33 / 239
第一部 決闘大会編
三十三話
しおりを挟む
「うーーーむ」
帰寮した俺は、ベッドに寝転んで考え込んでいた。
集中するためにカーテンを閉め、二段ベッドの上段の木目を眺めつつ、うんうん唸る。
どうしたもんか。いや、どうしたんだ俺は。
『人に起こしてもらうのもありなんやで!』
『トキちゃんさえ良かったら、俺がしたいんだけど』
頭ん中に、須々木先輩と、イノリの言葉がぐるぐる再生される。
俺は、イノリが言うには「四元素拮抗型」ってやつで。
だから、元素にも気づきにくくて。
俺と同じだった母ちゃんたちも、誰かに魔力を起こしてもらったって話でさ。
なら、俺もそうしてもらったらいいじゃんか? イノリも、快く引き受けるって言ってくれてんだしさ。
なにを俺は、ためらってんの?
「う~~~~~」
呻いて、ごろんと寝がえりを打つ。
考えても見ろよ。俺は、決闘大会に出る。それまでに、魔法が使えるようになった方がいいに決まってるだろ。
イノリだって、応援してくれてんのに――。
ふと、イノリと繋いだ手を見る。
ちょっと骨ばったイノリの手と、ふわふわした魔力の感触が甦った。
「うあ~~~~~!」
ベッドの上で、ごろんごろん! と暴れた。
駄目だ! なんかソワソワする。落ち着かないっつーか、居たたまれないっつーか。
握り拳を胸に当てて、うぐぐと呻く。
魔力を起こしてもらうってえと、イノリとあれをするわけで。
そう考えると、なんか、その――恥ずかしいような。
「恥ずかしいって!? イノリ相手に、なんだそりゃ!?」
なんでだ。
魔力を見てもらったときは、こんな風に思わなかったのに。
「うるっせええ!」
「うわあっ!」
ズバン! とカーテンから太い腕が突きぬけてくる。俺は、ばね仕掛けみたいに飛び起きて、天井で頭を打った。
シャッ! と鋭い音を立て、カーテンが全開にされる。
「あでっ!」
「ウーウ―唸りやがって何だてめぇ。気が散んだろーが!」
「す、すんません」
頭をさする俺に、米神に青筋をたてた佐賀先輩がすごむ。先輩は、筋肉隆々の腕に、参考書を挟んでいた。勉強中だったらしい。
俺は、ペコペコとベッドの上で頭を下げる。
「怒鳴るなよ、佐賀。吉ちゃん、大丈夫?」
佐賀先輩の背後、自分のベッドに凭れた西浦先輩が、心配そうに声をかけてくれる。
「うす。すんません、うるさくして……」
「いいんだよ、気にしないで」
フォローしてもらって、へなっと眉が下がる。
佐賀先輩は「ちっ」と舌打ちをし、その場に胡坐をかいた。
「で、何だよ吉村。何かあったンか」
「や、別になんも……」
「あ? いいから話せや」
怖えーよ! 人の目ってこんな鋭くなる普通?
俺は、しどろもどろになりながら、わけを話す。
「いや、その。何でもないんす。ただ、魔力に触られんのって、なんか変な感じだなって――」
「えっ?!」
俺の釈明に、なぜか西浦先輩が反応する。
西浦先輩は、ずざざっとすげえ勢いで駆け寄ってきて、俺の肩をガシッと掴む。
「吉ちゃん、誰かに魔力を触られたの?」
「え、はい」
「それ、ちゃんと合意だった?」
「へっ?」
西浦先輩は、怖いくらい真剣な顔で、俺を問い詰める。掴まれた肩が、ぎしっと音を立てた。ちょっと痛え。
佐賀先輩が、呆れ顔で西浦先輩の腕を掴む。
「落ち着けや、西浦」
「おれは落ち着いてる」
「ねェから、言ってんだ。手、痣になんぞ」
「あ……」
西浦先輩は、ハッとしたように手を放した。申し訳なさそうに顔を歪め、俺を見る。
「ごめん、痛かったよね」
「あっ、マジ平気っす! 大丈夫なんで」
ぶんぶんと腕を振っても、西浦先輩はしょんぼりとうなだれてしまう。おろおろしていると、でっかいため息をついた佐賀先輩が言う。
「おい吉村。魔力触られたって、誰にだよ」
「え?」
「てめえの気に食わねえ奴に触られたのか、って聞いてんだ」
俺は、その問いにポカンとした。だってイノリだし、ありえねえし。
佐賀先輩の目が、どんどん険しくなんのに気づいて、慌てて否定する。
「いや、違います! あいつは俺の親友です」
「じゃあ、お前も納得ずくのことなんだな?」
「うす!」
「そうかよ。聞いたか、西浦」
佐賀先輩は、西浦先輩の肩を拳でトンと押す。
西浦先輩は、「はあ」と深い息をつく。ようやく上げた顔は、青かった。
「そっか……早とちりしてごめんね」
「あ、いや。てか、もしかして俺、妙な事言っちゃいました?」
「ええと……」
俺の問いに、西浦先輩は言いにくそうに口ごもる。佐賀先輩が、かわりに説明してくれた。
「吉村、他人に魔力に触られるっつうのはな。そいつの前で真っ裸になるのと同じことなんだよ」
「へ」
「だから、普通そうそう触らせねえ。軽々しく触りてえとも言わねえのが、当然なんだ。嫌がる奴に無理にやると、暴力と同じだからな。まあ、てめえは合意らしいが」
「ええぇ?」
「お前は転校したての上に、黒だからな。おおかた西浦の奴は、お前がイジメにでもあったと思ったんだろ」
「別に、おれは……」
西浦先輩が、ばつが悪そうに視線を逸らす。心配してくれたんだ、優しいな……といつもの俺なら思う。
けど、今の俺はそれどころじゃなかった。佐賀先輩のもたらした情報が、衝撃的すぎてさ。
だって、ちょっと待てよ。あれって、普通はやんねえもんなの?
でも、イノリは「トキちゃん、見てあげよっか」って普通にさ。
てか、裸同然って!
なら、俺は。つまり、イノリの前で堂々と真っ裸になったってことなのか……?
「よ、吉ちゃん? どうしたの、顔が真っ赤だよ」
「こ、」
「こ?」
「公然わいせつ罪じゃねーか!!」
叫んだ俺の頭を、「うるっせえよ!」と佐賀先輩がはたいた。
帰寮した俺は、ベッドに寝転んで考え込んでいた。
集中するためにカーテンを閉め、二段ベッドの上段の木目を眺めつつ、うんうん唸る。
どうしたもんか。いや、どうしたんだ俺は。
『人に起こしてもらうのもありなんやで!』
『トキちゃんさえ良かったら、俺がしたいんだけど』
頭ん中に、須々木先輩と、イノリの言葉がぐるぐる再生される。
俺は、イノリが言うには「四元素拮抗型」ってやつで。
だから、元素にも気づきにくくて。
俺と同じだった母ちゃんたちも、誰かに魔力を起こしてもらったって話でさ。
なら、俺もそうしてもらったらいいじゃんか? イノリも、快く引き受けるって言ってくれてんだしさ。
なにを俺は、ためらってんの?
「う~~~~~」
呻いて、ごろんと寝がえりを打つ。
考えても見ろよ。俺は、決闘大会に出る。それまでに、魔法が使えるようになった方がいいに決まってるだろ。
イノリだって、応援してくれてんのに――。
ふと、イノリと繋いだ手を見る。
ちょっと骨ばったイノリの手と、ふわふわした魔力の感触が甦った。
「うあ~~~~~!」
ベッドの上で、ごろんごろん! と暴れた。
駄目だ! なんかソワソワする。落ち着かないっつーか、居たたまれないっつーか。
握り拳を胸に当てて、うぐぐと呻く。
魔力を起こしてもらうってえと、イノリとあれをするわけで。
そう考えると、なんか、その――恥ずかしいような。
「恥ずかしいって!? イノリ相手に、なんだそりゃ!?」
なんでだ。
魔力を見てもらったときは、こんな風に思わなかったのに。
「うるっせええ!」
「うわあっ!」
ズバン! とカーテンから太い腕が突きぬけてくる。俺は、ばね仕掛けみたいに飛び起きて、天井で頭を打った。
シャッ! と鋭い音を立て、カーテンが全開にされる。
「あでっ!」
「ウーウ―唸りやがって何だてめぇ。気が散んだろーが!」
「す、すんません」
頭をさする俺に、米神に青筋をたてた佐賀先輩がすごむ。先輩は、筋肉隆々の腕に、参考書を挟んでいた。勉強中だったらしい。
俺は、ペコペコとベッドの上で頭を下げる。
「怒鳴るなよ、佐賀。吉ちゃん、大丈夫?」
佐賀先輩の背後、自分のベッドに凭れた西浦先輩が、心配そうに声をかけてくれる。
「うす。すんません、うるさくして……」
「いいんだよ、気にしないで」
フォローしてもらって、へなっと眉が下がる。
佐賀先輩は「ちっ」と舌打ちをし、その場に胡坐をかいた。
「で、何だよ吉村。何かあったンか」
「や、別になんも……」
「あ? いいから話せや」
怖えーよ! 人の目ってこんな鋭くなる普通?
俺は、しどろもどろになりながら、わけを話す。
「いや、その。何でもないんす。ただ、魔力に触られんのって、なんか変な感じだなって――」
「えっ?!」
俺の釈明に、なぜか西浦先輩が反応する。
西浦先輩は、ずざざっとすげえ勢いで駆け寄ってきて、俺の肩をガシッと掴む。
「吉ちゃん、誰かに魔力を触られたの?」
「え、はい」
「それ、ちゃんと合意だった?」
「へっ?」
西浦先輩は、怖いくらい真剣な顔で、俺を問い詰める。掴まれた肩が、ぎしっと音を立てた。ちょっと痛え。
佐賀先輩が、呆れ顔で西浦先輩の腕を掴む。
「落ち着けや、西浦」
「おれは落ち着いてる」
「ねェから、言ってんだ。手、痣になんぞ」
「あ……」
西浦先輩は、ハッとしたように手を放した。申し訳なさそうに顔を歪め、俺を見る。
「ごめん、痛かったよね」
「あっ、マジ平気っす! 大丈夫なんで」
ぶんぶんと腕を振っても、西浦先輩はしょんぼりとうなだれてしまう。おろおろしていると、でっかいため息をついた佐賀先輩が言う。
「おい吉村。魔力触られたって、誰にだよ」
「え?」
「てめえの気に食わねえ奴に触られたのか、って聞いてんだ」
俺は、その問いにポカンとした。だってイノリだし、ありえねえし。
佐賀先輩の目が、どんどん険しくなんのに気づいて、慌てて否定する。
「いや、違います! あいつは俺の親友です」
「じゃあ、お前も納得ずくのことなんだな?」
「うす!」
「そうかよ。聞いたか、西浦」
佐賀先輩は、西浦先輩の肩を拳でトンと押す。
西浦先輩は、「はあ」と深い息をつく。ようやく上げた顔は、青かった。
「そっか……早とちりしてごめんね」
「あ、いや。てか、もしかして俺、妙な事言っちゃいました?」
「ええと……」
俺の問いに、西浦先輩は言いにくそうに口ごもる。佐賀先輩が、かわりに説明してくれた。
「吉村、他人に魔力に触られるっつうのはな。そいつの前で真っ裸になるのと同じことなんだよ」
「へ」
「だから、普通そうそう触らせねえ。軽々しく触りてえとも言わねえのが、当然なんだ。嫌がる奴に無理にやると、暴力と同じだからな。まあ、てめえは合意らしいが」
「ええぇ?」
「お前は転校したての上に、黒だからな。おおかた西浦の奴は、お前がイジメにでもあったと思ったんだろ」
「別に、おれは……」
西浦先輩が、ばつが悪そうに視線を逸らす。心配してくれたんだ、優しいな……といつもの俺なら思う。
けど、今の俺はそれどころじゃなかった。佐賀先輩のもたらした情報が、衝撃的すぎてさ。
だって、ちょっと待てよ。あれって、普通はやんねえもんなの?
でも、イノリは「トキちゃん、見てあげよっか」って普通にさ。
てか、裸同然って!
なら、俺は。つまり、イノリの前で堂々と真っ裸になったってことなのか……?
「よ、吉ちゃん? どうしたの、顔が真っ赤だよ」
「こ、」
「こ?」
「公然わいせつ罪じゃねーか!!」
叫んだ俺の頭を、「うるっせえよ!」と佐賀先輩がはたいた。
31
お気に入りに追加
519
あなたにおすすめの小説
いとしの生徒会長さま
もりひろ
BL
大好きな親友と楽しい高校生活を送るため、急きょアメリカから帰国した俺だけど、編入した学園は、とんでもなく変わっていた……!
しかも、生徒会長になれとか言われるし。冗談じゃねえっつの!

【完結】I adore you
ひつじのめい
BL
幼馴染みの蒼はルックスはモテる要素しかないのに、性格まで良くて羨ましく思いながらも夏樹は蒼の事を1番の友達だと思っていた。
そんな時、夏樹に彼女が出来た事が引き金となり2人の関係に変化が訪れる。
※小説家になろうさんでも公開しているものを修正しています。

学園の俺様と、辺境地の僕
そらうみ
BL
この国の三大貴族の一つであるルーン・ホワイトが、何故か僕に構ってくる。学園生活を平穏に過ごしたいだけなのに、ルーンのせいで僕は皆の注目の的となってしまった。卒業すれば関わることもなくなるのに、ルーンは一体…何を考えているんだ?
【全12話になります。よろしくお願いします。】

ある日、木から落ちたらしい。どういう状況だったのだろうか。
水鳴諒
BL
目を覚ますとズキリと頭部が痛んだ俺は、自分が記憶喪失だと気づいた。そして風紀委員長に面倒を見てもらうことになった。(風紀委員長攻めです)

俺の親友がモテ過ぎて困る
くるむ
BL
☆完結済みです☆
番外編として短い話を追加しました。
男子校なのに、当たり前のように毎日誰かに「好きだ」とか「付き合ってくれ」とか言われている俺の親友、結城陽翔(ゆうきはるひ)
中学の時も全く同じ状況で、女子からも男子からも追い掛け回されていたらしい。
一時は断るのも面倒くさくて、誰とも付き合っていなければそのままOKしていたらしいのだけど、それはそれでまた面倒くさくて仕方がなかったのだそうだ(ソリャソウダロ)
……と言う訳で、何を考えたのか陽翔の奴、俺に恋人のフリをしてくれと言う。
て、お前何考えてんの?
何しようとしてんの?
……てなわけで、俺は今日もこいつに振り回されています……。
美形策士×純情平凡♪
夢では溺愛騎士、現実ではただのクラスメイト
春音優月
BL
真面目でおとなしい性格の藤村歩夢は、武士と呼ばれているクラスメイトの大谷虎太郎に密かに片想いしている。
クラスではほとんど会話も交わさないのに、なぜか毎晩歩夢の夢に出てくる虎太郎。しかも夢の中での虎太郎は、歩夢を守る騎士で恋人だった。
夢では溺愛騎士、現実ではただのクラスメイト。夢と現実が交錯する片想いの行方は――。
2024.02.23〜02.27
イラスト:かもねさま
【奨励賞】恋愛感情抹消魔法で元夫への恋を消去する
SKYTRICK
BL
☆11/28完結しました。
☆第11回BL小説大賞奨励賞受賞しました。ありがとうございます!
冷酷大元帥×元娼夫の忘れられた夫
——「また俺を好きになるって言ったのに、嘘つき」
元娼夫で現魔術師であるエディことサラは五年ぶりに祖国・ファルンに帰国した。しかし暫しの帰郷を味わう間も無く、直後、ファルン王国軍の大元帥であるロイ・オークランスの使者が元帥命令を掲げてサラの元へやってくる。
ロイ・オークランスの名を知らぬ者は世界でもそうそういない。魔族の血を引くロイは人間から畏怖を大いに集めながらも、大将として国防戦争に打ち勝ち、たった二十九歳で大元帥として全軍のトップに立っている。
その元帥命令の内容というのは、五年前に最愛の妻を亡くしたロイを、魔族への本能的な恐怖を感じないサラが慰めろというものだった。
ロイは妻であるリネ・オークランスを亡くし、悲しみに苛まれている。あまりの辛さで『奥様』に関する記憶すら忘却してしまったらしい。半ば強引にロイの元へ連れていかれるサラは、彼に己を『サラ』と名乗る。だが、
——「失せろ。お前のような娼夫など必要としていない」
噂通り冷酷なロイの口からは罵詈雑言が放たれた。ロイは穢らわしい娼夫を睨みつけ去ってしまう。使者らは最愛の妻を亡くしたロイを憐れむばかりで、まるでサラの様子を気にしていない。
誰も、サラこそが五年前に亡くなった『奥様』であり、最愛のその人であるとは気付いていないようだった。
しかし、最大の問題は元夫に存在を忘れられていることではない。
サラが未だにロイを愛しているという事実だ。
仕方なく、『恋愛感情抹消魔法』を己にかけることにするサラだが——……
☆描写はありませんが、受けがモブに抱かれている示唆はあります(男娼なので)
☆お読みくださりありがとうございます。良ければ感想などいただけるとパワーになります!
思い出して欲しい二人
春色悠
BL
喫茶店でアルバイトをしている鷹木翠(たかぎ みどり)。ある日、喫茶店に初恋の人、白河朱鳥(しらかわ あすか)が女性を伴って入ってきた。しかも朱鳥は翠の事を覚えていない様で、幼い頃の約束をずっと覚えていた翠はショックを受ける。
そして恋心を忘れようと努力するが、昔と変わったのに変わっていない朱鳥に寧ろ、どんどん惚れてしまう。
一方朱鳥は、バッチリと翠の事を覚えていた。まさか取引先との昼食を食べに行った先で、再会すると思わず、緩む頬を引き締めて翠にかっこいい所を見せようと頑張ったが、翠は朱鳥の事を覚えていない様。それでも全く愛が冷めず、今度は本当に結婚するために翠を落としにかかる。
そんな二人の、もだもだ、じれったい、さっさとくっつけ!と、言いたくなるようなラブロマンス。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる