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第八章 真なる聖剣
970 ダスター、王女さまにお茶を淹れる
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王女さまの探していたのが勇者だということが判明したため、俺は勇者は今、王さまに呼ばれて会いに行っている、ということを説明した。
「それなら、少し待たせていただいていいでしょうか? ご迷惑……でしょうか? 私、民に迷惑をお掛けするなら、今回はお兄さまに会うのを諦めても……」
話を聞いた王女さまは、たちまちしょんぼりとうつむいてしまう。
「ええっと、待つぐらいなら、かまいませんよ?」
「まぁ! ありがとうございます!」
パッと笑顔になったのを見てしまうと、追い出す気持ちには到底なれないしな。
今回、控えの間に一応通されたとは言え、俺とメルリルはお付きの従者という扱いなので、接待役がついていたりはしない。
また、一方で、お客人を疑うような真似をしないということを表すために、扉の前に警備の騎士が立ったりもしない。
つまり俺達は、巨大な王城のなかで、ほぼ放置状態となっていた。
普通はそんなことは起きない。
平民の従者には専用の待機場所があり、普通はそこで主人を待つものなのだ。
今回は勇者一行として俺とメルリルもかなり強引に城に招かれてしまったので、こういう中途半端な扱いとなってしまったのである。
そのせいで、王女さまがここに入り込んでも見咎める者がいなかったという訳だ。
とは言え、このままでは間が持たない。
仕方ないので俺は立ち上がった。
この控室にも、訪れる貴族が自分の好みを知り尽くしている侍従に茶などを用意させることが出来るように、ちょっとした厨房施設がある。
厨房と言うよりは、小型の料理用ストーブだが。
そして、人を招くからか、部屋の暖炉だけでなく、調理用のストーブにも火が入っていた。
「……私……あー、俺でよければお茶でも淹れましょうか?」
丁寧な言葉の言い回しに限界が来たので、いつもの言葉遣いに戻す。
言葉を発する度に言い方を考えていては、何も進まないからな。
「まぁ! 本当ですか? 私、平民の方の飲まれるお茶は初めてです! ……あ、でもいけません。言ったでしょう、私が何かしてさしあげる立場なのですよ」
おおう、意外にも頑固だぞ。
というか、わかってみればこの子、勇者に性格も似ている感じがする。
頑固で変なところに真っ直ぐだ。
「それでは、俺達の飲んでいるお茶が王家の方のお口に合うか教えてくださいませんか?」
「……そんなことが役に立つのですか?」
懐疑的である。
そりゃあそうだよな。
だが、こういうことは言い続けることで真実に出来るのだ。
「とても参考になります」
俺は真面目な顔でうなずく。
横でメルリルがものすごく困った顔をして俺を見ている。
いいんだ。
嘘ではない。
「わ、わかりました」
ということで、王女さまにはふかふかのソファーにお座りいただき、フォルテに相手をさせることにする。
フォルテはあれで女子どもにウケがいいのだ。
「きれいな鳥さんですね」
「俺の使役獣なんですよ。フォルテと言います」
「ピャウ」
フォルテは俺の紹介に合わせて気取って挨拶をしてみせた。
そうそう、フォルテはフォルテで、子どもはともかく女性は好きなのだ。
子どもはうかつに近づいて羽根をむしられかけたことがあるので、苦手らしいんだが、こういう上品な子は大丈夫だろう。
「あ、あの、撫でてもいいですか?」
「もちろんです」
「ギャッギャ!」
フォルテは撫でられることには反対のようだ。
いいじゃないか撫でられるぐらい。
お前、正真正銘の王女さまだぞ。
光栄だろ?
『我に人間の地位などわかるか!』
業を煮やしてか、頭のなかに直接抗議をして来たが、俺は完全に無視をした。
「ダスターは、とてもお茶を淹れるのが上手なんですよ。私のお茶の師匠なんです」
「まぁ。素敵ですね。……あっ!」
「きゃあ!」
「どうした?」
いきなりメルリルが悲鳴を上げたので、俺は慌てて厨房部屋から飛び出す。
すると、テーブルに身を乗り出して、マジマジとメルリルの耳を見ている王女さまの姿があった。
「あ、あの……」
「その耳、もしかして、平野の民ではないのでは? あ、すみません。脅かすつもりはなかったのです」
テーブルに身を乗り出した状態の自分がはしたない姿であることに気づいたらしく、王女さまは慌てて元の場所に戻る。
「あ、はい。私は森人という、森に住む者です」
「まぁやっぱり! 書物で読んだことがあります! 平野の民以外にも人の種族がいるというのは、おとぎ話ではなく本当だったのですね!」
「はい。私も少し前までは、ほかの種族の方のことを知りませんでしたけど、ダスターや勇者さま達と一緒に旅をしているときに、大地人の方や山岳の民や水棲人の方達とお会いする機会があって、世界の広さを感じました」
「まぁ。その旅のお話、詳しく聞かせていただいてもよろしいでしょうか?」
城のなかに引き篭もっていたら、確かに何が本当かわからなくもなるよな。
俺はそう思いながら、再び茶を淹れるために厨房部屋に戻ったのだった。
「それなら、少し待たせていただいていいでしょうか? ご迷惑……でしょうか? 私、民に迷惑をお掛けするなら、今回はお兄さまに会うのを諦めても……」
話を聞いた王女さまは、たちまちしょんぼりとうつむいてしまう。
「ええっと、待つぐらいなら、かまいませんよ?」
「まぁ! ありがとうございます!」
パッと笑顔になったのを見てしまうと、追い出す気持ちには到底なれないしな。
今回、控えの間に一応通されたとは言え、俺とメルリルはお付きの従者という扱いなので、接待役がついていたりはしない。
また、一方で、お客人を疑うような真似をしないということを表すために、扉の前に警備の騎士が立ったりもしない。
つまり俺達は、巨大な王城のなかで、ほぼ放置状態となっていた。
普通はそんなことは起きない。
平民の従者には専用の待機場所があり、普通はそこで主人を待つものなのだ。
今回は勇者一行として俺とメルリルもかなり強引に城に招かれてしまったので、こういう中途半端な扱いとなってしまったのである。
そのせいで、王女さまがここに入り込んでも見咎める者がいなかったという訳だ。
とは言え、このままでは間が持たない。
仕方ないので俺は立ち上がった。
この控室にも、訪れる貴族が自分の好みを知り尽くしている侍従に茶などを用意させることが出来るように、ちょっとした厨房施設がある。
厨房と言うよりは、小型の料理用ストーブだが。
そして、人を招くからか、部屋の暖炉だけでなく、調理用のストーブにも火が入っていた。
「……私……あー、俺でよければお茶でも淹れましょうか?」
丁寧な言葉の言い回しに限界が来たので、いつもの言葉遣いに戻す。
言葉を発する度に言い方を考えていては、何も進まないからな。
「まぁ! 本当ですか? 私、平民の方の飲まれるお茶は初めてです! ……あ、でもいけません。言ったでしょう、私が何かしてさしあげる立場なのですよ」
おおう、意外にも頑固だぞ。
というか、わかってみればこの子、勇者に性格も似ている感じがする。
頑固で変なところに真っ直ぐだ。
「それでは、俺達の飲んでいるお茶が王家の方のお口に合うか教えてくださいませんか?」
「……そんなことが役に立つのですか?」
懐疑的である。
そりゃあそうだよな。
だが、こういうことは言い続けることで真実に出来るのだ。
「とても参考になります」
俺は真面目な顔でうなずく。
横でメルリルがものすごく困った顔をして俺を見ている。
いいんだ。
嘘ではない。
「わ、わかりました」
ということで、王女さまにはふかふかのソファーにお座りいただき、フォルテに相手をさせることにする。
フォルテはあれで女子どもにウケがいいのだ。
「きれいな鳥さんですね」
「俺の使役獣なんですよ。フォルテと言います」
「ピャウ」
フォルテは俺の紹介に合わせて気取って挨拶をしてみせた。
そうそう、フォルテはフォルテで、子どもはともかく女性は好きなのだ。
子どもはうかつに近づいて羽根をむしられかけたことがあるので、苦手らしいんだが、こういう上品な子は大丈夫だろう。
「あ、あの、撫でてもいいですか?」
「もちろんです」
「ギャッギャ!」
フォルテは撫でられることには反対のようだ。
いいじゃないか撫でられるぐらい。
お前、正真正銘の王女さまだぞ。
光栄だろ?
『我に人間の地位などわかるか!』
業を煮やしてか、頭のなかに直接抗議をして来たが、俺は完全に無視をした。
「ダスターは、とてもお茶を淹れるのが上手なんですよ。私のお茶の師匠なんです」
「まぁ。素敵ですね。……あっ!」
「きゃあ!」
「どうした?」
いきなりメルリルが悲鳴を上げたので、俺は慌てて厨房部屋から飛び出す。
すると、テーブルに身を乗り出して、マジマジとメルリルの耳を見ている王女さまの姿があった。
「あ、あの……」
「その耳、もしかして、平野の民ではないのでは? あ、すみません。脅かすつもりはなかったのです」
テーブルに身を乗り出した状態の自分がはしたない姿であることに気づいたらしく、王女さまは慌てて元の場所に戻る。
「あ、はい。私は森人という、森に住む者です」
「まぁやっぱり! 書物で読んだことがあります! 平野の民以外にも人の種族がいるというのは、おとぎ話ではなく本当だったのですね!」
「はい。私も少し前までは、ほかの種族の方のことを知りませんでしたけど、ダスターや勇者さま達と一緒に旅をしているときに、大地人の方や山岳の民や水棲人の方達とお会いする機会があって、世界の広さを感じました」
「まぁ。その旅のお話、詳しく聞かせていただいてもよろしいでしょうか?」
城のなかに引き篭もっていたら、確かに何が本当かわからなくもなるよな。
俺はそう思いながら、再び茶を淹れるために厨房部屋に戻ったのだった。
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