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第29話 触れる以上(4)

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「顔、見たいんですけど……後ろからの方が楽だと思うので」
「あ、はい」

 下着を脱いで、コンドームを付ける所を少しだけ見たけど……浅野さんのは体格通りと言うか、想像通りと言うか、当たっている感覚通りと言うか……大きかった。
 ビックリするほど大きいわけじゃないけど、銭湯とかで見かけたら「お、立派ですね」と絶対に思う程度には大きい。
 アナルを弄られている間は気持ちよくて冷静じゃなかったけど、改めて考えると……入るのか?
 入る……よな?

「最初、苦しいと思いますけど……我慢できなかったら絶対に言ってくださいね? 止めるか、抜くか、絶対にしますから」
「浅野さん……」

 少しでも俺の緊張を解そうとしてくれているのか、腰の辺りを優しく撫でながら、四つん這いになった俺のアナルに浅野さんが先端を触れさせる。

「ちょっとだけ、イキんで……入れますね?」
「ん……っ!」

 ぐわっと、入り口が広がった。
 一瞬痛くなる気がしたけど……裂傷のような痛さは無かった。
 でも、苦しい。
 身体がきしむ。
 腰のあたりの肉? 股関節? 骨盤? 内側から体の中が広げられている感覚が気持ち悪い。

「う……ぐ……」

 気持ち悪いけど……あ、なんか……入るのは、入るな。
 あれだけ慣らしたから当然か。

「はぁ……桜田さん。もう少しだけ……」
「いっ! う……ぐっ、ぅ……」

 更に括約筋が広げられて……あ?
 なんか、ぐぽっと、「入った」感が……?

「はぁ……はぁ……桜田さん……太いところ、入りましたから……」
「は、はい……」

 太いところ……自分にもついている男性器の形状を思い出して、納得する。
 先端の部分が入ったのか。あれが入るなら……後の部分は苦しくない……か?

「苦しいですよね? 慣れるまで待ちますから」
「んっ! あ……」

 浅野さんが上半身を倒して、俺の体を後ろから抱きしめてくれる。

「嬉しいです。桜田さんとこんなに密着できるの。夢みたいです」
「あ……浅野さん……」

 これ……後ろからギュってしてもらうの……めちゃくちゃほっとする。
 電車の中で散々してもらってきたからか。
 逞しい腕で抱きしめられる安心感。
 背中に感じる体温。
 耳元で囁かれる優しい声。
 頭を撫でてくれたり、肩をポンポンと叩いてくれたりするのも、これ、好きなやつ。

「ん……」

 しかも、電車の中と違って、お互い裸。
 素肌同士が触れ合って、体温をより感じるし、汗とか、感触とか……。

「桜田さん……中、柔らかくてすごく気持ちいいです」

 身体の力が抜けると、浅野さんが少しだけ腰を進める。
 
「あっ……ん!」

 自分の口から驚くほど甘い声が出て慌てて口を閉じた。
 さっきまで苦しかったのに……あれ?

「気持ちよくなってきました? 奥がいいのかな……」
「んっ、あ、あ、あ!」

 ゆっくりゆっくり浅野さんが奥へ進むたびに、浅野さんが目指す先がジンジンして……そわそわして……期待して……あ!?

「あぁ!?」

 ベッドに額が付くほど俯いていた顔が、仰け反るように上がった。
 身体に電流が走ったみたいに震える。
 震えるって言うか……これは……?

「ここですね?」
「ん、あ! あぁ! あ、え?」
「大丈夫、前立腺ですよ。さっき気持ちよかったところ。気持ちいい場所ですから……」

 気持ちいい場所? じゃあ、今、俺……これ……。
 気持ちいいんだ。

「安心して気持ちよくなって、桜田さん」
「いっ! あ、アァ!」

 浅野さんが緩くだけど腰を振る。
 中の、気持ちいい場所が擦れて、気持ちいい。
 俺、浅野さんで気持ち良くなってる。
 俺の中に、浅野さんがいる。
 うわ。
 これ……いい。

「あ、あ、あぁ、あ、だめ、足、もう……」

 なんとか肘をベッドにつけて体を支えるけど、気持ち良すぎて足腰がとろけそう。

「力抜いて大丈夫ですよ。支えていますから」

 耳元で優しく囁く声は、聴き慣れた声だけど荒い息が混ざっていて……色気、すごい。
 その声で完全に力が抜ける。

「あ……あ、あ……!」

 力が抜けても、浅野さんの腕がしっかり俺を抱きしめてくれていて、安心して身をゆだねられる。
 いつもそうだ。電車の中と一緒。
 しっかり支えてもらって、背中に浅野さんの体がぴったり重なって、ゆらゆら揺れて……。

「あ、う、あっ!」

 安心しきって体の力を抜いて快感を味わっていると、浅野さんの先端が奥へ進む。
 深い。
 そこは未知の場所。
 ちょっと怖い……けど、背中に感じる体温のお陰で大丈夫だ。

「はぁ、桜田さん……中、いい。すごくいいです」
「あ……っ!」

 浅野さんの気持ちよさそうな声も、いつも背後に感じる硬い物が体の中にあるのも、いつもより服の分距離が近いのも……すごくいい。
 電車の中の痴漢行為も安心したけど、それより、絶対これの方がいい。

「あ、あ、浅野さ、ん、あ、いい。これ、これぇ……!」
「桜田さん……はぁ……桜田さん、もっと。もっと気持ちよくなって」
「っ!?」

 もう充分気持ちいいのに!
 俺を抱きしめている浅野さんの手が少しだけ上下に移動して、右手は胸に、左手は勃起したものに触れる。

「あ! あ、ぃ、アァッ!」

 浅野さんの大きな手で触れられるだけで体が跳ねる。
 
「ここ。桜田さんのこと気持ちよくできる場所。ずっと触れたかったんです」

 そう言いながら胸を揉んで、あ、乳首? 指先で、そんな……しかも、反対の手は普通にオナニーするみたいに俺のを扱いていて……。

「あ、あ、いい、あ、あぁっ」
「触れて嬉しいです」

 すごく気持ちいいし、そんなこと言われたら俺も嬉しい。
 でも、気持ち良すぎて、体も頭もとろとろで、それをまともな言葉で伝えることはできなかった。

「あ、い、いい、あ、あ、あ……!」

 ずっと腰は動いていて、前立腺とその少し先をごりごり擦っているし、男は間違いなく気持ちのいい股間も、先走りを絡めながらいっぱい扱いてくれる。胸も、乳首も、大きな手で撫でられて、指先で弄られて、そわそわする。気持ちいい。気持ちいい!

「あ、あ、あぁ、いい、あ!」
「桜田さん……桜田さん、好きです。桜田さん!」

 この求められているのもいい。
 腕の中にいる安心感、俺を求めてくれる愛情、物理的な快感。
 やばい……セックス、すごい。
 浅野さんの腕の中、すごい!
 
「あ、んっ! あ、あぅ、うぅ、っあ、も、あ、いい、あ、もう、俺、もう!」
「んっ……イけます? 俺の手で、イけます?」
「あ、イく、浅野さん、の、気持ち、よすぎる、っ、ぁあ!」
「ん、桜田さん……桜田さん!」

 胸に触れていた手がぐっと力を込めて俺を抱き寄せたと思うと、扱く方の手の動きも、腰を振る動きも強くなる。
 完全に力を抜いている俺は、それをただただ受け入れるしかなくて……ただただ気持ちよくて……。

「あ、い、イっ、あッアァ!」

 イった。
 浅野さんの手の中で、溜まっていた精液を思い切り出して……。
 なんだこれ。
 なんだこの解放感。
 思い切り相手に身をゆだねて、イかせてもらうの……気持ち良すぎる。
 射精なんて何度もしているのに。イかせてもらうの、こんなに気持ちいいのか……。
 しかも……

「んっ、桜田さっ……ん、くっ!」
「あ……」

 俺の体を強く抱きしめた浅野さんが体を震わせる。
 これ、イってるな……。
 俺で、気持ち良くなってくれているんだ。

「はぁ……はっ……桜田さん」

 イってもまだ、俺の体を離さずに、愛おしそうに頭を撫でてくれる手が気持ちいい。
 セックスも、最初から最後まで浅野さんに良くしてもらったけど……。
 ずっと浅野さんに癒してもらって、与えてもらってばかりで、それもとても気持ち良かったけど……。

「ぁ……浅野さん、気持ちよかったですか?」

 身体にはまだ力が入らないし、ちょっと照れるし、後ろは振り向けないまま……でも、どうしても答えが聞きたくて尋ねると、すぐに浅野さんの嬉しそうな声が返ってきた。

「はい! 最高です!」

 弾んだ声も、安心できる腕も、優しい手も、全部いい。

「よかった……うれし……」
「桜田さん……?」

 電車の中の何倍も幸せな疲労感と何倍も幸せな気持ちにさせてくれる腕に包まれて、俺の意識は薄れていった。

「お疲れ様です。ゆっくり休んでくださいね」
「ん……」

 眠りに落ちる瞬間まで、優しい手と声に癒されていた。

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