俺は魔法使いの息子らしい。

高穂もか

文字の大きさ
上 下
27 / 239
第一部 決闘大会編

二十七話

しおりを挟む
 須々木先輩が喋り出すと、みんなピタッとお喋りをやめた。
 マイクを通しても澄んだ声が、食堂中に響く。

「えー、はい。また明日、掲示板に張らせてもらおーと思ってますが、取り急ぎお知らせします。冬季決闘大会にむけて、明日から通常の決闘には回数制限つけることになりました。決闘の開催は、日に三件までとします。また、生徒会役員・風紀委員への挑戦も、大会終わるまで、受け付けを停止します」

 先輩の言葉に、生徒がどよめいた。
 食堂のあちこちで、「え、何で?」「普段、そんなことないのに」と疑問の声が上がる。
 須々木先輩は、「はい、静かに!」と手を叩いた。

「決闘の制限については――以前から、再三注意されてたことなんですが。大会直前の、期末テストね? 毎年、決闘にかまけて、赤点のコがめっっちゃ出るそうなんです。ほんで、「お前らもっと勉強せぇ」言うことで、今年はついに制限付きました」

 おどけた調子で告げられた言葉に、心当たりありそうな生徒が「あー……」とワビしい声で呻く。
 須々木先輩は食堂を見回して、言葉を続ける。

「ぼくら生徒会と、風紀委員への挑戦停止も、まあ同じような理由です。ぼくらも、大会の準備等でどんどん忙しなってくるからね。ここは、大会までの我慢やと思って、お互い大人しく勉強しときましょう」

 先輩が、にっこりと大きな笑顔で話を締めくくると、大きな拍手が起こる。
 一緒になって手を叩いてたら、めっちゃいい声がマイクに入る。

「借りていいですか、先輩」
「ほい、ええよ」

 須々木先輩は、八千草先輩にマイクを渡すと一歩下がった。
 逆に、一歩前に出た八千草先輩は、どんと舞台に仁王立ちになる。

「すでに須々木先輩が仰ったように、生徒会と風紀への挑戦は、大会まで受け付け停止する。だが、決闘大会での「決闘予約」なら受け付けるから、遠慮なく言いに来て欲しい。俺たちはトップの義務として、誰の挑戦でも拒まない」

 そこで、一旦言葉を切った先輩は、ニヤッと挑発的に笑った。

「つーわけで、てめえら遠慮なくかかってこいよ! 俺は、会長の座でも、ほっぺにチューでも、腹踊りでも、どんな条件でも受け付けてるぜ!」

 拳を上げて、すげえ好戦的なことを言った先輩に、「ヒューッ」と口笛吹いたり、煽ったり、食堂はハチの巣を突っついたみたいな騒ぎになった。
 でも、かっけえ。俺もいっぺんくらい、あんなこと言って見てえぜっ!
 パチパチ拍手してると、片倉先輩が半目になっている。なんで?

「まったく君は。煽りすぎると、痛い目見ますよ」
「いいじゃねえか。夏んときゃ、退屈すぎて死ぬかと思ったんだよ」

 舞台の上では、須々木先輩が爆笑してて、副会長は呆れ顔になっている。
 言った当人は、満足そうに副会長にマイクを渡してた。
 副会長は、二、三度咳払いして皆を静かにすると、流れるように話し出す。
 
「この期間中、決闘を無理に行使した場合、双方にペナルティを与えることになります。皆さん、注意してください。今、お伝えしたことは、後々、掲示板などから情報が伝達されることかと思いますが――ここにいない友人や、先輩・後輩に出来る限り伝えてあげてくださいね。では、私たちからの連絡は以上です――皆さん、お食事中に失礼しました」

 ハキハキと締めくくり、副会長は綺麗な一礼をした。長い髪が、肩をトゥルトゥルすべりおちていく。シャンプー何使ってんだろ。
 三人は、颯爽と舞台を下りる。来た時のように生徒達の間を抜け、ビッグウェーブをつくり去って行った。
 三人が出てったあと、食堂全体がざわついた。
 なんか、口々に決闘大会のこととか、生徒会のことで盛り上がってるみてえだ。

「とっとと食え。明日も早いだろ」
「あ、はい」

 と、俺は片倉先輩に促され、慌ててスプーンを握った。見れば、先輩はもう食い終わりそうだ。
 先輩を待たせるわけにいかないし、ペース上げてメシを頬張った。



 片倉先輩と別れ、自室に戻る。

「ただいまでーす……あれ?」

 部屋の中には、誰もいなかった。
 西浦先輩のベッドも空になっているから、二人で飯でも食いに行ったのかもしれない。
 俺は「よしっ」と気合を入れて、洗い替えのジャージに着替えた。
 「走りに行ってきます。風呂はでかいとこに行きます」と書置きして、もう一度部屋を出る。
 寮の敷地は広いから、ジョギングにうってつけだ。
 決闘大会までそんなに日がないし、やれることはやっときたいもんな。
 それに、食堂で決闘大会で盛り上がってたの見て、つられてワクワクしてる。じっとしてらんねえぜ! てかんじ。
 しばらく走ってると、体がホカホカしてきた。やっぱ、ソワソワとかはよくわかんねえけど……。
 イノリは、何て言ってたっけ。そうだ、『俺は風の元素が多いから、長く走るとふわふわ浮く感じがする』って……。
 あ! そういえば。
 今日、イノリと手を合わせたとき、なんかふわふわした。
 さあって、風が通り抜けたみたいな、不思議な感覚。
 イノリの魔力は、風の元素が強いんだよな。
 もしかして、あれがソワソワに近いんだろうか――?
 
「やべえ!俺、気づいちゃったかも?!」

 にわかにテンションが上がる。もしや大発見じゃね、これ!
 そうとわかれば、あの間隔を思い出さねば。
 俺は、走りながら意識を集中する。ふわふわ、ふわふわ……。

「うーーーーん」

 やっぱ、わかんねえ。
 でも、この思い付きは、正しい気がする。勘だけど。
 俺は「うおおお」とやる気全開で走りまくった。
しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

いとしの生徒会長さま

もりひろ
BL
大好きな親友と楽しい高校生活を送るため、急きょアメリカから帰国した俺だけど、編入した学園は、とんでもなく変わっていた……! しかも、生徒会長になれとか言われるし。冗談じゃねえっつの!

【完結】I adore you

ひつじのめい
BL
幼馴染みの蒼はルックスはモテる要素しかないのに、性格まで良くて羨ましく思いながらも夏樹は蒼の事を1番の友達だと思っていた。 そんな時、夏樹に彼女が出来た事が引き金となり2人の関係に変化が訪れる。 ※小説家になろうさんでも公開しているものを修正しています。

学園の俺様と、辺境地の僕

そらうみ
BL
この国の三大貴族の一つであるルーン・ホワイトが、何故か僕に構ってくる。学園生活を平穏に過ごしたいだけなのに、ルーンのせいで僕は皆の注目の的となってしまった。卒業すれば関わることもなくなるのに、ルーンは一体…何を考えているんだ? 【全12話になります。よろしくお願いします。】

ある日、木から落ちたらしい。どういう状況だったのだろうか。

水鳴諒
BL
 目を覚ますとズキリと頭部が痛んだ俺は、自分が記憶喪失だと気づいた。そして風紀委員長に面倒を見てもらうことになった。(風紀委員長攻めです)

俺の親友がモテ過ぎて困る

くるむ
BL
☆完結済みです☆ 番外編として短い話を追加しました。 男子校なのに、当たり前のように毎日誰かに「好きだ」とか「付き合ってくれ」とか言われている俺の親友、結城陽翔(ゆうきはるひ) 中学の時も全く同じ状況で、女子からも男子からも追い掛け回されていたらしい。 一時は断るのも面倒くさくて、誰とも付き合っていなければそのままOKしていたらしいのだけど、それはそれでまた面倒くさくて仕方がなかったのだそうだ(ソリャソウダロ) ……と言う訳で、何を考えたのか陽翔の奴、俺に恋人のフリをしてくれと言う。 て、お前何考えてんの? 何しようとしてんの? ……てなわけで、俺は今日もこいつに振り回されています……。 美形策士×純情平凡♪

夢では溺愛騎士、現実ではただのクラスメイト

春音優月
BL
真面目でおとなしい性格の藤村歩夢は、武士と呼ばれているクラスメイトの大谷虎太郎に密かに片想いしている。 クラスではほとんど会話も交わさないのに、なぜか毎晩歩夢の夢に出てくる虎太郎。しかも夢の中での虎太郎は、歩夢を守る騎士で恋人だった。 夢では溺愛騎士、現実ではただのクラスメイト。夢と現実が交錯する片想いの行方は――。 2024.02.23〜02.27 イラスト:かもねさま

【奨励賞】恋愛感情抹消魔法で元夫への恋を消去する

SKYTRICK
BL
☆11/28完結しました。 ☆第11回BL小説大賞奨励賞受賞しました。ありがとうございます! 冷酷大元帥×元娼夫の忘れられた夫 ——「また俺を好きになるって言ったのに、嘘つき」 元娼夫で現魔術師であるエディことサラは五年ぶりに祖国・ファルンに帰国した。しかし暫しの帰郷を味わう間も無く、直後、ファルン王国軍の大元帥であるロイ・オークランスの使者が元帥命令を掲げてサラの元へやってくる。 ロイ・オークランスの名を知らぬ者は世界でもそうそういない。魔族の血を引くロイは人間から畏怖を大いに集めながらも、大将として国防戦争に打ち勝ち、たった二十九歳で大元帥として全軍のトップに立っている。 その元帥命令の内容というのは、五年前に最愛の妻を亡くしたロイを、魔族への本能的な恐怖を感じないサラが慰めろというものだった。 ロイは妻であるリネ・オークランスを亡くし、悲しみに苛まれている。あまりの辛さで『奥様』に関する記憶すら忘却してしまったらしい。半ば強引にロイの元へ連れていかれるサラは、彼に己を『サラ』と名乗る。だが、 ——「失せろ。お前のような娼夫など必要としていない」 噂通り冷酷なロイの口からは罵詈雑言が放たれた。ロイは穢らわしい娼夫を睨みつけ去ってしまう。使者らは最愛の妻を亡くしたロイを憐れむばかりで、まるでサラの様子を気にしていない。 誰も、サラこそが五年前に亡くなった『奥様』であり、最愛のその人であるとは気付いていないようだった。 しかし、最大の問題は元夫に存在を忘れられていることではない。 サラが未だにロイを愛しているという事実だ。 仕方なく、『恋愛感情抹消魔法』を己にかけることにするサラだが——…… ☆描写はありませんが、受けがモブに抱かれている示唆はあります(男娼なので) ☆お読みくださりありがとうございます。良ければ感想などいただけるとパワーになります!

思い出して欲しい二人

春色悠
BL
 喫茶店でアルバイトをしている鷹木翠(たかぎ みどり)。ある日、喫茶店に初恋の人、白河朱鳥(しらかわ あすか)が女性を伴って入ってきた。しかも朱鳥は翠の事を覚えていない様で、幼い頃の約束をずっと覚えていた翠はショックを受ける。  そして恋心を忘れようと努力するが、昔と変わったのに変わっていない朱鳥に寧ろ、どんどん惚れてしまう。  一方朱鳥は、バッチリと翠の事を覚えていた。まさか取引先との昼食を食べに行った先で、再会すると思わず、緩む頬を引き締めて翠にかっこいい所を見せようと頑張ったが、翠は朱鳥の事を覚えていない様。それでも全く愛が冷めず、今度は本当に結婚するために翠を落としにかかる。  そんな二人の、もだもだ、じれったい、さっさとくっつけ!と、言いたくなるようなラブロマンス。

処理中です...