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第8章 南部動乱編

迎撃 3

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「一度下がるんだ!」

「「ファイヤーボール!」」
「「ファイヤーアロー!」」

「「「「「「ああぁぁ……」」」」」」

「っ! 退いて陣形を整えるぞ!」

 しかし、このワディン騎士たちの魔法。
 遠近の連係に連続攻撃は……。

 俺の想像を超えている。
 見事としか言いようがない。
 逃避行している最中、魔法を指導し続けた成果が確実に表れているようだ。

 ただ、そうは言っても物量という現実は避けられない。
 そろそろ魔力量という足枷がのしかかってくる頃合いだろう。

 なので、魔法隊はここで休憩。
 次手の投入を。

「ノアール、暴れてこい」

「オオーーーン!!」

「「「「「っ!?」」」」」
「「「「「何っ!?」」」」」

 姿を現すやいなや獰猛な口から洩れたのは、戦場に響き渡る超重量の咆哮!
 敵兵はもちろんのこと、聞き慣れているはずのワディン騎士でさえ立ち止まってしまうほどだ。

「ォォォ……」

 咆哮の余韻を残したままノワールが駆ける。
 漆黒の毛並みをなびかせながら力強い足取りで平原を疾走、跳躍。

 騎士たちの剣戟を越え敵の後陣へ着地した。
 すると、そのまま身体をひとひねり。
 周囲のレザンジュ兵をなぎ倒していく。

「「「「「ぎやぁぁ!!」」」」」

「な、何だ、こいつ!?」

「バケモンだぁ!」

「うわっ、く、くるなぁ!」

「これが噂のダブルヘッドか!?」

「「「「「ダブルヘッド!!」」」」」

 一瞬にして後陣は修羅場と化してしまった。

「オォーン!」

「「「「「ああぁぁぁ!!」」」」」

 あっという間に、ノワールの周りは空白に。

「慌てるな、下がるんだ!」

「囲んで魔法で対処しろぉ!!」

 とはいえ、敵も馬鹿じゃない。
 少しずつだが、対処を始めている。

 ならば、ここで奥の手を。

「浴びせてやれ!」

 僅かにこちらに目を向け、頷くノワール。
 この距離でも、その仕草に余裕を感じてしまう。
 ほんとに頼りになるやつだよ。

「オオ……」

 視線を敵に戻したノワールが、顎を大きく上下に開き。
 そして。

「オオオッッ!!」

 恐るべき咆哮。
 と共に、口から迸るように黒い炎を溢れ出した。
 魔落で俺が苦しんだ、あの黒炎だ。
 悪魔のような真黒の業火がノワールの周りを埋め尽くしていく。

「「「「「「うぎゃぁぁ」」」」」」
「「「「「「あっ、うぅぅ」」」」」」

 さっきまでの比じゃない。
 後陣は阿鼻叫喚の凄惨な状況。
 まさに地獄絵図そのもの。

 恐ろしい炎だ。
 いや、本当に恐ろしいのはノワールか。
 味方で良かったと心から思うよ。

「「「「「「ううぅ……」」」」」」

 ただし、この黒炎。
 一度使うとしばらく使えないという難点がある。
 なので、大軍との戦闘や長時間の戦闘では、その使い方が重要になってくる。

「くっ、駄目だ」

 そうは言っても、敵将が黒炎の難点を知るわけもない。

「退くぞ!」

 必然。

「全軍、一時撤退だぁ!!」

 撤退を選択する可能性が高まるというもの。
 となると、こっちとしては仕上げをするのみ。

「ノワール!」

 俺の意図を察したノワールが一歩後退して足を止める。
 ヴァーンもルボルグ隊長も目で頷いている。

「任せたぜ、コーキ」

「ああ」

「……近接隊、下がれぇ!」

 隊長の言葉と同時に地を蹴って敵陣中央へ。
 近接隊と入れ替わるように、レザンジュ兵に接近し。

「雷波!」

「雷波!」

 さらに、魔力を纏った剣で先陣を切り裂く。

「「「「「ぎゃあぁぁ……」」」」」

 傍らにはノワール。

「いくぞ!!」

「オーーン!」

 俺の剣、ノワールの脚に牙。
 撤退しようとするレザンジュ兵はなす術もなく……。


 時間にして数分。
 序盤からの戦闘と合わせて、かなりの敵兵を削ったはず。
 これで、十分だろう。

「戻るか、ノワール」

「オン!」


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