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第5章 王都編

治療

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「ご助力、感謝いたします」

 こちらに歩み寄る姫様と護衛騎士。
 その護衛騎士の方が、感謝の言葉を述べてくれるが……。

 どう答えたらいいんだ?
 この世界の姫様に対する作法なんか、まったく分からないぞ。
 セレス様に対する態度と同じでいいのか?

 とりあえず。

「……間に合ってよかったです」

 当たり障りのないことを言ってみる。

「遠方で戦闘音に気付かれて、駆けつけてくれたのですよね」

「まあ、はい」

「やはり……。御二方に、心からの謝意を」

 騎士の方が深々と頭を下げてくれる。
 その後ろにいる姫様も軽く下げてくれた。

「いえ……。どうか頭をお上げください」

 護衛騎士の後ろから向けられる姫様の視線。
 値踏みしているかのように、こちらから離れない。

 居心地が悪いな。

「……」

 しかし、この姫様……。

 髪は後ろで簡単にまとめただけ、化粧もしていない。
 服装も質は良いのだろうが、ズボンにシャツといった飾り気のない簡易なもの。
 装身具のひとつも着けていない。

 およそ、姫様と呼ばれる者の装いじゃない。
 上質な略装、いや軽装を身にまとった富裕層にしか見えないな。

 ただ、その容姿は。

 艶のある金髪は陽の光に輝いているし、肌もしみひとつなく美しい。
 少し釣り目がちな瞳も、形良く整った鼻梁も文句のつけようがない。

 そして、その瞳の中に見えるのは意志の強さと自信を感じさせる光。
 上に立つ者の光だ。

 何より、その着衣に関係なく醸し出される雰囲気が普通じゃない。
 周りの者を圧倒するような、そんな気品が溢れ出ている。

 俺と年齢は変わらないだろうに。
 これが、人としての風格の違いってものか。

 その姫様が護衛騎士の前に出て。

「貴殿たちが助けてくれねば、こうして無事で済んだとは思えん」

 口から出たのは、瞳と同じ強い意志を感じさせる声音。

「おそらく、我らとこの者たちの立場は逆転していただろう」

 目を細め、倒れている野盗たちを睨み付けている。
 凍てつくような眼光だ。

「まことに、御二方のおかげです」

「いえ……」

 護衛騎士の方は30代半ばくらいだろうか。
 整えられた銀髪に鋭い眼差し、まさに腕のある騎士といった感じだな。

「感謝は受け取るがよ、今は先にやることを済ませてくれねえか」

「……そうですな。みな、この者も捕縛せよ」

 号令一下、傷を負っていない騎士たちが動き出す。

 俺の足下に横たえていた野盗のリーダー格を素早く拘束。
 その身を拘束した状態で運び、他の野盗と共に馬車の横に雑に転がした。

「……」

 襲撃者の数はかなりのものだが、そのほとんどが拘束された状態で馬車の脇に転がされている。
 大半が負傷しており、命を落とした者もそれなりにいるようだ。

 ただ、それは守備側も同じこと。
 騎士たちの多くは傷つき、死者も……。

「ううぅ」

「ぐっ!」

「しっかりしろ」

 傍らでは、負傷した騎士の治療が既に始められている。

「この通りのありさまだ」

 そちらに向けた姫様と護衛騎士の目には、憂いの色が隠しきれていない。

「戦闘中に治療薬が駄目になってしまいまして、今は魔法による治療だけという状況なのです」

 なるほど。

「治癒魔法を使えるのは、1人だけなのかよ?」

「ええ、他の者は傷を負って魔法を使える状態ではありませんので」

 治癒魔法を使えるのは、1人だけ。
 まだ、多くの負傷者が苦しんでいるというのに。

「……」

 放ってはおけないな。
 しかたない、乗りかかった船だ。

「治療に参加してもよろしいでしょうか?」

「貴殿、治療薬を持っているのか?」

「それは……」

 今回の王都行に際して購入した治療薬は収納の中。
 俺の治癒魔法より効果がある貴重な治療薬だ。

「ふむ。薬類や道具などは持っておらぬようだが?」

 馬車から急行した今は、手に何も持っていない状態。

 収納の存在を知られるのは、まずいか?
 やはり、ここは治癒魔法しかないな。

「まさか、治癒魔法を?」

「……簡単な魔法だけですが」

「それは助かるぞ!」

 姫様の顔から憂いが消えていく。

「しかし、良いのか?」

「はい」

「ありがたい。ウォーライル、案内を」

「はっ」

 姫様に一礼した護衛騎士。
 ウォーライルさんが俺の前に。

「では、こちらへ」



「ううぅぅ」

「ぅぅっ……」

 地面に横たわっているのは、身体のいたるところに傷を負い苦しんでいる騎士たち。
 治療薬がなく、治癒魔法使いの手も足りていない現状でこれは……。
 とても放置なんてできない惨状だ。

 ただ、今の俺が治療できる者と言えば、この5人だけか。

 残りの者は、手の施しようがないくらいの重傷を負っている。
 残念ながら、どうすることもできない状態の者たちばかりだ。

「すみませんが、この者からお願いします」

「お、お願いします」

 脇腹と脚に浅くない傷を負っている騎士。
 が、意識はあるし話すこともできる。
 まずは彼からだ。

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