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第八章 真なる聖剣
951 英雄の休息
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「えー、その、お願いについてなのですが」
丁寧な言葉使いも面倒になって来た。
いや、頑張れ、俺。
「おお、そうであったな」
「噂で耳にしたのですが、ご領主さまは近々腕のいい鍛冶職人の工房を開くとか」
「うむ。もう城に招いておる」
白々しいやりとりだが、周囲に一般の兵士や他の一族出身の騎士などもいるので、そういうカバーストーリーも必要となる。
「それはよろしゅうございました。そこで、勇者さまからの提案なのですが、此度の勇者さま方の倒した魔物から得られるものをその、傷ついた者達のために使って欲しいとのことです」
「ふむ?」
ロスト辺境伯は、まだよくわからない風で首を捻った。
「もしよろしければ、その腕のいい鍛冶師殿に、欠けたる部分を埋める補助具を作成していただけたら、と。これから工房を開くのに、鍛冶師殿の腕をお披露目するいい機会にもなりますし」
「おお!」
話を理解したロスト辺境伯は、ポンと膝を打つ。
「なるほど。さすが勇者殿よ。素晴らしいご提案だ。我が領地の民もその御慈悲に感涙すること間違いないであろう」
「もうすぐ年越し祭です。祝い事を前に不幸な出来事はなるべく後を引かせないのがいいか、と」
「よくぞ申した。そうだ。この年越し祭には、我が末の姫の祝いもある。災いによって曇らせる訳にもいくまい。ならば私からも振る舞いを行おう。祝い事の前の厄払いとなれば、妬みなども少ないであろうしな」
ロスト辺境伯は、これまで魔物被害に遭った者達から不満が出るかもしれないが、祝い事の振る舞いとして受け入れやすくしようと言ってくれたのだ。
これは大変助かることだった。
もちろんその場に勇者が居合わせたことによる奇跡である、と大方の者は受け入れるだろうが、それでも不満を持つ者はいるだろう。
そこへ、ご領主の姫君の祝いによる振る舞いと言われれば、納得するのが庶民と言うものだ。
貴族はそういった祝い事に穢れを持ち込むのを嫌う。
そのことは誰もが知っている話だからだ。
「聞けば此度の被害の最初の犠牲者は、祝い歳の娘を持つ親とのこと。私と同じ立場ではないか。それをそのままにしておけば、我が娘に叱られようからな」
上手い持って行き方である。
ロスト辺境伯は城の下働きの者からも評判がいい城主であったが、こういった配慮が出来るところが慕われる秘訣なのだろう。
長い冬の間も、たびたび簡単な仕事を普請として募集し、気前よく食事や賃金の振る舞いを行っていて、そのままでは冬を越えられないような庶民の救済に力を入れているのを見て来た。
辺境領は貧しい領地だが、それだけに貴族も平民も一体感のある土地柄となっているのである。
その後ロスト辺境伯からのねぎらいとお褒めの言葉もそこそこに、俺は勇者に半分担がれるようにして、部屋に押し込められた。
寝台に放り込まれて、その後意識がない。
そして目が覚めると、寄り添うようにメルリルが寝ていたので、ボーッとその寝顔を眺めてしまった。
「あっ! ダスター!」
しばらくして、もしかすると俺の視線を感じたのか、メルリルが目を覚ましてしまう。
そして真っ赤になった。
「なんで起こしてくれなかったの? もう!」
今の『もう!』は可愛かったな、などと思いつつ、周囲を見回す。
窓が開いてないので、部屋は真っ暗だ。
だが、ほんのりと、日が高い時間帯の雰囲気があった。
「寝過ごした?」
「残念でした、今日はあれから二日目です」
「へっ?」
メルリルのニコニコ顔がちょっと怖い。
怒っていますか? 怒っていますね?
「ピャフー」
変な鼻息のような鳴き声が聞こえて、寝台の横にある上着掛けを見ると、フォルテがうつらうつらとしながら、寝言のように声を出していた。
俺が疲れていたので、フォルテも疲れたのだろう。
なんだかんだ言って、俺とフォルテはかなり強固に繋がっている。
俺の体に問題が起きると、即座にフォルテにも反映されるようだ。
「まる一日寝てた?」
「うん。昨日は勇者さまに言って、ずっとダスターに着いてた。寝顔を見ていたら私も寝ちゃったみたい。だから今日が一日後ってことはわかるけど、私も時間はわからないよ」
「そっか」
「あのね」
「うん?」
「ずっとこうしていたい」
「おいおい」
「ダスターを独り占め出来て嬉しかった」
言葉と違って、メルリルはちっとも嬉しそうではなかった。
だいぶ心配掛けたんだろうな、と思う。
本当はあれからどうなったのかを聞きたかったのだが、さすがに今それを聞く程俺も野暮ではない。
「ありがとうな、メルリル」
「ダスターはいつもずるい。そうやって、すぐ欲しい言葉を言っちゃう。もっと駄目な人だったらよかったのに」
「おいおい」
なんだか今日のメルリルは精神が不安定なのだろう。
変なことばかり言うようだ。
まぁ俺のせいか。
「もうちょっと、一緒に寝てるか?」
俺がそう言うと、メルリルは少しびっくりしたように俺を見て、次いで笑い出した。
「本当は、いろいろ気になっているくせに。……でもありがとう。じゃあ、みんなに知らせて来るね!」
メルリルは小鳥のように身軽に寝台から飛び降りると、軽い足取りで部屋を出て行ったのだった。
「少しは……本気だったんだけどな」
人生とはままならぬものなのだ。
丁寧な言葉使いも面倒になって来た。
いや、頑張れ、俺。
「おお、そうであったな」
「噂で耳にしたのですが、ご領主さまは近々腕のいい鍛冶職人の工房を開くとか」
「うむ。もう城に招いておる」
白々しいやりとりだが、周囲に一般の兵士や他の一族出身の騎士などもいるので、そういうカバーストーリーも必要となる。
「それはよろしゅうございました。そこで、勇者さまからの提案なのですが、此度の勇者さま方の倒した魔物から得られるものをその、傷ついた者達のために使って欲しいとのことです」
「ふむ?」
ロスト辺境伯は、まだよくわからない風で首を捻った。
「もしよろしければ、その腕のいい鍛冶師殿に、欠けたる部分を埋める補助具を作成していただけたら、と。これから工房を開くのに、鍛冶師殿の腕をお披露目するいい機会にもなりますし」
「おお!」
話を理解したロスト辺境伯は、ポンと膝を打つ。
「なるほど。さすが勇者殿よ。素晴らしいご提案だ。我が領地の民もその御慈悲に感涙すること間違いないであろう」
「もうすぐ年越し祭です。祝い事を前に不幸な出来事はなるべく後を引かせないのがいいか、と」
「よくぞ申した。そうだ。この年越し祭には、我が末の姫の祝いもある。災いによって曇らせる訳にもいくまい。ならば私からも振る舞いを行おう。祝い事の前の厄払いとなれば、妬みなども少ないであろうしな」
ロスト辺境伯は、これまで魔物被害に遭った者達から不満が出るかもしれないが、祝い事の振る舞いとして受け入れやすくしようと言ってくれたのだ。
これは大変助かることだった。
もちろんその場に勇者が居合わせたことによる奇跡である、と大方の者は受け入れるだろうが、それでも不満を持つ者はいるだろう。
そこへ、ご領主の姫君の祝いによる振る舞いと言われれば、納得するのが庶民と言うものだ。
貴族はそういった祝い事に穢れを持ち込むのを嫌う。
そのことは誰もが知っている話だからだ。
「聞けば此度の被害の最初の犠牲者は、祝い歳の娘を持つ親とのこと。私と同じ立場ではないか。それをそのままにしておけば、我が娘に叱られようからな」
上手い持って行き方である。
ロスト辺境伯は城の下働きの者からも評判がいい城主であったが、こういった配慮が出来るところが慕われる秘訣なのだろう。
長い冬の間も、たびたび簡単な仕事を普請として募集し、気前よく食事や賃金の振る舞いを行っていて、そのままでは冬を越えられないような庶民の救済に力を入れているのを見て来た。
辺境領は貧しい領地だが、それだけに貴族も平民も一体感のある土地柄となっているのである。
その後ロスト辺境伯からのねぎらいとお褒めの言葉もそこそこに、俺は勇者に半分担がれるようにして、部屋に押し込められた。
寝台に放り込まれて、その後意識がない。
そして目が覚めると、寄り添うようにメルリルが寝ていたので、ボーッとその寝顔を眺めてしまった。
「あっ! ダスター!」
しばらくして、もしかすると俺の視線を感じたのか、メルリルが目を覚ましてしまう。
そして真っ赤になった。
「なんで起こしてくれなかったの? もう!」
今の『もう!』は可愛かったな、などと思いつつ、周囲を見回す。
窓が開いてないので、部屋は真っ暗だ。
だが、ほんのりと、日が高い時間帯の雰囲気があった。
「寝過ごした?」
「残念でした、今日はあれから二日目です」
「へっ?」
メルリルのニコニコ顔がちょっと怖い。
怒っていますか? 怒っていますね?
「ピャフー」
変な鼻息のような鳴き声が聞こえて、寝台の横にある上着掛けを見ると、フォルテがうつらうつらとしながら、寝言のように声を出していた。
俺が疲れていたので、フォルテも疲れたのだろう。
なんだかんだ言って、俺とフォルテはかなり強固に繋がっている。
俺の体に問題が起きると、即座にフォルテにも反映されるようだ。
「まる一日寝てた?」
「うん。昨日は勇者さまに言って、ずっとダスターに着いてた。寝顔を見ていたら私も寝ちゃったみたい。だから今日が一日後ってことはわかるけど、私も時間はわからないよ」
「そっか」
「あのね」
「うん?」
「ずっとこうしていたい」
「おいおい」
「ダスターを独り占め出来て嬉しかった」
言葉と違って、メルリルはちっとも嬉しそうではなかった。
だいぶ心配掛けたんだろうな、と思う。
本当はあれからどうなったのかを聞きたかったのだが、さすがに今それを聞く程俺も野暮ではない。
「ありがとうな、メルリル」
「ダスターはいつもずるい。そうやって、すぐ欲しい言葉を言っちゃう。もっと駄目な人だったらよかったのに」
「おいおい」
なんだか今日のメルリルは精神が不安定なのだろう。
変なことばかり言うようだ。
まぁ俺のせいか。
「もうちょっと、一緒に寝てるか?」
俺がそう言うと、メルリルは少しびっくりしたように俺を見て、次いで笑い出した。
「本当は、いろいろ気になっているくせに。……でもありがとう。じゃあ、みんなに知らせて来るね!」
メルリルは小鳥のように身軽に寝台から飛び降りると、軽い足取りで部屋を出て行ったのだった。
「少しは……本気だったんだけどな」
人生とはままならぬものなのだ。
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