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第八章 真なる聖剣
889 みんなで一緒に
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翌日は、懸念通りいつもの時間に起きることは出来なかった。
気持ちよく飲まされてしまったので、気持ちよく寝てしまい、目覚めたときにはすでに朝日は昇っていたのだ。
昨夜は、酔いつぶれた勇者を引きずりながら納屋へと行くと、集めたワラの上にシーツを敷いて、満足そうに寄り添って眠る女性陣に癒やされたものだが、さすがにその間に入って寝る気持ちにはならなかったため、納屋の床に直に適当に勇者を転がして、俺は壁に寄りかかって休むことにしたのである。
酔った翌日ということもあって、ひどく喉が乾いて目覚めると、近くに小さな桶が置いてあって、汲み置きの水が入っていた。
ありがたい配慮である。
納屋のなかに聖女達女性陣の気配はなく、外のほうからなにやら楽しげな会話の声が耳に届いた。
勇者はと見ると、何やら唸りながら歯ぎしりしつつ寝ている。
近くには同じように汲み置きの水が置いてあった。
その水を頭から浴びせたいという誘惑をなんとか我慢して、自分の分の水を飲みつつ外に出る。
「っ!……お、おはよー?」
納屋の周りには、なぜか小さな子ども達と、家畜用に飼いならされた丸丸鳥が数羽集まっていた。
「あのっ、勇者さま?」
なるほど、勇者の出待ちだったか。
「いや、俺は従者のほうだ。勇者さまは若くてカッコイイぞ」
「ひゃあ!」
俺が子どもの夢を壊さないように、外見イメージだけを伝えると、興奮したように変な叫びを上げられてしまった。
なんならなかに入って叩き起こしてもらってもいいが、悪夢にうなされた勇者が、反射的に何かをするといけないので、そのまま起こさないように伝えておく。
井戸で、野菜などを洗いながらおしゃべりに興じていたメルリルと合流したときに、納屋のほうから子ども達の歓声が上がったので、勇者も目覚めたのだろう。
昨夜のお礼に、ちょっとした労働を提供しつつ、体調を回復させ、昼過ぎに城へと戻った。
勇者の体調は回復せずに、聖女のお世話になっていたようだ。
酒飲んで聖女に回復させるとか、普通に考えたら噴飯ものの行為だが、集落の老人達の好意を断れなかったためということで、今回は追求することはやめた。
本当は、朝の騒動とまとめて笑い倒してやりたかったんだが。
城に戻ると、守衛から「お帰りなさい」と声を掛けられた。
聖女に対するものだろうとは思ったが、以前のような、聖女以外に対するトゲトゲしさが抜けている。
なにやら心境の変化があったらしい。
城主の変化が、そのまま城の配下達にさっそく表れているのだろうか。
何にせよ、居心地の悪さがだいぶ改善されたようでよかった。
勇者達を正面から戻るように促して、俺は裏口から戻る。
帰りがけに、川で魚を何匹か捕まえたので、厨房に持って行ったらすごく喜ばれた。
奥方さまが、肉料理よりも魚料理を好むらしい。
俺達はすっかり使用人達の間で有名になっていて、城のあちこちで働いている人達に手を振られたり、声をかけられたりするようになっていた。
食事が豊かになると、気持ちも豊かになるものだからな。
「ルフ、ただいま」
部屋に戻ると、ルフが所在なげに暖炉にあたっていた。
「あ! お帰りなさい! ダスターさん、メルリルさん!」
「クルスはどうした?」
「お城の人達の朝稽古です。昨日は手巾とか水とか用意してお世話をさせていただいたんですけど、『君は我々のお客人なのだから、そんな仕事はしなくていい』と、断られてしまって……」
なるほど。
ルフ的には、いろいろ体を動かして働いていたほうが気が紛れてよかったのだろうに、聖騎士からすれば、護衛対象であるはずのルフから何かしてもらうというのはよくないと感じたのだろう。
まぁその辺りの感覚の違いは仕方がない。
「そうか。じゃあゆっくりしているところを悪いが、みんなの朝のお茶の準備を手伝ってくれないか?」
「あ、はい。よろこんで!」
しばらくすると、死んで地面の下から蘇ったかのような勇者がのっそりと顔を出し、恒例となっているお茶を飲みつつ軽い食べ物を口にしてのミーティングが始まった。
その日一日何をするかをそれぞれ報告するのだ。
何かアクシデントがあった場合に、仲間がどこで何をしているのかわかっていないと、ちょっとした事故が致命的な事件になってしまうこともある。
集団で行動している場合には、そういう細かいところからお互いを理解しておく必要があるのだ。
「アドミニス殿の依頼品を届けるのは早いほうがいいだろうから、昼には持って行こうと思う。俺とアルフはとりあえず行くとして、ルフ……も、弟子見習いとしては同行したほうがいいだろうな」
「はい! よろしくお願いします!」
朝方見た、どこか鬱屈しているような様子は微塵もなく、ルフは明るく返事をする。
ルフは、自分がやるべきことがはっきりとしているほうが安心するタイプなんだろう。
職人に多いタイプだな。
このタイプは、休めと言うと、ただぼーっとベッドで一日を過ごすようなことが起きるので、早めにちょっとした暇つぶしの趣味のようなものを見つけておいたほうがいいだろう。
「わたくしもご一緒します」
当然のように聖女が言う。
まぁ身内だし、当然か。
「なら私も行くから」
モンクは、すでに決定事項の報告のような口ぶりだ。
「私も同行いたしましょう。一人残されるというのはどうも苦手です」
いつも沈着冷静な聖騎士だが、この二日の留守番が意外と堪えたのかもしれない。
ルフからは、きっと微塵も動揺せずに淡々と日々を過ごしているように見えたんだろうけど。
「私も、もちろん行く」
メルリルが当然のように言った。
「ピャウ!」
半分寝ているフォルテも、意味がわかっているのかいないのか、同意を示す。
「僕は自分の好きにするよ」
と若葉。
「なら留守番してろ」
「まさか。好きにするなら、アルフにくっついているに決まってるダロ」
うんうん、あのコンビもいつも通りだな。
若葉に文句を言うことで、聖女に癒やしてもらったとは言え、消耗した分はどうにもならずにぐったりしていた勇者が元気になった。
「まぁ、いつも通りってことで」
俺がそう言うと、全員が笑顔でうなずいたのである。
気持ちよく飲まされてしまったので、気持ちよく寝てしまい、目覚めたときにはすでに朝日は昇っていたのだ。
昨夜は、酔いつぶれた勇者を引きずりながら納屋へと行くと、集めたワラの上にシーツを敷いて、満足そうに寄り添って眠る女性陣に癒やされたものだが、さすがにその間に入って寝る気持ちにはならなかったため、納屋の床に直に適当に勇者を転がして、俺は壁に寄りかかって休むことにしたのである。
酔った翌日ということもあって、ひどく喉が乾いて目覚めると、近くに小さな桶が置いてあって、汲み置きの水が入っていた。
ありがたい配慮である。
納屋のなかに聖女達女性陣の気配はなく、外のほうからなにやら楽しげな会話の声が耳に届いた。
勇者はと見ると、何やら唸りながら歯ぎしりしつつ寝ている。
近くには同じように汲み置きの水が置いてあった。
その水を頭から浴びせたいという誘惑をなんとか我慢して、自分の分の水を飲みつつ外に出る。
「っ!……お、おはよー?」
納屋の周りには、なぜか小さな子ども達と、家畜用に飼いならされた丸丸鳥が数羽集まっていた。
「あのっ、勇者さま?」
なるほど、勇者の出待ちだったか。
「いや、俺は従者のほうだ。勇者さまは若くてカッコイイぞ」
「ひゃあ!」
俺が子どもの夢を壊さないように、外見イメージだけを伝えると、興奮したように変な叫びを上げられてしまった。
なんならなかに入って叩き起こしてもらってもいいが、悪夢にうなされた勇者が、反射的に何かをするといけないので、そのまま起こさないように伝えておく。
井戸で、野菜などを洗いながらおしゃべりに興じていたメルリルと合流したときに、納屋のほうから子ども達の歓声が上がったので、勇者も目覚めたのだろう。
昨夜のお礼に、ちょっとした労働を提供しつつ、体調を回復させ、昼過ぎに城へと戻った。
勇者の体調は回復せずに、聖女のお世話になっていたようだ。
酒飲んで聖女に回復させるとか、普通に考えたら噴飯ものの行為だが、集落の老人達の好意を断れなかったためということで、今回は追求することはやめた。
本当は、朝の騒動とまとめて笑い倒してやりたかったんだが。
城に戻ると、守衛から「お帰りなさい」と声を掛けられた。
聖女に対するものだろうとは思ったが、以前のような、聖女以外に対するトゲトゲしさが抜けている。
なにやら心境の変化があったらしい。
城主の変化が、そのまま城の配下達にさっそく表れているのだろうか。
何にせよ、居心地の悪さがだいぶ改善されたようでよかった。
勇者達を正面から戻るように促して、俺は裏口から戻る。
帰りがけに、川で魚を何匹か捕まえたので、厨房に持って行ったらすごく喜ばれた。
奥方さまが、肉料理よりも魚料理を好むらしい。
俺達はすっかり使用人達の間で有名になっていて、城のあちこちで働いている人達に手を振られたり、声をかけられたりするようになっていた。
食事が豊かになると、気持ちも豊かになるものだからな。
「ルフ、ただいま」
部屋に戻ると、ルフが所在なげに暖炉にあたっていた。
「あ! お帰りなさい! ダスターさん、メルリルさん!」
「クルスはどうした?」
「お城の人達の朝稽古です。昨日は手巾とか水とか用意してお世話をさせていただいたんですけど、『君は我々のお客人なのだから、そんな仕事はしなくていい』と、断られてしまって……」
なるほど。
ルフ的には、いろいろ体を動かして働いていたほうが気が紛れてよかったのだろうに、聖騎士からすれば、護衛対象であるはずのルフから何かしてもらうというのはよくないと感じたのだろう。
まぁその辺りの感覚の違いは仕方がない。
「そうか。じゃあゆっくりしているところを悪いが、みんなの朝のお茶の準備を手伝ってくれないか?」
「あ、はい。よろこんで!」
しばらくすると、死んで地面の下から蘇ったかのような勇者がのっそりと顔を出し、恒例となっているお茶を飲みつつ軽い食べ物を口にしてのミーティングが始まった。
その日一日何をするかをそれぞれ報告するのだ。
何かアクシデントがあった場合に、仲間がどこで何をしているのかわかっていないと、ちょっとした事故が致命的な事件になってしまうこともある。
集団で行動している場合には、そういう細かいところからお互いを理解しておく必要があるのだ。
「アドミニス殿の依頼品を届けるのは早いほうがいいだろうから、昼には持って行こうと思う。俺とアルフはとりあえず行くとして、ルフ……も、弟子見習いとしては同行したほうがいいだろうな」
「はい! よろしくお願いします!」
朝方見た、どこか鬱屈しているような様子は微塵もなく、ルフは明るく返事をする。
ルフは、自分がやるべきことがはっきりとしているほうが安心するタイプなんだろう。
職人に多いタイプだな。
このタイプは、休めと言うと、ただぼーっとベッドで一日を過ごすようなことが起きるので、早めにちょっとした暇つぶしの趣味のようなものを見つけておいたほうがいいだろう。
「わたくしもご一緒します」
当然のように聖女が言う。
まぁ身内だし、当然か。
「なら私も行くから」
モンクは、すでに決定事項の報告のような口ぶりだ。
「私も同行いたしましょう。一人残されるというのはどうも苦手です」
いつも沈着冷静な聖騎士だが、この二日の留守番が意外と堪えたのかもしれない。
ルフからは、きっと微塵も動揺せずに淡々と日々を過ごしているように見えたんだろうけど。
「私も、もちろん行く」
メルリルが当然のように言った。
「ピャウ!」
半分寝ているフォルテも、意味がわかっているのかいないのか、同意を示す。
「僕は自分の好きにするよ」
と若葉。
「なら留守番してろ」
「まさか。好きにするなら、アルフにくっついているに決まってるダロ」
うんうん、あのコンビもいつも通りだな。
若葉に文句を言うことで、聖女に癒やしてもらったとは言え、消耗した分はどうにもならずにぐったりしていた勇者が元気になった。
「まぁ、いつも通りってことで」
俺がそう言うと、全員が笑顔でうなずいたのである。
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