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第1章 オルドウ編

検証 4

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「コーキさん、おはようございます。随分早いですねぇ、よく眠れましたか」

「おはようございます、ウィルさん。おかげさまでよく眠れました」

 ウィルさんの表情には全く違和感がない。
 これは、普通に1泊しただけなのか。
 だとすると、数時間しか経過していないことになる。

「そうでしょう、ウチの宿のベッドは寝心地が自慢なんですよ」

「……そうですね」

 確かに少し横になったところ、なかなか良い寝心地だった。
 けど、今はそんなことより。

「コーキさんが喜んでくれてよかったです。ああ、朝食はもうすぐできますので、少し待っていてくださいね」

「お願いします。あの……少し聞いてもいいですか」

 やはり、一応聞いておきたい。
 怪しまれるかもしれないが。

「はい。何でしょう?」

「その……セーブとリセットという言葉の意味は分かります?」

「セーブとリセットですか。聞いたことないですね。食べ物ですか?」

「いえ、違いますね」

 この表情。
 本当に知らないようだ。
 なら、この世界でもセーブ&リセットは常識的なものではないということか…。

 はぁぁ。

 そりゃ、そうだよな。
 普通に考えれば当然のことだ。

「そうなんですね。それが、何か?」

「すみません。知らないなら、それでいいことですから」

「……そうですか」

 少し不思議そうな表情をしているが、怪しまれたという程ではないか。
 ちょっと話を変えよう。
 これも聞きたいことだからな。

「ウィルさん、もうひとつ聞きたいのですが、今は何時でしょう?」

「先ほど始の鐘が鳴りましたから、3の刻過ぎですね」

 うん?

「3の刻ですか……。ちなみに、昨夜私が部屋に入った時間を覚えておられますか?」

 3の刻というのは初めて聞くが、時間の単位なんだろう。
 今が3刻なら昨夜はどうなんだ?

 そう、昨夜。
 昨夜かどうかが問題だ。

「昨夜は……たしか、終の鐘が鳴る前だったと思いますので、11の刻前ですかね」

「なるほど」

 昨夜という言葉に反応はない。
 ということは、昨夜で間違いないのだろう。
 やはり一晩しか経過していないようだ。

 3の刻に11の刻。
 少し考えてみるか。

「あの、何かお悩みでしょうか?」

「ああ、すみません。大した事ではないのですが、少し考えたいことがありまして」

 深刻な表情をしていたのか。
 こんな場で、それは良くないな。

「そうでしたか? 問題ないようでしたら、食堂でお待ちください」

「ありがとうございます。待たせていただきます」

 食堂に入り、壁際の1人席に座る。
 まだ客はほとんどいない。早朝なんだな。

 始の鐘が3の刻、終の鐘が11の刻。
 1日に何刻あるのか分からないが…。

 待てよ、これも鑑定が使えるんじゃないのか?
 自分のステータス以外は詳しいことは教えてくれない鑑定だけど、時間くらいは。

 メモ帳を取り出しエストラル語で刻と記す。それを鑑定。

 おお、鑑定できた。

刻:エストラル大陸の時間単位。1日は12刻。

 さらに鑑定。

始の鐘:1日の最初に鳴る鐘。3の刻に鳴る。
終の鐘:1日の最後に鳴る鐘。11の刻に鳴る。

 これは助かる。
 おかげで、かなり理解できたぞ。

 とはいえ、1日が24時間、1刻が2時間とは限らないか。
 が、そこは腕時計と懐中時計を使って1刻の時間経過を調べればいい。

 まだ未確定だが、仮にエストラル大陸の1日が24時間であるとしたら、3の刻は6時、11の刻は22時に相当する。

 昨夜宿から日本に戻ったのは22時。さっきこちらに来たのが6時。
 8時間経過しているということか。
 日本では16時間過ごしたのだから、半分の時間だけ過ぎたことになる。

 つまり……。

 日本からエストラル大陸、エストラル大陸から日本、どちらへの移動でも移動先では移動元での経過時間の半分しか経過していないということになるんじゃないか。

 これは嬉しい誤算だな。
 この法則をうまく利用すれば時間を有効に使える。
 異世界間を往来する身としてはありがたい。

 もちろん、これらの法則はまだ確定したわけではない。
 それでも、これが正しいような気がする。

 まっ、1刻の経過を調べればすぐに分かることだ。


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