、さっき氷室さんに指示されていた生徒が、バインダーを持ってきた。

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