715 / 885
第八章 真なる聖剣
820 嵐の前の静けさ
しおりを挟む
船を囲む海賊船のなかから、小型の船が一艘近づいて来る。
「もう理解しているとは思うが、俺達は海賊だ。大人しくついて来てくれれば、悪いようにはしない。ただし、逃げようとしたり、抵抗するなら、俺達も攻撃させてもらう。俺達の船は小型だが、スピードが出るし、いざってときの魔寄せの玉も積んでる。……わかるよな?」
相手のだみ声が響き渡る。
なんらかの魔道具を使っているのだろう。
「船長さん、魔寄せの玉というのは、もしかして、魔物を引き寄せる道具か?」
「そうだ。地上では魔香とか言うんだっけか? 基本原理はあれと同じだな」
船長に尋ねたら、案外としっかりとした答えが返って来た。
どうやら勇者のおかげで、海賊への恐怖心はないようだ。
魔香、あるいは魔寄せと呼ばれるものは、魔鉱石のクズと魔物の肉に瀕死の獣の気配などを魔法的に発生させる特殊な魔道具で、魔物を一定の場所に集めたいときに使うものだ。
使い方を誤ると、大変な災害が発生してしまうので、国によっては使用を禁止されていたりする。
デカい魔物が多いと言われる海で使ったら、さぞかし壮絶な状態になるのだろう。
「勇者さま……」
船長が勇者に視線を向ける。
勇者がうなずくのを見て、船長が船べりに出て相手の船へと怒鳴った。
「わかった! 言う通りにしよう! その代わり、乗務員と乗客には手を出さないと誓ってくれ!」
おお、船長、かっこいい。
堂々としているな。
「ああ、もちろん。おとなしくついて来てくれるなら、何も酷いことは起こらないさ」
それに比べて海賊の代表の物言いの嘘くささよ。
海賊が酷いことをしないとか、狼は肉を食わないみたいな話か?
「いっそ、そのなんとか玉とやらを使ってくれないかな? 今度はちゃんと斬ることの出来る魔物に出て来て欲しい」
勇者が何やら言っているが、とりあえず今は無視である。
そこからは海賊が一定距離を囲んでいる以外は、特に変わったこともなく過ごした。
もし海賊一味の誰かが乗り込んで来た場合に備えて、ルフと女性達には船室に入っていてもらったのだが、そういった様子も見えない。
普通はいくら周りを囲んでいるからと言って、相手の行動を見張るぐらいはするはずだ。
疑問に思って船長に聞いてみると、航行中の船に高低差の大きい船から乗り移るのは、かなりの危険が伴うので、無駄な危険を冒さなかったのだろうとのこと。
なるほど。
相手が抵抗しないのなら、港に停泊させてから乗り込んで制圧すればいいということか。
その時には、海賊達にとってのホームグラウンドだ。
負ける心配など全くない、楽な仕事ということになる。
「ガウガウ!」
「うおっ! なんだ?」
夜になって船員達がピリピリしながら夜通し見張ると言ったので、聖女に結界を張ってもらい、もし範囲内に押し入ろうとする者がいたら、連絡するということで、通常業務範囲の仕事を、交代で行ってもらうこととなった。
あんまり海賊にばかりぴりぴりしていると、航行に問題が出そうだしな。
もし夜中に海賊が近づいて来たら、聖女が目を覚ますことになってしまうが、こういう事態だ、すまないが頼むと言っておく。
当の聖女は、やっと役に立ててよかったと喜んでいたので、逆に頼んでよかったようだ。
俺としては、いつもの癖で眠れないので、どうせならと甲板のベンチに寝そべっていた。
そうしたら、いきなり若葉が耳元でがなり立てたのだ。
「ピャ?」
「ガフン」
フォルテが相手をして、すぐに俺を振り向いて、説明してくれる。
「クルル……」
「え? 若葉が相談があるから、フォルテと意識を合わせろって? こんなときに仕方ないな」
まぁ俺が起きていても何がある訳でもないので、了承した。
「で、なんだ?」
「ガフガフン(アルフが急に魔力をくれなくなった)」
「そりゃあ仕方ないだろ。お前、アルフに何も言わずに勝手に伴侶とか言ってただろ?」
「ガフン?(どういうこと?)」
「どういうこともなにも、それが全てだよ。アルフは一方的に何かを押し付けられるのが嫌いなんだ」
「ガウ!(伴侶と決めたのは僕であって、アルフは関係ないよ?)」
「お前達の感覚はよくわからないが、人間において伴侶というのは、生涯を共にする相手のことを指す。そういう大事な関係性は、お互いが納得してから結ぶものなんだ」
「ガフン?(よくわからないけど、アルフが納得すればいいってこと?)」
「まぁそうだな」
「ガフッ!(わかった! ありがとう!)」
そう言うと、若葉はキラキラと美しい輝きを残して、その場から消えてしまった。
「……神出鬼没だな」
「ピャウ」
俺はもう、若葉のことで驚くのは止めることにしていた。
ドラゴンなんだから転移魔法とか使えてもおかしくないだろう。
フォルテはなんだか疲れたらしく、ごそごそと俺の首元に巻き付くように潜り込んだ。
まるでひな鳥のようにキュウキュウと鳴いている。
俺の下手な歌でも聴くか?
空には満天の星が輝いている。
周囲を海賊に囲まれているとは思えないほど、静かな夜だった。
翌日、日が昇ると共に、海賊船と波立つ海が広がるばかりの光景に、違うものが姿を表した。
水平線上にポツポツと浮かぶ、黒い点のような存在だ。
「あれは悪名高い海賊諸島ですね」
甲板の上で、朝の計測を始めようとしていたタラッタが、ハッとしたように、その影を見つけて言った。
やれやれ、やっと着いたか。
勇者達はちゃんと眠れたかな? 楽しみにしすぎて眠れなかったみたいなことになってないといいが。
「もう理解しているとは思うが、俺達は海賊だ。大人しくついて来てくれれば、悪いようにはしない。ただし、逃げようとしたり、抵抗するなら、俺達も攻撃させてもらう。俺達の船は小型だが、スピードが出るし、いざってときの魔寄せの玉も積んでる。……わかるよな?」
相手のだみ声が響き渡る。
なんらかの魔道具を使っているのだろう。
「船長さん、魔寄せの玉というのは、もしかして、魔物を引き寄せる道具か?」
「そうだ。地上では魔香とか言うんだっけか? 基本原理はあれと同じだな」
船長に尋ねたら、案外としっかりとした答えが返って来た。
どうやら勇者のおかげで、海賊への恐怖心はないようだ。
魔香、あるいは魔寄せと呼ばれるものは、魔鉱石のクズと魔物の肉に瀕死の獣の気配などを魔法的に発生させる特殊な魔道具で、魔物を一定の場所に集めたいときに使うものだ。
使い方を誤ると、大変な災害が発生してしまうので、国によっては使用を禁止されていたりする。
デカい魔物が多いと言われる海で使ったら、さぞかし壮絶な状態になるのだろう。
「勇者さま……」
船長が勇者に視線を向ける。
勇者がうなずくのを見て、船長が船べりに出て相手の船へと怒鳴った。
「わかった! 言う通りにしよう! その代わり、乗務員と乗客には手を出さないと誓ってくれ!」
おお、船長、かっこいい。
堂々としているな。
「ああ、もちろん。おとなしくついて来てくれるなら、何も酷いことは起こらないさ」
それに比べて海賊の代表の物言いの嘘くささよ。
海賊が酷いことをしないとか、狼は肉を食わないみたいな話か?
「いっそ、そのなんとか玉とやらを使ってくれないかな? 今度はちゃんと斬ることの出来る魔物に出て来て欲しい」
勇者が何やら言っているが、とりあえず今は無視である。
そこからは海賊が一定距離を囲んでいる以外は、特に変わったこともなく過ごした。
もし海賊一味の誰かが乗り込んで来た場合に備えて、ルフと女性達には船室に入っていてもらったのだが、そういった様子も見えない。
普通はいくら周りを囲んでいるからと言って、相手の行動を見張るぐらいはするはずだ。
疑問に思って船長に聞いてみると、航行中の船に高低差の大きい船から乗り移るのは、かなりの危険が伴うので、無駄な危険を冒さなかったのだろうとのこと。
なるほど。
相手が抵抗しないのなら、港に停泊させてから乗り込んで制圧すればいいということか。
その時には、海賊達にとってのホームグラウンドだ。
負ける心配など全くない、楽な仕事ということになる。
「ガウガウ!」
「うおっ! なんだ?」
夜になって船員達がピリピリしながら夜通し見張ると言ったので、聖女に結界を張ってもらい、もし範囲内に押し入ろうとする者がいたら、連絡するということで、通常業務範囲の仕事を、交代で行ってもらうこととなった。
あんまり海賊にばかりぴりぴりしていると、航行に問題が出そうだしな。
もし夜中に海賊が近づいて来たら、聖女が目を覚ますことになってしまうが、こういう事態だ、すまないが頼むと言っておく。
当の聖女は、やっと役に立ててよかったと喜んでいたので、逆に頼んでよかったようだ。
俺としては、いつもの癖で眠れないので、どうせならと甲板のベンチに寝そべっていた。
そうしたら、いきなり若葉が耳元でがなり立てたのだ。
「ピャ?」
「ガフン」
フォルテが相手をして、すぐに俺を振り向いて、説明してくれる。
「クルル……」
「え? 若葉が相談があるから、フォルテと意識を合わせろって? こんなときに仕方ないな」
まぁ俺が起きていても何がある訳でもないので、了承した。
「で、なんだ?」
「ガフガフン(アルフが急に魔力をくれなくなった)」
「そりゃあ仕方ないだろ。お前、アルフに何も言わずに勝手に伴侶とか言ってただろ?」
「ガフン?(どういうこと?)」
「どういうこともなにも、それが全てだよ。アルフは一方的に何かを押し付けられるのが嫌いなんだ」
「ガウ!(伴侶と決めたのは僕であって、アルフは関係ないよ?)」
「お前達の感覚はよくわからないが、人間において伴侶というのは、生涯を共にする相手のことを指す。そういう大事な関係性は、お互いが納得してから結ぶものなんだ」
「ガフン?(よくわからないけど、アルフが納得すればいいってこと?)」
「まぁそうだな」
「ガフッ!(わかった! ありがとう!)」
そう言うと、若葉はキラキラと美しい輝きを残して、その場から消えてしまった。
「……神出鬼没だな」
「ピャウ」
俺はもう、若葉のことで驚くのは止めることにしていた。
ドラゴンなんだから転移魔法とか使えてもおかしくないだろう。
フォルテはなんだか疲れたらしく、ごそごそと俺の首元に巻き付くように潜り込んだ。
まるでひな鳥のようにキュウキュウと鳴いている。
俺の下手な歌でも聴くか?
空には満天の星が輝いている。
周囲を海賊に囲まれているとは思えないほど、静かな夜だった。
翌日、日が昇ると共に、海賊船と波立つ海が広がるばかりの光景に、違うものが姿を表した。
水平線上にポツポツと浮かぶ、黒い点のような存在だ。
「あれは悪名高い海賊諸島ですね」
甲板の上で、朝の計測を始めようとしていたタラッタが、ハッとしたように、その影を見つけて言った。
やれやれ、やっと着いたか。
勇者達はちゃんと眠れたかな? 楽しみにしすぎて眠れなかったみたいなことになってないといいが。
11
お気に入りに追加
9,275
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました
ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

異世界転生してしまったがさすがにこれはおかしい
増月ヒラナ
ファンタジー
不慮の事故により死んだ主人公 神田玲。
目覚めたら見知らぬ光景が広がっていた
3歳になるころ、母に催促されステータスを確認したところ
いくらなんでもこれはおかしいだろ!
愛されない皇妃~最強の母になります!~
椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』
やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。
夫も子どもも――そして、皇妃の地位。
最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。
けれど、そこからが問題だ。
皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。
そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど……
皇帝一家を倒した大魔女。
大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!?
※表紙は作成者様からお借りしてます。
※他サイト様に掲載しております。

5歳で前世の記憶が混入してきた --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--
ばふぉりん
ファンタジー
「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は
「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」
この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。
剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。
そんな中、この五歳児が得たスキルは
□□□□
もはや文字ですら無かった
~~~~~~~~~~~~~~~~~
本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。
本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。

放置された公爵令嬢が幸せになるまで
こうじ
ファンタジー
アイネス・カンラダは物心ついた時から家族に放置されていた。両親の顔も知らないし兄や妹がいる事は知っているが顔も話した事もない。ずっと離れで暮らし自分の事は自分でやっている。そんな日々を過ごしていた彼女が幸せになる話。

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!
椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。
しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。
身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。
そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。
彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。
父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。
わー、凄いテンプレ展開ですね!
ふふふ、私はこの時を待っていた!
いざ行かん、正義の旅へ!
え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。
でも……美味しいは正義、ですよね?
2021/02/19 第一部完結
2021/02/21 第二部連載開始
2021/05/05 第二部完結
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。