俺は魔法使いの息子らしい。

高穂もか

文字の大きさ
14 / 239
第一部 決闘大会編

十四話

しおりを挟む
「トキちゃん、生徒会長が話しに来たの覚えてる?」
「おう、もちろん」

 俺は、あの日のことを思い出した。
 たしか、転校して三日目だったはず。
 俺のクラスで昼飯を食っていたら、生徒会長の八千草先輩がイノリを訪ねてきた。
 あの人が入ってきた瞬間、ぶわってクラスの空気が浮き立って、なんか異様だったっけ。

「桜沢祈、大事な話がある。ちょっと顔貸せよ」

 なんつって、「否とは言わせねえぜ」って態度で、顎をしゃくってさ。
 イノリはイノリで「いま、ご飯食べてるのでー」って、どこ吹く風で答えてた。
 俺はと言うと、はらはらしてたな。
 っていうのも、地味に体育会系だったからさ。先輩の言う事にゃ、とりあえず「はい!」って言うもんだってのが、染みついてるわけ。
 俺は、そっぽ向いていたイノリの袖を引いた。
「おい、行ったほうがいんじゃね? なんなら俺もついて行くからさ」って耳打ちすると、イノリはへにゃんと眉を下げた。
 で、しぶしぶ「トキちゃんはごはん食べててー」ってついて行ったんだ。
 二人が出てったあとも、クラスメイトはざわついてて、好き勝手に色々話してた。「生徒会の勧誘じゃないか」って声が一番でかかったな。
 実際、戻ってきたイノリに聞けば、そういう話だったらしく。

「何かねえ、生徒会入んないかって言われたんだぁ。でも、今は席が空いてないから、誰かに決闘挑んで、勝ったら入れてやるってさ。何それ、超めんどくせーって思ったから、「興味ないでーす」って、帰ってきた」

 怖いもん知らず過ぎて、ビビったから良く覚えてる。
 
 でも、肩口になつくイノリは、生徒会とかどうでも良さそうで。生徒会って話によれば、世紀末なやつらの集まりだし、危なそうだって俺も思ったし。
 ま、いいかって、話はそこで終わったはずだった。

「それがどうして、生徒会に入ろうって思ったんだ?」

 イノリは、俺と距離を置いてから生徒会に入った。庶務の藤川先輩に決闘を挑み、その席を手に入れたのだと、学校中の噂になっていた。そりゃ、驚いたさ。
 イノリは、膝の上で両手を握りしめた。

「生徒会に入ったのは……ちからが欲しかったから」
「え?」

 ちからとな。思わずきょとんとしちまうが、イノリの顔は真剣そのものだ。

「序列の「紫」ってさ、数が少ないじゃん。だから、皆そこを目指すんだって。紫はすげー、ああなりてーって。別に、そんな大したもんじゃないのにね」

 イノリは自嘲気味に言って、ネクタイを指に絡めた。

「俺は、転校したての未熟な紫だから、標的にされたっぽいんだよね。毎日、決闘しろ、決闘しろってウザくてさー。ほら、決闘で勝ったら、相手の序列を奪えるじゃん。俺からなら、奪れると思ったんだろうね」
「なっ!」

 俺はぎょっとした。全部初めて聞いたことばっかりだ。がばっと立ち上がると、イノリの腕を掴み、揺さぶった。

「お前、そんなあぶねえ目にあってたのかよ?! 聞いてねえぞ、そんなん! おまえ、怪我とか――」 
「トキちゃん、大丈夫だよ! 俺、ぜんぶ断ってたんだ。決闘って、基本断わっちゃいけないらしいけど。俺は、転校したてだったし、猶予ってことで許されたから」
「そ、そっか。イノリ、ごめん……」

 イノリの言葉に、俺は手の力を抜いた。
 知らないうちに、イノリがそんな危ない目にあっていたなんてショックでさ。
 それに、全然気づけなかった自分にも、心底ガッカリだった。

「トキちゃん」
「!」

 そっと、俺の手が包むように握られる。顔を上げると、イノリが眉を下げて笑っていた。

「俺が隠してたんだよ。トキちゃんは何も悪くない」
「けどさ、」
「いいんだ。むしろ、俺があさはかだった。俺が適当にしてたせいで、トキちゃんが酷い目にあわされたんだから」
「え?」

 イノリは、ぎゅっと一度強く手を握ると離した。それから、両腕を伸ばして、俺を正面から引き寄せた。甘い香りに包みこまれる。

「イノリ?」
「ごめん。トキちゃん、もうあんな目にあわせないから……」

 イノリは辛そうな声で言うと、俺の肩や腕に触れた。まるで、俺の体がきちんと健康でいるか、確かめるようにやさしく。
 俺は、イノリが何を謝っているのかわからず、不思議だった。

「なあ、イノリ。何言ってんだ? なんで、そんな辛そうな顔してんだよ」

 手のひらでイノリの両頬を包む。イノリの目が、間近に大きく見開かれた。

「…………トキちゃん、覚えてないの?」
「何がよ」
「……そっか。なら、いいんだ。覚えてないなら、それが一番」

 驚愕していたイノリだったが、一人で何やら納得してしまったようだった。それじゃ、俺は釈然としないわけで口を尖らせる。

「いや、よくねぇだろ」
「いいんだよ。ただ、俺がさ。もうトキちゃんを危ない目に遭わせないって、そう思ってること。それだけ、知っておいて」
「えええ」

 イノリは、ニコっと笑う。やだ、俺の親友がカッコイイ。
 しかし、このイノリの過敏なかんじは何だ。一体、俺に何があったんだって言うんだろう。
 いや、そういえば。
 イノリに距離を置かれる直前、知らん間に医務室にいたけども……。

「会長にさ、中途半端な権力は自滅の元だって言われたんだよね。そのときは、意味わかんなかったけど、こういうことかぁって、後から思う部分があってね。だから、生徒会に入ることにしたんだ。とりあえず、みんなに一目置かれて見ようと思ってさ」
「つまり、なめられねえように?」
「そんなかんじ。俺がすげぇ強いってわかれば、なめた真似できなくなるかなあって」
「おお~」
「決闘受けまくって、かたっぱしからぼこぼこにしてみてる。最近、けっこう怖がられてきたかなって思うんだぁ」
「そ、そっかぁ」

 ニコニコと武闘派なことを話すイノリに、俺は内心ちょっとどぎまぎした。
 すると、イノリは、突然口を噤み、俺の手を取った。

「でね……昨日やっとこの部屋が俺のスポットってことになったんだ」
「スポット?」
「えっとね、生徒会とか、紫の強い生徒がよくいるとこっていうか……。縄張りみたいなかんじ。怖いから近寄っちゃ駄目だって、みんながルールにするんだって」
「ああ、なるほど!」

 俺は、ぽんと手を打った。さっきの青い頭の人が言ってた、スポットってのは上位者の縄張りのことだったのか。
 すると、イノリはじっと俺を見つめて言った。

「まだ、俺と一緒にいたら、100%安全って言えないんだ。外では、知らない顔しなきゃなんないと思う。でも、ここなら、危険なことは無いはずだから。だから……お昼だけでいいから、俺と一緒にいてくれる?」

 「駄目かな?」って、不安そうに揺れる目が言っていて。俺は、馬鹿だなって思った。その気持ちのまま、イノリに飛びついた。

「わっ!」
「当たり前だろ!」

 イノリと、また一緒にいられる。
 そんなこと、俺が喜ばないはずないじゃんか。

しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

オム・ファタールと無いものねだり

狗空堂
BL
この世の全てが手に入る者たちが、永遠に手に入れられないたった一つのものの話。 前野の血を引く人間は、人を良くも悪くもぐちゃぐちゃにする。その血の呪いのせいで、後田宗介の主人兼親友である前野篤志はトラブルに巻き込まれてばかり。 この度編入した金持ち全寮制の男子校では、学園を牽引する眉目秀麗で優秀な生徒ばかり惹きつけて学内風紀を乱す日々。どうやら篤志の一挙手一投足は『大衆に求められすぎる』天才たちの心に刺さって抜けないらしい。 天才たちは蟻の如く篤志に群がるし、それを快く思わない天才たちのファンからはやっかみを買うし、でも主人は毎日能天気だし。 そんな主人を全てのものから護る為、今日も宗介は全方向に噛み付きながら学生生活を奔走する。 これは、天才の影に隠れたとるに足らない凡人が、凡人なりに走り続けて少しずつ認められ愛されていく話。 2025.10.30 第13回BL大賞に参加しています。応援していただけると嬉しいです。 ※王道学園の脇役受け。 ※主人公は従者の方です。 ※序盤は主人の方が大勢に好かれています。 ※嫌われ(?)→愛されですが、全員が従者を愛すわけではありません。 ※呪いとかが平然と存在しているので若干ファンタジーです。 ※pixivでも掲載しています。 色々と初めてなので、至らぬ点がありましたらご指摘いただけますと幸いです。 いいねやコメントは頂けましたら嬉しくて踊ります。

隣の席のイケメンに懐かれた

しょうがやき
BL
隣の席のイケメンに懐かれた平凡男子の話

僕の彼氏は僕のことを好きじゃないⅠ/Ⅱ

MITARASI_
BL
I 彼氏に愛されているはずなのに、どうしてこんなに苦しいんだろう。 「好き」と言ってほしくて、でも返ってくるのは沈黙ばかり。 揺れる心を支えてくれたのは、ずっと隣にいた幼なじみだった――。 不器用な彼氏とのすれ違い、そして幼なじみの静かな想い。 すべてを失ったときに初めて気づく、本当に欲しかった温もりとは。 切なくて、やさしくて、最後には救いに包まれる救済BLストーリー。 Ⅱ 高校を卒業し、同じ大学へ進学した陸と颯馬。  別々の学部に進みながらも支え合い、やがて同棲を始めた二人は、通学の疲れや家事の分担といった小さな現実に向き合いながら、少しずつ【これから】を形にしていく。  未来の旅行を計画し、バイトを始め、日常を重ねていく日々。  恋人として選び合った関係は、穏やかに、けれど確かに深まっていく。  そんな中、陸の前に思いがけない再会をする。  過去と現在が交差するその瞬間が、二人の日常に小さな影を落としていく。  不安も、すれ違いも、言葉にできない想いも抱えながら。  それでも陸と颯馬は、互いの手を離さずに進もうとする。  高校編のその先を描く大学生活編。  選び続けることの意味を問いかける、二人の新たな物語。 続編執筆中

百合豚、男子校に入る。

BL
百合をこよなく愛する男子高校生・眞辺恵。 母の歪んだ価値観により共学への進学を断たれ、彼が入学させられたのは―― 男同士の恋愛が“文化”として成立している、全寮制男子校《私立瑞嶺学園》だった。 この学園では、生徒会長は「抱かれたいランキング」で選ばれ、美貌こそが正義とされる世界。 それでも眞辺は決意する。 生徒会長になり、この学校を“共学”に変え、間近で百合を拝むことを。 立ちはだかるのは、顔面至上主義の学園制度、性に奔放すぎるイケメンな幼馴染、そして彼らに憧れ恋をする生徒たち。 さらに何故か、学園の人気者たちに次々と目をつけられてしまい――。 百合を拝むため男子校を変えようとする異端者が、歪んだ王道学園を改革する物語。

【完結済】俺のモノだと言わない彼氏

竹柏凪紗
BL
「俺と付き合ってみねぇ?…まぁ、俺、彼氏いるけど」彼女に罵倒されフラれるのを寮部屋が隣のイケメン&遊び人・水島大和に目撃されてしまう。それだけでもショックなのに壁ドン状態で付き合ってみないかと迫られてしまった東山和馬。「ははは。いいねぇ。お前と付き合ったら、教室中の女子に刺されそう」と軽く受け流した。…つもりだったのに、翌日からグイグイと迫られるうえ束縛まではじまってしまい──?! ■青春BLに限定した「第1回青春×BL小説カップ」最終21位まで残ることができ感謝しかありません。応援してくださった皆様、本当にありがとうございました。

とある金持ち学園に通う脇役の日常~フラグより飯をくれ~

無月陸兎
BL
山奥にある全寮制男子校、桜白峰学園。食べ物目当てで入学した主人公は、学園の権力者『REGAL4』の一人、一条貴春の不興を買い、学園中からハブられることに。美味しい食事さえ楽しめれば問題ないと気にせず過ごしてたが、転入生の扇谷時雨がやってきたことで、彼の日常は波乱に満ちたものとなる──。 自分の親友となった時雨が学園の人気者たちに迫られるのを横目で見つつ、主人公は巻き込まれて恋人のフリをしたり、ゆるく立ちそうな恋愛フラグを避けようと奮闘する物語です。

両片思いの幼馴染

kouta
BL
密かに恋をしていた幼馴染から自分が嫌われていることを知って距離を取ろうとする受けと受けの突然の変化に気づいて苛々が止まらない攻めの両片思いから始まる物語。 くっついた後も色々とすれ違いながら最終的にはいつもイチャイチャしています。 めちゃくちゃハッピーエンドです。

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。

処理中です...