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第八章 真なる聖剣
964 遠慮がちの差し入れ
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村で心尽くしの料理を楽しみ、わずかばかりの酒をいただいた。
こういう村では酒はかなりの贅沢品だ。
ありがたいが申し訳ない。
勇者達はすっかり疲れたところにたらふく食べて、すぐに眠くなったようだ。
寄せ集めの寝台と、ラグの上に転がるやいなや、即寝てしまった。
「あの……」
習慣で完全に寝入ることのない俺は、夜になんとなく、庭へ出て、天上の星の下、闇のなかに沈む平和な村を眺めていると、村長の奥さんから声をかけられた。
「見た目はあんまりよくなくって、うちの人は、恥ずかしいから勇者さま方にさしあげたりするなって言うんですけど、体が辛いときとかにつまむと、元気が出るんですよ」
奥さんが差し出したのは、茶色くしなびれた葉っぱに包まれた黒ぽい塊である。
「これは?」
「畑の周りに生える雑穀と、森の木の実と、蜂の巣の蜜とを練って焼いたものです。壺に入れて、暗くて涼しい場所に保管していれば、一年程度は味も変わらずに楽しめるんで、重宝しています」
「一ついただいても?」
「もちろん。どうぞ」
小指の先ほどの小さな塊を口に入れると、強い甘みを舌に感じ、穀物と木の実の風味が鼻に抜けた。
繊細な焼き菓子などの甘みとは違って、多くを食べるには甘すぎる味だ。
だが、確かに疲れたときに口に入れると元気が出そうではある。
「狩りなんかで森に籠もったり、根気のいる作業のときなんかに少し持たせるんです」
「なるほど。元気が出ますね」
「よかったら、みなさまでお持ちください」
「あなた方の分も必要でしょう?」
「春になって、しばらくすれば夏が来ます。夏になればまた作れますから。……その、やはりうちの人の言うように、作り置きの粗末なものを差し上げるのは失礼だったですかね?」
なるほど、みんなが寝てしまった後、一人でうろついていた俺に声を掛けた理由がわかった。
村長さんに怒られただけではなく、自分でもちょっとどうかな? と思ったのだろう。
去年の作り置きだしな。
それでも、勇者達に何かの形で報いたかったのだろう。
きっとこれはこの村ではごちそうなのだ。
迷った挙げ句に庭をうろつく俺を見て、俺なら、勇者達と違って、同じ平民だから、そういうことを尋ねるのに丁度いいと思ったのだろう。
「勇者さま方は、魔物を倒すために、深い迷宮に潜ったり、人里離れた森をさまよったりすることがあるんです。そういうときは地べたに寝転がりもする」
「まぁ」
「火も起こせないときもあります」
「お気の毒に……」
なんか同情されてしまった。
俺は少し笑いながら、言うべきことを告げる。
「そういうときに、このお菓子は、とてもありがたいものになるでしょう。感謝こそすれ、粗末だと笑ったりはしませんよ」
「ほ、本当ですか。ならよかった」
村長の奥さんはホッとしたようにぺこりと頭を下げて家へと戻って行った。
葉っぱに包まれた、この村特産の元気の素、黒くて甘い塊は、俺の拳よりも少ない程度の量だ。
だが、この村が冬を乗り切るために役立った大切な保存食の一つで、冬場のただ一つの贅沢品だったのだろう。
その思い出も、きっと一緒に託されたのだ。
来年もまたこれを楽しむことが出来ることへの感謝として。
「そうだ。このまま食べると甘すぎるが、茶に入れて一緒に飲めばちょうどいい甘さになるんじゃないかな? ようは硬いジャムだし」
俺はこの心尽くしの差し入れを丁寧にしまい込みつつ、勇者達が喜んで口に出来るようにする工夫を考えたのだった。
こういう村では酒はかなりの贅沢品だ。
ありがたいが申し訳ない。
勇者達はすっかり疲れたところにたらふく食べて、すぐに眠くなったようだ。
寄せ集めの寝台と、ラグの上に転がるやいなや、即寝てしまった。
「あの……」
習慣で完全に寝入ることのない俺は、夜になんとなく、庭へ出て、天上の星の下、闇のなかに沈む平和な村を眺めていると、村長の奥さんから声をかけられた。
「見た目はあんまりよくなくって、うちの人は、恥ずかしいから勇者さま方にさしあげたりするなって言うんですけど、体が辛いときとかにつまむと、元気が出るんですよ」
奥さんが差し出したのは、茶色くしなびれた葉っぱに包まれた黒ぽい塊である。
「これは?」
「畑の周りに生える雑穀と、森の木の実と、蜂の巣の蜜とを練って焼いたものです。壺に入れて、暗くて涼しい場所に保管していれば、一年程度は味も変わらずに楽しめるんで、重宝しています」
「一ついただいても?」
「もちろん。どうぞ」
小指の先ほどの小さな塊を口に入れると、強い甘みを舌に感じ、穀物と木の実の風味が鼻に抜けた。
繊細な焼き菓子などの甘みとは違って、多くを食べるには甘すぎる味だ。
だが、確かに疲れたときに口に入れると元気が出そうではある。
「狩りなんかで森に籠もったり、根気のいる作業のときなんかに少し持たせるんです」
「なるほど。元気が出ますね」
「よかったら、みなさまでお持ちください」
「あなた方の分も必要でしょう?」
「春になって、しばらくすれば夏が来ます。夏になればまた作れますから。……その、やはりうちの人の言うように、作り置きの粗末なものを差し上げるのは失礼だったですかね?」
なるほど、みんなが寝てしまった後、一人でうろついていた俺に声を掛けた理由がわかった。
村長さんに怒られただけではなく、自分でもちょっとどうかな? と思ったのだろう。
去年の作り置きだしな。
それでも、勇者達に何かの形で報いたかったのだろう。
きっとこれはこの村ではごちそうなのだ。
迷った挙げ句に庭をうろつく俺を見て、俺なら、勇者達と違って、同じ平民だから、そういうことを尋ねるのに丁度いいと思ったのだろう。
「勇者さま方は、魔物を倒すために、深い迷宮に潜ったり、人里離れた森をさまよったりすることがあるんです。そういうときは地べたに寝転がりもする」
「まぁ」
「火も起こせないときもあります」
「お気の毒に……」
なんか同情されてしまった。
俺は少し笑いながら、言うべきことを告げる。
「そういうときに、このお菓子は、とてもありがたいものになるでしょう。感謝こそすれ、粗末だと笑ったりはしませんよ」
「ほ、本当ですか。ならよかった」
村長の奥さんはホッとしたようにぺこりと頭を下げて家へと戻って行った。
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だが、この村が冬を乗り切るために役立った大切な保存食の一つで、冬場のただ一つの贅沢品だったのだろう。
その思い出も、きっと一緒に託されたのだ。
来年もまたこれを楽しむことが出来ることへの感謝として。
「そうだ。このまま食べると甘すぎるが、茶に入れて一緒に飲めばちょうどいい甘さになるんじゃないかな? ようは硬いジャムだし」
俺はこの心尽くしの差し入れを丁寧にしまい込みつつ、勇者達が喜んで口に出来るようにする工夫を考えたのだった。
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