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第1章 オルドウ編

検証 5

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 夕連亭での朝食は、異世界間移動の場所と時間の法則について一応の考察ができたことで、ゆっくりと落ち着いた気分で味わうことができた。
 ウィルさんや、ウィルさんのお母さんとの会話も弾み楽しいひと時だったな。

 昨夜の食事といいこの朝食といい、オルドウの食事は思っていたより悪くない。非常に美味というわけではないし、現在の日本の食事より上だなんてとても言えないけど、それなりに美味しくいただけるのはありがたい。

 朝食後、夕連亭に5泊分の料金を追加で支払い部屋に戻る。
 当分は、オルドウにおける拠点をこの宿にして過ごそうと決めたからだ。

 部屋に戻り街に外出する身支度を整える。
 と言っても簡単なもの。ほんの数分で用意完了。

 今はエストラル時間の4の刻(8時)。こちらでの滞在は残り42時間の予定。エストラル大陸時間の今日と明日をこちらで過ごし、その後帰還する予定だから時間は十分だ。

 それでも、こちらの世界に来たばかりの俺にはすることが多くある。
 限られた日数でこなしていくとなると、かなり忙しい。

 まっ、慌てずゆっくりとやっていこうか。
 今日は初期の準備と幾つかの確認をするとしよう。

 ということで、午前の早い時間は買い物にあてる。
 先日買えなかった品を買うべく、武器屋、防具屋などなど、いくつかの店を巡り歩く。
 概ね順調に買い物は進んだので、次は人目のつかない場所に移動。

 幸いなことにオルドウの街外れに丁度良い場所があったので、そこで魔法の確認をしたのだが、特に問題はなかった。
 40歳まで30年間積み上げてきた魔法の熟練度が20歳に戻ることでどうなったのか不安だったのだけれど、特に衰えていることもなく40歳時と変わらず使いこなすことができたんだよ。

 ホント、これで一安心だ。

 20歳に戻って、40歳時に比べれば筋力は多少見劣りするものの、身体の軽さ、瞬発力、視力など、良化したものの方が多い。その上、魔法の熟練度も変わらないのだから、非常にありがたい。
 筋力にしても、これから鍛えなおせば良いだけの話だ。

 時間を確認すると、昼時だったので軽く昼食をとるために街中に戻る。

 時間といえば、腕時計をこちらの時間に対応させておいたので、鐘の音が鳴るたびに時間の比較を簡単にすることができた。その結果、1刻が2時間なのは間違いないということが分かった。

 1刻が2時間にぴったり一致するというのは都合が良すぎると感じるが、それも神様的な力で何とかしてくれたんじゃないかと納得しておくことにする。

 そう。
 俺を20年前に戻してくれたことといい、セーブの力といい、時間を操ることができる神様なんじゃないかと思っているんだ。



 さてと、昼食後はこの世界における俺の実力を調べようと思っている。
 これからこの世界で様々な冒険をするつもりだが、まずは自分の実力を知ることが肝要だからな。

 まあ、魔法の実力の測り方はまだ分からないが、武術などは調べやすい。
 方法は簡単。武術道場で稽古をつけてもらうつもりだ。

 ウィルさんに聞いたところ、オルドウで市民に開放されている道場と言えば剣術道場くらいだそうなので、今回はその中でもウィルさんおすすめのジルクール道場に伺うことにした。ちなみに、ジルクールとはこの国の剣術流派のひとつで、身分に関わらず指導してくれる良心的な流派らしい。

 ウィルさんに教えてもらった道を進む。
 昼前に少しばかり降った雨の影響か、朝より湿度が高いようで、こうして歩いていても汗ばんでくる。日本と同じくオルドウも今は夏らしい。異世界間の温度変化による体調不良など気にせずにすむのは助かるが、こう暑いのは心地よくない。

 汗を拭いつつ、歩を進めていると、それらしき建物が見えてきた。石造りの建物が多いオルドウの中では珍しい木造の平屋で、日本の道場に近い雰囲気がある。

 木剣を叩き合うような音がするのを耳にしながら、道場の正面へと回る。
 そこには、ジルクール流剣術オルドウ道場という看板。

 うん、なかなか好い。
 日本人好みの風情がある、などと感心しつつ中に入らせてもらおうと入口に手をかけようとしたところ、

「おわぁ~」

 叫び声をあげながら、ひとりの男が入口から飛び出してきた。
 いや、叩き出されたのか?

 思わず身をかわした俺のさっきまでいた場所に、その男が膝をついている。

「うっ」

「ギリオンさん、3度目はないですよ」

 その男に対して棘のある声が放たれるや、すぐに入り口が閉められてしまった。

「くそっ!」

 悔しそうに地面を手で殴っている。

 うーん、困った。
 非常に間が悪い。

 この状況では道場に入りづらいものがある。
 何が起こったか詳しくは分からないが、トラブルがあってこの男が叩き出されたというところだろうから。

 時間をおいて再度訪問すべきかな。
 なら、

「大丈夫ですか?」

「うん? 誰だぁ、アンタ?」

 傍にいる俺にようやく気づいたように顔を向ける。

「こちらの道場を訪ねてきた者です」

「腕試しなら他所でやんな。あいつは簡単に相手できる剣士じゃねえぞ」

「いえ、私は少し稽古をつけてもらおうかと思って訪ねてきただけなんですが……」

「なんだぁ、レイリューク目当てじゃねえのか」

「はあ、レイリュークさんですか?」

「知らねぇのかよ」

「はい、レイリュークさんとはどなたでしょう?」

「今この道場にはな、いたっ」

 そう言いながら立ち上がろうとしたのだが、脚を怪我しているのか右脚に体重をかけた瞬間悲鳴を上げる。

「ああ、ここにいると迷惑でしょうから、場所を移しましょう。手を貸しましょうか?」

「いらねえよ。さっさと行くぞ」

 まずはこの人に話を聞いて、その後また道場に来ることにするかな。


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