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第八章 真なる聖剣
969 小さな嵐
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「ファイランお兄さま!」
突然、控室の扉を開け放って、小さな女の子が飛び込んで来た。
おいおい何事だ?
ノックもしないのはちょっといただけないぞ?
しかしここは王城である。
使用人すら全員貴族という場所、無礼があってはこっちの身が危ない。
俺はすかさずメルリルに視線を送り、共に立ち上がってうやうやしく礼をした。
「お部屋をお間違えではありませんか? 姫君」
貴族の女性は全員姫君という敬称が使える。
しかも言われた側はなんとなく嬉しいらしい。
貴族女性とのトラブルを回避するためには、既婚女性以外は姫君と呼ぶのがオススメだ。
俺達の姿を見て、少女は一瞬固まった。
そして俺の言葉にハッとしたような顔になる。
だいたい十歳前後だろうか? このぐらいの年頃ならちょっとした勘違いもあるあるで済ませることが出来るだろう。
これが十五、六より上になると、とんでもないトラブルに巻き込まれたりするから、貴族女性には注意が必要だ。
「ご、ごめんなさい。……ひさしぶりにファイランお兄さまがお城に来ていると聞いて、飛んで来ちゃったの」
「謝ることはありませんよ。俺達は平民なので、お家に迷惑がかかることもありませんし」
そう、たとえ子どもの過ちであろうと、貴族同士だとささいなことがとんでもないスキャンダルになってしまうことがあるらしい。
子どもでも、いや、子どもだからこそ、親からはさんざん言い聞かされているはずだ。
ここで安心させておくのがいいだろう。
ところが、この少女の反応は、俺の考えていたものと全く違っていた。
「まぁ。あなた方は我が国の民なのですね。それでは何かして欲しいこととかありませんか?」
ん? 聞き間違いか?
何かして欲しいということかな?
「姫君は、何か私達にして欲しいことがおありなのですか?」
「いえ、逆です。私達王家の者は民のためにあると聞いています。貴族には厳しく民には優しく。それが王家の誇りなのです」
そう言って、エッヘンと胸を張る。
「えっ!」
「まぁ!」
王家、今この少女、王家と言ったか?
ということはこの子、もしかしなくても本物の姫君中の姫君、王女さまじゃねえか!
おい、城の警備兵! どうなってる! いくら王女さまにとっては自宅であろうと、俺達みたいな得体の知れない客人と単独で対面していい相手じゃねえぞ!
「……ひ、姫君、あの、お付きの方とか、は?」
「目くらましの魔法を使って撒いて来ました!」
うわっ、ちょっと今、頭がクラっとしたぞ。
この姫君、とんでもないお転婆だ。
絶対に関わっちゃいけない相手である。
「それで、何かして欲しいことはありませんか?」
当の姫君は、全く悪びれない様子で、あまつさえ目をキラキラさせて、俺に再度尋ねた。
この顔とこの雰囲気、誰かに似ているような……。
ん?
「そ、そう言えば、先程ファイランという名前の方をお探しではありませんでしたか?」
ファイラン……ファイラン……なんか記憶の片隅に引っかかっているような、どっかで聞いた気がする。
「そうでした! ファイランお兄さまは、勇者さまに選ばれたとかで、ちっとも私と遊んでくださらなくなってしまわれたのです。だから、今度お城にまいられたときには、必ず知らせるようにと、ケイトにお願いしていたのです!」
あ、思い出した。
そうだ、勇者の改名前の名前が確かそんなのだった気がする。
かなり前に一回聞いたっきりだったから思い出せなかった。
そうか、ええっと、勇者の父親って確か王様の兄弟だっけ? ってことはつまりこの子は勇者にとって従妹に当たる訳だな。
それで、お兄さま、ね。
というかケイトって誰だ?
王女さま付きの侍女か何かかな?
ちょっと、おい、王族のお世話役の連中、ちゃんと仕事しろ!
俺は目前の小さな嵐にどう対応していいのか判断出来ず、困惑して立ち尽くすしかなかったのだった。
突然、控室の扉を開け放って、小さな女の子が飛び込んで来た。
おいおい何事だ?
ノックもしないのはちょっといただけないぞ?
しかしここは王城である。
使用人すら全員貴族という場所、無礼があってはこっちの身が危ない。
俺はすかさずメルリルに視線を送り、共に立ち上がってうやうやしく礼をした。
「お部屋をお間違えではありませんか? 姫君」
貴族の女性は全員姫君という敬称が使える。
しかも言われた側はなんとなく嬉しいらしい。
貴族女性とのトラブルを回避するためには、既婚女性以外は姫君と呼ぶのがオススメだ。
俺達の姿を見て、少女は一瞬固まった。
そして俺の言葉にハッとしたような顔になる。
だいたい十歳前後だろうか? このぐらいの年頃ならちょっとした勘違いもあるあるで済ませることが出来るだろう。
これが十五、六より上になると、とんでもないトラブルに巻き込まれたりするから、貴族女性には注意が必要だ。
「ご、ごめんなさい。……ひさしぶりにファイランお兄さまがお城に来ていると聞いて、飛んで来ちゃったの」
「謝ることはありませんよ。俺達は平民なので、お家に迷惑がかかることもありませんし」
そう、たとえ子どもの過ちであろうと、貴族同士だとささいなことがとんでもないスキャンダルになってしまうことがあるらしい。
子どもでも、いや、子どもだからこそ、親からはさんざん言い聞かされているはずだ。
ここで安心させておくのがいいだろう。
ところが、この少女の反応は、俺の考えていたものと全く違っていた。
「まぁ。あなた方は我が国の民なのですね。それでは何かして欲しいこととかありませんか?」
ん? 聞き間違いか?
何かして欲しいということかな?
「姫君は、何か私達にして欲しいことがおありなのですか?」
「いえ、逆です。私達王家の者は民のためにあると聞いています。貴族には厳しく民には優しく。それが王家の誇りなのです」
そう言って、エッヘンと胸を張る。
「えっ!」
「まぁ!」
王家、今この少女、王家と言ったか?
ということはこの子、もしかしなくても本物の姫君中の姫君、王女さまじゃねえか!
おい、城の警備兵! どうなってる! いくら王女さまにとっては自宅であろうと、俺達みたいな得体の知れない客人と単独で対面していい相手じゃねえぞ!
「……ひ、姫君、あの、お付きの方とか、は?」
「目くらましの魔法を使って撒いて来ました!」
うわっ、ちょっと今、頭がクラっとしたぞ。
この姫君、とんでもないお転婆だ。
絶対に関わっちゃいけない相手である。
「それで、何かして欲しいことはありませんか?」
当の姫君は、全く悪びれない様子で、あまつさえ目をキラキラさせて、俺に再度尋ねた。
この顔とこの雰囲気、誰かに似ているような……。
ん?
「そ、そう言えば、先程ファイランという名前の方をお探しではありませんでしたか?」
ファイラン……ファイラン……なんか記憶の片隅に引っかかっているような、どっかで聞いた気がする。
「そうでした! ファイランお兄さまは、勇者さまに選ばれたとかで、ちっとも私と遊んでくださらなくなってしまわれたのです。だから、今度お城にまいられたときには、必ず知らせるようにと、ケイトにお願いしていたのです!」
あ、思い出した。
そうだ、勇者の改名前の名前が確かそんなのだった気がする。
かなり前に一回聞いたっきりだったから思い出せなかった。
そうか、ええっと、勇者の父親って確か王様の兄弟だっけ? ってことはつまりこの子は勇者にとって従妹に当たる訳だな。
それで、お兄さま、ね。
というかケイトって誰だ?
王女さま付きの侍女か何かかな?
ちょっと、おい、王族のお世話役の連中、ちゃんと仕事しろ!
俺は目前の小さな嵐にどう対応していいのか判断出来ず、困惑して立ち尽くすしかなかったのだった。
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