勇者パーティから追い出されたと思ったら、土下座で泣きながら謝ってきた!

蒼衣翼

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第八章 真なる聖剣

857 酒の席の噂話

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 俺は、酒場にいた城の使用人の男の隣に、つまみと酒を抱えて座る。

「隣いいかい?」
「もう座ってるじゃねえか。まぁおごり主なんだ、邪険にはしねえよ」
「ありがたい」

 使用人の初老の男は、城にいたときよりも砕けた態度だ。
 まぁそりゃあそうだよな、酒場でかしこまる人間なんかいたら、逆に心配になる。

「なんだい、ご主人に言われてご城主さまのご機嫌を探りに来たのか? 残念ながら俺っち達はご城主さまの味方だぞ?」
「味方とか敵なんて話になるはずないだろ? 聖女のミュリアさまは勇者パーティの要なんだから。その親族と揉めるなんて有り得ない話だ」
「ほう」

 使用人の男は嬉しそうに顔をほころばせた。

「姫さまはご活躍されているのか? そりゃあよかったなぁ。末姫さまは、お小さい頃は、そりゃあもうお体が弱くってな、すぐに高熱を出してご両親を心配させたもんだよ。それを教会の奴等が、姫さまには魔力があるから三歳になったら連れて行くとか言いやがって、あんとき奥方さまが皆を止めてくださらなかったら、教会を燃やしてやるところだった」
「おいおい、そりゃあ穏やかじゃないな。でもまぁ、そんなにお体が弱かったんなら仕方ないか。今は旅の間も特に体調を崩されてたりはしないようだぜ」
「そうか、よかったなぁ」

 使用人の男はしみじみ言って、酒をグビリと呑んだ。

 なるほど、聖女は幼い頃、体が弱かったんで、今でもあんなに両親がべったりなんだな。
 体が弱い幼い頃に別れてしまって、その状態で両親のなかで時間が止まっているんだろう。
 今の聖女は、成長が遅いことを除けば、特に体が弱いということもないし、その幼い頃の話も、もしかしたら、膨大すぎる魔力のせいで体が耐えられなかったのかもしれない。

 魔力量の多い子どもは、ときおり魔力暴走を起こすが、それよりも多いのが、自分の魔力の大きさに体が耐えられないことだ。
 魔力ってのは濃くなればなるほど、激しく流動する。
 体内で常に魔力が凄いスピードで駆け巡っていたと考えれば、そりゃあきついだろう。
 筋肉が育ってないのに常に全力疾走させられているようなものだ。
 下手すると死んでしまう。

 滅多に産まれない平民の魔力持ちの子どもが、たまたま魔力量が多かったりすると、成長期を迎えた頃に、まるで熱病に罹ったかのような症状で死んでしまうことがあると聞く。
 民間では、大森林の呪いとか言われているみたいだが、最近は教会がどこの集落にもあるので、早めに対処して、大事に至らないようにしているらしい。
 まぁそういうのもひっくるめて、聖女や聖人、それと施術師なんかの力だ、ということになっているが。

「だから、今回の振る舞いは、純粋な意味での挨拶さ。ちょっと前に滞在したときには、ごたごたで、別れるときには、挨拶もきっちり出来なかったしな」
「あー。あのときはご城主さまが荒れたなぁ」
「……やっぱり怒ってたんだ?」
「んーいや、怒ってたというか、こう、ショックを受けてたという感じかな。それよりも、奥方さまがなぁ、お悲しみになって、お気の毒でなぁ……」
「そうか。それはほんと済まなかったな。ちょっと急ぎの用があったから仕方なかったんだ」
「まぁ勇者さまだからな。そうそう一箇所に留まっていられないんだろうとは、俺っちでもわかるさ。そう言えば、前の冬に、吟遊詩人が城に留まって、末姫さまのご活躍を語ってくれたんで、お二人もだいぶ落ち着かれたようだった」
「へえ」

 吟遊詩人は遠方で起こった事件などをいち早く知るための情報源として、どこでもだいたい歓迎される。
 そのため、冬には貴族の館でぬくぬく過ごすことが多い。
 勝手に話を自分好みに脚色したりするが、まぁ実際聴いている人間を飽きさせない手練手管に長けているのは間違いないだろう。

 そもそも勇者だけ持ち上げておけばいいものを、なんで俺の話まで広めた。
 一度あの話を広めた奴を問い詰めたい。

 とは言え、俺達が消えた後のロスト辺境伯とその奥方が、そんなに落ち込んでいたとは、申し訳ないことをしたな。
 あのときは、ロスト辺境伯もひさびさに心配してた娘に会って、舞い上がっていたと思えば、いろいろなことも納得出来る。
 そうなると、話し合いの鍵となるのは、やっぱり聖女だろう。
 
「そう言えば、ちょっと他所で聞いたんだが、昔、と言っても先代の時代に、あの城に凄い鍛冶師がいたとか」
「へえ、そんな話が伝わっているのか。俺っちもガキの頃、あの城にいろいろな貴族が尋ねて来てたことは覚えているよ。あの頃は、そういう客人の滞在の恩恵で、今よりも活気があってな。懐かしいな」
「その鍛冶師がどうなったか聴いているか?」
「んー、いんや。そう言えば、いつの間にか客人が来なくなって、噂も聞かなくなったから、亡くなったんじゃねえかなぁ」

 うむむ、城の使用人の認識がその程度なのか。
 もっと古くから城に仕えている人間とかいないのかな?

「あと……」

 俺は、使用人の男にひそひそと話す。

「これも噂だが、城の地下に誰かがいるとか」
「しーっ」

 俺がそう言った途端、使用人の男が口を封じる仕草をしてみせる。

「塞がれた地下通路の話を誰かから聞いたんだろ? だがな、あの件は触れないほうがいい。ご城主さまがなぁ、大層青い顔をして、作業を急がせたんだ。理由とか何もおっしゃられなかった」

 そこまで言って、俺の顔に向かって、慌てて手を振った。

「いや、いや、違うぞ? 誰かを生き埋めにしたとか、そういう話じゃねえからな。そういうこっちゃねえんだよ。……ここだけの話だが、うちのご城主さまの家系の話、知ってるだろ? ほら、例の魔王の」
「ああ、有名だからな」
「その呪いが、地下に残ってるとかで、それを封じられたって話だった。城の者を護るためになさったことさ」

 ううむ、これは、なかなかこの誤解を解くのは難しそうだぞ。
 ちょっと真実が混ざってるし。
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