勇者パーティから追い出されたと思ったら、土下座で泣きながら謝ってきた!

蒼衣翼

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第八章 真なる聖剣

826 大聖堂の港から

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 俺達が訪れることは、事前に大公国の教会のほうから連絡が入っていたはずなので、やたらと手間取っているのは、到着時期が少し遅れたことと、予定外の客人がいるせいだろう。
 とは言え、船が天候などの影響で多少遅れるのは普通らしいので、問題の焦点は海賊に捕まっていた人達なんだろうな。

 しばらくすると、大聖堂側から、予定外の来訪者をどういう待遇で迎えればいいか? という、問い合わせが来た。
 つまり、普通の客人として門前町に泊まってもらうか、保護対象として大聖堂で受け入れるか、はたまた治癒が必要な状態なのか、などが知りたいようだ。
 治癒がどうこう言う割には慌てていないのは、俺達のほうに聖女がいることを知っているからだろう。

 つまり大聖堂側が提供しようとしている治癒は、聖女や聖人では治せない状態の者に、装具などで欠損部分を補い、不自由なく動けるように出来るぞというものだ。
 大聖堂は、辿り着くことさえ出来れば、治療費はそこまで高額ではないし、なによりも、金がない場合には奉公払いが出来るという、大きなメリットがある。
 つまり貧乏人でも、身体的な問題を解決してもらえる可能性があるのが、大聖堂なのだ。

 今回は、勇者案件でもあるので、だいぶ割引してもらえると思う。

 金銭的な問題は、教会関係者は生臭いとか言って避けがちだが、きっちり金額をいわずに、それなりの寄付という曖昧なものを求めるほうが、俺から言わせてもらえば生臭い。
 大聖堂は、末端の教会とは違って、意外と実利的というか、あまり曖昧にしないので、わかりやすいのだ。
 まぁくれるというならもらう、というスタンスは同じらしいが。

 船にいる本人達に確認したところ、遠慮して門前町に留まると言ったのが十四人中八人と意外と多い。
 彼等は財産は何も持っていないので、門前町に留まるなら巡礼宿に泊まることになる。
 巡礼者が、無料で泊まれるざこ寝宿だ。
 本人達からすると、ざこ寝でも、海賊の牢に比べれば天上の世界のような感じらしい。
 大聖堂に泊まりたいと言ったうち、三人はひどい拷問を受けて、体の状態が普通ではない者なので、この機に大聖堂を堪能しようと思った剛の者は三人だ。
 と言っても、そのうち二人は、精神的なショックから、神のために余生を使いたいと望む奉仕者希望なのだが。
 
「海賊共にとっつかまったときには、人生終わりやー! と、思うてましたけど、勇者殿に助けていただき、大聖堂に客人待遇で泊まれるなんて、まさに災いは福への入り口って感じですなぁ」

 最後の一人、物見遊山で大聖堂に泊まりたいという、本当の剛の者がこの男、カカックとかいう、帝国商人だ。
 商人ってのは肝が太い奴が多い印象だが、今回で、その印象がさらに強くなった。
 帝国の船は海賊に襲われないのでは? と、尋ねたら、ニヤリと笑って、皇帝の子ども達のうち、最も良識のある皇子に肩入れしていた者が乗った船は、なぜか海賊に襲われると言う。

 こいつは重要な証人になりそうなので、ある意味、隔離されてくれて、よかったのかもしれない。

 とりあえず、こいつも含めた十四人は、早々に船を下りて、希望の場所へと案内されて行った。
 その後、迎えが来たということで、俺達も船を後にする。
 何か突発的な問題が起きなければ、帰りもまたこの船にお世話になるので、船長や船員達には、帰りもよろしくとお互いに言い合って別れ、迎えと共に大聖堂へと向かった。

 港の場所は、門前街とはほぼ反対側の、大聖堂のやや東寄りの北側だ。
 ここから一番近い入口は、以前俺も使ったことがある裏口になる。
 だが、港からの場合は、全く別の入口があった。
 港からハシケでそのまま川に入り、大聖堂を囲む湖へとさかのぼり、水門から大聖堂へと入る未知のルートである。

 このルートは、本来は聖者さまが船に乗るときに使うとのことなので、囚われだった人達とは別に、俺達だけに使わせてくれたらしい。
 囚われていた人達は、表の立派な橋を渡るルートを使うとのこと。
 比べると、あっちのほうが感動出来るので、それで正解だろう。
 水門ルートは、一番豪華な建物が全く見えないので、大聖堂らしさがないのだ。
 この水門ルートのいいところは、いきなり本神殿に入ることが出来るという点だろう。

「お久しゅうございます」

 なんと直々に出迎えてくださった聖者さまに、聖女がいち早くご挨拶を述べた。
 一瞬虚をつかれた形となって、挨拶が遅れた俺も、慌てて膝を突いて挨拶をする。
 相変わらず、人を驚かせるのが好きなお方だ。

「まぁまぁ皆さま、この間振りですね」

 ニコニコと、相変わらず、少女のようでも老女のようでもある聖者さまが、手を広げて歓迎してくださった。

「海の上で、人々を苦しめていた賊から、多くの人を助けたと聞いております。素晴らしいご活躍に、わたくしも感動いたしていたところですわ」
「……巻き込まれただけだ」

 勇者が、いつもの反抗心を起こして、そんな風に言い返す。
 そんな勇者に、孫を見る祖母のように目を細めていた聖者だったが、ふと、不思議そうに目をしばたかせた。

「勇者さま、何を連れておいでですか?」

 そう言って、マントのほうへと手を伸ばす。

「ガウガウ!」

 すると、緑の宝石のようなトカゲの姿の若葉が、その手に向かって吠えかかる。
 あ、そう言えば、今回はなぜか若葉は一緒だった。
 以前は、大聖堂の結界を嫌がって、単独行動をしていたのだが、平気になったのだろうか?
 ああいや、そういう場合ではないな。

「まぁ不思議な子。ダスターさまのフォルテちゃんと同じようにドラゴンの気配がするけれど、この子のほうが少し濃いわね。そんなに怒らなくても、わたくしは、勇者さまを取ったりしませんよ」
「おいこら」
「こら、アルフ」

 勇者の、いくらなんでも失礼すぎる言葉に、思わず注意してしまった。

「いいのですよ。勇者さまが悪態をついてくださるのは、少しは心を許してくださっている証のようなもの。ふふっ、かえって嬉しいわ」
「勝手に勘違いするな。そんなんじゃないからな。それよりも、こいつに俺は迷惑しているんだ。認めるようなことを言うな。つけ上がる」
「まぁまぁ」

 勇者の抗議に対する聖者さまの返しは、まるでわがままを言う孫をあやす祖母のようである。
 聖者さまは勇者に対する場合には、少し老女の雰囲気が強く出るようだ。
 とりあえず聖者さまは、若葉を危険とは感じなかったようで、ちょっとだけ安心した。
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