勇者パーティから追い出されたと思ったら、土下座で泣きながら謝ってきた!

蒼衣翼

文字の大きさ
上 下
783 / 885
第八章 真なる聖剣

888 冬の暖かな一夜

しおりを挟む
 だいぶ夜も更けて集落に戻ったのだが、なんと何人かのお年寄りの方々が俺達の帰りを待っていた。

「みんな起きてると言っておったのですが、日中仕事が忙しいもん達は早々に寝せました。それと、子等はさすがに頑張れなかったみたいですな。ホッホッホッ」

 フクロウのような笑い声を上げながら、集落の最長老という男性が、納屋の前で迎えてくれる。
 見れば、納屋の前で焚き火を炊いて、何人かが輪になって座り、ちょっとした宴会の様相を呈していた。
 俺達を待つという名目で、飲み会をやっていたのではあるまいか?
 そんな疑惑が頭をよぎるが、実際、ありがたいことなので、特に気にしないことにした。

「どうですかぁ、一杯!」

 老人達のなかで、比較的若い女性が、ニコニコしながら酒壺を持ってやって来た。

「この村で作っとる酒なんですよ! 水がいいからうんめえよ?」

 あの魔物が大切な花を育てるために作った水を使って作られた酒か。
 確かに興味はある。
 しかし、ここで飲んでしまうと、確実に明日の朝は早起き出来なくなるだろう。

「いただこう」

 なんと、意外なことに、その申し出を快く受けたのは、勇者だった。
 
「俺達のために遅くまでありがとうございます」

 そして、頭を下げる。

「まぁー、勇者さまが頭を下げちゃあいかんよ!」
「そうそう、勇者はしゃんとしてないとな!」
「よっしゃ! 俺と飲み比べをしようぜ! 勇者を倒した男という称号を手に入れてやる!」
「ゴッサス、お前、酒に強いことしか取り柄がないからって、姑息じゃのう」

 好意に応じた勇者に対して、集落の人達はたいへんフレンドリーに迎えてくれた。

「聖女さまはお疲れなので、先に寝させていただいてよろしいでしょうか?」

 モンクがかしこまった言葉で困ったように尋ねると、当の聖女が目をこすりながらモンクを引き留めている。
 それを見ていた、老人達よりは少し若いご婦人が進み出た。

「それでは、聖女さま方は、わっしの家でお休みください。掘っ立て小屋のような家ですけんど、納屋よりはマシですからね」
「えっ!」

 聖女の「えっ!」は、おそらく楽しみにしていたワラの寝床が、好意によってなくなってしまうのを残念に思ったものだろう。
 
「ご好意はありがたく受け取りますが、聖女さまは、皆様方のお邪魔になることをよしとしません。どうか約束通り、納屋で休むことをお許しください」

 モンクが常にない流暢なもの言いで、やんわりとお誘いを断る。
 どう考えても納屋よりは家の寝台のほうが休まると思うのだが、楽しみにしているのだから仕方ないよな。

「まぁ、さすが聖女さまだよ」

 それを聞いて、ご婦人と周囲の老人達が涙ぐむ。
 いや、誤解なんですけど、まぁいいか。

「ならせめて、お休みの前に、あっためた山羊の乳をお飲みください。うちで飼っている母山羊で、いいお乳を出すんですよ。寒い夜には、一番の贅沢なんです」
「まぁ、ありがたいです」

 聖女がうれしそうに両手を胸の前で合わせると、周囲が祈りの印を切り始めた。
 よかったよかった。

「それじゃあ、私も聖女さま方とご一緒させていただきますね。お酒はあまり嗜まないので」

 と、メルリルが離脱。
 ちょっとふらふらしているところを見ると、疲れているんだろうな。

「おやすみ。光輝く夜にいい眠りを」
「うん。あなたの元によりよい朝日が訪れますように。おやすみ、ダスター」

 久々に、森人式の挨拶をすると、メルリルがクスクス笑いながら返してくれた。
 言い回しが野暮ったかったのかもしれない。

 女性陣を見送った後、俺と勇者は焚き火の周りに転がされた丸太の椅子に導かれて、地酒とやらを振る舞われた。
 
「ベリーとハーブと蜂蜜……か。ハチミツ酒ミードに近い酒だな」
「おお、わかるか? ハチミツ酒ミードにベリーとハーブを漬け込んであるんだ。ハチミツ酒ミードだけだと甘すぎるんで、すっぱめのベリーとハーブで味をすっきりさせてるんだぜ」
「なるほど」

 ハチミツ酒ミードは、麦酒エールよりも簡単に作れるため、村などが独自に作る酒というと、圧倒的にハチミツ酒ミードが多い。
 何と言っても、大森林が近いおかげで、蜂蜜が見つかりやすいという、この国ならではの事情もあった。

 森深くになると蜂も魔物化していて危険だが、森の縁辺りなら、普通よりもちょっと元気なぐらいの蜂がいるだけなので、甘味を楽しむために、専門に採取する人間もいたりするぐらいだ。

 勇者は、と見ると、世話焼きの老人達に囲まれて、すごい勢いで飲まされている。
 チラチラとこちらを見ているのは、密かに助けを求めているらしい。
 お前が率先して飲むと言ったんだから、そこはがんばって飲め。

 視線でそう伝えると、なにやら覚悟を決めた顔になった。

「おー、さすが勇者さま! いける口ですな!」
「わっしの家で作った酒もどんぞ!」
「勇者さま、うちの娘が漬け込んだカブです。酒によく合うでっしょ? 娘を嫁にどうかね?」
「お前んとこの娘は、もう四十超えてじゃねえか! 馬鹿抜かすな!」

 賑やかだな。

「勇者のお付きさん。こっちの川魚の焼き枯らしはいかがかね? うちの炉でじっくり炙ったから風味が出ててうんめえぞ?」
「ほう。それはいいですね。いただきます」

 焼き枯らしというのは、魚の燻製のようなものだ。
 集落の家では、炉に火種を絶やさないようにすることが多いが、そういった炉の上に魚を吊るしておいて、乾燥させるのである。
 北方の燻製のような柔らかさはないが、独特の味わいがあって、これもいい。
 このぱさついた身をほぐしてスープにすると、味に深みのあるいいスープになるんだよな。
 明日の朝、手持ちのものと引き換えに、少し譲ってもらおう。
しおりを挟む
感想 3,670

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

異世界転生してしまったがさすがにこれはおかしい

増月ヒラナ
ファンタジー
不慮の事故により死んだ主人公 神田玲。 目覚めたら見知らぬ光景が広がっていた 3歳になるころ、母に催促されステータスを確認したところ いくらなんでもこれはおかしいだろ!

愛されない皇妃~最強の母になります!~

椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』 やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。 夫も子どもも――そして、皇妃の地位。 最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。 けれど、そこからが問題だ。 皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。 そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど…… 皇帝一家を倒した大魔女。 大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!? ※表紙は作成者様からお借りしてます。 ※他サイト様に掲載しております。

5歳で前世の記憶が混入してきた  --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--

ばふぉりん
ファンタジー
 「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」   〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は 「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」    この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。  剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。  そんな中、この五歳児が得たスキルは  □□□□  もはや文字ですら無かった ~~~~~~~~~~~~~~~~~  本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。  本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。  

放置された公爵令嬢が幸せになるまで

こうじ
ファンタジー
アイネス・カンラダは物心ついた時から家族に放置されていた。両親の顔も知らないし兄や妹がいる事は知っているが顔も話した事もない。ずっと離れで暮らし自分の事は自分でやっている。そんな日々を過ごしていた彼女が幸せになる話。

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!

椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。 しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。 身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。 そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。

彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。 父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。 わー、凄いテンプレ展開ですね! ふふふ、私はこの時を待っていた! いざ行かん、正義の旅へ! え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。 でも……美味しいは正義、ですよね? 2021/02/19 第一部完結 2021/02/21 第二部連載開始 2021/05/05 第二部完結

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。