勇者パーティから追い出されたと思ったら、土下座で泣きながら謝ってきた!

蒼衣翼

文字の大きさ
716 / 885
第八章 真なる聖剣

821 欲に踊る者達

しおりを挟む
「おおっ、ウヨウヨいるな!」

 勇者が嬉しそうにそう言うと、周囲の船員達が苦笑する。
 海賊諸島とやらに近づくと、俺達の船を囲んでいた船以外にも、そこいら中にいろいろな形の船が漂っていた。
 なかには半分沈没して、船首や船尾だけが見えているものもある。
 海賊を討伐しに来た船か、ここまで引っ張って来られて結局沈められた船か、もしかしたら、仲間同士で争った結果なのかもしれない。

 おかげで、俺達の乗っている船が通れるような隙間があまりなく、見習いではない正式な航海士が、汗だくになりながら、進行方向を指示していた。
 俺達をここまで連れて来た海賊船はと言うと、早く行けとばかりに後ろから火矢を射掛けたりし始めていて、まともに案内する気はないらしい。

「師匠。もうこの辺の船を全部沈めてしまえばいいんじゃないかな? そうすれば、陸地に上がっている連中も出て来るだろ」

 航海士や船長の苦心惨憺する様子を見て、気の毒になったのか、はたまた、周囲にいる海賊を単に一掃したくなったのか、勇者がそんなことを言い始めた。

「いや、もしあの島に、誘拐された人達がいたら、確実に人質にされてしまうぞ?」
「っ、そうか。くそっ、さすが海賊だ。卑怯者め!」

 別に勇者に対する盾にするために人を誘拐した訳じゃないだろうから、さすがにそれは言いがかりだろう。

「フォルテに先行させよう」
「ダスター、私も行く」

 俺がフォルテに斥候役をさせようと提案すると、メルリルが名乗りを上げた。

「私ならフォルテよりも誰にも気づかれず様子を見ることが出来る」
「う、しかし……おそらく海賊の本拠地は屋内だぞ。ああいう悪党は、隠れるのが好きだからな」
『僕行く!』
「うひゃあ!」

 頭に響く若葉の声に、こういう現象に慣れていない船員達が飛び上がって驚いた。
 一瞬、船長が舵を切りそこねたらしく、近くをうろうろしていた海賊船を押しつぶしそうになる。
 下から何やら怒鳴り声と、爆発音が聞こえて来たが、聖女が結界を張っているので、とりあえず問題ないだろう。

「あ?」

 勇者が不機嫌そうに若葉を睨む。
 今までマントの裏に隠れていた若葉だったが、ちょろっと顔を出していた。
 それを勇者が素早く掴む。

「お前、海の魔物の腹にでも入ってろ」

 勇者が若葉をまた、投擲しようとしたが、するりと手から抜け出した若葉がチョロチョロと腕を伝って、勇者の肩に乗り、バサバサと羽を広げてアピールをした。

『僕なら、どこでも入り込めるし、絶対役に立つと思うなぁ』
「若葉! 意識のレベルを下げろ! 耳元で怒鳴ってるように聞こえるぞ!」

 俺は一応若葉にそう注意する。
 フォルテを通して話をするときには、言葉とは違う何かで、考えが伝わって来るので楽だが、こうやって周囲に人間にわかる言葉を飛ばすときには、音ではない思念で飛ばして来るので、ものすごく頭が痛いのだ。

『あ、ごめん』

 若葉はケロリとした様子で謝る。
 勇者が、怒りのあまりその場で、若葉相手に戦いを始めそうな形相だ。

「い、今のはなんだ!」
「おい!デケェ声で怒鳴ったのはどいつだ!」

 周囲の海賊らしき声が遠くから少し聞こえて来た。
 勇者が再び若葉を捕まえて、ぎゅうぎゅうと締め上げる。

「お前、いい加減にしろよ。敵にまで聞こえるような大声出しやがって!」
「ガフン……」『声を出さずにこっそり伝えようとしたんだよ?』

 どうやら若葉は、ああやって声を出しながら意識を伝えたほうが範囲を絞れるようだ。
 自分でも、自分の出来ることをまだ把握していない感じなんだろう。
 ん?

「そうだ! その能力、逆に利用してみたらどうだ?」
「え? どういうことだ? 師匠?」

 俺は考えついた計画を、仲間達に提案した。
 船長も俺達の話し合いに混ざって、案を修正して、即興で、海賊達を隠れ家から引き離す計画をでっち上げたのだった。

 ◇◇◇

 海賊達の頭領とされているロゥジャーは、この日、日課のお宝の飾り付けを楽しんでいた。
 配下の海賊達から、海洋公の船が網にかかったとの知らせが入り、ロゥジャーは、最近の海洋公による裏組織への粛清と、自分達に情報を渡していた重要な役人の捕縛に対する報復を、あれこれ想像しつつ、思わずニンマリとする。
 
「何が海洋公だ。陸地で威張ってるだけの豚野郎のくせしやがって。船員と船の身代金として、同じ重さの分の黄金を要求してやる。船はもらっておくとして、船員は一応返してやるかな。バラバラの死体でも重さは同じだからな」

 そう呟きながら黄金の装飾品をあちこちに配置して行く。
 その時だった。
 耳元で神々しい声が聞こえたのは。

『ワレは海の精霊王である。精霊の宝を授ける者を選定しようと思う。最初にワレの元に辿り着いた者に、この宝を与えよう』
「な、なんだと!」

 ロゥジャーは、キョロキョロと周囲を見た。
 しかし、近くには誰もいない。
 宝の部屋には誰もいれないのだから当たり前である。

「まさか、本物、か?」

 慌てて部屋を飛び出したロゥジャーは、我先に外へと駆け出して行く部下達の姿を見た。

「貴様ら! まさかワシの宝を狙っているのか!」
「へっ、早いもの勝ちでさぁ! いくら頭領でも、譲れませんぜ!」

 どうやら全員が同じ声を聞いたらしい。

「馬鹿共が、宝はワシのもんじゃあ!」

 砦の外へと飛び出したロゥジャーは、海の上に光輝く何かがあるのを見つけた。
 太陽は逆側なので、太陽ではない。
 何よりも、太陽よりも神々しい光だった。

「船を出せ! てめえら、抜け駆けしやがったらぶっ殺すぞ!」


 ◇◇◇

「すごい光景だな」
「壮観ですねぇ」

 大小様々な船がぶつかりあったり、競り合ったりしながら、金色の光の柱の元へと向かって行く。
 あの光を発しているのは若葉だ。
 元の大きさに戻った若葉は、何かの魔法で、あの光を発しているらしい。
 詳しいことはわからないが、勇者が喜ぶと言って、精霊王のフリをさせたのだ。

 それにしたって、こんなに効果的とは思わなかったな。

「欲の皮の突っ張った連中の醜さを感じるな」
「少し、怖いです」

 勇者と聖女すら引いている。
 
「おっと、どうやら誘拐された人達の居場所を見つけたようだ。あいつら扉という扉を開けっ放しで飛び出したから、簡単だったぞ」

 メルリルとフォルテで手分けして探してもらったのだが、どうやら先にフォルテが発見したらしい。

「まずは攫われていた人達を救出しよう」
「はい!」

 聖女が元気よく返事する。
 俺達は、今は船が一艘もいなくなった、海賊が船着き場に使っている入り江へと、悠々と船を進めたのだった。
しおりを挟む
感想 3,670

あなたにおすすめの小説

没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます

六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。 彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。 優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。 それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。 その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。 しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。 ※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。 詳細は近況ボードをご覧ください。

辺境伯家次男は転生チートライフを楽しみたい

ベルピー
ファンタジー
☆8月23日単行本販売☆ 気づいたら異世界に転生していたミツヤ。ファンタジーの世界は小説でよく読んでいたのでお手のもの。 チートを使って楽しみつくすミツヤあらためクリフ・ボールド。ざまぁあり、ハーレムありの王道異世界冒険記です。 第一章 テンプレの異世界転生 第二章 高等学校入学編 チート&ハーレムの準備はできた!? 第三章 高等学校編 さあチート&ハーレムのはじまりだ! 第四章 魔族襲来!?王国を守れ 第五章 勇者の称号とは~勇者は不幸の塊!? 第六章 聖国へ ~ 聖女をたすけよ ~ 第七章 帝国へ~ 史上最恐のダンジョンを攻略せよ~ 第八章 クリフ一家と領地改革!? 第九章 魔国へ〜魔族大決戦!? 第十章 自分探しと家族サービス

無能扱いされ、パーティーを追放されたおっさん、実はチートスキル持ちでした。戻ってきてくれ、と言ってももう遅い。田舎でゆったりスローライフ。

さら
ファンタジー
かつて勇者パーティーに所属していたジル。 だが「無能」と嘲られ、役立たずと追放されてしまう。 行くあてもなく田舎の村へ流れ着いた彼は、鍬を振るい畑を耕し、のんびり暮らすつもりだった。 ――だが、誰も知らなかった。 ジルには“世界を覆すほどのチートスキル”が隠されていたのだ。 襲いかかる魔物を一撃で粉砕し、村を脅かす街の圧力をはねのけ、いつしか彼は「英雄」と呼ばれる存在に。 「戻ってきてくれ」と泣きつく元仲間? もう遅い。 俺はこの村で、仲間と共に、気ままにスローライフを楽しむ――そう決めたんだ。 無能扱いされたおっさんが、実は最強チートで世界を揺るがす!? のんびり田舎暮らし×無双ファンタジー、ここに開幕!

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

【収納∞】スキルがゴミだと追放された俺、実は次元収納に加えて“経験値貯蓄”も可能でした~追放先で出会ったもふもふスライムと伝説の竜を育成〜

あーる
ファンタジー
「役立たずの荷物持ちはもういらない」 貢献してきた勇者パーティーから、スキル【収納∞】を「大した量も入らないゴミスキル」だと誤解されたまま追放されたレント。 しかし、彼のスキルは文字通り『無限』の容量を持つ次元収納に加え、得た経験値を貯蓄し、仲間へ『分配』できる超チート能力だった! 失意の中、追放先の森で出会ったのは、もふもふで可愛いスライムの「プル」と、古代の祭壇で孵化した伝説の竜の幼体「リンド」。レントは隠していたスキルを解放し、唯一無二の仲間たちを最強へと育成することを決意する! 辺境の村を拠点に、薬草採取から魔物討伐まで、スキルを駆使して依頼をこなし、着実に経験値と信頼を稼いでいくレントたち。プルは多彩なスキルを覚え、リンドは驚異的な速度で成長を遂げる。 これは、ゴミスキルだと蔑まれた少年が、最強の仲間たちと共にどん底から成り上がり、やがて自分を捨てたパーティーや国に「もう遅い」と告げることになる、追放から始まる育成&ざまぁファンタジー!

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。