勇者パーティから追い出されたと思ったら、土下座で泣きながら謝ってきた!

蒼衣翼

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第八章 真なる聖剣

886 月夜の祝祭

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 霧が立ち込めてから、一人でうんうん唸りながら首をかしげていたメルリルだったが、やがて、俺に告げた。

「どちらも普通の植物とは違うので精霊メイスとの同調が取りにくかったんだけど、やっとなんとなくわかって来た。外側の子がこの……」

 と、俺達が立っている島の大地に育つ、黄金の灯火のような花を示す。

「こっちの子のために土と水を用意しているみたい。魔力と普通の養分と水とのバランスがとても難しいデリケートな子らしいの、この子達」
「あの子とかこの子とか、何がなんだかわからん」

 勇者が文句を言うので、げんこつではたく。

「いてえ!」
「仲間が頑張って調べたことを茶化すな」
「師匠はメルリルに甘すぎるだろ」
「何を今更……」

 なおもわめく勇者の背後で、モンクがぼそりと言う。
 んー? なんのことかわからないな。
 いや、真面目な話、別に贔屓とかしてねーからな!

 メルリルは森人の巫女メッセリだが、俺達平野人には、彼女がどのぐらいのことが出来て、どこから出来ないかということがわからない。
 限界がわからないまま無理をさせてしまう可能性もあるのだ。
 一生懸命やった結果は、そのまま受け入れる。
 そもそもメルリルの得意とするのは普通の植物だ。
 魔物は普通の植物とは全く違う。
 理解しろというほうが無茶なんだぞ。

「いいじゃないか呼び方ぐらい。そのほうが相手を理解しやすい場合もあるだろ」
「む、それは考えなかった。すまないメルリル」
「い、いえ。その、そういう風に言われてしまうと、かえって恥ずかしい、かも」

 月の光の影響が強い夜なので、いかに俺の夜目が利くと言っても、相手の顔色まではわからない。
 だが、おそらく今、メルリルは真っ赤になって照れているのだろうと思う。
 陽の光の下で見たかったな。

「それにしても、不思議な関係ですね。魔物がほかの魔物を育むことがあるなんて……」

 俺達のちょっとしたいざこざを他所に、素直で誠実な感想を口にしたのは聖女である。

「共生関係とか、寄生関係とか、普通の動物や植物でもたまにあるぞ」
「まぁ、そうなんですね」

 俺が説明すると、聖女が驚きの声をあげた。

「そういった助け合いや、相手を利用したりということは、知恵ある人間だけの特権だと思っていました」
「そういう風に考える人間も多いな。生き物同士の関係性を知っている人間のなかにも、別に感情がある訳じゃないから、そういう風な性質を元から持って生まれただけという者もいる。だけど、俺は、人間以外にも、なんらかの感情があって、それに従って変化を起こすことがあると思っている」
「人間は傲慢だからネ。まぁそういうところも神に選ばれしモノらしいところダヨネ」

 勇者の肩にちょろりと乗った若葉がそんな風に評した。
 
「何偉そうに語ってるんだ? 同じドラゴンから追い出されたくせに」
「僕は追い出されてないゾ! 自分で選んだんダ!」

 意味ありげなことを言った若葉を勇者が馬鹿にする。
 しかしそうか、そう言えば、若葉も自分の心に従って、本来の種族の道とは違う道を選んだ者なんだな。

「とは言え、片方だけが利益を得るような関係は、寄生と呼ばれるものだ。そういう場合は、普通は寄生する側が宿主に働きかけを行うものなんだが、これはちょっと毛色が違うな。……外側の蔦のほうに、湖を作るほどの手間をかけるだけの理由があるのかもしれない」

 俺の疑問の答えは、しばらくすると明らかになった。
 霧のベールに包まれながら、存分に月の光を浴びた可憐な黄金の花は、短い時間で結実を始める。
 チリーンチリーンと、小さな鈴のような音を響かせながら、ふんわりとした金色の光を帯びた小さな丸い種らしきものが地面へと転がり落ちた。
 上に立っている俺達は気づかなかったが、どうもこの島の地面は、外側に向かって傾斜しているらしい。
 地面に転がった丸い種らしきものは、コロコロと、それぞれ外側に向かって転がって行く。
 俺は楽しげに転がる小さな種の一つを掬い上げてみた。
 
「魔力……いや、ん? 精霊メイス……とも違うな……」

 種の帯びている金色の輝きは、普通の魔力とは質が違うように感じる。
 ただ、それを言い表す言葉を俺は持たなかった。

「コレは、甘いね。すごく濃いけど、僕の好みじゃない。僕は堅いほうが好き。苦労してヒビを入れてもすぐに閉じちゃうアルフのようなのが味わいがあるよね」
「どういう意味だ!」

 俺と同じように種を拾った若葉が、何やら魔力道楽のようなことを言っているが、甘さと堅さというのは果たして比べられるものなのか?
 そもそも味の評価としてどうなのか? と、疑問が尽きない。
 ドラゴン独特の感覚なんだろうなぁ。

 ともあれ、若葉もこの種の魔力が独特であると評価したことから、俺の感じた違和感も、あながち間違っている訳ではないとわかる。
 この感覚は、実際に魔力に多く触れている者じゃないとわからないだろう。

「そうだ……」

 一つ、この魔力に近いものを思い出すことが出来た。
 神の盟約だ。
 あれになんとなくだが、似ている。

「ミュリア、この種の魔力、覚えがないか?」

 このメンバーのなかで、神の盟約に最も触れている者がいるとしたら、それは聖女に違いないだろう。
 
「少しだけ、懐かしい感じがします。初めて神の盟約に触れて、倒れたときに、聖者さまが飴玉をくださったのです。その味を、ふと思い出しました」
「飴玉?」

 こっちはこっちでまた違う感想があるようだ。
 だが、若葉と聖女に共通しているのは、甘いという感覚か。
 これは俺にはないものだな。

「ダスター。これには、精霊メイスの核となる魔力が溶け込んでるんだと思う。この子達、きっと、月の光を体のなかに集めて、種を護る守護者を作ろうとしたんじゃないかな? ただ、この種の魔力だけじゃ、精霊メイスは生まれないから、その魔力を吸った植物が、守護者役の魔物になった、のかも?」

 メルリルの推測は大胆なものだったが、納得は出来た。
 それが真実かどうかは、誰かがきっちりと調べて証明しなければならないだろうけど。

「師匠、これが何でどうしてこうなったのかってのは、後にしよう。今は採取だろ」

 なん、だ……と?
 勇者がアドミニス殿の課題を優先させる意見を言うとは、正直びっくりした。
 だが、よく考えてみれば、勇者の聖剣のための課題なんだから、当然かもしれない。

「よし、とりあえず採取するか」

 俺は、まとまって生えている頼りな気な花のうちの一株を、なまくらなナイフを使って土ごと掘り起こし、用意した鉢に移し替えたのだった。
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