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第一部 決闘大会編
九十二話
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食休みをして、元素を起こしてもらうことになった。
今日は「火」だ。ついに最後の元素になる。ここまで付き合ってくれた、イノリと須々木先輩には感謝しかないぜ。
「トキちゃん、お水飲んだ?」
「おう」
昨日と同じく脱水予防をして、向かい合って座る。イノリは、俺の両手を取って指を絡めた。
「あれ、くっつかねえの?」
「あ。……火は、三回に分けて起こすからね。最初は入りすぎないように、手ぇつないでやろう」
首を傾げると、イノリは目元を赤らめて言う。
いつもみたいにくっついてると、肌から魔力を吸い込みすぎちまうらしい。火の魔力は暴れたら危ないから、慎重に起こさないといけないんだって。どんぐらい危険って、過去に、体の内側から焼け死んだ人もいるらしく――おい、怖すぎだろ!
「まあそれは、極端なケースだよ? 「火の極型」っていう魔力の型を持つ人が、そうなったってことだから。「拮抗型」は暴走しにくいし、早々ならないと思うよ」
「そ、そうなのか!?」
「とはいえ、トキちゃんは魔力が多いでしょ。念のため、安全運転でいこうねー」
「わかった!」
俺は力強く頷いた。
合わせた手のひらから、橙の光がポワ、と溢れだす。蝋燭の火みたいな魔力は、吸い込んだところからじんわりと熱を持った。
いつもより、魔力の密度が淡い。
あったかくて、ちょっとチリチリした。ちょうど、たき火に手をかざしたときみたいな。
「熱くない?」
「うん。ちょっとホカホカするぐらい」
「そっか」
イノリは真剣な顔で俺の目を覗き込んでいる。
虹彩があかるい橙色に染まって、奥の方がゆらゆら光っている。マジで火みてえ。
ゆっくり内側をめぐる魔力が、じんわりと体を熱らせていく。合わせた手のひらが、ちょっとづつ汗ばんでくる。
俺は、絡めた指をニギニギしながら、尋ねた。
「なあ、イノリ。ちょっと聞きてえんだけど」
「なぁに?」
「さっき言ってた、「極型」って何?」
その言葉、葛城先生の本にも、さらっと登場してたんだ。けど、「詳しい説明は次巻!」って書かれてて、わかんないままでさ。
イノリは「ああ」と頷いた。
「極型は、拮抗型と同じで特殊な魔力の型の一つだよー。拮抗型はさ、四元素の偏りがないよね? で、逆にめちゃくちゃ偏ってるのが、極型なんだ」
「えっ、でもさ。偏ってるもんなんじゃ?」
「うん。たしかに、ふつう偏ってるもんだけど。――極はもう、尋常じゃないの。さっき言った「火の極型」だと、火だけ突き抜けてて、他の三元素はほとんど持ってない、みたいな。……その分、一属性にとことん秀でることが多いけど――」
イノリはそこで、眉を下げた。
「元素が偏ってる分、コントロールが不安定なんだって。ほら、魔力コントロールって、元素が相互補助して安定するから……」
「ああ!」
葛城先生が教えてくれた、「元素同士は補い合う」ってやつだな。たしかに、「風」だけ前に出てるとき、すげーふわふわしてた。土を起こしてもらってから、ちょっと安定したんだ。
まあ、いまだにコントロールは下手だけども。
「それとね、極型の人は一目でわかるんだよ。偏ってる元素の色が、体のどっかにハッキリ出てるから」
「え?」
「俺たちも魔力が高まったとき、目の色変わったりするよね。極型の人は、あれがずーっと表に定着してるんだ。色も混じってなくて鮮やかだから、絶対わかる」
「へええ」
ちょっと見てみたい。
そう思ったのが顔に出たのか、イノリが半目になった。
「トキちゃん……」
「わ、わかってるって! 見世物じゃねえもんな、わるい」
「んー。……っていうか、極型は変な人が多いから、俺としちゃ関わって欲しくないって言うかぁ……」
「ん? 何て言った?」
イノリは、「ううん」と首を振った。
「なんでもない。――はい、終わったよ」
そう言って、ぱっと手を離す。俺は目を丸くした。
「えっ、もう終わり?」
「うん、終わり。だって、ほら……」
首を傾げると、イノリに背中を触られた。べたっと背中に服が張り付いて、ぎょっとする。ぽた、と顎から汗が落ちた。
「おわっ! 汗だく!」
「ね? お水飲んで、休憩しよう」
「ひええ」
気づいてみれば、めっちゃ熱い!
いつのまに、こんなに体温が上がってたんだ。ペットボトルを受け取って、ぐびぐび中身を飲み干した。
「もう少し飲む?」
「や、もう大丈夫。てか、お前も飲まねえとっ」
「俺はもう飲んだし。そんな熱くないから大丈夫ー」
実際、イノリは額にじんわり汗が滲んでるくらいだった。おなじみの、元素での調節のおかげらしい。
「火が大きく動くと、水が慌てて鎮静にやってくるよね。魔力コントロールすると、その度合いを調節できるんだぁ」
「す、すげー! そういやお前、体育んときも涼しい顔してたよな」
「えへへ」
なるほど。
俺がだくだくになってるのは、自力でコントロールできてないからなのか……。
俺も、できるようになりてえな。で、「あいつ、二十キロも走って、汗一つかいてねえだと……!?」ってのやりてえ。
って言ったら、イノリに爆笑された。解せん。
今日は「火」だ。ついに最後の元素になる。ここまで付き合ってくれた、イノリと須々木先輩には感謝しかないぜ。
「トキちゃん、お水飲んだ?」
「おう」
昨日と同じく脱水予防をして、向かい合って座る。イノリは、俺の両手を取って指を絡めた。
「あれ、くっつかねえの?」
「あ。……火は、三回に分けて起こすからね。最初は入りすぎないように、手ぇつないでやろう」
首を傾げると、イノリは目元を赤らめて言う。
いつもみたいにくっついてると、肌から魔力を吸い込みすぎちまうらしい。火の魔力は暴れたら危ないから、慎重に起こさないといけないんだって。どんぐらい危険って、過去に、体の内側から焼け死んだ人もいるらしく――おい、怖すぎだろ!
「まあそれは、極端なケースだよ? 「火の極型」っていう魔力の型を持つ人が、そうなったってことだから。「拮抗型」は暴走しにくいし、早々ならないと思うよ」
「そ、そうなのか!?」
「とはいえ、トキちゃんは魔力が多いでしょ。念のため、安全運転でいこうねー」
「わかった!」
俺は力強く頷いた。
合わせた手のひらから、橙の光がポワ、と溢れだす。蝋燭の火みたいな魔力は、吸い込んだところからじんわりと熱を持った。
いつもより、魔力の密度が淡い。
あったかくて、ちょっとチリチリした。ちょうど、たき火に手をかざしたときみたいな。
「熱くない?」
「うん。ちょっとホカホカするぐらい」
「そっか」
イノリは真剣な顔で俺の目を覗き込んでいる。
虹彩があかるい橙色に染まって、奥の方がゆらゆら光っている。マジで火みてえ。
ゆっくり内側をめぐる魔力が、じんわりと体を熱らせていく。合わせた手のひらが、ちょっとづつ汗ばんでくる。
俺は、絡めた指をニギニギしながら、尋ねた。
「なあ、イノリ。ちょっと聞きてえんだけど」
「なぁに?」
「さっき言ってた、「極型」って何?」
その言葉、葛城先生の本にも、さらっと登場してたんだ。けど、「詳しい説明は次巻!」って書かれてて、わかんないままでさ。
イノリは「ああ」と頷いた。
「極型は、拮抗型と同じで特殊な魔力の型の一つだよー。拮抗型はさ、四元素の偏りがないよね? で、逆にめちゃくちゃ偏ってるのが、極型なんだ」
「えっ、でもさ。偏ってるもんなんじゃ?」
「うん。たしかに、ふつう偏ってるもんだけど。――極はもう、尋常じゃないの。さっき言った「火の極型」だと、火だけ突き抜けてて、他の三元素はほとんど持ってない、みたいな。……その分、一属性にとことん秀でることが多いけど――」
イノリはそこで、眉を下げた。
「元素が偏ってる分、コントロールが不安定なんだって。ほら、魔力コントロールって、元素が相互補助して安定するから……」
「ああ!」
葛城先生が教えてくれた、「元素同士は補い合う」ってやつだな。たしかに、「風」だけ前に出てるとき、すげーふわふわしてた。土を起こしてもらってから、ちょっと安定したんだ。
まあ、いまだにコントロールは下手だけども。
「それとね、極型の人は一目でわかるんだよ。偏ってる元素の色が、体のどっかにハッキリ出てるから」
「え?」
「俺たちも魔力が高まったとき、目の色変わったりするよね。極型の人は、あれがずーっと表に定着してるんだ。色も混じってなくて鮮やかだから、絶対わかる」
「へええ」
ちょっと見てみたい。
そう思ったのが顔に出たのか、イノリが半目になった。
「トキちゃん……」
「わ、わかってるって! 見世物じゃねえもんな、わるい」
「んー。……っていうか、極型は変な人が多いから、俺としちゃ関わって欲しくないって言うかぁ……」
「ん? 何て言った?」
イノリは、「ううん」と首を振った。
「なんでもない。――はい、終わったよ」
そう言って、ぱっと手を離す。俺は目を丸くした。
「えっ、もう終わり?」
「うん、終わり。だって、ほら……」
首を傾げると、イノリに背中を触られた。べたっと背中に服が張り付いて、ぎょっとする。ぽた、と顎から汗が落ちた。
「おわっ! 汗だく!」
「ね? お水飲んで、休憩しよう」
「ひええ」
気づいてみれば、めっちゃ熱い!
いつのまに、こんなに体温が上がってたんだ。ペットボトルを受け取って、ぐびぐび中身を飲み干した。
「もう少し飲む?」
「や、もう大丈夫。てか、お前も飲まねえとっ」
「俺はもう飲んだし。そんな熱くないから大丈夫ー」
実際、イノリは額にじんわり汗が滲んでるくらいだった。おなじみの、元素での調節のおかげらしい。
「火が大きく動くと、水が慌てて鎮静にやってくるよね。魔力コントロールすると、その度合いを調節できるんだぁ」
「す、すげー! そういやお前、体育んときも涼しい顔してたよな」
「えへへ」
なるほど。
俺がだくだくになってるのは、自力でコントロールできてないからなのか……。
俺も、できるようになりてえな。で、「あいつ、二十キロも走って、汗一つかいてねえだと……!?」ってのやりてえ。
って言ったら、イノリに爆笑された。解せん。
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