勇者パーティから追い出されたと思ったら、土下座で泣きながら謝ってきた!

蒼衣翼

文字の大きさ
869 / 885
第八章 真なる聖剣

974 退路はない

しおりを挟む
 アリアン王女の扱いに困った勇者が、ドラゴンの鱗で作ったナイフを取り出して見せてやっていたので、慌てて取り上げた。
 
「危ないだろ」
「鞘から抜かなければ大丈夫だ」
「馬鹿か、王女さまの手をよく見てみろ、俺達よりもだいぶ小さいだろうが。鞘とか柄とか掴み切れずに取り落とすことだってあるんだぞ? 見せるならお前が持っている状態で見せろ。……あ、すまない王女さま」

 アリアン王女は、きれいなナイフを喜んで持っていたのに、突然取り上げられてショックを受けたようだ。
 申し訳ないが、さすがに看過出来ない。
 なにしろドラゴンの鱗を使っているので、切れすぎるのだ。

「これはとても危ないものなんだ。きれいだけどな。でも、勇者さまが持っている状態なら、大丈夫だから」
「わかりました。以前、騎士の方に剣を見せてくださいと言ったら、ひどく申し訳なさそうに断られてしまいました。それも危ないからなのですね」
「ああ。剣やナイフは肉を切るためのものだ。一つ間違うと、大切な人の体を傷つけてしまう。勇者さまも騎士殿も、人を護る仕事だからな。危険な真似は出来ないんだよ」

 勇者はうっかり、鞘付きだが、ナイフをそのままアリアン王女に渡していたけどな、とは言わないでおいてやる。
 せめてもの情けだ。

「お気遣いありがとうございますダスターさま。ファ……勇者さまも、ありがとうございます」

 アリアン王女の勇者さまという声は少し寂しそうだった。
 とは言え、今後間違えたらアリアン王女に災いが降りかかりかねない。
 今のうちに慣れておいたほうがいいだろう。
 今はお兄さまで、人がいるときは勇者さま、という使い分けは、小さな子どもには難しい話だ。
 すっかり切り替えてしまったほうがいい。

「いや、俺は……師匠、ありがとう」
「あ!」

 アリアン王女が、俺と勇者をじっと見ると、すぐに嬉しそうに手を叩いた。

「私のところにときどき来る母さまの侍女が噂していた、勇者さまのお師匠さまというのは、ダスターさまだったのですね。これは失礼いたしました」

 アリアン王女はドレスの裾をちょこんと摘んで腰をかがめる正式な挨拶を俺に向かって行った。
 いやいやいや、なんだと? 王妃さまの侍女?
 もうそんなところまで話が広がっているのか?

「あ、そうそう、師匠にその話をしようと思っていたんだ。陛下が、ぜひ師匠とも話をしたいっておっしゃっているんだ。さすがに俺が断る訳にもいかなくて、本人に聞いて来ると言って退室したんだが……」
「なん……だと?」

 俺はおそらくそのとき真っ青になったんだと思う。
 近くにいた勇者やメルリルがものすごく心配そうな顔になったからな。
 というか、もっと早く言え。
 ああいや、アリアン王女の件でごたついたから、仕方ないか。

「侍女が言うには、秋の園遊会に招かれた当代一の吟遊詩人の方が、請われて勇者さまの物語を語ったのだそうです。そのときに、勇者さまには最高の英雄のお師匠さまがいらしゃると歌っていて、とても盛り上がったのだとか」
「おのれ、吟遊詩人共……」

 俺は他人に聞こえないように、口のなかで罵りの言葉を発した。
 いっそ呪いたいぐらいだ。

「勘違いです。吟遊詩人は勘違いをしたんです。もしくは話を盛ったんですね。あいつ等よくやるんです」
「でも、さきほどから、おに……勇者さまが、ずっとお師匠さまとお呼びになっています」
「くっ……」

 相手が小さい子だからと油断した。
 いや、アリアン王女だけなら、別に気にする必要はない。
 子どもの言葉は現実と夢が混ざるものだ。
 もしアリアン王女から話が伝わっても、いくらでも言い抜け出来るだろう。
 しかし、吟遊詩人となると、なかなかそうもいかない。
 連中は話を盛り上げるために多少大げさに歌うものの、内容自体は正確さを誇っている。
 ましてや、王の前で歌うとなれば、嘘など語れば大変なことになるからな。
 絶対に偽りなど歌ったりはしない。

 下手に突っぱねれば、その吟遊詩人が処刑されてしまう可能性すらあった。
 これはもうごまかしが利くレベルではない。

 いや、正直に言うと、ちらほらそういう噂が広がっていると聞き及んでいたので、いつかはごまかせなくなるだろうなとは思っていた。
 しかし、いきなり自国の王に直接話をするとか、無茶振りだろ。

「師匠が嫌なら断るぞ?」
「いや、馬鹿言うな。そんなこと出来る訳ないだろ」

 俺はただの平民の冒険者だぞ? それこそ不敬と言われて処刑されてしまう。
 よしんば、勇者が無理を通しでもしたら、勇者と王様の関係が悪化してしまうかもしれない。
 世の中には逃げられないこともあるのだ。

 俺は半ばあきらめの境地に達していた。
しおりを挟む
感想 3,670

あなたにおすすめの小説

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

無能扱いされ、パーティーを追放されたおっさん、実はチートスキル持ちでした。戻ってきてくれ、と言ってももう遅い。田舎でゆったりスローライフ。

さら
ファンタジー
かつて勇者パーティーに所属していたジル。 だが「無能」と嘲られ、役立たずと追放されてしまう。 行くあてもなく田舎の村へ流れ着いた彼は、鍬を振るい畑を耕し、のんびり暮らすつもりだった。 ――だが、誰も知らなかった。 ジルには“世界を覆すほどのチートスキル”が隠されていたのだ。 襲いかかる魔物を一撃で粉砕し、村を脅かす街の圧力をはねのけ、いつしか彼は「英雄」と呼ばれる存在に。 「戻ってきてくれ」と泣きつく元仲間? もう遅い。 俺はこの村で、仲間と共に、気ままにスローライフを楽しむ――そう決めたんだ。 無能扱いされたおっさんが、実は最強チートで世界を揺るがす!? のんびり田舎暮らし×無双ファンタジー、ここに開幕!

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

莫大な遺産を相続したら異世界でスローライフを楽しむ

翔千
ファンタジー
小鳥遊 紅音は働く28歳OL 十八歳の時に両親を事故で亡くし、引き取り手がなく天涯孤独に。 高校卒業後就職し、仕事に明け暮れる日々。 そんなある日、1人の弁護士が紅音の元を訪ねて来た。 要件は、紅音の母方の曾祖叔父が亡くなったと言うものだった。 曾祖叔父は若い頃に単身外国で会社を立ち上げ生涯独身を貫いき、血縁者が紅音だけだと知り、曾祖叔父の遺産を一部を紅音に譲ると遺言を遺した。 その額なんと、50億円。 あまりの巨額に驚くがなんとか手続きを終える事が出来たが、巨額な遺産の事を何処からか聞きつけ、金の無心に来る輩が次々に紅音の元を訪れ、疲弊した紅音は、誰も知らない土地で一人暮らしをすると決意。 だが、引っ越しを決めた直後、突然、異世界に召喚されてしまった。 だが、持っていた遺産はそのまま異世界でも使えたので、遺産を使って、スローライフを楽しむことにしました。

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます

六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。 彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。 優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。 それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。 その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。 しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。 ※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。 詳細は近況ボードをご覧ください。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。