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第一部 決闘大会編

八十五話

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 片づけを終えて、持ってきた荷物を広げた。
 イノリが物珍しそうに近づいてきて。すとん、と俺の背後にコアラみてえに座り込む。

「トキちゃん、すっげえ荷物だね」
「そうか? 普通じゃねえ?」
「いやぁ。アメリカとか行けちゃいそうだよー」
「大げさだって!」

 ワハハと笑い合う。
 まあ、確かにちょっと多いかな。あれもこれもって詰めてたら、リュックがパンパンになっちまって。
 佐賀先輩にも、「一足早い帰省かよ」って呆れられちまったもんな。
 中身をどんどん出していくと、イノリは肩越しに歓声をあげる。

「わぁ、お店だねぇ」
「おやつと、ジュースも超持ってきた。マンガと雑誌も。あとで一緒に読もうぜ!」
「うんっ」

 くすくす笑いながら、イノリが頬をすり寄せてくる。さら、と前髪がかかって擽ったい。

「へへ。一応、勉強道具も持ってきたぞ」
「俺もー。それも、あとで一緒にやろっかぁ」
「おう」

 高校生にとって、試験は避けて通れないイベントだから仕方ねえよな。まぁ、一緒に試験勉強すんのも久々だし、そんな悪い気分じゃないんだけど。
 ふいに、イノリが長い腕を伸ばして、俺の手首を掴んだ。

「トキちゃん、これどうしたの?」
「あ」

 長袖がずり上がって、ブレスレットが露わになっていた。
 イノリは親指で玉をくるくる回しながら、じっと俺の目を見つめてくる。ちょっとまごまごしながら、答えた。

「これな、須々木先輩がくれたんだ」
「須々木先輩が?」
「おう。アクセ作んの好きなんだって。すげえよな」
「へぇ~。そうなんだぁ……」
「イ、イノリ?」

 な、なんか、声が低いぞ。
 おろおろする俺をよそに、イノリはむっつり黙り込んで。俺の手を引き寄せたかと思うと、ブレスレットをまじまじと眺めていた。
 急に、何か納得したみたいに「なるほど」って呟く。

「トキちゃん。それ、ずっと着けてたほうがいい」
「えっそう? そんな似合う?」
「かわいいよ。……うん。複雑だけどね」
「?」

 うりうりと肩に懐かれて、首を傾げる。
 どうしたんだろう、なんか落ち込んでるっぽいぞ。
 口を開きかけて――俺はハッとする。
 もしかして、イノリも欲しかったのか! 須々木先輩、ダチに配ってるつってたし。いやぁ、そうか。お前、けっこう寂しがりやだもんな。

「イノリ、心配いらん。心配いらんて」
「……トキちゃん、なんか目が生温かいんですけどぉ」

 よしよしと頭を撫でてやると、イノリはジト目になっていた。照れなくていいのにな。





 食休みを終えて、さっそく魔力を起こしてもらうことになった。

「じゃ、今日は水を起こしていきまーす」
「うす!」

 イノリはペットボトルを二本、指にひっかけて持ってきた。

「それは?」
「トキちゃん、まず水分を取って。「火」ほどじゃないけど、「水」もけっこう消耗するから」
「どゆこと?」

 さっき、イノリに言われて便所にいってきたばっかなんだけど。もっぺん飲むのか?

「えーとね。「水」の元素は、全身の体液をぐるぐる巡らせてるんだぁ。循環とか排出とか、そういう力が働いてるんだよね」
「ほうほう」
「でぇ。今から、トキちゃんの「水」を刺激して、活発にさせるでしょ? そうすると、ちょっと排出が早くなると思うのね」
「はあ」
「つまり、脱水予防です。飲んでください」
「なるほど!」

 ポンと手を打った。いろいろ考えてくれてんだなあ。
 忠告に従って、ペットボトルの水を飲めるだけ飲んだ。イノリも「水」を使うからか、ごくごく飲んでいる。
 ペットボトルをテーブルの上に置くと、イノリが胡坐をかいた。

「じゃ、トキちゃん。おいでー」

 ニッコリ笑って、腕を広げられる。

「うう」

 もう何回もしたけど。この瞬間は、いつもどぎまぎする。
 平常心、平常心って、心の中で何度もつぶやいて。
 俺は、膝でにじりよって、ぎゅっと抱きついた。
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