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第一部 決闘大会編
二十七話
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須々木先輩が喋り出すと、みんなピタッとお喋りをやめた。
マイクを通しても澄んだ声が、食堂中に響く。
「えー、はい。また明日、掲示板に張らせてもらおーと思ってますが、取り急ぎお知らせします。冬季決闘大会にむけて、明日から通常の決闘には回数制限つけることになりました。決闘の開催は、日に三件までとします。また、生徒会役員・風紀委員への挑戦も、大会終わるまで、受け付けを停止します」
先輩の言葉に、生徒がどよめいた。
食堂のあちこちで、「え、何で?」「普段、そんなことないのに」と疑問の声が上がる。
須々木先輩は、「はい、静かに!」と手を叩いた。
「決闘の制限については――以前から、再三注意されてたことなんですが。大会直前の、期末テストね? 毎年、決闘にかまけて、赤点のコがめっっちゃ出るそうなんです。ほんで、「お前らもっと勉強せぇ」言うことで、今年はついに制限付きました」
おどけた調子で告げられた言葉に、心当たりありそうな生徒が「あー……」とワビしい声で呻く。
須々木先輩は食堂を見回して、言葉を続ける。
「ぼくら生徒会と、風紀委員への挑戦停止も、まあ同じような理由です。ぼくらも、大会の準備等でどんどん忙しなってくるからね。ここは、大会までの我慢やと思って、お互い大人しく勉強しときましょう」
先輩が、にっこりと大きな笑顔で話を締めくくると、大きな拍手が起こる。
一緒になって手を叩いてたら、めっちゃいい声がマイクに入る。
「借りていいですか、先輩」
「ほい、ええよ」
須々木先輩は、八千草先輩にマイクを渡すと一歩下がった。
逆に、一歩前に出た八千草先輩は、どんと舞台に仁王立ちになる。
「すでに須々木先輩が仰ったように、生徒会と風紀への挑戦は、大会まで受け付け停止する。だが、決闘大会での「決闘予約」なら受け付けるから、遠慮なく言いに来て欲しい。俺たちはトップの義務として、誰の挑戦でも拒まない」
そこで、一旦言葉を切った先輩は、ニヤッと挑発的に笑った。
「つーわけで、てめえら遠慮なくかかってこいよ! 俺は、会長の座でも、ほっぺにチューでも、腹踊りでも、どんな条件でも受け付けてるぜ!」
拳を上げて、すげえ好戦的なことを言った先輩に、「ヒューッ」と口笛吹いたり、煽ったり、食堂はハチの巣を突っついたみたいな騒ぎになった。
でも、かっけえ。俺もいっぺんくらい、あんなこと言って見てえぜっ!
パチパチ拍手してると、片倉先輩が半目になっている。なんで?
「まったく君は。煽りすぎると、痛い目見ますよ」
「いいじゃねえか。夏んときゃ、退屈すぎて死ぬかと思ったんだよ」
舞台の上では、須々木先輩が爆笑してて、副会長は呆れ顔になっている。
言った当人は、満足そうに副会長にマイクを渡してた。
副会長は、二、三度咳払いして皆を静かにすると、流れるように話し出す。
「この期間中、決闘を無理に行使した場合、双方にペナルティを与えることになります。皆さん、注意してください。今、お伝えしたことは、後々、掲示板などから情報が伝達されることかと思いますが――ここにいない友人や、先輩・後輩に出来る限り伝えてあげてくださいね。では、私たちからの連絡は以上です――皆さん、お食事中に失礼しました」
ハキハキと締めくくり、副会長は綺麗な一礼をした。長い髪が、肩をトゥルトゥルすべりおちていく。シャンプー何使ってんだろ。
三人は、颯爽と舞台を下りる。来た時のように生徒達の間を抜け、ビッグウェーブをつくり去って行った。
三人が出てったあと、食堂全体がざわついた。
なんか、口々に決闘大会のこととか、生徒会のことで盛り上がってるみてえだ。
「とっとと食え。明日も早いだろ」
「あ、はい」
と、俺は片倉先輩に促され、慌ててスプーンを握った。見れば、先輩はもう食い終わりそうだ。
先輩を待たせるわけにいかないし、ペース上げてメシを頬張った。
片倉先輩と別れ、自室に戻る。
「ただいまでーす……あれ?」
部屋の中には、誰もいなかった。
西浦先輩のベッドも空になっているから、二人で飯でも食いに行ったのかもしれない。
俺は「よしっ」と気合を入れて、洗い替えのジャージに着替えた。
「走りに行ってきます。風呂はでかいとこに行きます」と書置きして、もう一度部屋を出る。
寮の敷地は広いから、ジョギングにうってつけだ。
決闘大会までそんなに日がないし、やれることはやっときたいもんな。
それに、食堂で決闘大会で盛り上がってたの見て、つられてワクワクしてる。じっとしてらんねえぜ! てかんじ。
しばらく走ってると、体がホカホカしてきた。やっぱ、ソワソワとかはよくわかんねえけど……。
イノリは、何て言ってたっけ。そうだ、『俺は風の元素が多いから、長く走るとふわふわ浮く感じがする』って……。
あ! そういえば。
今日、イノリと手を合わせたとき、なんかふわふわした。
さあって、風が通り抜けたみたいな、不思議な感覚。
イノリの魔力は、風の元素が強いんだよな。
もしかして、あれがソワソワに近いんだろうか――?
「やべえ!俺、気づいちゃったかも?!」
にわかにテンションが上がる。もしや大発見じゃね、これ!
そうとわかれば、あの間隔を思い出さねば。
俺は、走りながら意識を集中する。ふわふわ、ふわふわ……。
「うーーーーん」
やっぱ、わかんねえ。
でも、この思い付きは、正しい気がする。勘だけど。
俺は「うおおお」とやる気全開で走りまくった。
マイクを通しても澄んだ声が、食堂中に響く。
「えー、はい。また明日、掲示板に張らせてもらおーと思ってますが、取り急ぎお知らせします。冬季決闘大会にむけて、明日から通常の決闘には回数制限つけることになりました。決闘の開催は、日に三件までとします。また、生徒会役員・風紀委員への挑戦も、大会終わるまで、受け付けを停止します」
先輩の言葉に、生徒がどよめいた。
食堂のあちこちで、「え、何で?」「普段、そんなことないのに」と疑問の声が上がる。
須々木先輩は、「はい、静かに!」と手を叩いた。
「決闘の制限については――以前から、再三注意されてたことなんですが。大会直前の、期末テストね? 毎年、決闘にかまけて、赤点のコがめっっちゃ出るそうなんです。ほんで、「お前らもっと勉強せぇ」言うことで、今年はついに制限付きました」
おどけた調子で告げられた言葉に、心当たりありそうな生徒が「あー……」とワビしい声で呻く。
須々木先輩は食堂を見回して、言葉を続ける。
「ぼくら生徒会と、風紀委員への挑戦停止も、まあ同じような理由です。ぼくらも、大会の準備等でどんどん忙しなってくるからね。ここは、大会までの我慢やと思って、お互い大人しく勉強しときましょう」
先輩が、にっこりと大きな笑顔で話を締めくくると、大きな拍手が起こる。
一緒になって手を叩いてたら、めっちゃいい声がマイクに入る。
「借りていいですか、先輩」
「ほい、ええよ」
須々木先輩は、八千草先輩にマイクを渡すと一歩下がった。
逆に、一歩前に出た八千草先輩は、どんと舞台に仁王立ちになる。
「すでに須々木先輩が仰ったように、生徒会と風紀への挑戦は、大会まで受け付け停止する。だが、決闘大会での「決闘予約」なら受け付けるから、遠慮なく言いに来て欲しい。俺たちはトップの義務として、誰の挑戦でも拒まない」
そこで、一旦言葉を切った先輩は、ニヤッと挑発的に笑った。
「つーわけで、てめえら遠慮なくかかってこいよ! 俺は、会長の座でも、ほっぺにチューでも、腹踊りでも、どんな条件でも受け付けてるぜ!」
拳を上げて、すげえ好戦的なことを言った先輩に、「ヒューッ」と口笛吹いたり、煽ったり、食堂はハチの巣を突っついたみたいな騒ぎになった。
でも、かっけえ。俺もいっぺんくらい、あんなこと言って見てえぜっ!
パチパチ拍手してると、片倉先輩が半目になっている。なんで?
「まったく君は。煽りすぎると、痛い目見ますよ」
「いいじゃねえか。夏んときゃ、退屈すぎて死ぬかと思ったんだよ」
舞台の上では、須々木先輩が爆笑してて、副会長は呆れ顔になっている。
言った当人は、満足そうに副会長にマイクを渡してた。
副会長は、二、三度咳払いして皆を静かにすると、流れるように話し出す。
「この期間中、決闘を無理に行使した場合、双方にペナルティを与えることになります。皆さん、注意してください。今、お伝えしたことは、後々、掲示板などから情報が伝達されることかと思いますが――ここにいない友人や、先輩・後輩に出来る限り伝えてあげてくださいね。では、私たちからの連絡は以上です――皆さん、お食事中に失礼しました」
ハキハキと締めくくり、副会長は綺麗な一礼をした。長い髪が、肩をトゥルトゥルすべりおちていく。シャンプー何使ってんだろ。
三人は、颯爽と舞台を下りる。来た時のように生徒達の間を抜け、ビッグウェーブをつくり去って行った。
三人が出てったあと、食堂全体がざわついた。
なんか、口々に決闘大会のこととか、生徒会のことで盛り上がってるみてえだ。
「とっとと食え。明日も早いだろ」
「あ、はい」
と、俺は片倉先輩に促され、慌ててスプーンを握った。見れば、先輩はもう食い終わりそうだ。
先輩を待たせるわけにいかないし、ペース上げてメシを頬張った。
片倉先輩と別れ、自室に戻る。
「ただいまでーす……あれ?」
部屋の中には、誰もいなかった。
西浦先輩のベッドも空になっているから、二人で飯でも食いに行ったのかもしれない。
俺は「よしっ」と気合を入れて、洗い替えのジャージに着替えた。
「走りに行ってきます。風呂はでかいとこに行きます」と書置きして、もう一度部屋を出る。
寮の敷地は広いから、ジョギングにうってつけだ。
決闘大会までそんなに日がないし、やれることはやっときたいもんな。
それに、食堂で決闘大会で盛り上がってたの見て、つられてワクワクしてる。じっとしてらんねえぜ! てかんじ。
しばらく走ってると、体がホカホカしてきた。やっぱ、ソワソワとかはよくわかんねえけど……。
イノリは、何て言ってたっけ。そうだ、『俺は風の元素が多いから、長く走るとふわふわ浮く感じがする』って……。
あ! そういえば。
今日、イノリと手を合わせたとき、なんかふわふわした。
さあって、風が通り抜けたみたいな、不思議な感覚。
イノリの魔力は、風の元素が強いんだよな。
もしかして、あれがソワソワに近いんだろうか――?
「やべえ!俺、気づいちゃったかも?!」
にわかにテンションが上がる。もしや大発見じゃね、これ!
そうとわかれば、あの間隔を思い出さねば。
俺は、走りながら意識を集中する。ふわふわ、ふわふわ……。
「うーーーーん」
やっぱ、わかんねえ。
でも、この思い付きは、正しい気がする。勘だけど。
俺は「うおおお」とやる気全開で走りまくった。
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