勇者パーティから追い出されたと思ったら、土下座で泣きながら謝ってきた!

蒼衣翼

文字の大きさ
735 / 885
第八章 真なる聖剣

840 親子の絆

しおりを挟む
「父に仲介を頼むという案はどこから出て来たのかね?」

 ゆっくりと、静かに、ロスト辺境伯はそう尋ねた。
 何やらゾクリとする迫力がある。

「わたくしです」

 聖女が堂々と言った。

「っ! なぜだ、ミュリア!」
「聖なるブローディファさまは、いつもお父さまのことを気にかけておいででした。ですが、大聖堂に身を捧げた以上は、血縁者との深い交流は禁止されます。ですから、手紙を書いていただく機会ぐらい、あってもいいと、わたくしは思ったのです。身勝手な判断をお許しください」
「う……うぬぅ」

 何か言いたげでありながら、ためらっている。
 ロスト辺境伯の様子からは、戸惑いの気持が読み取れた。

「父のことを、どれだけ知っておる?」
「たくさん」

 聖女の答えは、とらえどころがない。
 ただ、その表情には、言葉以上の想いが込められているようだった。

「……父は、そなたと同じように、子どもの頃に聖人として召し上げられ、大人になってから、還俗して故郷に戻って来た。すでに父の弟君が領主となっていて、城には父の居場所はなくなっていたのだが、前領主であった父の弟君は善良な方でな。父の帰還を喜び、城で仕事が出来るように手配したのだ」

 ロスト辺境伯は、唐突に父であるブロブ殿のことを語り始める。

「父は臣下の娘と結婚もした。そして生まれたのが私だ。……だが、父は結局、世俗の暮らしに向いてなかったのだ。父には、特殊な能力が備わっていて、ときにコントロールが利かなくなることがあった。……父には、……あの人には、あらゆるものの声が聞こえるのだよ。人の心、動物、植物、そして、あろうことか未来の声までも」

 重い溜息をこぼし、ロスト辺境伯はさらに話を続けた。

「前領主殿は、父との付き合いに耐えられなかった。私の母もそうだ。そして、結局、父は大聖堂に戻った」

 ロスト辺境伯は、懐から、封を切った手紙を取り出す。

「私がこの領地を継いだのは、前領主殿の贖罪のようなものだ。私の、父に対する気持ちは、とても一言では言い表せない。正直に言って、手紙は不意打ちだった」

 そして、苦く笑った。

「勇者殿。ここになんと記してあると思う?」
「俺が知るはずもない」

 勇者は、ロスト辺境伯の問いに、あっさりと答える。
 もうちょっと何かあってもいいだろ? と、俺すら思った。

「好きにしろ。だ」

 ばさりと、テーブルの上に投げ出される手紙。
 マジか。
 あの爺さん、ほんといい性格しているなぁ。
 掴みどころがなさすぎる。
 さすがに、その文面は予想外だった。

「呆れたジジイだな」

 ちょ、勇者。
 案の定、ロスト辺境伯が勇者をギロリと睨む。

「その呆れたジジイに仲介の手紙を頼んだ間抜けが君達だ」
「聖なるブローディファさまは立派な方です!」

 二人の言いように、聖女が珍しく憤慨した。
 勇者とロスト辺境伯が、気まずげにそっぽを向く。

「実にバカバカしい。私は君達を追求する気持ちが萎えてしまったよ。おそらくは父の思い通りの結果なのだろうな。もはや笑いも出ない」

 くるりと背を向けて、ロスト辺境伯が告げる。
 その背に、強い口調で語りかけたのは、聖女だ。

「お父さまは、聖なるブローディファさま、……いいえ、お祖父さまを誤解されておいでです」

 そしてテーブルの上に放り出された手紙を拾う。

「お祖父さまは、お父さまを信頼なさっているのですわ」
「信頼? 幼い頃に別れたきりの私を、父が信頼すると?」
「だって、お父さまは、幼い頃に別れたきりのわたくしを信頼なさっておいでなのでしょう?」

 愕然と、ロスト辺境伯は、自分の娘である聖女を見つめた。
 決して晴れるはずのない心のなかの疑念を、たった一言で、全て晴らしてしまった娘を。
 ロスト辺境伯は絶句し、まるで言葉を探すように周りを見回し、傍らの妻を見た。
 奥方は、高価そうな布を使った手巾で、そっと目頭を押さえている。

「ミュリアは、勇者さまと一緒に旅をして、何かを学びましたか?」
「はい。とても言葉では言い表せないほどに」

 奥方の問いに、ミュリアは明確に答えた。

「娘の成長はわたくしにとって何よりの喜びです。それは、あなたも同じでしょう?」
「む……うむ」

 仕方なくという風にロスト辺境伯はうなずく。
 なんとなくそわそわしている。

「わかった。この度は私を信頼して、再び城を訪れていただいたのだ。前回のお互いの行き違いについては、もはや問うまい。ついては、心ゆくまで、我が城に滞在するがよろしい。歓迎する」

 おお、やったな。
 途中いろいろとハラハラしたが、どうやら丸く収まったようだ。
 ふう。
 両隣で様子を窺っていた、メルリルとルフもほっとしてる。

「それで、その……」

 ロスト辺境伯が、コホンと咳払いして、さらにそわそわとし始める。

「ここからは、父としての願いであるのだが。よいだろうか? ミュリアよ」
「はい。なんなりと」
「うむ。……ミュリアよ、近くに来て、父を抱きしめてくれないか?」
「母もですよ」

 あ、勇者との敵対意識を捨てた途端、親馬鹿モードに突入したようだ。
 両手を広げて、ニコニコ顔で待っている。
 隣で、奥方も聖女に手招きをしていた。

 ミュリアは、今更ながら、少し恥ずかしそうだ。
 まぁ、仲間の見ている前で親に甘えるというのは、少々抵抗があるよな。
 勇者が、小さくため息を吐く。

「行ってやれ。減るもんじゃないんだ」

 言い方!

「はい」

 勇者のあんまりな言葉はともかくとして、聖女は大人しく両親に近づくと、ゆっくりと、父と母、それぞれと抱擁を交わした。
 聖女は澄ました顔を取り繕っているが、嬉しそうだ。

 とりあえず、ロスト辺境伯との関係性の修復は叶った。
 次はアドミニス殿の元へ、ルフを弟子入りさせる件だな。
しおりを挟む
感想 3,670

あなたにおすすめの小説

没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます

六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。 彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。 優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。 それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。 その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。 しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。 ※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。 詳細は近況ボードをご覧ください。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

辺境伯家次男は転生チートライフを楽しみたい

ベルピー
ファンタジー
☆8月23日単行本販売☆ 気づいたら異世界に転生していたミツヤ。ファンタジーの世界は小説でよく読んでいたのでお手のもの。 チートを使って楽しみつくすミツヤあらためクリフ・ボールド。ざまぁあり、ハーレムありの王道異世界冒険記です。 第一章 テンプレの異世界転生 第二章 高等学校入学編 チート&ハーレムの準備はできた!? 第三章 高等学校編 さあチート&ハーレムのはじまりだ! 第四章 魔族襲来!?王国を守れ 第五章 勇者の称号とは~勇者は不幸の塊!? 第六章 聖国へ ~ 聖女をたすけよ ~ 第七章 帝国へ~ 史上最恐のダンジョンを攻略せよ~ 第八章 クリフ一家と領地改革!? 第九章 魔国へ〜魔族大決戦!? 第十章 自分探しと家族サービス

無能扱いされ、パーティーを追放されたおっさん、実はチートスキル持ちでした。戻ってきてくれ、と言ってももう遅い。田舎でゆったりスローライフ。

さら
ファンタジー
かつて勇者パーティーに所属していたジル。 だが「無能」と嘲られ、役立たずと追放されてしまう。 行くあてもなく田舎の村へ流れ着いた彼は、鍬を振るい畑を耕し、のんびり暮らすつもりだった。 ――だが、誰も知らなかった。 ジルには“世界を覆すほどのチートスキル”が隠されていたのだ。 襲いかかる魔物を一撃で粉砕し、村を脅かす街の圧力をはねのけ、いつしか彼は「英雄」と呼ばれる存在に。 「戻ってきてくれ」と泣きつく元仲間? もう遅い。 俺はこの村で、仲間と共に、気ままにスローライフを楽しむ――そう決めたんだ。 無能扱いされたおっさんが、実は最強チートで世界を揺るがす!? のんびり田舎暮らし×無双ファンタジー、ここに開幕!

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。

追放された『修理職人』、辺境の店が国宝級の聖地になる~万物を新品以上に直せるので、今さら戻ってこいと言われても予約で一杯です

たまごころ
ファンタジー
「攻撃力が皆無の生産職は、魔王戦では足手まといだ」 勇者パーティで武器や防具の管理をしていたルークは、ダンジョン攻略の最終局面を前に追放されてしまう。 しかし、勇者たちは知らなかった。伝説の聖剣も、鉄壁の鎧も、ルークのスキル『修復』によるメンテナンスがあったからこそ、性能を維持できていたことを。 一方、最果ての村にたどり着いたルークは、ボロボロの小屋を直して、小さな「修理屋」を開店する。 彼の『修復』スキルは、単に物を直すだけではない。錆びた剣は名刀に、古びたポーションは最高級エリクサーに、品質すらも「新品以上」に進化させる規格外の力だったのだ。 引退した老剣士の愛剣を蘇らせ、村の井戸を枯れない泉に直し、ついにはお忍びで来た王女様の不治の病まで『修理』してしまい――? ルークの店には、今日も世界中から依頼が殺到する。 「えっ、勇者たちが新品の剣をすぐに折ってしまって困ってる? 知りませんが、とりあえず最後尾に並んでいただけますか?」 これは、職人少年が辺境の村を世界一の都へと変えていく、ほのぼの逆転サクセスストーリー。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。