30年待たされた異世界転移

明之 想

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第4章 異能編

廃墟ビル 11

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 気配は感じなかったぞ。
 それなのに、どうして?
 どこから?


「誰なの?」

「どこから現れやがった?」

「これは、これは、御挨拶だな」

「……橘か」

「鷹郷さん、久しぶりだねぇ」

「……」

「あいつが橘なんですか?」

「そうだ」

「あれが敵のボスか……なら、さっさと結界を出て倒そうぜ、鷹郷さん」

「武上の言う通りだな。よし、脱出するぞ」

「ふふ、そう簡単に脱出できるかな」

「ああ、すぐに出てやる」

「それは楽しみだ」

 と言ったまま、結界の前でただ眺めているだけ。
 結界が破壊されないと確信しているような態度だ。

 対して、中にいる3人は、それぞれに結界の破壊を試みている。


「この結界は前より堅固に作っているから」

 結界の前に姿を現したのは、橘と呼ばれる男だけじゃない。
 もう1人いる。
 それが今喋った男。

「だから、簡単には破壊できない」

 感情のこもっていない声で淡々と告げている。

「……」

 この男、線の細い後ろ姿とその声色から判断するに、まだ少年のような年頃だろう。

「だそうだ。どうする、鷹郷さん」

「……破壊するだけだ」

「そうか。まあ、せいぜい頑張ってくれ。とはいえ、この暑さの中、その小さな空間でどれだけもつか?」

 黒のスーツに身を包んでいるこの男が橘。
 傍らに佇むラフな姿の男が結界能力者。

「問題ない。すぐに脱出してやる」

「お手並み拝見、といきたいところだが……。時間がもったいないか」

「ゆっくり見物してればいい」

「さて、どうしたものかな」

「橘さん、俺たちは?」

 鷹郷さんと橘のやり取りに、結界に捕らわれている氷使いが口を挟む。

「大人しくしていろ、あとで助けてやる」

「……分かりました」

 口を挟んだだけで、あっさりと引き下がった。
 力関係は明らかなようだ。

 で、この橘と少年のような男。
 どうやって、ここに現れたのか?

 ステータスを見れば分かるかもしれない。
 相変わらず2人の後ろ姿しか見えないが、このまま鑑定しても支障はないだろう。


「やはり時間の無駄、か……」

「ねえ、1つ聞いていいかしら」

 今度は古野白さんが橘に声をかけた。
 引き延ばすためだろうか?

「何だ?」

「人質を取っていると言っていたのに、この場にいないのはなぜ?」

 古野白さん、もう知っているだろ。
 やはり、引き延ばしを。

 と、それより鑑定だ。

「そんなことか。安心していいぞ、人質はいない。トラブルがあったみたいでな」

「そうなんだ。人質はいないんだ。これで、一安心ね」

「我々にとっては、人質など保険に過ぎない。こうなってしまえば、何も問題はないからな」

「それはどうかしら。この結界は破壊されるのに」

「できるかな?」

「もちろん」

 そんなやり取りを聞きながら、俺は鑑定を進めて……。

「有馬くん、どうするの? 助けないの?」

「まだ平気だろ」

「いざとなったら助けるよね」

「ああ」

 もちろん、助ける。
 そのつもりだ。

 だけど、今は……。

「よかった」

 少し考える時間が必要なんだ。

 なぜなら……。



   和見 武志(カズミ タケシ)

レベル 1

16歳 男 人間 
HP   72
SP   95
STR  73
AGI  85
INT 128

<異能>

結界



 少年のような結界能力者が、武志だったから。

 この結界を作り出したのは、幸奈の弟である和見武志だったからだ。






※ 幸奈の弟武志は、第2章『結界 3』に少しだけ登場しています。
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