625 / 1,194
第7章 南部編
中州 2
しおりを挟む
橋上の戦いに加勢したいところだが、今は幸奈を優先すべき時。
それなら、せめて。
「ヴァーン、これを使ってくれ。雷波を6発込めてある」
以前セレス様に渡した魔道具の改良版。
これ1つしか残っていない貴重な魔道具だ。
「なっ、雷波を! いいのか?」
「惜しんでる場合じゃないだろ」
「……助かるぜ!」
範囲魔法の雷波を使えれば、有利に進めるはず。
次は。
「ノワール」
水が苦手なノワールにも少しだけ。
「ドライ!」
濡れた全身を乾かし、さらに若干の防水も施してやる。
この程度で嵐を克服はできないだろうけれど、動きやすくはなるはず。
「クウーン!」
満足そうだな。
さあ、最後の仕上げだ。
後方にいるレザンジュ兵の密集に向けて。
「雷波!」
「雷波!」
「雷波!」
「雷波!」
もう1発!
「雷波!」
よし。
これで、かなり削れたはず。
「じゃあ、行ってくる」
*************************
<和見幸奈視点(姿はセレスティーヌ)>
上流から流されこの中州に上陸してきたマッドアリゲーターという魔物。
その数は10体以上!
時間が経てば、もっと多くの魔物がここにやって来るの?
「動きが鈍っているうちに片付けるとするか」
重そうな体で今はほとんど動いていないマッドアリゲーター。
でも……。
この雨風の中で凶悪な魔物の姿を見たら、恐怖しか感じない。
なのに、この兵士の顔に見えるのは余裕だけ。
ユーフィリアさんも焦っていない。
……頼もしい。
「まっ、あいつらは陸じゃあ大したことねえんだけどよ」
水中ほどは俊敏に動けない。
そういうこと?
「あんた魔法使いだろ。先制は頼むぜ」
「……分かっている」
ふたりがゆっくりと魔物に近づいて。
これから攻撃が始まる、そんな時に。
「うっ、ううぅ……」
わたしの隣で横になっている細身の兵士から声が!
意識が戻ったの?
「ごほっ、ごほっ、ごぼぅ!」
口から水を。
さっきのわたしと同じだ。
「はあ、はあ……。こ、ここは!?」
呆然とした表情。
無理もない。
「私は……生きている?」
「ここはローンドルヌ河にある中洲です。あなたは意識を失っていたんです」
「助かった、のか?」
「はい」
「おっ、やっと目が覚めたかよ」
「イリアル、お前も無事だったか?」
「無事だったかじゃねえぞ。誰のせいでこうなったと思ってんだ」
「……すまん」
「っとに、気をつけろよ。おまえを失うわけにはいかねえんだからな」
「ああ、申し訳ない」
「分かったら、こっち来て手伝え。少しくらいは戦えんだろ」
「了解だ」
「あの、大丈夫ですか?」
溺れて今まで意識を失っていたのに。
「……ああ」
本当?
もうひとりの兵士は鍛え上げられた体をしているけれど、こちらは華奢で細身。
そんな彼が目覚めてすぐに戦うなんて。
「私も王軍のひとり。これくらいなら戦える」
「……」
「ん? 君……?」
何?
「その白い髪、深紅の瞳は!?」
あっ!?
今は顔も髪も隠してなかったんだ。
「きさま、下がれ!」
魔物と対峙していたユーフィリアさんがわたしの横に。
「お嬢様、こちらへ」
わたしを庇って瘦身の彼と向き合ってくれる。
「まさか、ワディンの神娘……」
「っ!」
知られてしまった!
「お嬢様に対して何を言っている!」
「そうだぜ、ウラハム。何言ってんだ?」
こっちの男性は気づいていない。
なのに、彼だけ?
「神娘はとっくに死んでんだぞ」
えっ?
「……」
わたしが死んだって、どういうこと?
「なら、今目の前にいるのは?」
「ちっ! ちゃんと視てみろ」
「そう、だな」
細身の兵士が、ユーフィリアさん越しにわたしを見つめようとしてくる。
その眼はどこか不思議な光を帯びて……。
それなら、せめて。
「ヴァーン、これを使ってくれ。雷波を6発込めてある」
以前セレス様に渡した魔道具の改良版。
これ1つしか残っていない貴重な魔道具だ。
「なっ、雷波を! いいのか?」
「惜しんでる場合じゃないだろ」
「……助かるぜ!」
範囲魔法の雷波を使えれば、有利に進めるはず。
次は。
「ノワール」
水が苦手なノワールにも少しだけ。
「ドライ!」
濡れた全身を乾かし、さらに若干の防水も施してやる。
この程度で嵐を克服はできないだろうけれど、動きやすくはなるはず。
「クウーン!」
満足そうだな。
さあ、最後の仕上げだ。
後方にいるレザンジュ兵の密集に向けて。
「雷波!」
「雷波!」
「雷波!」
「雷波!」
もう1発!
「雷波!」
よし。
これで、かなり削れたはず。
「じゃあ、行ってくる」
*************************
<和見幸奈視点(姿はセレスティーヌ)>
上流から流されこの中州に上陸してきたマッドアリゲーターという魔物。
その数は10体以上!
時間が経てば、もっと多くの魔物がここにやって来るの?
「動きが鈍っているうちに片付けるとするか」
重そうな体で今はほとんど動いていないマッドアリゲーター。
でも……。
この雨風の中で凶悪な魔物の姿を見たら、恐怖しか感じない。
なのに、この兵士の顔に見えるのは余裕だけ。
ユーフィリアさんも焦っていない。
……頼もしい。
「まっ、あいつらは陸じゃあ大したことねえんだけどよ」
水中ほどは俊敏に動けない。
そういうこと?
「あんた魔法使いだろ。先制は頼むぜ」
「……分かっている」
ふたりがゆっくりと魔物に近づいて。
これから攻撃が始まる、そんな時に。
「うっ、ううぅ……」
わたしの隣で横になっている細身の兵士から声が!
意識が戻ったの?
「ごほっ、ごほっ、ごぼぅ!」
口から水を。
さっきのわたしと同じだ。
「はあ、はあ……。こ、ここは!?」
呆然とした表情。
無理もない。
「私は……生きている?」
「ここはローンドルヌ河にある中洲です。あなたは意識を失っていたんです」
「助かった、のか?」
「はい」
「おっ、やっと目が覚めたかよ」
「イリアル、お前も無事だったか?」
「無事だったかじゃねえぞ。誰のせいでこうなったと思ってんだ」
「……すまん」
「っとに、気をつけろよ。おまえを失うわけにはいかねえんだからな」
「ああ、申し訳ない」
「分かったら、こっち来て手伝え。少しくらいは戦えんだろ」
「了解だ」
「あの、大丈夫ですか?」
溺れて今まで意識を失っていたのに。
「……ああ」
本当?
もうひとりの兵士は鍛え上げられた体をしているけれど、こちらは華奢で細身。
そんな彼が目覚めてすぐに戦うなんて。
「私も王軍のひとり。これくらいなら戦える」
「……」
「ん? 君……?」
何?
「その白い髪、深紅の瞳は!?」
あっ!?
今は顔も髪も隠してなかったんだ。
「きさま、下がれ!」
魔物と対峙していたユーフィリアさんがわたしの横に。
「お嬢様、こちらへ」
わたしを庇って瘦身の彼と向き合ってくれる。
「まさか、ワディンの神娘……」
「っ!」
知られてしまった!
「お嬢様に対して何を言っている!」
「そうだぜ、ウラハム。何言ってんだ?」
こっちの男性は気づいていない。
なのに、彼だけ?
「神娘はとっくに死んでんだぞ」
えっ?
「……」
わたしが死んだって、どういうこと?
「なら、今目の前にいるのは?」
「ちっ! ちゃんと視てみろ」
「そう、だな」
細身の兵士が、ユーフィリアさん越しにわたしを見つめようとしてくる。
その眼はどこか不思議な光を帯びて……。
12
お気に入りに追加
540
あなたにおすすめの小説
勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。
襲
ファンタジー
〈あらすじ〉
信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。
目が覚めると、そこは異世界!?
あぁ、よくあるやつか。
食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに……
面倒ごとは御免なんだが。
魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。
誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。
やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。
クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される
こたろう文庫
ファンタジー
日頃からいじめにあっていた影宮 灰人は授業中に突如現れた転移陣によってクラスごと転移されそうになるが、咄嗟の機転により転移を一人だけ回避することに成功する。しかし女神の説得?により結局異世界転移するが、転移先の国王から職業[逃亡者]が無能という理由にて処刑されることになる
初執筆作品になりますので日本語などおかしい部分があるかと思いますが、温かい目で読んで頂き、少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。
なろう・カクヨム・アルファポリスにて公開しています
こちらの作品も宜しければお願いします
[イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・]
女神から貰えるはずのチート能力をクラスメートに奪われ、原生林みたいなところに飛ばされたけどゲームキャラの能力が使えるので問題ありません
青山 有
ファンタジー
強引に言い寄る男から片思いの幼馴染を守ろうとした瞬間、教室に魔法陣が突如現れクラスごと異世界へ。
だが主人公と幼馴染、友人の三人は、女神から貰えるはずの希少スキルを他の生徒に奪われてしまう。さらに、一緒に召喚されたはずの生徒とは別の場所に弾かれてしまった。
女神から貰えるはずのチート能力は奪われ、弾かれた先は未開の原生林。
途方に暮れる主人公たち。
だが、たった一つの救いがあった。
三人は開発中のファンタジーRPGのキャラクターの能力を引き継いでいたのだ。
右も左も分からない異世界で途方に暮れる主人公たちが出会ったのは悩める大司教。
圧倒的な能力を持ちながら寄る辺なき主人公と、教会内部の勢力争いに勝利するためにも優秀な部下を必要としている大司教。
双方の利害が一致した。
※他サイトで投稿した作品を加筆修正して投稿しております
ちょっと神様!私もうステータス調整されてるんですが!!
べちてん
ファンタジー
アニメ、マンガ、ラノベに小説好きの典型的な陰キャ高校生の西園千成はある日河川敷に花見に来ていた。人混みに酔い、体調が悪くなったので少し離れた路地で休憩していたらいつの間にか神域に迷い込んでしまっていた!!もう元居た世界には戻れないとのことなので魔法の世界へ転移することに。申し訳ないとか何とかでステータスを古龍の半分にしてもらったのだが、別の神様がそれを知らずに私のステータスをそこからさらに2倍にしてしまった!ちょっと神様!もうステータス調整されてるんですが!!
◆完結◆修学旅行……からの異世界転移!不易流行少年少女長編ファンタジー『3年2組 ボクらのクエスト』《全7章》
カワカツ
ファンタジー
修学旅行中のバスが異世界に転落!?
単身目覚めた少年は「友との再会・元世界へ帰る道」をさがす旅に歩み出すが……
構想8年・執筆3年超の長編ファンタジー!
※1話5分程度。
※各章トップに表紙イラストを挿入しています(自作低クオリティ笑)。
〜以下、あらすじ〜
市立南町中学校3年生は卒業前の『思い出作り』を楽しみにしつつ修学旅行出発の日を迎えた。
しかし、賀川篤樹(かがわあつき)が乗る3年2組の観光バスが交通事故に遭い数十mの崖から転落してしまう。
車外に投げ出された篤樹は事故現場の崖下ではなく見たことも無い森に囲まれた草原で意識を取り戻した。
助けを求めて叫ぶ篤樹の前に現れたのは『腐れトロル』と呼ばれる怪物。明らかな殺意をもって追いかけて来る腐れトロルから逃れるために森の中へと駆け込んだ篤樹……しかしついに追い詰められ絶対絶命のピンチを迎えた時、エシャーと名乗る少女に助けられる。
特徴的な尖った耳を持つエシャーは『ルエルフ』と呼ばれるエルフ亜種族の少女であり、彼女達の村は外界と隔絶された別空間に存在する事を教えられる。
『ルー』と呼ばれる古代魔法と『カギジュ』と呼ばれる人造魔法、そして『サーガ』と呼ばれる魔物が存在する異世界に迷い込んだことを知った篤樹は、エシャーと共にルエルフ村を出ることに。
外界で出会った『王室文化法暦省』のエリート職員エルグレド、エルフ族の女性レイラという心強い協力者に助けられ、篤樹は元の世界に戻るための道を探す旅を始める。
中学3年生の自分が持っている知識や常識・情報では理解出来ない異世界の旅の中、ここに『飛ばされて来た』のは自分一人だけではない事を知った篤樹は、他の同級生達との再会に期待を寄せるが……
不易流行の本格長編王道ファンタジー作品!
筆者推奨の作品イメージ歌<乃木坂46『夜明けまで強がらなくていい』2019>を聴きながら映像化イメージを膨らませつつお読み下さい!
※本作品は「小説家になろう」「エブリスタ」「カクヨム」にも投稿しています。各サイト読者様の励ましを糧についに完結です。
※少年少女文庫・児童文学を念頭に置いた年齢制限不要な表現・描写の異世界転移ファンタジー作品です。
うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生
野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。
普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。
そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。
そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。
そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。
うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。
いずれは王となるのも夢ではないかも!?
◇世界観的に命の価値は軽いです◇
カクヨムでも同タイトルで掲載しています。
のほほん異世界暮らし
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。
それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる