30年待たされた異世界転移

明之 想

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第5章 王都編

プレゼント

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 広大な海面を赤く染めながら、ゆっくりと沈んでいく夕日。
 まるで海に溶けるように、海を溶かすように、自ら消えゆく様は。

「……」

 幸奈の言葉通り。
 儚いのかもしれないな。

 とはいえ、自然の雄大な美より儚さを感じるというのも……。



「この店、功己と一緒に来たかったんだ」

「……」

 今日の幸奈は、纏う空気が落ち着かない。
 次から次へと変わっている。

「今日は付き合ってくれてありがと」

「こちらこそだ。いい店を教えてくれてありがとな」

「そう言ってもらえると嬉しいよ」

「……」

「ホント、来れて良かった」

 ただ、今の空気は悪くない。
 これならまあ、大丈夫か。

「もっとゆっくりしたいなぁ……」

「……」

「でも、もう遅いし、そろそろ帰ろっか」

「そうだな」

 今日は帰った方がいい。
 と、その前に。

「幸奈、これ」

 ポケットの中から取り出したのは、飾り気のない小箱。

「……何?」

「開けてみてくれ」

「うん」

 小箱を開くと中には。

「綺麗な石!」

 幸奈が手にしたのは翠緑すいりょくの色石をトップにしたネックレス。

「これ、わたしに?」

「ああ、前に俺の部屋で色石の話しただろ」

 俺の部屋で幸奈がカレーを作ってくれた夜。
 帰り際に、マリスダリスの刻宝を見て気に入ってたようだから。

「……覚えてくれてたの?」

「もちろん」

「……」

「あの石とは違うんだけどな」

 さすがに、異世界の宝具をプレゼントすることはできない。
 なので、幸奈に似合う石を王都で探したんだ。
 で、見つけたのが翠緑のこの色石。
 幸奈の好みに合えばいいんだが……。

「嬉しい……」

 幸奈の口から漏れ出たのは、聞き取れないような小声。
 かと思ったら。

「嬉しい! 嬉しいよ!!」

 今度は感極まった声。

「功己、ありがと! ほんとにありがと!!」

「いや……幸奈はその石でいいのか? 好みに合わないなら他の石も考えるぞ」

「これがいい! コーキが選んでくれた石なんだもん、気に入るに決まってるよ!」

「そっか……」

 宝物を手にしたように、翠緑のネックレスを笑顔で見つめている幸奈。
 その姿を見ていると、ちょっと安心できるな。

「うん! 本当に、本当に嬉しいんだから!」

「……」

 幸奈の満面の笑みを見ることができて、俺も嬉しいよ。
 心からそう思う。


「ねえ、これ何て石なの?」

「悪い。石の名前は分からないんだ。けど、質は良いからさ」
 
 エメラルドと翡翠の中間のようなこの翠緑石。
 なぜか石名だけは分からないんだよ。
 とはいえ、王都の有名店で購入したネックレスなのだから品質に問題はないはず。
 もちろん、鑑定でも確認は済ませている。

「えっ! 高かったんじゃないの?」

 まあ、それなりに。
 ただ。

「値段なんかより、その、あれ、あれだ」

「ん? 何?」

「……なるべく身に着けてくれたら、俺としても嬉しい、かな」

「うん、うん! 毎日着けるね!」






 海の見えるカフェで幸奈と夕暮れ時を過ごしたあと。
 和見家まで幸奈を送り届け、長かった一日も終了。
 今日という一日を何とか無事に終えることができた。

「……」

 正直、思うところは色々とある。
 和見家についても幸奈についても。
 ただ、今は……。

 武志と幸奈が落ち着いたら、一度ゆっくりと話をした方がいいかもしれないな。





「ウィルさん?」

「ウィルさん、戻っていないのですか?」

 自宅マンションから早朝の王都キュベルリアに戻った俺は、ウィルさんと今後の予定を話し合うべく彼女の部屋を訪れたんだが。

 やはり、帰っていない。

 昨夜もヴァルターさんの家に泊ったのか?

「……」

 ウィルさんは、王都に到着した日の夜にこの宿で過ごしただけ。
 大丈夫なんだよな?

 ヴァルターさんと一緒なら、問題はないと思うけど……。

 ただ、問題はなくても、今後の予定だけは聞いておきたい。
 当初の話では、明日か明後日には王都を発つことになっているのだから。

「……」

 困ったな。

 いや……。

 困りはしないか。

 武志の件が片付いた今は、急ぐ用事もない。
 多少の変更があっても、どうとでも対応できる。
 困ることなんてない、な。

 よし。

 今日は昼まで宿で待機してと。
 ウィルさんから連絡がないなら、その後は自由に動くとしよう。



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