上 下
74 / 1,194
第1章 オルドウ編

まほう? 1

しおりを挟む

「ふぁぁ~」

 まどろみから徐々に意識が戻ってくる。

 今日は……。

 そうか、自分の部屋だった。

「んっっ、あ~」

 久しぶりにしっかりと眠ったような気がする。
 思えば、何の心配もなく睡眠をとれたのは何日ぶりだろう。
 とにかく、数日ぶりであることは確かだ。

 しかし、こちらとあちらを行ったり来たりしている日々では、時間の感覚がおかしくなってしまうな。時間の流れも異なるし、混乱してしまうんだよ。

 で、今はもう夕方近い。
 さすがに、これは眠り過ぎたか。

 大学に行くには遅すぎるし……。

 ジムだけでも行っとくか。

 20歳に戻ってからというもの、怒涛のように日々が過ぎたため、鍛錬不足は否めない。
 それもやむを得ないと思えるような毎日だったとはいえ、鍛錬は続けないと意味がない。
 これからは、なるべく日々の鍛錬を怠らずに過ごしていかなきゃな。



「有馬、久しぶりだな」

 タンクトップからのぞく盛り上がった筋肉がいかにも鍛えていますという雰囲気を醸し出す短髪の男。数少ない大学の友人のひとり、武上だ。

「ああ、久しぶり」

「最近ジムで顔を見かけなかったけど、どうしてたんだ?」

「ジムには来てたぞ。来る時間が違うから、会わなかっただけだろ」

 武上は夕方から夜にかけてジムに通っている。
 もっぱら早い時間に通っている俺と時間が合わないのも当然だ。
 まっ、ここ数日は別だけど。

「なるほど、昼に来てたのかよ」

「朝か昼だな」

「さすが、優雅な学生さんは違うぜ」

「武上も学生だろうが」

「おう、そうだった!」

 俺が通うこのジムには大学の知人が何人か在籍している。
 とはいえ、その中で友人と呼べるのは武上ひとりだけ。

「そんで、有馬はベンチ何キロまで上げてんだ?」

「ん、120キロ程度かな?」

 無理すれば、もう少し上げることもできる。
 それでも、40歳の頃の俺には到底敵わない。

「そんなもんか」

「ああ。武上はベンチばかりやり過ぎだろ」

 武上の傍らには150キロのバーベルが掛かっている。

「そうかぁ?」

「まっ、好きにすればいけどな」

「なら、ベンチ一筋でいくわ」

「……頑張ってくれ」

「そうそう、有馬も今度の飲み会来るだろ?」

「いや、やめとく」

「なんだぁ。ちっと付き合いが良くなったと思ったら、それかよ」

「まあな」

 前回の人生では、大学時代のこういった付き合いはほとんど全て断っていたんだよな。
 それでも、武上は俺を気にかけてよく誘ってくれたっけ。
 そんなやつは武上と里村くらいか。
 当時は酔狂なやつもいるもんだと思っていたが、今考えればありがたいことだよな。

「なあ、たまには一緒に飲もうぜ」

 前回と違い今回の大学生活では、もう焦る必要もない。
 異世界には何時でも行けるのだから。

「いいだろ?」

 となると、まあ。
 神様からも助言されたことだし。

「……分かった。なるべく参加するよ」

「おお、いいねぇ」

 そう言って、肩を叩いてくる。

「……」

 お前、馬鹿力なんだからさ、やめろよ。

「でもな、なるべくじゃなく、絶対だぜ!」

 肩を組むなって。
 相変わらず暑苦しいやつだ。

 でも……。
 今はそれほど嫌じゃない、かな。

「善処する」




 武上と会話する以外はひたすらトレーニングに励み、ふと時計を見ると2時間が過ぎていたので帰宅することにした。

 ジムからの帰り道、いつものように自転車を走らせていると。
 道路に赤いランプ。夜間工事のため通行止めのようだ。
 仕方ないので、普段はあまり使わない道を通ることに。

 ……。

 ああ、やっぱり。
 昼間はまだしも夜にここは通りたくないんだよ。
 20年前の記憶通りだわ。

 というのも、こっちの道沿いには街灯が非常に少ないためとても暗い。車もあまり通らないから、なおのこと暗い。せめて月明かりがあればいいけど、今日はそれも望めない。

 結構、危険なんだよなぁ。
 急ぐ必要もないし、ゆっくり帰るとしようか。

 暗路を進んでいると、右手に公園が見えてきた。といっても、暗い空地にしか見えないが。
 と、大きくはないのだが、やけに耳に通る甲高い音が響いてきた。

 キィーーン!

 思わず自転車を止めてしまう。

 これは?
 公園の奥の方から?

 聞き覚えのないような種類の高音が断続的に聞こえてくる。
 周りにも誰もいないが、公園の奥には誰かいるのか?

 公園と道路の境目には背の高い木が密集しているため、奥を覗き見ることはできない。
 もちろん、この暗がりの中では覗けたとしても、ほとんど何も見えないだろうが。

 普段なら、いや、20年前の俺なら無視して帰るところ。

「……」

 高音に混じって違う音も聞こえてくる。
 何かがぶつかる音?
 不穏な雰囲気だぞ。

 うーん……。

しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。

ファンタジー
〈あらすじ〉 信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。 目が覚めると、そこは異世界!? あぁ、よくあるやつか。 食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに…… 面倒ごとは御免なんだが。 魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。 誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。 やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。

クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される

こたろう文庫
ファンタジー
日頃からいじめにあっていた影宮 灰人は授業中に突如現れた転移陣によってクラスごと転移されそうになるが、咄嗟の機転により転移を一人だけ回避することに成功する。しかし女神の説得?により結局異世界転移するが、転移先の国王から職業[逃亡者]が無能という理由にて処刑されることになる 初執筆作品になりますので日本語などおかしい部分があるかと思いますが、温かい目で読んで頂き、少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。 なろう・カクヨム・アルファポリスにて公開しています こちらの作品も宜しければお願いします [イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・]

女神から貰えるはずのチート能力をクラスメートに奪われ、原生林みたいなところに飛ばされたけどゲームキャラの能力が使えるので問題ありません

青山 有
ファンタジー
強引に言い寄る男から片思いの幼馴染を守ろうとした瞬間、教室に魔法陣が突如現れクラスごと異世界へ。 だが主人公と幼馴染、友人の三人は、女神から貰えるはずの希少スキルを他の生徒に奪われてしまう。さらに、一緒に召喚されたはずの生徒とは別の場所に弾かれてしまった。 女神から貰えるはずのチート能力は奪われ、弾かれた先は未開の原生林。 途方に暮れる主人公たち。 だが、たった一つの救いがあった。 三人は開発中のファンタジーRPGのキャラクターの能力を引き継いでいたのだ。 右も左も分からない異世界で途方に暮れる主人公たちが出会ったのは悩める大司教。 圧倒的な能力を持ちながら寄る辺なき主人公と、教会内部の勢力争いに勝利するためにも優秀な部下を必要としている大司教。 双方の利害が一致した。 ※他サイトで投稿した作品を加筆修正して投稿しております

ちょっと神様!私もうステータス調整されてるんですが!!

べちてん
ファンタジー
アニメ、マンガ、ラノベに小説好きの典型的な陰キャ高校生の西園千成はある日河川敷に花見に来ていた。人混みに酔い、体調が悪くなったので少し離れた路地で休憩していたらいつの間にか神域に迷い込んでしまっていた!!もう元居た世界には戻れないとのことなので魔法の世界へ転移することに。申し訳ないとか何とかでステータスを古龍の半分にしてもらったのだが、別の神様がそれを知らずに私のステータスをそこからさらに2倍にしてしまった!ちょっと神様!もうステータス調整されてるんですが!!

◆完結◆修学旅行……からの異世界転移!不易流行少年少女長編ファンタジー『3年2組 ボクらのクエスト』《全7章》

カワカツ
ファンタジー
修学旅行中のバスが異世界に転落!? 単身目覚めた少年は「友との再会・元世界へ帰る道」をさがす旅に歩み出すが…… 構想8年・執筆3年超の長編ファンタジー! ※1話5分程度。 ※各章トップに表紙イラストを挿入しています(自作低クオリティ笑)。 〜以下、あらすじ〜  市立南町中学校3年生は卒業前の『思い出作り』を楽しみにしつつ修学旅行出発の日を迎えた。  しかし、賀川篤樹(かがわあつき)が乗る3年2組の観光バスが交通事故に遭い数十mの崖から転落してしまう。  車外に投げ出された篤樹は事故現場の崖下ではなく見たことも無い森に囲まれた草原で意識を取り戻した。  助けを求めて叫ぶ篤樹の前に現れたのは『腐れトロル』と呼ばれる怪物。明らかな殺意をもって追いかけて来る腐れトロルから逃れるために森の中へと駆け込んだ篤樹……しかしついに追い詰められ絶対絶命のピンチを迎えた時、エシャーと名乗る少女に助けられる。  特徴的な尖った耳を持つエシャーは『ルエルフ』と呼ばれるエルフ亜種族の少女であり、彼女達の村は外界と隔絶された別空間に存在する事を教えられる。  『ルー』と呼ばれる古代魔法と『カギジュ』と呼ばれる人造魔法、そして『サーガ』と呼ばれる魔物が存在する異世界に迷い込んだことを知った篤樹は、エシャーと共にルエルフ村を出ることに。  外界で出会った『王室文化法暦省』のエリート職員エルグレド、エルフ族の女性レイラという心強い協力者に助けられ、篤樹は元の世界に戻るための道を探す旅を始める。  中学3年生の自分が持っている知識や常識・情報では理解出来ない異世界の旅の中、ここに『飛ばされて来た』のは自分一人だけではない事を知った篤樹は、他の同級生達との再会に期待を寄せるが……  不易流行の本格長編王道ファンタジー作品!    筆者推奨の作品イメージ歌<乃木坂46『夜明けまで強がらなくていい』2019>を聴きながら映像化イメージを膨らませつつお読み下さい! ※本作品は「小説家になろう」「エブリスタ」「カクヨム」にも投稿しています。各サイト読者様の励ましを糧についに完結です。 ※少年少女文庫・児童文学を念頭に置いた年齢制限不要な表現・描写の異世界転移ファンタジー作品です。

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

処理中です...