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第八章 真なる聖剣
825 本来の目的へ
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勇者はしばし考えて船長に告げた。
「わかった。まずは帝国の港に向かおう。だが、停泊はするな」
「と、申しますと?」
「大聖堂の騎士共に海賊を捕縛させると、下手するとそのまま罪が許されてしまう。あそこは国々の法の外の世界だ。今回の件を任せる訳にはいかない。だから帝国の兵士に海賊の捕縛を任せる」
「なるほど!」
船長は、その理由を聞いて、さすが勇者と、膝を打って感心する。
そして、心の重荷を下ろしたような顔で、仕事に戻った。
「本気か?」
だが、ことの事情を知る俺は、当然勇者に尋ねる。
今回の海賊騒ぎ、どうも帝国が関わっている臭いのだ。
「帝国と海賊が繋がっていたのは、ほぼ間違いないぞ」
なにしろ、このアジトの場所からして、帝国の沖合である。
潔白なら、そんな近くに海賊などという危険な連中が住み着いていれば、すぐに討伐するはず。
それを放置しているのは、自分達の利益は侵されないという確信があるからだ。
「わかっている。だからだ」
「ほう?」
「帝国には、俺の署名付きの要請を行う。神の怒りに触れし海賊共を行動不能にして、船で貴国の近海に放置してある。ただちに捕縛して、その罪を暴け。暴ききらぬときには、貴国もまた、海賊と共に悪しき行いを成したものとして、必ず断罪を行うであろう。とな」
こいつ真顔で何言ってるんだ?
海賊の罪を暴ききったということを証明出来ない限り、帝国は勇者の断罪を怖れ続けなければならない。
帝国の内部は、さぞや大荒れに荒れるだろう。
「それは、勇者がお前の国を叩きのめすぞ、という宣戦布告か?」
「相手はそう受け取るだろうな」
勇者はニヤニヤと笑っている。
「そこへ大公国が手を差し伸べる」
「ん?」
「共同で調査をしませんか? とな。受け入れれば、帝国の行いを大公国が証明してくれる。本来、お互いに嫌い合っている間柄だ。その関係性から競争意識が芽生えて、相手の調査の穴を指摘し合うに違いない」
「海洋公だけでなく、大公陛下まで巻き込むのか?」
「これだけ被害が出れば、国が乗り出すべき問題だろ? 他国に拠点のある海賊が自国を荒らしていたんだぞ? もはや侵略行為と言ってもいいぐらいだ」
「待て待て、そうなると、下手すると戦になるだろ?」
「だからこその共同調査さ。師匠、任せろ。本来こういう権謀術策こそが、俺の得意分野なんだ。帝国の腐れ野郎共を踊らせてやる」
これはヤバい。
勇者は本気だ。
本来国の政には関わってはならない。というのが、勇者の建前である。
とは言え、今回俺達は、直接事件に巻き込まれているのだ。
当事者として、疑わしい相手に強く出るというのは、間違ってはいない。
もちろん、帝国を脅かし過ぎないように注意する必要があるだろうが。
もはや、勇者の采配に任せるしかないが、頼むから、あんまり政治的に危険なことはやらかさないようにしてくれよ。
よく考えると、勇者パーティは、外交面のほぼ全てを、勇者の采配に頼っていると言っていい。
俺はもちろん貴族のことはさっぱりだし、メルリルだってそうだ。
聖騎士は一応貴族出身だが、そう高い身分ではないらしい。
聖女は、魔王の血統で、辺境伯の娘である。
本来なら、勇者と共に政治的な問題にも対処出来る立場なのだが、いかんせん、大聖堂育ちで、貴族については、下手すると俺より理解していない。
さんざん考えたが、いい案が出なかったので、勇者を選んだ神を信じて、勇者の采配に全てを託すことにした。
くれぐれも勇者の分を越えず、うっかり戦にならないように、ことを運んでくれ。
さて、そんな話し合いの後、全員に決まったことを伝えると、ほかのみんなの方針もまた、勇者に一任するというものだった。
正直、政治に強い人間が勇者しかいないので、これは仕方のない話だろう。
やがて帝国の港近くに船を寄せると、船に積んである、連絡用の小舟を下ろし、船長と勇者と聖騎士が乗り込んで行った。
行ってからそれほど間を置かずに戻って来たので、不安に思ったが、船長に聞いてみると、きっちり責任者を呼び出して、勇者の力を使って何か派手なパフォーマンスをした後に、ほぼ命令文のような依頼書を手渡したとのこと。
船長はその話をしながらガタガタ震えていたので、詳しくは確認出来なかったが、とりあえず、港を破壊はしなかったようだ。
思ったよりも平穏に済んでよかった。
ということで、さんざんぱら寄り道をしたが、帝国沖から約半日程度で、本来の目的地であった、大聖堂の港に到着した。
いろいろありすぎて夢に見そうだが、全員無事でよかったなぁ。
そう思っていたら、ルフがキラキラ光る大聖堂の尖塔を見つつ、「生きててよかったなぁ」と呟いていた。
表情を見ると、感動の余りというよりも、もっと切実な思いが感じられる。
こんな子どもにそんな感慨を抱かせるとは、申し訳ない限りだ。
港に到着したからと言って、すぐに入港出来る訳ではない。
しばらくすると、小さな船がやって来て、入港理由と、許可証の提示を求めて来た。
急遽必要になった、誘拐されていた人達の受け入れ要請も含めて、この手続きには、かなりの時間がかかるとのことだったので、俺達はその全てを船長に任せて、甲板でお茶を楽しんでいる。
「大聖堂、久々という感じはしないな。先日聖者さまにお会いしたばかりだし」
俺が言うと、聖女がニコニコとしつつ、うなずく。
「わたくし、先日聖者さまにお会いしたときに、祖父への伝言も頼んでありましたので、話は通っているはずです」
「助かるよ」
逃げ出すように後にした辺境領、要するに聖女の故郷にまた行くために、聖女のお爺さんで、大聖堂で聖女や聖人の教育係を行っている方に、繫ぎをお願いしに来たのである。
ついでにルフに、大聖堂を見せてやりたいという気持ちもあった。
ルフは大公国出身なので、大聖堂には憧れがあるようだからな。
「わかった。まずは帝国の港に向かおう。だが、停泊はするな」
「と、申しますと?」
「大聖堂の騎士共に海賊を捕縛させると、下手するとそのまま罪が許されてしまう。あそこは国々の法の外の世界だ。今回の件を任せる訳にはいかない。だから帝国の兵士に海賊の捕縛を任せる」
「なるほど!」
船長は、その理由を聞いて、さすが勇者と、膝を打って感心する。
そして、心の重荷を下ろしたような顔で、仕事に戻った。
「本気か?」
だが、ことの事情を知る俺は、当然勇者に尋ねる。
今回の海賊騒ぎ、どうも帝国が関わっている臭いのだ。
「帝国と海賊が繋がっていたのは、ほぼ間違いないぞ」
なにしろ、このアジトの場所からして、帝国の沖合である。
潔白なら、そんな近くに海賊などという危険な連中が住み着いていれば、すぐに討伐するはず。
それを放置しているのは、自分達の利益は侵されないという確信があるからだ。
「わかっている。だからだ」
「ほう?」
「帝国には、俺の署名付きの要請を行う。神の怒りに触れし海賊共を行動不能にして、船で貴国の近海に放置してある。ただちに捕縛して、その罪を暴け。暴ききらぬときには、貴国もまた、海賊と共に悪しき行いを成したものとして、必ず断罪を行うであろう。とな」
こいつ真顔で何言ってるんだ?
海賊の罪を暴ききったということを証明出来ない限り、帝国は勇者の断罪を怖れ続けなければならない。
帝国の内部は、さぞや大荒れに荒れるだろう。
「それは、勇者がお前の国を叩きのめすぞ、という宣戦布告か?」
「相手はそう受け取るだろうな」
勇者はニヤニヤと笑っている。
「そこへ大公国が手を差し伸べる」
「ん?」
「共同で調査をしませんか? とな。受け入れれば、帝国の行いを大公国が証明してくれる。本来、お互いに嫌い合っている間柄だ。その関係性から競争意識が芽生えて、相手の調査の穴を指摘し合うに違いない」
「海洋公だけでなく、大公陛下まで巻き込むのか?」
「これだけ被害が出れば、国が乗り出すべき問題だろ? 他国に拠点のある海賊が自国を荒らしていたんだぞ? もはや侵略行為と言ってもいいぐらいだ」
「待て待て、そうなると、下手すると戦になるだろ?」
「だからこその共同調査さ。師匠、任せろ。本来こういう権謀術策こそが、俺の得意分野なんだ。帝国の腐れ野郎共を踊らせてやる」
これはヤバい。
勇者は本気だ。
本来国の政には関わってはならない。というのが、勇者の建前である。
とは言え、今回俺達は、直接事件に巻き込まれているのだ。
当事者として、疑わしい相手に強く出るというのは、間違ってはいない。
もちろん、帝国を脅かし過ぎないように注意する必要があるだろうが。
もはや、勇者の采配に任せるしかないが、頼むから、あんまり政治的に危険なことはやらかさないようにしてくれよ。
よく考えると、勇者パーティは、外交面のほぼ全てを、勇者の采配に頼っていると言っていい。
俺はもちろん貴族のことはさっぱりだし、メルリルだってそうだ。
聖騎士は一応貴族出身だが、そう高い身分ではないらしい。
聖女は、魔王の血統で、辺境伯の娘である。
本来なら、勇者と共に政治的な問題にも対処出来る立場なのだが、いかんせん、大聖堂育ちで、貴族については、下手すると俺より理解していない。
さんざん考えたが、いい案が出なかったので、勇者を選んだ神を信じて、勇者の采配に全てを託すことにした。
くれぐれも勇者の分を越えず、うっかり戦にならないように、ことを運んでくれ。
さて、そんな話し合いの後、全員に決まったことを伝えると、ほかのみんなの方針もまた、勇者に一任するというものだった。
正直、政治に強い人間が勇者しかいないので、これは仕方のない話だろう。
やがて帝国の港近くに船を寄せると、船に積んである、連絡用の小舟を下ろし、船長と勇者と聖騎士が乗り込んで行った。
行ってからそれほど間を置かずに戻って来たので、不安に思ったが、船長に聞いてみると、きっちり責任者を呼び出して、勇者の力を使って何か派手なパフォーマンスをした後に、ほぼ命令文のような依頼書を手渡したとのこと。
船長はその話をしながらガタガタ震えていたので、詳しくは確認出来なかったが、とりあえず、港を破壊はしなかったようだ。
思ったよりも平穏に済んでよかった。
ということで、さんざんぱら寄り道をしたが、帝国沖から約半日程度で、本来の目的地であった、大聖堂の港に到着した。
いろいろありすぎて夢に見そうだが、全員無事でよかったなぁ。
そう思っていたら、ルフがキラキラ光る大聖堂の尖塔を見つつ、「生きててよかったなぁ」と呟いていた。
表情を見ると、感動の余りというよりも、もっと切実な思いが感じられる。
こんな子どもにそんな感慨を抱かせるとは、申し訳ない限りだ。
港に到着したからと言って、すぐに入港出来る訳ではない。
しばらくすると、小さな船がやって来て、入港理由と、許可証の提示を求めて来た。
急遽必要になった、誘拐されていた人達の受け入れ要請も含めて、この手続きには、かなりの時間がかかるとのことだったので、俺達はその全てを船長に任せて、甲板でお茶を楽しんでいる。
「大聖堂、久々という感じはしないな。先日聖者さまにお会いしたばかりだし」
俺が言うと、聖女がニコニコとしつつ、うなずく。
「わたくし、先日聖者さまにお会いしたときに、祖父への伝言も頼んでありましたので、話は通っているはずです」
「助かるよ」
逃げ出すように後にした辺境領、要するに聖女の故郷にまた行くために、聖女のお爺さんで、大聖堂で聖女や聖人の教育係を行っている方に、繫ぎをお願いしに来たのである。
ついでにルフに、大聖堂を見せてやりたいという気持ちもあった。
ルフは大公国出身なので、大聖堂には憧れがあるようだからな。
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