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第4章 異能編
廃墟ビル 12
しおりを挟む<和見武志視点>
「この結界、かってえぞ!」
「ええ」
「話に聞いていた以上だぜ」
「……」
「鷹郷さん、何とかなりそうですか?」
「……少し時間がかかる、か」
「ふふ、ははは! あんたらの負けだ」
「何言ってんだ、お前も結界の中にいるだろうがよ」
「俺たちは助けてもらえるからな」
「見殺しにされんじゃねえのか」
「うるさい! あんたらはここで倒れて、俺たちは助かる。そういうことだ」
「はっ、どうだかな」
「と、とにかく、こいつは簡単に破壊できる代物じゃないんだよ。なあ、武志」
「……」
うるさい男だ。
与えられた仕事も、まともにこなすことができなかったくせに。
僕の結界がなければ、今回もどうなっていたことか。
「橘さん、どうします?」
まっ、こっちの2人はどうでもいい。
問題は敵の3人をどうするかだ。
「そうだな……」
結界の中に閉じ込めたままでもいいが、それだと時間がかかってしまう。
長引けば結界を破壊される恐れもある。
前回と違いかなり強化しているから、大丈夫だとは思うけれど。
「このままこいつらが苦しむ様子を見ているのも、一興というもの。だが、時間の無駄使いだな」
「ガスを入れましょうか?」
前回は用意していなかった追撃手段。
今回は準備万端だ。
ガスを結界の中に入れてやれば、即終了だろう。
「ああ、そうしてくれ」
「どっちのガスで?」
「……軽い方だな」
「了解」
鞄から催眠などの作用のある特製ガスを取り出し、橘さんに手渡す。
「これでいいですか」
「ああ」
それを手にした橘さんが結界に近づき。
「鷹郷さん、これであんたたちも終わりかな」
「……何をする気だ」
敵のリーダーである鷹郷という男が結界の破壊を試みていた手を止め、橘さんと向き合っている。
透明な結界で隔たれるとはいえ、ふたりの距離は1メートルもない。
「話は聞いていただろ」
「……」
「まっ、ゆっくり眠ってくれ。少々痺れるかもしれんがな」
「鷹郷さん!」
「鷹郷さん!」
「……」
「ふふ、あの鷹郷が言葉もないか」
「橘さん、ちょっと待って! 俺たちも中にいるんですよ」
「心配するな。お前たちは後で助けてやる」
「それ、本当ですよね」
「ああ」
「それなら……」
「さてと。和見、結界を操作してくれ」
橘さんが僕の方に振り返り、そう告げる。
「はい」
ガスを結界内に入れるためには、結界の一部を操作する必要がある。
結界を維持しながらこれを行うのはかなり難しいのだけれど、今の僕ならできる。
両手を前に出し。
集中力を高め。
「……」
「……」
いいぞ。あと少しだ。
「和見っ、避けろ!!」
「えっ!?」
操作完了直前に、橘さんの焦ったような声。
何?
何かがすごい勢いで迫って来る!
「っ!」
何とか避けることができたけど。
集中が途切れてしまった。
「橘さん!」
「ガスは後だ」
「了解です」
今はこいつに対処しなければならない。
でも、突然現れたこいつは?
このサングラスの男は誰なんだ?
そんな疑問が浮かんだ瞬間!
「!?」
なんてスピードだ!
避けられない。
「ううっ!」
身体に衝撃!
そして、目の前が真っ白になり。
「……」
***********************
武志を気絶させた後、対峙するのは橘という相手のボス。
武志への対応は後でしっかりするとして、今はこいつの相手をしないとな。
しかし……。
距離を取ったまま、動こうとしない。
随分とこっちを警戒しているようだ。
「……」
今の動きを見たのだから、それも当然か。
「……誰だ?」
「それを知る必要はないでしょ」
名乗るわけないだろ。
自分の身元をばらすような愚かなこと。
露見に繋がる可能性もあるというのに。
「有馬君?」
「えっ? あれは、有馬なのか?」
「……」
だから……。
ふたりとも、今の会話聞いていたよな。
驚くのは分かるけど、その名は口にしないでほしいって、それも理解できるよな。
はぁぁ。
「……まあ、誰でもいい」
んん?
耳に入っていないのか?
これは、ありがたい。
「誰であろうと、ここで倒すだけだからな」
「やれますかね」
「当たり前だ」
口の端を上げ嗤っている。
「……」
「問題ない」
今の俺のスピードを見た上で、この自信。
やはり普通じゃないな。
さすが、特別な異能の持ち主といったところか。
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