93 / 239
第一部 決闘大会編
九十三話
しおりを挟む
「あれっ」
鏡を見て、驚きの声を上げる。
「どうしたの?」
すぐにイノリが、聞き返した。俺は鏡を置いて、イノリに目を見せる。
「目の色が、もう戻ってきてんだ。さっき二回目してもらったとこなのに」
昼メシの後、二回目を起こしてもらって、俺の目は明るい赤になってたはず。それが、二時間も経たないのにもう黒っぽくなってる。
イノリは、「あぁ」と納得したみてえに笑った。
「一つが定着しにくくなったこと? それね、トキちゃんの魔力が安定してる証拠だから、心配しなくていいよー」
「え。俺、安定してる?」
「うん。一つの元素が前に出過ぎないように、他の元素が調整したからすぐに色が戻ったんだよ。もうじき四元素がそろうから、調和してきたんだねぇ」
「マジ!?」
イノリは、「ちょっとずつ目の色が戻るの早くなってなかった?」とも言った。
そ、そう言われてみれば。
最初の「風」のとき、「土」を起こしてもらうまでキンキラキンだったな。でも、昨日の「水」は、寝て起きたら戻ってた。
俺はへらっと笑う。
「そういやそうだわ」
「でしょー。よかったねえ」
「ありがと! よぉし、ばりばり修行するぞ!」
「わあ、すげえ燃えてる~」
イノリは、パチパチと手を叩く。
出来ることが増えるって、嬉しいよな。これから、本格的に魔法の修行が出来るって思うと、わくわくが止まらないぜ。
まずは、もっと魔力コントロールを頑張って。魔法式だって使えるようになりたい。
「トキちゃん、魔法式だとさぁ。なにからしてみたい?」
「そうだなあ。いろいろあるけど……やっぱ点火かな?」
「へえー、どうして?」
「授業で全然出来んかったから、リベンジしたい!」
「そっかぁ。トキちゃんらしー」
ガッツポーズを見せると、イノリはくすくす笑う。
点火術は高柳先生の期末課題でもあるからな。
教室中にぐるっと置いたロウソクに、制限時間内にどれだけ点火できるか、やるんだってさ。俺じゃなくても難しいらしいから、頑張んねえとだ。
めらめら燃えていると、イノリはパタンとテキストを閉じた。
「じゃ、トキちゃん。景気づけに、「火」の魔力コントロールの練習するー?」
「あっ、やるやる!」
俺は、ぽいとシャーペンを放り出した。
いそいそと立ち上がって、飲み物を用意する。火の魔力は体内を巡るだけで、結構な汗をかくからな。脱水に用心しなくちゃ。
胡坐をかいて、となり合って座る。
「よしっ、やるか!」
「うん」
イノリにコツを教わつつ、コントロールの練習をした。
火の魔力はヒリヒリしてて、軽いのにパンチが強い。気を抜くとコントロールが暴れ馬になるから、難しい。汗だくになってうんうん唸っていると、イノリに「リラックスー」と背中を叩かれる。
その手が、いつもより熱い。
「あつっ?」
「あ、火の魔力が高まってるから。ごめん、熱かった?」
「いんや、熱かと思ってびっくりしただけ」
眉をへにゃっと下げたイノリに、慌てて首をブンブン振る。
しかし、魔力のコントロールで、そんな熱くなるもんなんだな。イノリが「寒くない」つってるのが、納得できたぜ。
まあ、そんなこんなで。
修行に励んでみたり、ふつうの学生らしくテス勉したり、たまに脱線してサボったり。
お泊り最終日は、当たり前に過ぎてった。久しぶりとか、関係なしにいつも通りに時間って過ぎてくもんだよなー。
「トキちゃん、へいき?」
「うん……」
「眠そー」
くすっと笑って、前髪を梳かれる。
うう、力が入らない。
ベッドに腰かけたイノリの脚の間に、ぐでっともたれかかった。
ゴオオ、とドライヤーが轟くのを、うとうとしながら聞く。至れり尽くせりで、すまん。
例にもよって、魔力を起こしてもらったわけなんだが。
これまた恒例の感じで、超眠い。
三回に分けても、眠くなるらしい。そのくせ、今日イチ汗だくになったから、シャワーを浴びる羽目になり。イノリに介助してもらって、なんとか汗を流して、服を着こんだら限界が来た。
「よいしょー」
抱えあげられて、ベッドに寝かせてもらう。
イノリは枕元に腕を乗せて、心配そうに俺の顔を覗き込む。
「じゃあ俺、会議に行ってくるから。トキちゃん、ゆっくり休んでてね」
「うん……」
なんとか頷くと、やさしく頭を撫でられて。
慌ただしく身支度を整えて、イノリは出て行った。
イノリは、今日も呼び出しだ。
大変だよなぁ。日曜の夜なんだからもう明日じゃダメなの? って思ったりするけど。
真面目な奴だから、無理し過ぎないか心配だ……。
とか思いつつ、ちゃっかり爆睡していたらしい。
寝てたって分かったのは、ドアの音を聞いてハッとしたから。
イノリ、帰ってきたのかって。慌てて首を巡らしてみると、部屋ん中に亜麻色は見当たらない。
なーんだ、ってドアを見て、心臓がぎゅいんとバウンドする。
半開きのドアの隙間に、誰か立ってた。
イノリじゃないのは、すぐにわかったさ。
だってイノリは、真冬に半袖なんか着ないし頭も白くない。
キイ―と細い音を立てて、ドアがゆっくりと開く。え、ちょっと待て――
「――っ!?」
ドン、と重い音がしたのと。胸の上に何か乗ってきた苦しさが同時だった。
胸倉を掴まれて、息が詰まる。――ああ、イノリのシャツ! どうしてくれんだ!
と、抗議する元気もなく。
ゲホゴホと咳き込む俺に、白髪男はこの上なくブチ切れた声で言った。
「おまえ、なにしとんねん?」
いや、こっちのセリフだからなぁ!?
鏡を見て、驚きの声を上げる。
「どうしたの?」
すぐにイノリが、聞き返した。俺は鏡を置いて、イノリに目を見せる。
「目の色が、もう戻ってきてんだ。さっき二回目してもらったとこなのに」
昼メシの後、二回目を起こしてもらって、俺の目は明るい赤になってたはず。それが、二時間も経たないのにもう黒っぽくなってる。
イノリは、「あぁ」と納得したみてえに笑った。
「一つが定着しにくくなったこと? それね、トキちゃんの魔力が安定してる証拠だから、心配しなくていいよー」
「え。俺、安定してる?」
「うん。一つの元素が前に出過ぎないように、他の元素が調整したからすぐに色が戻ったんだよ。もうじき四元素がそろうから、調和してきたんだねぇ」
「マジ!?」
イノリは、「ちょっとずつ目の色が戻るの早くなってなかった?」とも言った。
そ、そう言われてみれば。
最初の「風」のとき、「土」を起こしてもらうまでキンキラキンだったな。でも、昨日の「水」は、寝て起きたら戻ってた。
俺はへらっと笑う。
「そういやそうだわ」
「でしょー。よかったねえ」
「ありがと! よぉし、ばりばり修行するぞ!」
「わあ、すげえ燃えてる~」
イノリは、パチパチと手を叩く。
出来ることが増えるって、嬉しいよな。これから、本格的に魔法の修行が出来るって思うと、わくわくが止まらないぜ。
まずは、もっと魔力コントロールを頑張って。魔法式だって使えるようになりたい。
「トキちゃん、魔法式だとさぁ。なにからしてみたい?」
「そうだなあ。いろいろあるけど……やっぱ点火かな?」
「へえー、どうして?」
「授業で全然出来んかったから、リベンジしたい!」
「そっかぁ。トキちゃんらしー」
ガッツポーズを見せると、イノリはくすくす笑う。
点火術は高柳先生の期末課題でもあるからな。
教室中にぐるっと置いたロウソクに、制限時間内にどれだけ点火できるか、やるんだってさ。俺じゃなくても難しいらしいから、頑張んねえとだ。
めらめら燃えていると、イノリはパタンとテキストを閉じた。
「じゃ、トキちゃん。景気づけに、「火」の魔力コントロールの練習するー?」
「あっ、やるやる!」
俺は、ぽいとシャーペンを放り出した。
いそいそと立ち上がって、飲み物を用意する。火の魔力は体内を巡るだけで、結構な汗をかくからな。脱水に用心しなくちゃ。
胡坐をかいて、となり合って座る。
「よしっ、やるか!」
「うん」
イノリにコツを教わつつ、コントロールの練習をした。
火の魔力はヒリヒリしてて、軽いのにパンチが強い。気を抜くとコントロールが暴れ馬になるから、難しい。汗だくになってうんうん唸っていると、イノリに「リラックスー」と背中を叩かれる。
その手が、いつもより熱い。
「あつっ?」
「あ、火の魔力が高まってるから。ごめん、熱かった?」
「いんや、熱かと思ってびっくりしただけ」
眉をへにゃっと下げたイノリに、慌てて首をブンブン振る。
しかし、魔力のコントロールで、そんな熱くなるもんなんだな。イノリが「寒くない」つってるのが、納得できたぜ。
まあ、そんなこんなで。
修行に励んでみたり、ふつうの学生らしくテス勉したり、たまに脱線してサボったり。
お泊り最終日は、当たり前に過ぎてった。久しぶりとか、関係なしにいつも通りに時間って過ぎてくもんだよなー。
「トキちゃん、へいき?」
「うん……」
「眠そー」
くすっと笑って、前髪を梳かれる。
うう、力が入らない。
ベッドに腰かけたイノリの脚の間に、ぐでっともたれかかった。
ゴオオ、とドライヤーが轟くのを、うとうとしながら聞く。至れり尽くせりで、すまん。
例にもよって、魔力を起こしてもらったわけなんだが。
これまた恒例の感じで、超眠い。
三回に分けても、眠くなるらしい。そのくせ、今日イチ汗だくになったから、シャワーを浴びる羽目になり。イノリに介助してもらって、なんとか汗を流して、服を着こんだら限界が来た。
「よいしょー」
抱えあげられて、ベッドに寝かせてもらう。
イノリは枕元に腕を乗せて、心配そうに俺の顔を覗き込む。
「じゃあ俺、会議に行ってくるから。トキちゃん、ゆっくり休んでてね」
「うん……」
なんとか頷くと、やさしく頭を撫でられて。
慌ただしく身支度を整えて、イノリは出て行った。
イノリは、今日も呼び出しだ。
大変だよなぁ。日曜の夜なんだからもう明日じゃダメなの? って思ったりするけど。
真面目な奴だから、無理し過ぎないか心配だ……。
とか思いつつ、ちゃっかり爆睡していたらしい。
寝てたって分かったのは、ドアの音を聞いてハッとしたから。
イノリ、帰ってきたのかって。慌てて首を巡らしてみると、部屋ん中に亜麻色は見当たらない。
なーんだ、ってドアを見て、心臓がぎゅいんとバウンドする。
半開きのドアの隙間に、誰か立ってた。
イノリじゃないのは、すぐにわかったさ。
だってイノリは、真冬に半袖なんか着ないし頭も白くない。
キイ―と細い音を立てて、ドアがゆっくりと開く。え、ちょっと待て――
「――っ!?」
ドン、と重い音がしたのと。胸の上に何か乗ってきた苦しさが同時だった。
胸倉を掴まれて、息が詰まる。――ああ、イノリのシャツ! どうしてくれんだ!
と、抗議する元気もなく。
ゲホゴホと咳き込む俺に、白髪男はこの上なくブチ切れた声で言った。
「おまえ、なにしとんねん?」
いや、こっちのセリフだからなぁ!?
30
お気に入りに追加
519
あなたにおすすめの小説
いとしの生徒会長さま
もりひろ
BL
大好きな親友と楽しい高校生活を送るため、急きょアメリカから帰国した俺だけど、編入した学園は、とんでもなく変わっていた……!
しかも、生徒会長になれとか言われるし。冗談じゃねえっつの!

【完結】I adore you
ひつじのめい
BL
幼馴染みの蒼はルックスはモテる要素しかないのに、性格まで良くて羨ましく思いながらも夏樹は蒼の事を1番の友達だと思っていた。
そんな時、夏樹に彼女が出来た事が引き金となり2人の関係に変化が訪れる。
※小説家になろうさんでも公開しているものを修正しています。

学園の俺様と、辺境地の僕
そらうみ
BL
この国の三大貴族の一つであるルーン・ホワイトが、何故か僕に構ってくる。学園生活を平穏に過ごしたいだけなのに、ルーンのせいで僕は皆の注目の的となってしまった。卒業すれば関わることもなくなるのに、ルーンは一体…何を考えているんだ?
【全12話になります。よろしくお願いします。】

ある日、木から落ちたらしい。どういう状況だったのだろうか。
水鳴諒
BL
目を覚ますとズキリと頭部が痛んだ俺は、自分が記憶喪失だと気づいた。そして風紀委員長に面倒を見てもらうことになった。(風紀委員長攻めです)

俺の親友がモテ過ぎて困る
くるむ
BL
☆完結済みです☆
番外編として短い話を追加しました。
男子校なのに、当たり前のように毎日誰かに「好きだ」とか「付き合ってくれ」とか言われている俺の親友、結城陽翔(ゆうきはるひ)
中学の時も全く同じ状況で、女子からも男子からも追い掛け回されていたらしい。
一時は断るのも面倒くさくて、誰とも付き合っていなければそのままOKしていたらしいのだけど、それはそれでまた面倒くさくて仕方がなかったのだそうだ(ソリャソウダロ)
……と言う訳で、何を考えたのか陽翔の奴、俺に恋人のフリをしてくれと言う。
て、お前何考えてんの?
何しようとしてんの?
……てなわけで、俺は今日もこいつに振り回されています……。
美形策士×純情平凡♪
夢では溺愛騎士、現実ではただのクラスメイト
春音優月
BL
真面目でおとなしい性格の藤村歩夢は、武士と呼ばれているクラスメイトの大谷虎太郎に密かに片想いしている。
クラスではほとんど会話も交わさないのに、なぜか毎晩歩夢の夢に出てくる虎太郎。しかも夢の中での虎太郎は、歩夢を守る騎士で恋人だった。
夢では溺愛騎士、現実ではただのクラスメイト。夢と現実が交錯する片想いの行方は――。
2024.02.23〜02.27
イラスト:かもねさま
【奨励賞】恋愛感情抹消魔法で元夫への恋を消去する
SKYTRICK
BL
☆11/28完結しました。
☆第11回BL小説大賞奨励賞受賞しました。ありがとうございます!
冷酷大元帥×元娼夫の忘れられた夫
——「また俺を好きになるって言ったのに、嘘つき」
元娼夫で現魔術師であるエディことサラは五年ぶりに祖国・ファルンに帰国した。しかし暫しの帰郷を味わう間も無く、直後、ファルン王国軍の大元帥であるロイ・オークランスの使者が元帥命令を掲げてサラの元へやってくる。
ロイ・オークランスの名を知らぬ者は世界でもそうそういない。魔族の血を引くロイは人間から畏怖を大いに集めながらも、大将として国防戦争に打ち勝ち、たった二十九歳で大元帥として全軍のトップに立っている。
その元帥命令の内容というのは、五年前に最愛の妻を亡くしたロイを、魔族への本能的な恐怖を感じないサラが慰めろというものだった。
ロイは妻であるリネ・オークランスを亡くし、悲しみに苛まれている。あまりの辛さで『奥様』に関する記憶すら忘却してしまったらしい。半ば強引にロイの元へ連れていかれるサラは、彼に己を『サラ』と名乗る。だが、
——「失せろ。お前のような娼夫など必要としていない」
噂通り冷酷なロイの口からは罵詈雑言が放たれた。ロイは穢らわしい娼夫を睨みつけ去ってしまう。使者らは最愛の妻を亡くしたロイを憐れむばかりで、まるでサラの様子を気にしていない。
誰も、サラこそが五年前に亡くなった『奥様』であり、最愛のその人であるとは気付いていないようだった。
しかし、最大の問題は元夫に存在を忘れられていることではない。
サラが未だにロイを愛しているという事実だ。
仕方なく、『恋愛感情抹消魔法』を己にかけることにするサラだが——……
☆描写はありませんが、受けがモブに抱かれている示唆はあります(男娼なので)
☆お読みくださりありがとうございます。良ければ感想などいただけるとパワーになります!
思い出して欲しい二人
春色悠
BL
喫茶店でアルバイトをしている鷹木翠(たかぎ みどり)。ある日、喫茶店に初恋の人、白河朱鳥(しらかわ あすか)が女性を伴って入ってきた。しかも朱鳥は翠の事を覚えていない様で、幼い頃の約束をずっと覚えていた翠はショックを受ける。
そして恋心を忘れようと努力するが、昔と変わったのに変わっていない朱鳥に寧ろ、どんどん惚れてしまう。
一方朱鳥は、バッチリと翠の事を覚えていた。まさか取引先との昼食を食べに行った先で、再会すると思わず、緩む頬を引き締めて翠にかっこいい所を見せようと頑張ったが、翠は朱鳥の事を覚えていない様。それでも全く愛が冷めず、今度は本当に結婚するために翠を落としにかかる。
そんな二人の、もだもだ、じれったい、さっさとくっつけ!と、言いたくなるようなラブロマンス。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる