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第1章 オルドウ編
夕連亭 2
しおりを挟む「そんな話より、コーキさん。食事が冷めてしまいます。どうぞ召し上がってください」
「そうですね、いただきます」
とりあえず、酒を一杯。
うん、うまい。
「このヴィーツ酒はいいですね」
「それは嬉しいですねぇ。ヴィーツはオルドウ名産の果実ですから、ヴィーツ酒もこの辺りではよく飲まれているんです」
ヴィーツとはレモンによく似た果実。
オルドウの果物屋でいただいた、あの甘くて爽やかな果実だ。
「本当に美味しいです」
さっぱりと口当たりはいいのに何とも言えないコクがある。ヴィーツをそのままいただくのとはまた違った風味があるな。これは、いくらでも飲めそうだ。
「ウィルさんも、ヴィーツ酒はお好きなんですか?」
「ええ、私も飲みますね」
17歳のウィルさんが酒を飲むのは問題ない。キュベリッツでは飲酒は15歳から許可されているらしいから。
「ヨマリさんは、どうです?」
先程から静かなヨマリさんにも訊いてみる。
「私はあまり飲みませんね」
「あの、故郷の村ではヴィーツ酒はあまり見かけませんので」
ウィルさんの説明。
「なるほど」
夕食が始まって少し経つ頃から、ほとんど俺とウィルさんばかりが話している。ヨマリさんはあまり会話に加わってこない。昨夜などはかなり俺に話しかけてくれたのにと不思議に思い、さりげなくヨマリさんを注視してみると、顔色があまり良くないようだ。
「ヨマリさん、顔色が良くないようですが、お疲れですか?」
「えっ? いえ、大丈夫ですよ」
「そうですか」
明らかに反応がおかしい。
とはいえ、追及するのも失礼か。
しかし、体調が悪くないのが本当だとすると。
……。
他のテーブルに座っている2人組の客の方に、ヨマリさんの注意が向いているような気がする。
ヨマリさんは気付かれないようにしているつもりだろうが、たまに投げかけるヨマリさんの視線から、そう思わずにはいられない。
それが原因?
不機嫌そうに酒を飲んでいるあの2人組がヨマリさんの知り合いなのか?
全く話しかけもしないのに?
少しばかり考えていると。
「母は少し疲れているのかもしれませんね。母さん、夕食後は早く休んだ方がいいよ」
「……そうね。そうした方がいいかもしれないわね」
「それより、コーキさん、ガンドはいかがですか?」
ウィルさんに気を遣わせたかな。
まあ、今はヨマリさんのことを考えていても仕方ないな。
「これも食べやすいですね」
ガンドとは骨付きの肉の塊のような料理。じっくりと煮込まれたおかげか、肉の繊維など全く感じさせない柔らかな食感で、見た目の豪快さとは裏腹に簡単に食べることができる。
肉には若干の臭みがあるが俺は嫌いじゃない、むしろ好きな部類だ。
しかし、このガンド、地球の香辛料を使えばもっと洗練された味になりそうな気がするな。
「そうなのですよ。あんなにうるさいガンドも煮込み料理になればさっぱりした味わいになるんだから不思議ですよね」
「うるさいんですか?」
「そうですよ、朝夕に大声で鳴き続けていますから。ガンドの飼育所の近くでは暮らしたくないですね。コーキさんの故郷では、ガンドは珍しいのでしょうか?」
「……ええ、あまり見かけないですね」
俺は遠国の出身でオルドウには来たばかりだと伝えている。
「そうなんですね。ガンドの煮込みもオルドウの名物ですから、たくさん召しあがってくださいね」
「ありがとうございます」
昨夜も今朝もそうだったが、食事の間は料理の話が多い。オルドウに来たばかりのこちらに気を遣って説明してくれているのだろうが、とても参考になる。料理の話題の合間に話される地方の特色や現在の情勢などの話もありがたい。そして、夕食後には俺の質問に答えるように色々な話を聞かせてくれる。
この2日間、ウィルさんとヨマリさんのおかげで、かなり勉強になった。
遠国から来た田舎者という設定の俺のことを怪しみもせず、まあ本心では怪しいと思っているのかもしれないが少なくとも態度には出さず、丁寧に説明してくれたウィルさんとヨマリさんには非常に感謝している。何かお礼をしないといけないな。
そんなことを考えながら、夕食後は日本に戻ることなく、夕連亭の部屋で眠りについた。
異世界で初めての宿泊だ。
少しばかり心躍ってしまうのは仕方のないことだろう。
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