俺は魔法使いの息子らしい。

高穂もか

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第一部 決闘大会編

二十八話

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「うおおおお!」
「違う、吉村! もっと己の中の風を感じろ!」
「うすっ! うおおお」
「違ーう!」

 早朝、俺はグラウンドを全力疾走していた。
 並走する葛城先生に、ビシバシ檄を飛ばされつつ、風の元素を掴みにかかる。
 ふわふわ、ふわふわ、ってひたすら念じてさ。
 昨夜から、あのかんじを再現しようとすんだけど。ホカホカあったまるばっかりで、やっぱり遠い。
 と、森脇が横をスーッと走り抜け、俺を二周遅れにしていった。少し前を行く、片倉先輩のことも追い越していく。
 おお。すげえなー、森脇。
 森脇は、普通に走るとしんどそうなのに、コントロールを始めると一番速いんだ。
 それから、しばらく走って、終了の号令がかけられる。
 葛城先生は、職員会議があるらしくって、昨日より早い解散だ。

「葛城先生、ありがとうございました!」
「うむ、お疲れ。みんな、授業に遅れないようにな!」

 全員でぺこりと礼をする。
 タオルで汗を拭ってると、近寄ってきた葛城先生に肩をポンと叩かれた。
 先生は、サコッシュから一冊の本を取り出すと、俺に差し出した。

「吉村、この本を読め。魔力コントロールのコツが、わかりやすく書いてある」
「えっ、いいんすか」
「お前は、どうも勘が鈍いようだから、理論もきちんとやるといい。だが、今日の「ふわふわ」とかいう、気づきは良かった。この調子で頑張れよ」
「はい! ありがとうございます!」

 本を受け取って、がばっと頭を下げる。
 葛城先生は「うむ」と頷いて、たったったと軽快に走り去って行く。
 いい先生だよな、熱くてさ。俺は、ジンとしながら、本を大事に抱えた。



 俺たちはそろって、更衣室で着替えた。
 古くて、あんまり使われてないところだから、三人だけの貸し切り状態だ。
 俺と森脇は、隣同士のロッカーで世間話しながら着替えた。片倉先輩は、ひとりだけ遠いロッカーで、背を向けて着替えてる。恥ずかしがり屋なんかな。
 
「あれっ、森脇って青なんだ」
「あ、う、うん」

 森脇がネクタイを締めるのを見て、思わず声を上げる。制服着てんの見たことなかったから、知らんかった。

「すげー、初めて見た! 俺のクラス、青いねえんだー」
「そ、そう? 僕のクラスは結構いるけど……」
「へえ!」

 青も、実は結構珍しいんだよな。食堂とかでも、そんなに見ないしさ。
 ちょっと得した気分で、俺もネクタイを結んでいると、森脇がじっと手元を見ていることに気づく。

「どうした?」
「あ、いや。吉村くんは、黒なんだね」
「おう、そうだよ。びっくりした?」

 片倉先輩も、何でかびっくりしてたみたいだし。まあ、黒もけっこう珍しいからなあ。
 すると、森脇はぶんぶん首を振る。

「う、ううん。平気。じ、実は、そうなんじゃないかって思ってた」
「おっ、マジで?」
「うん」

 森脇は、ちょっとはにかんで頷いた。
 と、ふいにハッとしたように振り向いた。いきなり、風車みたいに腕をぶんぶん振って、捲し立てるように喋り出す。

「あっあの、わ、悪い意味じゃないんだよ! ……ただ、吉村くん、魔力コントロール、苦手みたいだったから。だから、黒なのかと思っただけで、その、他意は無くて……っ」
「? うん」

 なぜか、めっちゃ慌ててる森脇に、ちょっとポカンとする。
 ニカッと笑って頷くと、森脇はホッとした顔になった。よくわかんねえけど、森脇ってかなり「気にしい」のタイプなのかもな。
 そのとき、バタン! とロッカーを閉める大きい音がした。
 振り向くと、着替え終えた片倉先輩が、鞄を肩にかけて斜めに立っている。眼鏡の下の目が鋭くて、なんか不機嫌そうだ。

「お先」

 先輩は、ぶっきらぼうに呟くと、ツカツカと俺たちの前を通り過ぎてく。

「片倉先輩、お疲れさんです!」
「お、お疲れ様です……」

 と、森脇の前を通る一瞬、先輩が「ふん」と馬鹿にしたように鼻を鳴らしてった。
 気にしいの同級生は、びくっと肩を震わせる。
 俺は、先輩の不機嫌な態度が謎で、ととっと側に駆け寄った。

「ちょ、先輩。どうしたんすか?」
「るせえ、馬鹿」
「ええっ!」

 何、その唐突な罵倒!
 あっけにとられているうちに、先輩は更衣室を出てってしまう。ええっ、一体どうしたってんだろう。
 俺は首を傾げつつ、しおしおと項垂れる森脇の背を叩いた。
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