勇者パーティから追い出されたと思ったら、土下座で泣きながら謝ってきた!

蒼衣翼

文字の大きさ
上 下
847 / 885
第八章 真なる聖剣

952 平穏を護る者

しおりを挟む
「師匠! どうして何も言わずに一人で群れのボスと戦ったんだ? 昨日、死体を見たが、到底一人で戦う相手じゃなかったぞ!」

 起き出して身だしなみを整えていると、豪快に扉を開けて勇者が飛び込んで来た。
 そして開口一番、まくしたてる。

「うるさい。今ナイフでヒゲを剃ってるんだ。手が滑ってケガしたらどうする?」
「え? あ? 悪かった」

 しつけがいいのか、悪いのか、ほんとわからない奴だ。
 とりあえず一通り準備を終えると、勇者に確認する。

「みんなは?」
「師匠も準備があるだろうからって、俺の部屋で待ってる」

 ……それでどうしてお前が飛び込んで来たのか、俺にはさっぱり理解出来ないよ。
 普通そう言われたら待ってるだろ、大人しく。

「一刻も早く文句を言いたかったのか?」
「ち、違う! 俺はそんなに頼りにされてなかったのかって、悔しくて……」
「昨日の……ああいや、先日のことなら、お前が逸って飛び出すから、ああなったんじゃないか」
「うっ……」
「いつも散々言ってるだろ。よほど切羽詰まった状況じゃない限り、最低限のお互いの意思確認はしろって。……まぁでも、あの状況じゃあ、気持ちはわかるが、な」

 実際、勇者が飛び込むのが遅れたら、囲まれていた人達の誰かは、体の一部どころか、命も失っていた可能性がある。

「そういう意味ではそれぞれがやれることをやったということになる。さっきは咎めるようなことを言ったが、判断としては悪くなかった。むしろ事前に魔犬とわかっていたんだから、どういう風に動けばいいのかを言っておかなかった俺が悪い。すまなかったな」

 俺が頭を下げると、勇者があたふたと首を横に振ったり、手を左右に振ったりし始めた。

「ち、違う。師匠は間違ってない。やっぱり、俺が未熟だからああなったんだ。それは、俺にだってわかってる」
「そうか。わかっているなら、いいじゃないか。問題点ははっきりしているんだ。それを補えばいい。今回のことで言えば、相手を知るってことだな」
「相手を知る……」
「ああ。何事も、場当たり的にやっていたら成功するものも成功しない。基本的に俺達冒険者は依頼を請けたらその依頼についての情報を集める。勇者の役目だって同じだ。手強い魔物がいたとして、ただ力任せに退治しようとせずに、その魔物について詳しく調べる。習性や弱点なんかをな」
「そう言えば、師匠はいつもいろんなことに詳しいよな」
「冒険者を長くやってるからな。お前だって、普通の奴よりはいろいろアドバンテージを持ってるだろ?」
「俺が?」

 勇者が不思議そうな顔をするので、俺はおかしくなって少し笑ってしまう。

「城の禁書庫に入り込んで、一般人は読むことの出来ない禁書を読んだり、宝物庫に忍び込んで普通では見ることの出来ない遺物を見たり」
「確かに」

 どうやら自分が他人よりも、情報収集能力に秀でていることに気づいたようだ。

「あれだな。お前、勇者としての能力は別として、実は斥候レンジャー向きなのかもな」
斥候レンジャー?」

 む? 眉間にシワを寄せて不満そうだな。

斥候レンジャーを侮るなよ? かなり高度な隠密能力が必要な上に、ある程度の知識がなければ自分が見たものの判断が出来ないという、そうとう希少な存在なんだぞ? いるのといないのとでは、依頼の達成率が大きく変わる。斥候レンジャーがいるパーティは、依頼の難易度を一段階上げると言われるぐらいなんだ」
「そう言えば、前もそんなことを師匠は言ってたな」
「ただ、お前突っ込み癖があるからなぁ。それが一番の問題点だ。斥候レンジャーは仲間に情報を届けるまで、自分だけで戦っちゃ駄目だからな。戦いは最低限身を守る程度だ」
「うむむ……」
「ハハハ。そんなにマジで悩むな。お前は勇者で斥候レンジャーにはなれない。勇者なら突っ込み癖も悪いばかりじゃないしな。味方を鼓舞する効果がある」
「むう」

 俺はそんな風に言いつつ、もしこいつが、勇者じゃないアルフという一人の青年だったら、俺はパーティを組んだだろうか? と、ふと、そんなことを思った。
 性格はひねているし、突っ込み癖があるし、変なところで素直だし、付き合いにくい男だ。
 才能だけはピカイチだけど、ほかの奴は相手にしてくれないだろうな。
 しょぼくれて、酒場の隅で一人離れて飯を食っている姿が目に浮かぶようだ。

「アルフ、お前、勇者でよかったな」
「師匠~、それはないだろ?」
「いやいや、マジで。なにより、強者に翻弄されるしかない力なき民にとって、お前が勇者でよかったよ」

 いろいろと問題がある男だが、正義感は本物だし、権威を振り回す相手が嫌いで弱い者を助けようとする。
 理想的な勇者じゃないか。

「いろいろ昔あったにしろ、そろそろ吹っ切ってもいいんじゃないか?」

 大聖堂でも、そして過去に勇者と戦った魔王であったアドミニス殿にも、勇者としての資質が本物であると保証されたのだ。
 決して、大貴族の権力争いや大聖堂の見栄のために無理やり選ばれたのではない。
 本当に神託が降りたのだろうと、今となっては俺も思っている。

「聞こえているんだろう? 助けを呼ぶ、か弱き者達の声が」

 勇者はハッとしたように俺を見て、小さくうなずいた。

「貴族の館や、贅沢な宿にいるときには、全く心が休まらない。子どもに石の入った雪玉をぶつけられたり、薪を割って感謝されているときには、不思議と心が穏やかになるんだ。……子どもの頃から、ずっと何かに焦っていたような気がした。そして、師匠と出会って、自分が求めていたものがそこにあるんだと気づいた。俺は、師匠のような人になりたい」
「いや、それはお前、かいかぶりってものだぞ?」

 俺はお前が勇者になるべくしてなったって言っているのに、なんでそこに結論を持って来るんだよ?
しおりを挟む
感想 3,670

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

異世界転生してしまったがさすがにこれはおかしい

増月ヒラナ
ファンタジー
不慮の事故により死んだ主人公 神田玲。 目覚めたら見知らぬ光景が広がっていた 3歳になるころ、母に催促されステータスを確認したところ いくらなんでもこれはおかしいだろ!

愛されない皇妃~最強の母になります!~

椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』 やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。 夫も子どもも――そして、皇妃の地位。 最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。 けれど、そこからが問題だ。 皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。 そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど…… 皇帝一家を倒した大魔女。 大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!? ※表紙は作成者様からお借りしてます。 ※他サイト様に掲載しております。

5歳で前世の記憶が混入してきた  --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--

ばふぉりん
ファンタジー
 「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」   〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は 「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」    この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。  剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。  そんな中、この五歳児が得たスキルは  □□□□  もはや文字ですら無かった ~~~~~~~~~~~~~~~~~  本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。  本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。  

放置された公爵令嬢が幸せになるまで

こうじ
ファンタジー
アイネス・カンラダは物心ついた時から家族に放置されていた。両親の顔も知らないし兄や妹がいる事は知っているが顔も話した事もない。ずっと離れで暮らし自分の事は自分でやっている。そんな日々を過ごしていた彼女が幸せになる話。

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!

椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。 しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。 身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。 そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。

彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。 父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。 わー、凄いテンプレ展開ですね! ふふふ、私はこの時を待っていた! いざ行かん、正義の旅へ! え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。 でも……美味しいは正義、ですよね? 2021/02/19 第一部完結 2021/02/21 第二部連載開始 2021/05/05 第二部完結

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。